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第二章 帝国編(海上編)
内縁の妻
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それはともかく第一王子ハサウェイがこの船に興味があるとすれば、それはそれで困ることになる。
「次から次へと問題ばかり……。どうしたものかしら」
「何かこう、第一王子様だけでなくロイズ様の反対派を一網打尽にできるようなものがあれば、いいのですけどねえ」
「……」
「どうかなさいましたか、サラ?」
「アイルって時々、天才肌を見せるときがあるわね。羨ましいほどだわ」
「は?」
失笑されているのか、馬鹿にされているのか意図を掴めない侍女は複雑な顔をしてサラを見つめていた。
サラは円満の笑みでアイラを見ると、手元にまとめて管理していた剣の一振りを彼女に押し付けた。
エイルにも投げるようにしてそれを渡すと、二人はベルトを腰に回し、メイドならぬ武装メイドと化していた。
「えーと、サラ? これはつまりあたしたちにどうしろ、と?」
「待ってね。あれ、どこに置いたかしら」
ごそごそと荷物の隠しポケットを漁る主人の行動に、二人は何がしたいのだろうと不思議そうな顔をする。やがて、サラは目当ての物を掘り当てて、入り口前に立った。
「ねえ、エイル、アイラ」
「はい、お嬢様?」
「許可します、突破しなさい」
「……またそんな無茶を……鋼鉄製ですよ、これ? 達人でも無きゃ、斬れませんよ」
「情けない侍女ね……エイル?」
「誘えばよいのではないかと」
誘う? サラとアイラが顔を見合わせる。エイルはベルを鳴らし、伝声管を通じた会話で殿下がお呼びです、と通路側にいる見張りの女性士官二人を呼びよせる。
「ほら」
「ほらって……」
可哀想に、女性士官二人は扉の影に待ちかねていたアイラとエイルの手によって叩き伏せられてしまっていた。
簡単なのものです、と胸を張るアイラだったが、言うほど簡単ではないだろうとサラは眉を潜めた。
重要人物に対する見張りというものはたった二人だけで完結するものではない。
その向こうには二次、三次と不慮の事態、不測の問題に即時対応できるように、人を配置しておくのが通常のやり方だった。
「あー来た来た……どうします、サラ?」
「お嬢様って言いなさい、アイラ。どうもしなくていいわよ」
やってきた二人の男性士官が倒れている女性士官たちを見て気色ばんだ。しかし、サラはごめんなさい、と一言置くと要件を手短に伝えた。
「殿下から殿下にっていうのも変だけど、アルナルドに。婚約者に伝えて下さらない? いいえ、もう指輪もあるし、ある意味内縁の妻を言ってもいいわ。サラが、話があると。あの空に浮かぶ馬鹿王子に関してのことですと。緊急だと伝えてください」
「は? いや、しかし……内縁とは……?」
「これでよろしい?」
薬指にはすこしばかり大きい、アルナルドからの贈り物。
彼のくれた手紙もついでに、と示して見せる。
「私が王国を去ったのは殿下の妻になれとの招聘に応じたからです。分かればすぐに行きなさい。帝国を左右する一大事になるかもしれませんよ!」
「あっ、はい」
あまりのことに気が動転したのだろう。可哀想な男性士官の一人は血相を変えるとアルナルドの元へと報告のために走り出した。揺れる船内は彼にとっては人生で最低の瞬間だったかもしれない。
サラはそう思い床に寝そべる二人の女性士官をソファーに寝かせる為に移動するのを手伝うために、手を貸していた。
それからしばらくしてのことだ、アルナルドが船長やその他の部下を引き連れてやってきたのは。
「サラー……」
なんだよ、内縁の妻って。
そんなことを言いたげな彼をソファーに座ったまま見上げると、サラはふふっ、と政治向けの笑顔を作って返した。こんな顔が出来たのかと驚く皇太子を自分の隣に誘い座らせると、サラはとある革表紙の冊子を取り出した。
「はい、旦那様?」
