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第一章 王国編
新しい駒
しおりを挟むサラは室内で忙しそうに働いている家人の邪魔をしないように部屋に入ると、長テーブルを数台付き合わせた台の上にところ狭しと並んでいるそれらを見渡してみた。
「お嬢様、何か?」
家人の一人が手落ちでもあったのかと声をかけてくる。
まさかパーティーの主役がこんな裏方に来るなんて思ってなかったらしい。
「いいえ。何でもないわ。どれほどのものがあるのかちょっと気になったのよ」
「ああ、そういうことですか。まだまだ増えそうなので、倉庫や地下から使っていない荷台にできるものを探してもってきてるくらいですよ」
「さすがに床には置けないものね」
「ええ、いずれは殿下の御手許に届くと思うと、気が抜けません」
「ありがとう。なるべく丁寧にお願いね」
「はい、もちろんです」
そう言う下男の一人がまた大きな包みを運び入れて来た。
あれは壺かな? それとも飾り棚か何かかしら?
気になって立派な装丁の包み紙や豪華な布で包まれたそれらの幾つかをほどいてみると、内側にはこれまた驚くようなものが潜んでいる。
金色や銀色、紫や緑色に輝くそれらはサラがまだ目にしたことのないほどに豪華な贈り物だった。
「賄賂、ですかあ。金貨なんてしばらくお目にかかってなかったわ。こんな立派な贈り物の中に潜ませてくるなんて。誰でも出世欲があるってことね」
ということは、このパーティーにかかった費用はこの賄賂の一部から充てるつもりだったのかな?
いまはいない父親の意図をなんとなく察して、サラは頭が痛くなってしまった。
彼は――レンドール子爵は、これらを資金源にして更に出世しようと目論んでいることが娘には丸見えだったからだ。
娘にまで透けて見えるような父親の背中にサラはため息を一つ。
これは一目で誰から来たものかをはっきりさせないと、父親からまた文句を言われそうだった。
「目録……作らせようかな。中に何が入っていたかも書かせましょう」
この贈答品を使って輝くのは男たちばかりだ。
自分にはどれほどの恩恵があるというのか。それ以上に居もしない、レイニーを一番に考える彼の意向を常に気にしなければ、自分はまた無能だと罵られるばかりだ。
「妻になる女よりあの子が大事なら、レイニーと結ばれたら良いのよ。めんどくさい」
自分には足りないものがある。
資金、権力、女というだけで不利だし、現状を変えれる有力な知人はもう追い払ってしまった。
なら、新たな駒を手にしてロイズとの関係を変えないといけない。
「王太子殿下。……サラはもう、あなたの婚約者でいることに疲れてしまいました」
現実を変えよう。
そう思い、サラは幾人かの信用できる家人を呼んだのだった。
☆
パーティーが開場してから約二時間。
子爵家は予想外の人物たちの訪問を受けていた。
夕方に来客を受け入れ始めた時は招待客リストと来賓の照合に忙しかった玄関先の受付に現れた二つの人影は、その名簿に無い一組のカップル。
それも、リストに名前が無いからお帰り下さいとは安々と言えない相手だった。
サラは家人に言いつけた目録の完成を心待ちにしながら、慣れないパーティーの主役として役目にいそしんでいた。
それでも子爵令嬢として恥ずかしくない振る舞いを見せ、学友やその親たちとの会話に華を添えるように励むことに精一杯心を砕き、ようやく友人たちの親を含めた席について軽く話に華を咲かせている、そんな時だ――
「サラ。あれ……」
「え、何かしらって……あの二人……」
「サラ様、あの二人を呼ばれたのですか?」
「いいえ、どうかしら。お父様が采配なさったから分からないわ。でも侯爵様からは代理人が挨拶に来られて戻られたのに。どうなってるのかしら」
「まさか、見せびらかし、ですかね……」
「あの子ったら、また別の殿方をお連れになって。なんて恥知らずなの」
そんな声が会話を楽しんでいた友人たちから上がるなか、その親たちもあまりいい顔をしていないことにサラは気づいてしまう。
「見せびらかしって、こんなところにまで??」
「どこにでもいくのよ、あの子。どこかでパーティーがあれば遠慮せずに押しかけるので有名なんだから。実家が侯爵様だからって遠慮なんかする気はないのよ」
彼女の悪評は学院だけでなく、社交界にまで聞こえているんだ。
世間は怖いと感じてしまう一幕だった。
サラはすぐ隣にいる、同学年の友人にそっと声をかける。
「ねえ、有名なの?」
「サラ、貴方知らないの? レイニーの遊び癖は王宮にまで響ているって噂よ?」
「そう……王様のお耳に届くのも時間の問題ね……そこまで有名だと思わなかったわ」
「学院内だけで遊んでいたらそうでもなかったと思うけど。でも、あれはだめよ。役者を連れて歩いたり王都の中でデートなんてしたら誰にでもバレると思わない?」
「そうね。ところで彼は役者なの?」
知らないのね、呆れたと友人はいうがサラは遊ぶことにだってロイズの監視の目が光っているのだ。そうそう観劇にも行くことは許されない。でも、ロイズはレイニーを連れてオペラをちょくちょく観にいったとサラに語ってくる。聞かされるサラにとって、それはどこまでも苦痛でしかなかった。
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