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第一章 王国編
家族
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そう、とサラはコーヒーを啜ると、何かを考え出した。
不思議と今夜は冷静になれそうな気がしていて、頭はロイズからの暴力と威圧に怯えていた今朝までの自分とは別人のように冴えわたっていた。
「じいや、その話をお父様にして頂戴。私のお願いなら断らないわよね?」
「……お嬢様。そんなひどい……」
「お願いね?」
「はあ。じいはいつになっても引退できませんな。それで、他には何をお考えですか?」
問われてサラは名簿の空白を指さした。
これの意味はさすがに理解できるようで、理解しきれない。
自分の経験したことのない思惑が、いろいろと絡んでいるような気がしたからだ。
「これ、どう思う?」
「賄賂なしですか。簡単です。元から入っていなかったか、入れる必要がなかったか、抜いたかですよ」
「抜いた……?」
「殿下がいないと分かれば抜いて帰宅したのでしょう。つまり、打算が大きい欲深い連中です。しかし、大きな視野を持てない、いわゆる小物かと」
「つまり、今のラグラージ侯爵様のようなものだってことね……」
「お嬢様もなかなかに辛い意見を述べられますな」
だって、レイニーにあれだけ暴れられただもの。
我が家の少ない権威がまた落ちたようなもんだわ。
サラはそうぼやくと、コーヒーをまた一口すする。
「他には?? 必要がないって……あ、殿下だけでなく私にも贈る意味がない……。それって、媚びを売らなくても政治的に立場があるから困らないってことよね?」
「それだけではないかもしれません。王族に媚びを売る気がないなら、今夜は来なかったでしょう」
「ああ、分かったわ。殿下の敵だけど日和見しているか、鼻が利く。そういうことね……つまり、追い落とされた第一、第二王子の陣営の方々……?」
「しかし見るところ、裕福な人物や爵位の高い貴族、権力者はおりませんな。贈り物そのものも、ありきたりなものばかり」
つまり、最初に言った通り小物ばかりってことね。
サラは改めて仔細に目録を読んでいる執事が何かを見つけたのか、ああ、とつぶやいたのを耳にする。
「ああ、この方はどうやら違うようです」
「この方……?」
老執事はサラに名簿のある氏名を指差して見せた。
そこにあったのは、サラが追い返した相手だ。
「アルナルド……」
「皇帝家の立場もあるでしょうし、なびかないという意思かもしれません。贈り物も華美ではないが良い趣味をされておりますな」
「何を贈ってきたの、アルナルドは?」
持って来させましょう。そう言うと彼は家人を呼びつけて品物を指定し持って来させた。
それはそこそこ大きめの楕円形の木箱だった。
「きれい……」
「赤樫のいい香りがします。相当高価な木材ですな。木彫りの職人の腕もいい。数層に塗り重ねられた螺鈿細工も見事ですな。帝国では家族の女性が嫁に行くときに持たせる習慣があると聞いたことがあります」
「家族? 何故? これは宝石入れのようなものでしょう?」
「いいえ、お嬢様。これは元々は種もみを入れて保管するものですよ。あちらはここよりも北に位置しますから、木材は豊富ですが時折、とんでもない寒波に見舞われることも多い。そんな時の非常食として保存したのでしょうな」
「アルナルド、どうしてそんな……」
「それだけ、お嬢様を家族同然として思っていた。と、いうことかと思います。じいにはそれ以上は言えませんが」
「意地悪ね……アルナルドがこれを贈ってくれた理由が家族として? 私にはそんな価値があるとは思えないわ。彼にはひどことをしたのに」
あの誘いは悪役とかじゃなく、彼の本気だった。
知っていたけど、でも自分で変えれるなら未来は自分で選ぶべきだ。
そう思うと、サラはそっと木箱を開ける。
「その意味ははかりかねますが、アルナルド様は良いお顔で戻られて行かれましたよ、お嬢様」
「良い笑顔? どうしてそう思ったの、じいや」
「思ったのではなく、本当にすっきりとした笑顔だったからですよ、お嬢様。あれはそう――」
「なあに、じいや?」
「そう、何をするべきかを悟った男の顔をされたおりましたな。決意を固めた、そんな笑顔でした」
お若い方同士、うらやましいことです。
執事は自分の若い頃を思い出したかのように遠い目をしていた。
それはまるで自分の曾祖母に関わりがありそうで、サラはどことなくロマンに生きる男はめんどくさいかもしれないと思ってしまう。
「そう。どうでもいいけど。じいや、今夜のことは全部お父様にお話してね? 必ずよ?」
「またじいが何か叱られる気がしますが」
「大丈夫よ、私も同席するから。一緒に叱られましょう?」
「お嬢様……」
「私はこの箱を眺めていたいわ」
「そうですか。ところでアルナルド様からご伝言があります」
「伝言……?」
執事はその、とアルナルドの置き土産を手のひらで示すと後は確認くださいと言い残しその場を立ち上がる。