「旦那様って……あんなに拒絶……」
「いまはそんな時じゃないでしょ? それよりも欲しくないの、あの狂犬を追い返せる方法が」
「そんなものがあるなら、是非、お目にかかりたいね」
「じゃあ、サラから愛しのアルナルド様にこれを捧げます。どうぞ」
来賓・贈答品目録。
どこをどう読んでもそうとしか書かれていない手帳は、めくってみればこの前、サラの子爵家で行われた主不在のパーティー会場にやってきた来賓客のリストと、それに連なる贈答品目録があり、パラパラとめくったがそこに大した収穫はないようにアルナルドには思えた。
ただ、自分の項目には隠してあった『指輪』との一文があり、他の客の品物の後ろにも金貨何枚、銀貨何枚、翡翠、ダイヤモンドの彫刻、などさまざまな表には出せないまま賄賂として贈られたであろう品々が列を成している。
読み解くよりも答えを知っている人物に聞くべきだ。
そう判断すると、アルナルドはサラにどういうことだい、と質問した。
「賄賂の一覧かな? でも、これはサラに、ひいてはロイズに差し出したものが多いのでは?」
「さすが、旦那様。でも、中には何もなかったりする人物たちもいます。多くは小物だってじいやは言っていたけど……」
「じいや?」
「いえ、何でもないの。それより、目録に名前が会って来たはずなのに賄賂の無い人物欄に興味を持てないかしら」
ああ、なるほど、とアルナルドは理解したようだった。これはロイズに贈られるもので、そこに賄賂名がないと言うことは、第三王子派ではないか、それとも当日持ってきて持ち帰ったか……もしくは、彼を王に相応しくないと考えている。第一・第二王子派がいるということに他らならない。
「大臣連中や、伯爵位にある人たちまで随分といるようだね。でも、多くは小物――じいやさんの見立ては間違っていないけど。形だけ祝ってやるが、お前など王には相応しくないと意思表示している人も散見される。で、僕の内縁の賢妻はどうしろとおっしゃるのかな?」
嫌味には嫌味でかえすのがアルナルドだ。
彼がハサウェイの出現で慌てふためいているのを見たかったのに、少しだけ残念、とサラは思いながら言葉を返した。
「次から次へと問題ばかり……。どうしたものかしら」
「何かこう、第一王子様だけでなくロイズ様の反対派を一網打尽にできるようなものがあれば、いいのですけどねえ」
「……」
「どうかなさいましたか、サラ?」
「アイルって時々、天才肌を見せるときがあるわね。羨ましいほどだわ」
「は?」
失笑されているのか、馬鹿にされているのか意図を掴めない侍女は複雑な顔をしてサラを見つめていた。
サラは円満の笑みでアイラを見ると、手元にまとめて管理していた剣の一振りを彼女に押し付けた。
エイルにも投げるようにしてそれを渡すと、二人はベルトを腰に回し、メイドならぬ武装メイドと化していた。
「えーと、サラ? これはつまりあたしたちにどうしろ、と?」
「待ってね。あれ、どこに置いたかしら」
ごそごそと荷物の隠しポケットを漁る主人の行動に、二人は何がしたいのだろうと不思議そうな顔をする。やがて、サラは目当ての物を掘り当てて、入り口前に立った。
「ねえ、エイル、アイラ」
「はい、お嬢様?」
「許可します、突破しなさい」
「……またそんな無茶を……鋼鉄製ですよ、これ? 達人でも無きゃ、斬れませんよ」
「情けない侍女ね……エイル?」
「誘えばよいのではないかと」
誘う? サラとアイラが顔を見合わせる。エイルはベルを鳴らし、伝声管を通じた会話で殿下がお呼びです、と通路側にいる見張りの女性士官二人を呼びよせる。
「ほら」
「ほらって……」
可哀想に、女性士官二人は扉の影に待ちかねていたアイラとエイルの手によって叩き伏せられてしまっていた。
簡単なのものです、と胸を張るアイラだったが、言うほど簡単ではないだろうとサラは眉を潜めた。
重要人物に対する見張りというものはたった二人だけで完結するものではない。
その向こうには二次、三次と不慮の事態、不測の問題に即時対応できるように、人を配置しておくのが通常のやり方だった。
