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第二章 帝国編(海上編)
皇族の在り方
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皇太子はそれを無視するように視線をそらし、部屋を出て行こうとする。
「あ、待ってー……」
それは私がすべきことでしょう? まだ話があると引き留めようとするサラを、船長はいいのですよと押し止める。
「サラ様。いいえ、殿下。あちらの殿下はご不興の様子ですから。あまりお気になさらずに」
「船長、機嫌を損ねたからこそ話すべきかと。それに、アルナルドはこの船団の――」
「最高位ではありますが、この船に乗る限りは自分が船団の長ですから。例え、皇帝陛下が御座された艦船であろうとそれは変わりません」
「……変わらないのですか? 陛下でも?」
「陛下でもです。それが船乗りの矜持ですから。ついでに、その御役目を果たすために命も賭けておりますからな」
うーん、とサラは悩んでしまう。
アルナルドに出ていけと言われ、ようやく自由になると思ったのにすべてを預かりますと言われては、またもとに戻ってしまいそうだからだ。
ここは率直に打ち明けるべきか、それとも……側に立つエイルを見たら詳細を、そんな顔をしているしアイラはもう知りません、と拗ねてしまった感じだ。
まあ、この二人がいれば家族を守るという名目は果たせるわね。
「船長、お話があります」
「は? 殿下御自らのご相談とはこれはまた。お伺いしましょうか」
「そんなにこやかに応じてくれなくても……」
「いえいえ、こちらも殿下に――サラ様に依頼したいことがありましたので。アルナルド殿下にはすこしばかり荷が重いことでしてな」
「は? アルナルドに……?」
あまりいい相談だとは思えないけど。
いきなり侍女たちと三人そろって海に放り込まれるよりはましかもしれない。
さすがにそんな無作法なことはしないだろうけれど。
でも先にはっきりと言うべきことは言っておこう。それで反逆罪に問われるとしても。
サラは壮年の海の男を見つめると、確固とした意志をもって宣言した。
「そう、殿下にです」
「受けても宜しいですが、一つだけ言っておきます」
「うかがえることでしたら」
「私、あの――負け犬。そう、アルナルドにこれ以上、妻の候補として従うことは嫌になりましたので。ここにいる侍女たちと共に海の藻屑として頂いても構いません」
「ほう。それで殿下は、なんと?」
あのご様子では余程、気落ちしたのでしょうな、と意外にも船長はにこやかに微笑んでそう言った。
「……出ていけ、と」
「行かれますか?」
「その前にお話があるのでしょう? お伺いしてから決めますが、船長のお考えがいかに?」
ふむ、と彼はあごひげをこすり、思案する。
そこには危険を示す雰囲気はなかったが、たっぷり数分熟考する間に彼は部下たちを下がらせてサラに椅子を進めていたのだった。
自分はテーブルに対面するソファーに座ると、さて、と話を始める。
そこにはどうにも言いづらそうなものがちらほらと見え隠れするのがサラには不思議だった。
「サラ様、話ですが……実は部下を救って頂きたい」
「部下、ですか……?」
「左様。先客がありましてな。それも空からの歓迎されない――サラ様の母国へと向かう旅人です。あれがなかなか」
空から。ハサウェイ第一王子のことね。
察しがつくとやはり船長もアルナルドの言うように王国に戻れと言うのかと、サラは勘ぐった。
確かに自分がまともな命の保証を受けるにはそれが一番賢い手立てかもしれない。
「船長も私に王国に戻れ、と?」
「は?」
彼は意外そうな顔で返事を返してくる。
サラが来た航路を戻ることを想定していなかったような反応だった。
「あら? 殿下は私に王国に戻れ、と。現王太子殿下ロイズ様の婚約者だった私ですが、その代わりに義理の娘に取り立てたレイニーがいずれは王太子妃になるでしょうから。その義理の母ということで――ここからは話してもいいのかしら?」
「皇帝陛下とアルナルド殿下の間で、自分が預かり知らない話があるということは予想できますが。はて――それはおかしいですな」
「おかしい? 何がどう、おかしいのですか?」
気遣いが足りないはずのアイラがアルナルドの使ったカップを下げ、船長用の新しい紅茶を立ててきたことに内心驚きながら、サラは質問した。
彼はどこから説明したものかと模索しているようで、また黙ってしまう。
しかし、手癖の悪い侍女がどこかに隠していた新しいお菓子を載せた皿を供すると、嬉しそうに目を細めてそれを受け取っていた。
「アリズン様」
「はい?」
「ご存知でしょうか」
「まあ、その――はい、彼の正式な婚約者だとは……」
「ああ……殿下め。そう言いましたか。なるほど……」
そう言いましたか? まるでそれ以外の表現があるような言い方だ。
いや、それ以外の立場? それとも――。
「彼女は、まさかと思いますけど。正式な間柄ではない?」
「いえいえ、それはありません。ありませんが、そうでもない」
