2 / 105
第一章 王国編
パーティー中止命令
しおりを挟む
でも、ここで押し切られてはまた父親に叱られてしまう。
サラは謝罪の言葉をロイズに述べながら、それでも彼のドタキャンを受け入れる気にはなれなかった。
ロイズはそんな彼女の沈黙を快く思わないらしい。
更に声を荒げて言葉をつづけた。
「謝罪だけなら猫や犬でもできるな、サラ。大体、君には反省も、慈愛というものもない」
「慈愛まで無いなんて、そんな……」
「無いだろう? 私の大事な妹ともいえるべきレイニーに対して、君はいつもいい顔をしないじゃないか」
だってそれは――と、言葉をつなごうとするサラのその言い分をロイズは目で黙らせてしまう。
自分のことは言うくせに、私のことは無視して。
サラの心はますます、冷え込むばかりだ。
「妹様は大事ですが、レイニーは下級生ではないですか。ロイズ、あなたにとってはそんな存在かもだけど」
「だけど、何だ? それで本当に、将来の国母になれるつもりなのか?」
「……」
「黙っていては分からないぞ。言いたいことがあれば言えばいいのだ。それすらもできないとは、なんて君は情けない女性なんだ」
「情けないなんて、酷いっ! ……でも、今夜は――出ていただかなければ困ります。父も殿下にお会いするのを楽しみにしていますから」
「子爵様には君から告げればいいだろう? きちんとフォローしてくれよ、私の婚約者なのだから」
「……」
「まだだんまりか? 一体、婚約者として君はどう考えているのだ? 自分のことを」
――あなたの気まぐれに苛立ちを隠せないそんな女ですよ……。
そう言ってやりたいが、ここは我慢するしかない。
婚約者という立場を振りかざされたら、女である自分には言い返すことができないからだ。
笑顔を作り、はいはい、と何につけても即答しなければロイズは気が済まない。
そういう男なのだ。
サラはまたレイニーを上に見るのですね、そう心で嫌味を言うと、はいと返事をする。
「殿下の婚約者に選んでいただいて、感謝しております。子爵家ともに」
「では私の考えに賛同せず、すぐに文句を並び立てるのが君の考える、良い婚約者か?」
悔しくて唇を噛みたくなる。
せめて、うつむいて返事をすることが許されるならまだ楽なのに。
「いいえ、殿下。そんなことは……ありません。良き伴侶であるべきだといつも考えております」
「ふん。今もそうだが、その行動と結果が結びつかない頭でそう言えるのか?」
「ロイズ? あなた、それは言い過ぎ……」
「だが、事実だろう? なぜ、出来ない?」
「何故も何も、私はいきなりすぎるそのお言葉に困惑しています。今夜なのですよ?」
そんなに頭が悪い女だと罵るなら、お気に入りのレイニーと結婚すればいいのに。
どうして王族が子爵家の娘の自分にこんな話を持ってきたんだろ。
まあ、それは過去の因縁が問題だって理解はしているけど……。
「今夜がどうした? この私が家族同然だと思っているレイニーを優先することの何が悪い?」
「悪いとは申しておりません。時間がもうないと申しております……」
「いいか、サラ。私は王族それも、次期王位継承者だぞ。その私が言ったのだから、そのまま子爵殿に伝えるだけではないか。子供でもできることだ」
「はい……そうでございます、ね……子供にでも、できることです」
ロイズの気まぐれに振り回されて被害を被ったことは、婚約してから二年間の間で二度や三度ではない。
彼のわがままはそのまま、実家にも影響を及ぼしていた。
婚約者の管理もできないとはなんて不出来な娘だ。父親のレンドール子爵にいつも嘆き叱られるばかり。
サラの自分も被害者なのにと意見を押し殺す悲しみは、ある友人以外に相談相手もいない。
孤独に戦うのも……サラには、そろそろ限界だった。
「そうだな、パーティーといっても非公式なものだろう? 学院の生徒と関係者が集まるだけではないか。それくらい、どうにか処理してくれよ、サラ」
「どうにか……?」
「王族が何かの不慮の事態で公的なイベントに出れないことはこれから幾度となくあることだぞ、サラ。勉強するいい機会だろう?」
「それはそうですが、どうにかしたくても、もう出来ないわ」
学べと言っただろうとロイズは呆れたように天を仰いで見せた。
そろそろ、彼の我慢の限界かな……これ以上言えば、また――。
「出来ないとは何故だ、サラ」
「……ロイズ、毎回だけど、あなたが当日のそれも数時間前に言い出すんだもの。当日なんですよ!? お願い、ロイズ。あなたこそ、男性なのだからそろそろ落ち着いてください。父に叱られるのは私なのよ?」
「だからどうした? それも妻になる君の役割だ」
「妻にって……っ!? レイニーは幼馴染だから気にかけて、婚約者の私があなたの問題で父親に叱られるのはよいのですか?!!」
「はあ……いいか、サラ。王太子として命じる」
「またそればかり……」
「いいから言われたとおりにするんだ。まったく使えない上に、氷のような冷たい心の持ち主だな、君は。いいか今夜のパーティーは中止だ。そう子爵殿にお伝えしろ」
「はい……殿下」
立場を利用して命じられたら、サラにはそう答えるしかなかった。