「あー来た来た……どうします、サラ?」
「お嬢様って言いなさい、アイラ。どうもしなくていいわよ」
やってきた二人の男性士官が倒れている女性士官たちを見て気色ばんだ。しかし、サラはごめんなさい、と一言置くと要件を手短に伝えた。
「殿下から殿下にっていうのも変だけど、アルナルドに。婚約者に伝えて下さらない? いいえ、もう指輪もあるし、ある意味内縁の妻を言ってもいいわ。サラが、話があると。あの空に浮かぶ馬鹿王子に関してのことですと。緊急だと伝えてください」
「は? いや、しかし……内縁とは……?」
「これでよろしい?」
薬指にはすこしばかり大きい、アルナルドからの贈り物。
彼のくれた手紙もついでに、と示して見せる。
「私が王国を去ったのは殿下の妻になれとの招聘に応じたからです。分かればすぐに行きなさい。帝国を左右する一大事になるかもしれませんよ!」
「あっ、はい」
あまりのことに気が動転したのだろう。可哀想な男性士官の一人は血相を変えるとアルナルドの元へと報告のために走り出した。揺れる船内は彼にとっては人生で最低の瞬間だったかもしれない。
サラはそう思い床に寝そべる二人の女性士官をソファーに寝かせる為に移動するのを手伝うために、手を貸していた。
それからしばらくしてのことだ、アルナルドが船長やその他の部下を引き連れてやってきたのは。
「サラー……」
なんだよ、内縁の妻って。
そんなことを言いたげな彼をソファーに座ったまま見上げると、サラはふふっ、と政治向けの笑顔を作って返した。こんな顔が出来たのかと驚く皇太子を自分の隣に誘い座らせると、サラはとある革表紙の冊子を取り出した。
「はい、旦那様?」
「旦那様って……あんなに拒絶……」
「いまはそんな時じゃないでしょ? それよりも欲しくないの、あの狂犬を追い返せる方法が」
「そんなものがあるなら、是非、お目にかかりたいね」
「じゃあ、サラから愛しのアルナルド様にこれを捧げます。どうぞ」
来賓・贈答品目録。
どこをどう読んでもそうとしか書かれていない手帳は、めくってみればこの前、サラの子爵家で行われた主不在のパーティー会場にやってきた来賓客のリストと、それに連なる贈答品目録があり、パラパラとめくったがそこに大した収穫はないようにアルナルドには思えた。
ただ、自分の項目には隠してあった『指輪』との一文があり、他の客の品物の後ろにも金貨何枚、銀貨何枚、翡翠、ダイヤモンドの彫刻、などさまざまな表には出せないまま賄賂として贈られたであろう品々が列を成している。
読み解くよりも答えを知っている人物に聞くべきだ。
そう判断すると、アルナルドはサラにどういうことだい、と質問した。
「賄賂の一覧かな? でも、これはサラに、ひいてはロイズに差し出したものが多いのでは?」
「さすが、旦那様。でも、中には何もなかったりする人物たちもいます。多くは小物だってじいやは言っていたけど……」
「じいや?」
「いえ、何でもないの。それより、目録に名前が会って来たはずなのに賄賂の無い人物欄に興味を持てないかしら」
ああ、なるほど、とアルナルドは理解したようだった。これはロイズに贈られるもので、そこに賄賂名がないと言うことは、第三王子派ではないか、それとも当日持ってきて持ち帰ったか……もしくは、彼を王に相応しくないと考えている。第一・第二王子派がいるということに他らならない。
「大臣連中や、伯爵位にある人たちまで随分といるようだね。でも、多くは小物――じいやさんの見立ては間違っていないけど。形だけ祝ってやるが、お前など王には相応しくないと意思表示している人も散見される。で、僕の内縁の賢妻はどうしろとおっしゃるのかな?」
嫌味には嫌味でかえすのがアルナルドだ。
彼がハサウェイの出現で慌てふためいているのを見たかったのに、少しだけ残念、とサラは思いながら言葉を返した。
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