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第二章 帝国編(海上編)
養子問題
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本当かしら? じっとりとした目でにらまれるも、アイラはそんな暇はありませんでした、と弁明する。
まあ、それはそうかと思いサラはそれも含めて、不思議な点を更に船長に問いたいと思い始めていた。
例えば、アルナルドは皇室の第二皇太子だし、それでも帝位継承権は六位というとこや、何故自分が十四位だったり、皇帝陛下には曾祖母の血が混じっていないという発言が飛び出たり、それよりなにより、アルナルドは王国に相応しいと思うなどの発言のなかで船長は王国を存続させた方がいいと語ったり。
かといって、サラには帝国に来て欲しいと言ったりする、そんなところだった。
「ハルベリー家の名は知っておりますが、こちらに呼びいろいろと聞こうとはしました。しかし、アルナルド殿下の待ったが入り、会うことはできていません」
「なるほど」
サラは嘘ではない事実を告げた。
隠しごとはないし、かといってあの姉妹をどうこうしようとしたなんてことを言えば、アルナルドの王国作戦? そんなものに巻き込まれそうだ。
ここは慎重に言葉を選ばなくては――船長といえども今は信用するのは危険なことになりそうだと、サラは積極的に関わる気にはなれないでいた。
「王国でワインをひろめたいのならば、レイニー……私の養女になった元侯爵家令嬢の実家が我が父と共にいまは動いていますから。ラグラージ侯爵様をお尋ねになるのがよろしいかと思います。農林関連を取りまとめる大臣職に就いておられますから」
「ワインのことについてご存知でしたか。しかし、そこには帝室御用達の認可がなくては、誰も見向きもしないでしょうな」
「……その認可を皇帝陛下はハサウェイ様にでもお渡しになりましたか?」
「ぶっ」
これは痛い一言だったらしい。
船長は飲もうとしていた紅茶を前に、むせてしまう。
サラはまあ、そんなところでしょうねえと呆れた顔をしていた。
どうもいまの帝国政権というか、帝室のやることは関係する者からすれば見抜きやすい策略ばかりを繰り出しているとしか思えない。
まるでそう、舞台は用意したから、きちんと成果を出して皇族として相応しい立場に上がるように。
見た目だけの結果を、子供に甘い皇帝が簡単なおつかいを斡旋しているように見えて仕方ないのだ。
その影で、多くの人命が奪われても気にせず、ただ息子や娘たち皇族にはまた次があるから頑張れと励ます馬鹿な親。そんなようにしか見えないでいた。
「船長。私は帝位継承問題に興味はありません。でも、なぜ彼が第二皇子なのに第六位なのかは気になるところです」
「それはなんと言いますか……」
「陛下に我が曾祖母の血が混じっていないという話にも、つながりますか?」
「やれやれ……。サラ様、少し手加減が欲しいところですな」
船長はそういい、どこからか取り出したハンカチで口元をぬぐうが、サラだって二人の部下を目の前にして言い様に使われる気はさらさらなかった。
ここで追い詰めれるものなら、そうしたい。
もっとも……もう、男性陣には期待というものを持てなかった彼女にとって、権力とか地位とかそういうものは興味の対象外になってしまっていた。
幸せというものは、貴族の女にとって相応しい、もしくはそれ以上の男性の扶養があって初めて成り立つものだからだ。
「先ほども言いました通り、権力どうこうよりも、ここにいる侍女たちと共に静かに暮したいと考えております。扱いづらいなら、次の港で叩きだすなり、海に放り落とすなり、好きになさればよろしいのですわ」
海はちょっと、と尻ごみするアイラを視線で黙らせて、サラは船長をにらみつけた。
彼の心の中では帝国に残して来た妻が、不機嫌の時に見せるものと同じ視線を向けられたようでいたたまれないものがそこにあった。
「使うとはとんでもない。陛下はその――入り婿ですから。他の十四王国のとある王国から皇室に入られたのです。それもあり、陛下の子供たちは直径とは言えず……しかし」
「皇妃様は我が曾祖母の血を引かれているから、帝位継承権は女性にまず与えられる、と?」
