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第二章 帝国編(海上編)
隠しきれない……
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「お嬢様、それも込みの今回の逃亡に参加しているのです。我が家は弟たちがいますから、不名誉な姉たちの籍はいずれ抹消されることでしょう」
「そんなことってエイルは黙って受け入れられるの」
「難しいところではありますが、あいにくと子爵家は当時、まだ貴族としての勢力に弱く、我が家もこれが何かの良縁になればということで……父親からは上級貴族の子弟などと縁ができればそれは儲けものだと言われていましたから」
「そうそう、エイルの言う通りですよ、サラ。あたしはさすがに……三十代越えた叔父様だったのは嫌だったけど。まあ、仲間がいましたから」
あっけらかんとした顔でアイラはまるで主人のように椅子にふんぞり返ると、姉にこら、としたたかに頭をぶたれていた。サラは仲間って? と聞き返すが、それにはアイラも返答しづらそうだった。
「まあ、何と言いますか。男性同士での行為も……戦場では作法なので。近衛騎士の方々なんかは、王族の部下として配置されますからそんな中になると宰相職とか重役に就けたり、出世コースなんですよ。エイルも断らなければ西に大きな荘園を持つ男爵の第二令息の妾になれたのにね」
「余計なことばっかり言わない! 馬鹿妹! いますぐその窓から海に放り出してやろうか」
「はいはい、失言でした。それよりもどうするの、エイル? 母艦はこっちなのに、あの飛行船、あっちを狙っているみたい。どうやって空中から戦闘を仕掛ける気かしら」
「それよりも、あの飛行船。本当に王国からなのかしら?」
サラの一言に、窓にしがみつき食い入るように飛行船を見ていた二人の侍女の視線が主人へと戻る。エイルが面白いですね、と言葉を漏らした。
「お嬢様、どうしてそう思われます?」
「だって分かりやすいじゃない。王国からのだって言っておけば、私が無理を言わないとアルナルドなら理解しているはずだし。そうなるとどうかしら、私には想像もつかないけど空中なんて海上のみならず、地上からしても脅威でしょ?」
「降りてくることは考えにくい、と?」
「そこまでは分からないけど、船対船ならどういう方法で拿捕するの?」
「それはまあ、マストからとか、ロープを投げて乗り移るとか。どちらにしても、敵の艦船を無力化してからになるでしょうか」
ふーん。と、サラは侍女たちを押しのけてじっと天空を仰ぎ見た。
「お嬢様?」
「ねえ、エイル」
「何でしょうか」
「拿捕するつもりなら、空からでも降りてきたりしないのかしら? その割には、ロープなんて見えないし、夜だからかもしれないけれど船だって速度を緩める感じもしない……使者が来たってことはもっと有効な船上と飛行船間の移動手段があるはずだと、考えるのは行き過ぎかしら?」
侍女たちは意外そうに顔を見合わせて、驚きの表情を作る。
アイラなどはぽかんと小さく口を開けてサラを見ていた。なんとなく次に出てくるセリフが小馬鹿にされそうなものの気がしてしまい、サラは指先でアイラの唇を塞いでやる。
どうかしらとエイルを見ると、「それは正しい判断かもしれません」と姉の方は納得していた。
「むっむむっ?」
「貴方は余計な一言が多いから黙りなさい、アイラ」
「むっ……」
妹はむっすりとして黙り込んでしまう。どこかいじけたその様は可愛らしく、サラはふふっと笑みをこぼしていた。
エイルはそうなると、とどうするのが一番良い方法と選択なんだろうと妹とは別の意味で無口になる。サラは荷物の中からとある物探すと、それで降下してきている飛行船の一部に見つけて、もうそんなに悩む必要はないんじゃないかしら、と二人に行ってみた。
「と、いいます、と……?」
「さっきまでは高すぎて見えなかったけど、忘れていたわ、これ」
そう言う彼女の手にはオペラグラス――簡易的な双眼鏡が握られていた。見てごらんなさい、と促されて空を見上げる。
そこには、船上からの投下光に当てられ、オレンジ色に染まった楕円形の飛行船があった。
そして、普通の海上を行く船の例にもれず国旗だの、所属旗だのを掲げている。
「あ、国旗……。おまけに所属旗まで掲げている……」
それを確認したエイルは妹に双眼鏡を渡すと、サラに向きなおった。
あの国旗は帝国――それもエルムド帝国のもので、サラたちが所属する国の物ではないことを示していた。
借り受けしているということなのだろう、そこに並んで掲げられているのはラフトクラン王国のものであり、王家の紋章を模した旗まで掲げられていた。
「あーあ……誰が載っているかもきちんと分かるのですね」
「そうよ、アイラ。特にロイズの家系は自己顕示欲が強いみたいだから……第一王子様の紋章なんて久しぶりに見たわ。あの負け犬、今更どんな顔して王国に帰参する気なのかしら」
「サラ、貴方も相当ひどい物言いですよ?」
アイラにあたしよりひどいかも、と言われるがサラは当然じゃない、と一笑に伏す。