サラは謝罪の言葉をロイズに述べながら、それでも彼のドタキャンを受け入れる気にはなれなかった。
ロイズはそんな彼女の沈黙を快く思わないらしい。
更に声を荒げて言葉をつづけた。
「謝罪だけなら猫や犬でもできるな、サラ。大体、君には反省も、慈愛というものもない」
「慈愛まで無いなんて、そんな……」
「無いだろう? 私の大事な妹ともいえるべきレイニーに対して、君はいつもいい顔をしないじゃないか」
だってそれは――と、言葉をつなごうとするサラのその言い分をロイズは目で黙らせてしまう。
自分のことは言うくせに、私のことは無視して。
サラの心はますます、冷え込むばかりだ。
「妹様は大事ですが、レイニーは下級生ではないですか。ロイズ、あなたにとってはそんな存在かもだけど」
「だけど、何だ? それで本当に、将来の国母になれるつもりなのか?」
「……」
「黙っていては分からないぞ。言いたいことがあれば言えばいいのだ。それすらもできないとは、なんて君は情けない女性なんだ」
「情けないなんて、酷いっ! ……でも、今夜は――出ていただかなければ困ります。父も殿下にお会いするのを楽しみにしていますから」
「子爵様には君から告げればいいだろう? きちんとフォローしてくれよ、私の婚約者なのだから」
「……」
「まだだんまりか? 一体、婚約者として君はどう考えているのだ? 自分のことを」
――あなたの気まぐれに苛立ちを隠せないそんな女ですよ……。
そう言ってやりたいが、ここは我慢するしかない。
婚約者という立場を振りかざされたら、女である自分には言い返すことができないからだ。
笑顔を作り、はいはい、と何につけても即答しなければロイズは気が済まない。
そういう男なのだ。
サラはまたレイニーを上に見るのですね、そう心で嫌味を言うと、はいと返事をする。
「殿下の婚約者に選んでいただいて、感謝しております。子爵家ともに」
「では私の考えに賛同せず、すぐに文句を並び立てるのが君の考える、良い婚約者か?」
悔しくて唇を噛みたくなる。
せめて、うつむいて返事をすることが許されるならまだ楽なのに。
「いいえ、殿下。そんなことは……ありません。良き伴侶であるべきだといつも考えております」
「ふん。今もそうだが、その行動と結果が結びつかない頭でそう言えるのか?」
「ロイズ? あなた、それは言い過ぎ……」
「だが、事実だろう? なぜ、出来ない?」
「何故も何も、私はいきなりすぎるそのお言葉に困惑しています。今夜なのですよ?」
そんなに頭が悪い女だと罵るなら、お気に入りのレイニーと結婚すればいいのに。
どうして王族が子爵家の娘の自分にこんな話を持ってきたんだろ。
まあ、それは過去の因縁が問題だって理解はしているけど……。
「今夜がどうした? この私が家族同然だと思っているレイニーを優先することの何が悪い?」
「悪いとは申しておりません。時間がもうないと申しております……」
「いいか、サラ。私は王族それも、次期王位継承者だぞ。その私が言ったのだから、そのまま子爵殿に伝えるだけではないか。子供でもできることだ」
「はい……そうでございます、ね……子供にでも、できることです」
ロイズの気まぐれに振り回されて被害を被ったことは、婚約してから二年間の間で二度や三度ではない。
彼のわがままはそのまま、実家にも影響を及ぼしていた。
婚約者の管理もできないとはなんて不出来な娘だ。父親のレンドール子爵にいつも嘆き叱られるばかり。
サラの自分も被害者なのにと意見を押し殺す悲しみは、ある友人以外に相談相手もいない。
孤独に戦うのも……サラには、そろそろ限界だった。
「そうだな、パーティーといっても非公式なものだろう? 学院の生徒と関係者が集まるだけではないか。それくらい、どうにか処理してくれよ、サラ」
「どうにか……?」
「王族が何かの不慮の事態で公的なイベントに出れないことはこれから幾度となくあることだぞ、サラ。勉強するいい機会だろう?」
「それはそうですが、どうにかしたくても、もう出来ないわ」
学べと言っただろうとロイズは呆れたように天を仰いで見せた。
そろそろ、彼の我慢の限界かな……これ以上言えば、また――。
「出来ないとは何故だ、サラ」
「……ロイズ、毎回だけど、あなたが当日のそれも数時間前に言い出すんだもの。当日なんですよ!? お願い、ロイズ。あなたこそ、男性なのだからそろそろ落ち着いてください。父に叱られるのは私なのよ?」
「だからどうした? それも妻になる君の役割だ」
「妻にって……っ!? レイニーは幼馴染だから気にかけて、婚約者の私があなたの問題で父親に叱られるのはよいのですか?!!」
「はあ……いいか、サラ。王太子として命じる」
「またそればかり……」
「いいから言われたとおりにするんだ。まったく使えない上に、氷のような冷たい心の持ち主だな、君は。いいか今夜のパーティーは中止だ。そう子爵殿にお伝えしろ」
「はい……殿下」
立場を利用して命じられたら、サラにはそう答えるしかなかった。
55
あなたにおすすめの小説
幼馴染最優先の婚約者に愛想が尽きたので、笑って家出しました ― 笑顔で去っただけなのに、なぜ泣いているのですか
ラムネ
恋愛