「帝室は女系ですからな。仕方ない部分もあるのです、何より、陛下の出身がそれですから。なにがしかの成果を子供たちが上げなければ、肩身が狭いといいますか」
「はあ……。そんな帝室の事情で我が王国を引っ掻き回すおつもりですか。国民が知れば、暴動が起こりかねませんね」
「また物騒なことを」
「事実です。それで、ハルベリー姉妹を救ってくれとはいかに?」
うほん、と船長は苦し気な一息を入れた。
「出来ればお怒りを出されないでいただきたい。これもハルベリー家を救うためでして」
「は?」
そして、もう一つ大きな爆弾を船長は放り込む。
事情を聞いたサラは呆れてものが言えないと言いたそうに首を振った。
「そんな問題を抱えた家をまさか……」
「申し訳ございません、サラ様」
「いいですよ、養子、ね。子供ならさっさと自分でめんどうを見ればいいのに」
それが出来れば苦労はしない、か。
ハサウェイを切り崩すために決断したこととはいえ、それだけかしら。ふとサラは勘ぐってしまう。
あのアルナルドのことだ。優しさを前に押し出しながら、冷酷なやり方で信用を得たのではないかと疑いは尽きない。
「それで……その姉妹をどうすれば宜しいのですか。まさか、私の娘にしろとでもいうのでは?」
「できれば、そのまさか。ですな……殿下には王国に行って頂きますので」
「王国? アルナルドを? ではハルベリー姉妹が必要でしょう」
「サラ様は姉がハサウェイ王子の妻だった、とはご存知ですかな」
「ああ……卑劣なのはアルナルドだけなのではないのですね、船長」
「そうでもありません。部下を救いたいだけですよ。妹は我が船の船員でしてな」
つまり、対ハサウェイ向けの人質にしたい、そういう意味に加えての妹はもっとひどい立場に追いやられるだろう。姉はアルナルドと敵対する可能性があるハサウェイの妻だし、実家はこれから帝国にいくサラと帝室にその生殺与奪の権利を握られている。おまけに、都合よくというべきか、帝室関係者として扱われる。
どこまでも監視がついて逃げることの出来ない、生き地獄なわけだ。
「妹に姉を殺させるような命令は出さないと約束して下さるなら、考えますわ」
「それはまた……」
船長は抜け目ないサラの要求に冷や汗を流すのだった。
まあ、それはそうかと思いサラはそれも含めて、不思議な点を更に船長に問いたいと思い始めていた。
例えば、アルナルドは皇室の第二皇太子だし、それでも帝位継承権は六位というとこや、何故自分が十四位だったり、皇帝陛下には曾祖母の血が混じっていないという発言が飛び出たり、それよりなにより、アルナルドは王国に相応しいと思うなどの発言のなかで船長は王国を存続させた方がいいと語ったり。
かといって、サラには帝国に来て欲しいと言ったりする、そんなところだった。
「ハルベリー家の名は知っておりますが、こちらに呼びいろいろと聞こうとはしました。しかし、アルナルド殿下の待ったが入り、会うことはできていません」
「なるほど」
サラは嘘ではない事実を告げた。
隠しごとはないし、かといってあの姉妹をどうこうしようとしたなんてことを言えば、アルナルドの王国作戦? そんなものに巻き込まれそうだ。
ここは慎重に言葉を選ばなくては――船長といえども今は信用するのは危険なことになりそうだと、サラは積極的に関わる気にはなれないでいた。
「王国でワインをひろめたいのならば、レイニー……私の養女になった元侯爵家令嬢の実家が我が父と共にいまは動いていますから。ラグラージ侯爵様をお尋ねになるのがよろしいかと思います。農林関連を取りまとめる大臣職に就いておられますから」
「ワインのことについてご存知でしたか。しかし、そこには帝室御用達の認可がなくては、誰も見向きもしないでしょうな」
「……その認可を皇帝陛下はハサウェイ様にでもお渡しになりましたか?」
「ぶっ」
これは痛い一言だったらしい。
船長は飲もうとしていた紅茶を前に、むせてしまう。
サラはまあ、そんなところでしょうねえと呆れた顔をしていた。
どうもいまの帝国政権というか、帝室のやることは関係する者からすれば見抜きやすい策略ばかりを繰り出しているとしか思えない。
