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第一章 王国編
曾祖母
しおりを挟む「やってくれたわ、あの娘……」
祝いにきたはずの場が惨憺たるものになったのを見て、来客たちは白けてしまっていた。
家人たちの申し訳なさそうな視線、執事のようやく戻りましたという報告の言葉、主として毅然と対処するべきだったkもしれないという自分の中の後悔。
そんなものがサラの心の中でぐるぐると黒い渦を巻いていた。
「お嬢様、お開きになさいますか?」
じいやの確認にサラはいいえ、と首を振る。
あんな暴漢のような、通り魔のような行為に屈して会場を閉じたなんて、恥の上塗りもいいところだ。
「負けてたまるものですか。もっとお食事をお出ししなさい。足りなければ、酒蔵から上等のものを運んで来なさい。どれだけ高価でもいいわ」
「しかし、あそこには旦那様の秘蔵の物もありますが?」
それを聞いてサラは微笑んだ。
「なら、それからまずお出しすればいいわ。レンドール子爵家からの会場の雰囲気を壊してしまったお口直しに楽しみください、秘伝のワインですってね」
「お嬢様なら、そう言って頂けると思っておりました」
執事は既に手配しておりますとそっと耳打ちをしてくる。
悪い家人ねー、そうサラは言いながら父親が帰宅後に、大事なワインが無くなったことを知り唖然としている様を想像すると、少しだけ胸が空いた気になれた。
「じいや、盛大にやりなさい」
「はい、お嬢様。殿下と子爵家の名に恥じぬよう、行わせて頂きます」
場の雰囲気が冷めたお詫びに珍しいお酒を振る舞います。
その一言がサラの口から伝えられると、会場は新たに沸いたのだった。
☆
数時間後。
ようやく最後の客が帰宅の途につき、子爵家は数十年ぶりの盛況から普段の閑散とした侘しい静けさに包まれていた。
サラは幾度か杯を重ねて慣れないアルコールに身を任せながら、どうにか重責から解放されと疲れ果てて大広間の椅子に座り込む、動けなくなっていた。
「これが我が家にある、最高の家宝かもしれないわね……」
一人ぼやくようにしてサラは暖炉の上の壁に掲げられた一枚の絵画を見上げそう呟く。
アルナルドの言った曾祖母と当時のレンドール家全員が描かれているそれは、この家がまだ繁栄していた頃の面影を残していた。
「この大広間が毎晩のように賑わっていたという数十年前。ひいおばあ様は自身の幸せを手にする代わりに……家を没落させたものねえ。二代目になる不名誉はさすがに、嫌だな」
約六十年前。
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当時の皇太子殿下、その後に皇帝となった男性と結婚した。
「そりゃあ、王国側は怒るわよね。顔をつぶされた挙句、本家に息子の嫁を取られ……おまけに、相手は当時の次期皇帝陛下。文句を言うにも言えず、怒りの矛先は我が家に向いた、と」
勘弁願いたいですわ、ひいおばあ様。おかげさまで、我が家は王位継承権を私の代まで持つことができず、公爵位から子爵位に落とされたのですから。
はあ……と、サラは重いため息を一つ漏らす。
「どうして我慢して下さらなかったのかしら。おまけにこの家はそれから没落の憂き目に会うし。やってきた来客はお父様と殿下がいないと知ると……その多くはただで宴席を楽しんでさっさと帰っていく。なんて礼儀知らずのなのかしら」
タダ酒、タダ飯。
この日のためにと王宮にも出入りする料理人を招いて作らせた料理の品々は、学院に集まる多くの下級貴族にとっては――贅沢な品だろうし、それは理解できるけど。
自分への挨拶だの、婚約祝いだのと贈り物を置いていくだけなら誰にでもできるのだ。
レイニーが騒いだというあの後、一時的には場は盛り返したが、やはり誰もがそそくさと会場を後にしていった。
それは多分、ロイズの理不尽な怒りを買いたくなかったからだ。
「殿下はこの国の――王都の貴族たちから暴君になるかもって言われてるって分かったけど、その矢面に立つのは私で、またぶたれるのも私で、民からの恨みつらみの八つ当たりが来るのも私。本当に最悪な婚約。でも、いいことも知れたわ」
友人の一人の親がそっと教えてくれたこの婚約の裏話。
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皇帝家は一つ、帝国の周辺には分家に当たる他の王家が十三ほどあるが、血縁関係がなく、縁戚関係だけの我が国、ラフトクラン王国の立場は低いまま。
だから、自国内で帝国と血のつながりがあるサラを求めた。
「これを利用してどうにか出来ないかしら? ついでにあの目録から割り出した金貨を資金源にして、何かできるはず」
とりあえずお父様には賄賂以外の品物だけを渡そう。
自由になるためにはお金が必要なのだから。
サラはそう決めると、手元にある目録をぱらりと開いた。
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