かつての愛する男性――ロイズの名を騙り学院で数人の貴族令嬢と浮名を流したあの罪は……いまから思い出しても怖気が立つものだった。
「そんなことってエイルは黙って受け入れられるの」
「難しいところではありますが、あいにくと子爵家は当時、まだ貴族としての勢力に弱く、我が家もこれが何かの良縁になればということで……父親からは上級貴族の子弟などと縁ができればそれは儲けものだと言われていましたから」
「そうそう、エイルの言う通りですよ、サラ。あたしはさすがに……三十代越えた叔父様だったのは嫌だったけど。まあ、仲間がいましたから」
あっけらかんとした顔でアイラはまるで主人のように椅子にふんぞり返ると、姉にこら、としたたかに頭をぶたれていた。サラは仲間って? と聞き返すが、それにはアイラも返答しづらそうだった。
「まあ、何と言いますか。男性同士での行為も……戦場では作法なので。近衛騎士の方々なんかは、王族の部下として配置されますからそんな中になると宰相職とか重役に就けたり、出世コースなんですよ。エイルも断らなければ西に大きな荘園を持つ男爵の第二令息の妾になれたのにね」
「余計なことばっかり言わない! 馬鹿妹! いますぐその窓から海に放り出してやろうか」
「はいはい、失言でした。それよりもどうするの、エイル? 母艦はこっちなのに、あの飛行船、あっちを狙っているみたい。どうやって空中から戦闘を仕掛ける気かしら」
「それよりも、あの飛行船。本当に王国からなのかしら?」
サラの一言に、窓にしがみつき食い入るように飛行船を見ていた二人の侍女の視線が主人へと戻る。エイルが面白いですね、と言葉を漏らした。
「お嬢様、どうしてそう思われます?」
「だって分かりやすいじゃない。王国からのだって言っておけば、私が無理を言わないとアルナルドなら理解しているはずだし。そうなるとどうかしら、私には想像もつかないけど空中なんて海上のみならず、地上からしても脅威でしょ?」
「降りてくることは考えにくい、と?」
「そこまでは分からないけど、船対船ならどういう方法で拿捕するの?」
「それはまあ、マストからとか、ロープを投げて乗り移るとか。どちらにしても、敵の艦船を無力化してからになるでしょうか」
ふーん。と、サラは侍女たちを押しのけてじっと天空を仰ぎ見た。
「お嬢様?」
「ねえ、エイル」
「何でしょうか」
「拿捕するつもりなら、空からでも降りてきたりしないのかしら? その割には、ロープなんて見えないし、夜だからかもしれないけれど船だって速度を緩める感じもしない……使者が来たってことはもっと有効な船上と飛行船間の移動手段があるはずだと、考えるのは行き過ぎかしら?」
侍女たちは意外そうに顔を見合わせて、驚きの表情を作る。
アイラなどはぽかんと小さく口を開けてサラを見ていた。なんとなく次に出てくるセリフが小馬鹿にされそうなものの気がしてしまい、サラは指先でアイラの唇を塞いでやる。
どうかしらとエイルを見ると、「それは正しい判断かもしれません」と姉の方は納得していた。
「むっむむっ?」
「貴方は余計な一言が多いから黙りなさい、アイラ」
「むっ……」
妹はむっすりとして黙り込んでしまう。どこかいじけたその様は可愛らしく、サラはふふっと笑みをこぼしていた。
エイルはそうなると、とどうするのが一番良い方法と選択なんだろうと妹とは別の意味で無口になる。サラは荷物の中からとある物探すと、それで降下してきている飛行船の一部に見つけて、もうそんなに悩む必要はないんじゃないかしら、と二人に行ってみた。
「と、いいます、と……?」
「さっきまでは高すぎて見えなかったけど、忘れていたわ、これ」
そう言う彼女の手にはオペラグラス――簡易的な双眼鏡が握られていた。見てごらんなさい、と促されて空を見上げる。
そこには、船上からの投下光に当てられ、オレンジ色に染まった楕円形の飛行船があった。
そして、普通の海上を行く船の例にもれず国旗だの、所属旗だのを掲げている。
「あ、国旗……。おまけに所属旗まで掲げている……」
それを確認したエイルは妹に双眼鏡を渡すと、サラに向きなおった。
あの国旗は帝国――それもエルムド帝国のもので、サラたちが所属する国の物ではないことを示していた。
借り受けしているということなのだろう、そこに並んで掲げられているのはラフトクラン王国のものであり、王家の紋章を模した旗まで掲げられていた。
「あーあ……誰が載っているかもきちんと分かるのですね」
「そうよ、アイラ。特にロイズの家系は自己顕示欲が強いみたいだから……第一王子様の紋章なんて久しぶりに見たわ。あの負け犬、今更どんな顔して王国に帰参する気なのかしら」
「サラ、貴方も相当ひどい物言いですよ?」
アイラにあたしよりひどいかも、と言われるがサラは当然じゃない、と一笑に伏す。
かつての愛する男性――ロイズの名を騙り学院で数人の貴族令嬢と浮名を流したあの罪は……いまから思い出しても怖気が立つものだった。
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