まるでそう、舞台は用意したから、きちんと成果を出して皇族として相応しい立場に上がるように。
見た目だけの結果を、子供に甘い皇帝が簡単なおつかいを斡旋しているように見えて仕方ないのだ。
その影で、多くの人命が奪われても気にせず、ただ息子や娘たち皇族にはまた次があるから頑張れと励ます馬鹿な親。そんなようにしか見えないでいた。
「船長。私は帝位継承問題に興味はありません。でも、なぜ彼が第二皇子なのに第六位なのかは気になるところです」
「それはなんと言いますか……」
「陛下に我が曾祖母の血が混じっていないという話にも、つながりますか?」
「やれやれ……。サラ様、少し手加減が欲しいところですな」
船長はそういい、どこからか取り出したハンカチで口元をぬぐうが、サラだって二人の部下を目の前にして言い様に使われる気はさらさらなかった。
ここで追い詰めれるものなら、そうしたい。
もっとも……もう、男性陣には期待というものを持てなかった彼女にとって、権力とか地位とかそういうものは興味の対象外になってしまっていた。
幸せというものは、貴族の女にとって相応しい、もしくはそれ以上の男性の扶養があって初めて成り立つものだからだ。
「先ほども言いました通り、権力どうこうよりも、ここにいる侍女たちと共に静かに暮したいと考えております。扱いづらいなら、次の港で叩きだすなり、海に放り落とすなり、好きになさればよろしいのですわ」
海はちょっと、と尻ごみするアイラを視線で黙らせて、サラは船長をにらみつけた。
彼の心の中では帝国に残して来た妻が、不機嫌の時に見せるものと同じ視線を向けられたようでいたたまれないものがそこにあった。
「使うとはとんでもない。陛下はその――入り婿ですから。他の十四王国のとある王国から皇室に入られたのです。それもあり、陛下の子供たちは直径とは言えず……しかし」
「皇妃様は我が曾祖母の血を引かれているから、帝位継承権は女性にまず与えられる、と?」
「帝室は女系ですからな。仕方ない部分もあるのです、何より、陛下の出身がそれですから。なにがしかの成果を子供たちが上げなければ、肩身が狭いといいますか」
「はあ……。そんな帝室の事情で我が王国を引っ掻き回すおつもりですか。国民が知れば、暴動が起こりかねませんね」
「また物騒なことを」
「事実です。それで、ハルベリー姉妹を救ってくれとはいかに?」
うほん、と船長は苦し気な一息を入れた。
「出来ればお怒りを出されないでいただきたい。これもハルベリー家を救うためでして」
「は?」
そして、もう一つ大きな爆弾を船長は放り込む。
事情を聞いたサラは呆れてものが言えないと言いたそうに首を振った。
「そんな問題を抱えた家をまさか……」
「申し訳ございません、サラ様」
「いいですよ、養子、ね。子供ならさっさと自分でめんどうを見ればいいのに」
それが出来れば苦労はしない、か。
ハサウェイを切り崩すために決断したこととはいえ、それだけかしら。ふとサラは勘ぐってしまう。
あのアルナルドのことだ。優しさを前に押し出しながら、冷酷なやり方で信用を得たのではないかと疑いは尽きない。
「それで……その姉妹をどうすれば宜しいのですか。まさか、私の娘にしろとでもいうのでは?」
「できれば、そのまさか。ですな……殿下には王国に行って頂きますので」
「王国? アルナルドを? ではハルベリー姉妹が必要でしょう」
「サラ様は姉がハサウェイ王子の妻だった、とはご存知ですかな」
「ああ……卑劣なのはアルナルドだけなのではないのですね、船長」
「そうでもありません。部下を救いたいだけですよ。妹は我が船の船員でしてな」
つまり、対ハサウェイ向けの人質にしたい、そういう意味に加えての妹はもっとひどい立場に追いやられるだろう。姉はアルナルドと敵対する可能性があるハサウェイの妻だし、実家はこれから帝国にいくサラと帝室にその生殺与奪の権利を握られている。おまけに、都合よくというべきか、帝室関係者として扱われる。
どこまでも監視がついて逃げることの出来ない、生き地獄なわけだ。
「妹に姉を殺させるような命令は出さないと約束して下さるなら、考えますわ」
「それはまた……」
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