察して欲しい。そんなふうに船長は言い、はっきりとはしたことを言えない素振りをする。
「あ、待ってー……」
それは私がすべきことでしょう? まだ話があると引き留めようとするサラを、船長はいいのですよと押し止める。
「サラ様。いいえ、殿下。あちらの殿下はご不興の様子ですから。あまりお気になさらずに」
「船長、機嫌を損ねたからこそ話すべきかと。それに、アルナルドはこの船団の――」
「最高位ではありますが、この船に乗る限りは自分が船団の長ですから。例え、皇帝陛下が御座された艦船であろうとそれは変わりません」
「……変わらないのですか? 陛下でも?」
「陛下でもです。それが船乗りの矜持ですから。ついでに、その御役目を果たすために命も賭けておりますからな」
うーん、とサラは悩んでしまう。
アルナルドに出ていけと言われ、ようやく自由になると思ったのにすべてを預かりますと言われては、またもとに戻ってしまいそうだからだ。
ここは率直に打ち明けるべきか、それとも……側に立つエイルを見たら詳細を、そんな顔をしているしアイラはもう知りません、と拗ねてしまった感じだ。
まあ、この二人がいれば家族を守るという名目は果たせるわね。
「船長、お話があります」
「は? 殿下御自らのご相談とはこれはまた。お伺いしましょうか」
「そんなにこやかに応じてくれなくても……」
「いえいえ、こちらも殿下に――サラ様に依頼したいことがありましたので。アルナルド殿下にはすこしばかり荷が重いことでしてな」
「は? アルナルドに……?」
あまりいい相談だとは思えないけど。
いきなり侍女たちと三人そろって海に放り込まれるよりはましかもしれない。
さすがにそんな無作法なことはしないだろうけれど。
でも先にはっきりと言うべきことは言っておこう。それで反逆罪に問われるとしても。
サラは壮年の海の男を見つめると、確固とした意志をもって宣言した。
「そう、殿下にです」
「受けても宜しいですが、一つだけ言っておきます」
「うかがえることでしたら」
「私、あの――負け犬。そう、アルナルドにこれ以上、妻の候補として従うことは嫌になりましたので。ここにいる侍女たちと共に海の藻屑として頂いても構いません」
「ほう。それで殿下は、なんと?」
あのご様子では余程、気落ちしたのでしょうな、と意外にも船長はにこやかに微笑んでそう言った。
「……出ていけ、と」
「行かれますか?」
「その前にお話があるのでしょう? お伺いしてから決めますが、船長のお考えがいかに?」
ふむ、と彼はあごひげをこすり、思案する。
そこには危険を示す雰囲気はなかったが、たっぷり数分熟考する間に彼は部下たちを下がらせてサラに椅子を進めていたのだった。
自分はテーブルに対面するソファーに座ると、さて、と話を始める。
そこにはどうにも言いづらそうなものがちらほらと見え隠れするのがサラには不思議だった。
「サラ様、話ですが……実は部下を救って頂きたい」
「部下、ですか……?」
「左様。先客がありましてな。それも空からの歓迎されない――サラ様の母国へと向かう旅人です。あれがなかなか」
空から。ハサウェイ第一王子のことね。
察しがつくとやはり船長もアルナルドの言うように王国に戻れと言うのかと、サラは勘ぐった。
確かに自分がまともな命の保証を受けるにはそれが一番賢い手立てかもしれない。
「船長も私に王国に戻れ、と?」
「は?」
彼は意外そうな顔で返事を返してくる。
サラが来た航路を戻ることを想定していなかったような反応だった。
「あら? 殿下は私に王国に戻れ、と。現王太子殿下ロイズ様の婚約者だった私ですが、その代わりに義理の娘に取り立てたレイニーがいずれは王太子妃になるでしょうから。その義理の母ということで――ここからは話してもいいのかしら?」
「皇帝陛下とアルナルド殿下の間で、自分が預かり知らない話があるということは予想できますが。はて――それはおかしいですな」
「おかしい? 何がどう、おかしいのですか?」
気遣いが足りないはずのアイラがアルナルドの使ったカップを下げ、船長用の新しい紅茶を立ててきたことに内心驚きながら、サラは質問した。
彼はどこから説明したものかと模索しているようで、また黙ってしまう。
しかし、手癖の悪い侍女がどこかに隠していた新しいお菓子を載せた皿を供すると、嬉しそうに目を細めてそれを受け取っていた。
「アリズン様」
「はい?」
「ご存知でしょうか」
「まあ、その――はい、彼の正式な婚約者だとは……」
「ああ……殿下め。そう言いましたか。なるほど……」
そう言いましたか? まるでそれ以外の表現があるような言い方だ。
いや、それ以外の立場? それとも――。
「彼女は、まさかと思いますけど。正式な間柄ではない?」
「いえいえ、それはありません。ありませんが、そうでもない」
察して欲しい。そんなふうに船長は言い、はっきりとはしたことを言えない素振りをする。
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