サラは男たちの友情に、独り置いてけぼりにされた気分を味わってしまう。
不思議と今夜は冷静になれそうな気がしていて、頭はロイズからの暴力と威圧に怯えていた今朝までの自分とは別人のように冴えわたっていた。
「じいや、その話をお父様にして頂戴。私のお願いなら断らないわよね?」
「……お嬢様。そんなひどい……」
「お願いね?」
「はあ。じいはいつになっても引退できませんな。それで、他には何をお考えですか?」
問われてサラは名簿の空白を指さした。
これの意味はさすがに理解できるようで、理解しきれない。
自分の経験したことのない思惑が、いろいろと絡んでいるような気がしたからだ。
「これ、どう思う?」
「賄賂なしですか。簡単です。元から入っていなかったか、入れる必要がなかったか、抜いたかですよ」
「抜いた……?」
「殿下がいないと分かれば抜いて帰宅したのでしょう。つまり、打算が大きい欲深い連中です。しかし、大きな視野を持てない、いわゆる小物かと」
「つまり、今のラグラージ侯爵様のようなものだってことね……」
「お嬢様もなかなかに辛い意見を述べられますな」
だって、レイニーにあれだけ暴れられただもの。
我が家の少ない権威がまた落ちたようなもんだわ。
サラはそうぼやくと、コーヒーをまた一口すする。
「他には?? 必要がないって……あ、殿下だけでなく私にも贈る意味がない……。それって、媚びを売らなくても政治的に立場があるから困らないってことよね?」
「それだけではないかもしれません。王族に媚びを売る気がないなら、今夜は来なかったでしょう」
「ああ、分かったわ。殿下の敵だけど日和見しているか、鼻が利く。そういうことね……つまり、追い落とされた第一、第二王子の陣営の方々……?」
「しかし見るところ、裕福な人物や爵位の高い貴族、権力者はおりませんな。贈り物そのものも、ありきたりなものばかり」
つまり、最初に言った通り小物ばかりってことね。
サラは改めて仔細に目録を読んでいる執事が何かを見つけたのか、ああ、とつぶやいたのを耳にする。
「ああ、この方はどうやら違うようです」
「この方……?」
老執事はサラに名簿のある氏名を指差して見せた。
そこにあったのは、サラが追い返した相手だ。
「アルナルド……」
「皇帝家の立場もあるでしょうし、なびかないという意思かもしれません。贈り物も華美ではないが良い趣味をされておりますな」
「何を贈ってきたの、アルナルドは?」
持って来させましょう。そう言うと彼は家人を呼びつけて品物を指定し持って来させた。
それはそこそこ大きめの楕円形の木箱だった。
「きれい……」
「赤樫のいい香りがします。相当高価な木材ですな。木彫りの職人の腕もいい。数層に塗り重ねられた螺鈿細工も見事ですな。帝国では家族の女性が嫁に行くときに持たせる習慣があると聞いたことがあります」
「家族? 何故? これは宝石入れのようなものでしょう?」
「いいえ、お嬢様。これは元々は種もみを入れて保管するものですよ。あちらはここよりも北に位置しますから、木材は豊富ですが時折、とんでもない寒波に見舞われることも多い。そんな時の非常食として保存したのでしょうな」
「アルナルド、どうしてそんな……」
「それだけ、お嬢様を家族同然として思っていた。と、いうことかと思います。じいにはそれ以上は言えませんが」
「意地悪ね……アルナルドがこれを贈ってくれた理由が家族として? 私にはそんな価値があるとは思えないわ。彼にはひどことをしたのに」
あの誘いは悪役とかじゃなく、彼の本気だった。
知っていたけど、でも自分で変えれるなら未来は自分で選ぶべきだ。
そう思うと、サラはそっと木箱を開ける。
「その意味ははかりかねますが、アルナルド様は良いお顔で戻られて行かれましたよ、お嬢様」
「良い笑顔? どうしてそう思ったの、じいや」
「思ったのではなく、本当にすっきりとした笑顔だったからですよ、お嬢様。あれはそう――」
「なあに、じいや?」
「そう、何をするべきかを悟った男の顔をされたおりましたな。決意を固めた、そんな笑顔でした」
お若い方同士、うらやましいことです。
執事は自分の若い頃を思い出したかのように遠い目をしていた。
それはまるで自分の曾祖母に関わりがありそうで、サラはどことなくロマンに生きる男はめんどくさいかもしれないと思ってしまう。
「そう。どうでもいいけど。じいや、今夜のことは全部お父様にお話してね? 必ずよ?」
「またじいが何か叱られる気がしますが」
「大丈夫よ、私も同席するから。一緒に叱られましょう?」
「お嬢様……」
「私はこの箱を眺めていたいわ」
「そうですか。ところでアルナルド様からご伝言があります」
「伝言……?」
執事はその、とアルナルドの置き土産を手のひらで示すと後は確認くださいと言い残しその場を立ち上がる。
サラは男たちの友情に、独り置いてけぼりにされた気分を味わってしまう。
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