悪役令嬢のフレンチ・キス~早くあなたを食べたいです~

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クラーギン様

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クラーギン様のお人柄について語りました。正直言って、紙面で伝えられることには限界がりますからね。一度ご覧になってくださいまし。そうすれば、私の言っていることが分るでしょう。

さて、クラーギン様のお優しさに心をときめかせる女というのは、なにも私だけではないのです。ミンコフスキー高等学院に通う令嬢たちみんなの憧れと言っても、過言ではありません。それは単に、クラーギン様が第一王子であるという理由だけではないみたいです。

令嬢たちの間で広まっている噂に、その答えがあります。女は男を選ぶとき、どうしても顔立ちが判断材料になってきますね。それはいつの時代も同じです。イケメンっていう人たちでしょうか?この学院にも、多数のイケメンさんたちが在籍しています。では、どうして令嬢たちは、イケメンさんを選ばないのでしょうか?

実は、最近貴族の間でトレンドになっているがポイントになってきます。
 
上流の貴族様たちは、自分の気に入った令嬢たちを囲い込みます。そして、

「貴様とは婚約破棄する!」

と言うのが、一種のステータスになっているのです。複数の令嬢からもてることではくがつくということなのでしょう。女は貴族様にとって道具みたいなものなのです。それでも、私たち令嬢は貴族様に嫁がなくてはなりませんから、捨てられたとしても文句は言えないのです。

あのイケメン、そのイケメン、こちらのイケメン、誰もがそういう人種なのでございます。ですから、少なくとも私はそういう貴族様とは関わらないことにしています。

クラーギン様は……これ以上説明する必要はないかと思いますが、安易に婚約することは無いのです。きちんと相手を選び、来る時に婚約を発表するみたいです。自分の立場に奢れることなく、ただひたすら自分を高めるわけですから、それはそれは素晴らしいことですよね。ああっ、クラーギン様のお姿を想像するだけで、私は本当に幸せなのでございます。

そんな恋する令嬢たちに囲まれて、クラーギン様が今日もいらっしゃいました。私も木陰に隠れて、

「クラーギン様!」

と大きな声で挨拶します!

「……うん?今、どこからか声がしたようだけど……」

「そんなことありませんわ!」

自称、クラーギン様親衛隊長のドルベツコイ公爵令嬢がにっこりと微笑みました。

「ちょっと失礼……」

そう言って、クラーギン様の元を一度離れました。そして、私の隠れている木陰までやってきました。

「はあっ……また、あなただったのね……」

今日もドルベツコイさんに見つかってしまいました。なんて不運なのでしょう。お説教という、彼女の愚痴を聞かなければならないじゃないですか……。

「いいですか?クラーギン様を敬愛するのは結構なことです。彼は全校令嬢の憧れですからね。親衛隊長であるこの私としても、非常に誇らしいことなのです」

別に、あなたが自慢することじゃないと思うのですが……。いいえ、私は黙って彼女の愚痴を聞き続けます。

「あなたがクラーギン様に振り向いてもらいたいと思う気持ちは分かります。しかし!あなたはどうして、いつも木の陰から挨拶なさるのですか?」

私に理由を述べろと?発言のチャンスが与えられました。仕方ないですね……。

「私だって……本当は面と向かって挨拶したいんです。でも……」

「でも?何ですか?はっきりおっしゃいなさい!」

ドルベツコイさん……本当に怖い方です。これこそが最上位貴族令嬢であり、学院令嬢カーストトップの女なのですね……世間はみな、ドルベツコイさんこそが、クラーギン様の婚約者として最もふさわしいと言います。まあ……そう言われてしまうと、私が反論することなんてできませんね。

「あなた方を差し置いて……挨拶することなんかできませんから……」


「当り前です!」

ドルベツコイさんは急に怒り出しました。

「あなたのお父様の爵位は?」

はいはい、家柄闘争が始まりました。ドルベツコイさんの父は最高位公爵です。つまり、皇帝に次ぐ爵位であるわけです。お分かりですよね?ドルベツコイさんと争って勝てるのはクラーギン様しかいないというわけです。

「私の父の爵位は……男爵です……」

「男爵ですって?まあっ!」

ドルベツコイさんは答えを知っているのです。このやり取り、実は100回目なのです。

ええっ、知っていますよ。私のお父様は所詮田舎貴族なのです。それにひきかえ、ドルベツコイさんのお父様は、皇帝の従兄なのですよ。子供は生まれてくる家を選ぶことができません。

これって、明らかな格差ですよね?

それでも、お父様、お母様はいつも私にたくさんの愛を注いでくださいます。ですから、そんなこと、言えるわけないんです。ドルベツコイさんは私を虐めて楽しいのですね……。

「男爵令嬢が王子様と直接お話するだなんて……そんなこと、あるわけないでしょうが!」

ドルベツコイさんは最後に、

「王子様は非常に怖がりな方なんです。あなたがこんなところから挨拶すると、王子様は非常に驚いてしまうんです!ですから、もう止めてくださいね!」

と言い残して、クラーギン様の元へ帰っていきました。

「何かあったのかい?」

クラーギン様は不思議そうに尋ねました。

「いいえ、木の陰のお花が枯れていましたので、摘み取ってきたところです!」

「ああっ、そうなのか?」

クラーギン様は再び校舎に向けて歩き始めました。ドルベツコイさんとともに。

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