侯爵令嬢リオナは、婚約者アルベルトが「幼馴染が可哀想だから」と約束を破り続ける日々に耐えていた。領地再建の帳簿も契約も、実はリオナが陰で支えていたのに、彼は「君は強いから」と当然のように扱う。決定的な侮辱の夜、リオナは怒らず泣かず、完璧な笑顔で婚約指輪だけを返して屋敷を去った――引継ぎは、何一つ残さずに。
翌日から止まる交易、崩れる資金繰り、露出する不正。追いすがるアルベルトを置き去りに、リオナは王立監査院の臨時任官で辺境へ。冷徹と噂される監察騎士レオンハルトと共に、数字と契約で不正を断ち、交易路を再生していく。
笑顔で去っただけなのに、泣くのは捨てた側だった。
白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』
鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」
公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。
だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。
――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの?
何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。
しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。
それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。
そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。
温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。
そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。
「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」
「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」
離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。
そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。
妹を選んで婚約破棄した婚約者は、平民になる現実を理解していなかったようです
藤原遊
恋愛
跡継ぎとして育てられた私には、将来を約束された婚約者がいた。
――けれど彼は、私ではなく「妹」を選んだ。
妹は父の愛人の子。
身分も立場も分かったうえでの選択だと思っていたのに、
彼はどうやら、何も理解していなかったらしい。
婚約を破棄し、妹と結ばれた彼は、
当然のように貴族の立場を失い、平民として生きることになる。
一方で、妹は覚悟を決めて現実に向き合っていく。
だが彼だけが、最後まで「元に戻れる」と信じ続けていた。
これは、誰かが罰した物語ではない。
ただ、選んだ道の先にあった現実の話。
覚悟のなかった婚約者が、
自分の選択と向き合うまでを描いた、静かなざまぁ物語。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
婚約破棄された公爵令嬢ですが、戻らなかっただけです
鷹 綾
恋愛
王太子カイル殿下から、社交界の場で婚約破棄を言い渡された公爵令嬢リュシエンヌ。
理由は――
「王太子妃には華が必要だから」。
新たに選ばれたのは、愛らしく無邪気な義妹セシリア。
誰もが思った。
傷ついた令嬢は泣き、縋り、やがて戻るのだと。
けれどリュシエンヌは、ただ一言だけ告げる。
「戻りません」
彼女は怒らない。
争わない。
復讐もしない。
ただ――王家を支えるのをやめただけ。
流通は滞り、商会は様子を見始め、焦った王太子は失点を重ねる。
さらに義妹の軽率な一言が決定打となり、王太子妃候補の座は静かに消えた。
強いざまあとは、叫ぶことではない。
自らの選択で、自らの立場を削らせること。
そして彼女は最後まで戻らない。
支えない。
奪わない。
――選ばれなかったのではない。
彼女が、選ばなかったのだ。
これは、沈黙で勝つ公爵令嬢の物語。
結婚初夜、「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と夫に言われました
ましゅぺちーの
恋愛
侯爵令嬢のアリサは婚約者だった王太子テオドールと結婚した。
ちょうどその半年前、アリサの腹違いの妹のシアは不慮の事故で帰らぬ人となっていた。
王太子が婚約者の妹のシアを愛していたのは周知の事実だった。
そんな彼は、結婚初夜、アリサに冷たく言い放った。
「何故彼女が死んでお前が生きているんだ」と。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる