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第三章 帝国編(空路編)
帝国の血統
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オットーはそんなサラの心中を知ってか知らずか、手にしたカップを大事そうに掲げて見せる。
そこには尊いものを愛でる心が現れていた。
「つまらない話ではありませんよ。オットー様。世間を知らないサラにはよい学びになります」
「……これは、この器は素晴らしいものです。職人の心遣いが手に取るように分かります。ああ、すいません。好きでして、このようなものが。しかし、そうですねえ……」
「国の安定、と。何か関りがありますか」
サラは問いかけてみた。
エルムドのような大国。
縁を結びたがってやってくる国は後を絶たないだろう。
クロノアイズ帝国なんて田舎の国が相手にされてきたことが奇跡だとサラには思えていた。
アイルにやられた連中の回復魔法、天空を自在に行き来する飛行船、この陶磁器の経済的な格差。
どれもが、二国間の圧倒的な文化と国力の遅れを明らかにしていた。
「……はい、サラ殿下。その通りです。安定は大事ですな」
「帝国内では問題があると言われるの?」
「恥ずかしながら。我がアーハンルド藩王国は滅亡の危機でございますよ」
「は? そんなはずは、あり得るのですか」
「ええ、真実です。ですから、殿下たちを王国本土へと送り届けたくない者たちがおります。クロノアイズ帝国とエルムド帝国内の一王国との婚姻、もしくは同盟はさらなる火種を生みますので」
「ああ……」
納得できるようで、理解しがたい発言は片頭痛を呼び覚ます。
ロイズの相手をさせられている時のような理不尽さに、サラは参ってしまいそうだった。
エルムド帝国の公女とアルナルドの結婚でクロノアイズ帝国は更に強くなるだろう。
そんな見通しは甘かった。
足元から安全なんてものが崩れ落ちそうだった。
まさか、大帝国の方に大きな問題があるなんて。
「サラ殿下? いきなりなお話を申し訳ございません」
「いいえ、いいのです。なるほどね、殿下同士の人質がいればそれでいいというのは、そういうことですか」
「ええ、帝国もここ最近は揺れておりまして。こんな末端の私のような文官までその話が流れてくる始末でございます。お伝えして良かったかどうか、心苦しいところですが。それでも、行かれますか」
「もうすこし詳しく――お話を伺いたいですわ、オットー様」
「そうですか」
文官は目を細めてサラを見上げる。
椅子には座らず、側に立つ彼に席をするめると固辞していた彼は、その返事を受けてようやく腰を下ろした。
どこからお話したものですかね、と記憶を整理するような仕草をする。
立場上、話した内容によっては断罪もあり得る。
彼の弱い立場ではここでの会話内容がバレたらそういった処分も覚悟しなくてなならないだろう。
そんなことは、現実的にはサラには関係ないことだし、必要なら金貨などを与えて買収したことにすればいい。どちらにしてもオットーにはあまり良い未来は待っていないが……。
これからエルムド帝国に行こうとしている身からすれば、オットーの話は貴重で知ると知らないとでは身の振り方も大きく変わるだろう。
侍女たちは早く、とせかそうとするがサラだけはただじっと文官の心が固まるのを待っていた。
これは教えて下さいとか、教えろとか。
そういった懇願や脅しでは出てこないもの。出て来ても嘘が混じっているかもしれない。
彼の真面目な本心からの言葉をサラは待っていた。
やがてオットーはうーん、と一声発して小さくうつむく。
自分しかいないのならば仕方ない、そんな顔をして彼はサラを見たのだった。
「サラ様」
「なんでしょう」
「サラ様も私も含め、人でございます。ここに至るまでの道すがら、獣人といいますか。獣の耳と尾を持つ女性や男性を見られましたか」
「あーそれはあの……金色の毛皮というべきような。女性たち、とか?」
その一団を見た時、ロプスの態度がはっきりと変わったことをサラは覚えていた。
やはりあれは獣人というのか、と小さく納得する。
見ましたかー、とオットーは困ったような声を上げた。
「帝国――エルムドですが。皇帝家には三種族の血統がございます。そこが問題となっておりますな」
「三種族? 三家ではなく……」
「左様です。人が一家、獣人の二家となっておりますな」
「まあ、珍しい」
ちょっと場違いかとも思ったがサラはそんな驚きの声を上げていた。
そこには尊いものを愛でる心が現れていた。
「つまらない話ではありませんよ。オットー様。世間を知らないサラにはよい学びになります」
「……これは、この器は素晴らしいものです。職人の心遣いが手に取るように分かります。ああ、すいません。好きでして、このようなものが。しかし、そうですねえ……」
「国の安定、と。何か関りがありますか」
サラは問いかけてみた。
エルムドのような大国。
縁を結びたがってやってくる国は後を絶たないだろう。
クロノアイズ帝国なんて田舎の国が相手にされてきたことが奇跡だとサラには思えていた。
アイルにやられた連中の回復魔法、天空を自在に行き来する飛行船、この陶磁器の経済的な格差。
どれもが、二国間の圧倒的な文化と国力の遅れを明らかにしていた。
「……はい、サラ殿下。その通りです。安定は大事ですな」
「帝国内では問題があると言われるの?」
「恥ずかしながら。我がアーハンルド藩王国は滅亡の危機でございますよ」
「は? そんなはずは、あり得るのですか」
「ええ、真実です。ですから、殿下たちを王国本土へと送り届けたくない者たちがおります。クロノアイズ帝国とエルムド帝国内の一王国との婚姻、もしくは同盟はさらなる火種を生みますので」
「ああ……」
納得できるようで、理解しがたい発言は片頭痛を呼び覚ます。
ロイズの相手をさせられている時のような理不尽さに、サラは参ってしまいそうだった。
エルムド帝国の公女とアルナルドの結婚でクロノアイズ帝国は更に強くなるだろう。
そんな見通しは甘かった。
足元から安全なんてものが崩れ落ちそうだった。
まさか、大帝国の方に大きな問題があるなんて。
「サラ殿下? いきなりなお話を申し訳ございません」
「いいえ、いいのです。なるほどね、殿下同士の人質がいればそれでいいというのは、そういうことですか」
「ええ、帝国もここ最近は揺れておりまして。こんな末端の私のような文官までその話が流れてくる始末でございます。お伝えして良かったかどうか、心苦しいところですが。それでも、行かれますか」
「もうすこし詳しく――お話を伺いたいですわ、オットー様」
「そうですか」
文官は目を細めてサラを見上げる。
椅子には座らず、側に立つ彼に席をするめると固辞していた彼は、その返事を受けてようやく腰を下ろした。
どこからお話したものですかね、と記憶を整理するような仕草をする。
立場上、話した内容によっては断罪もあり得る。
彼の弱い立場ではここでの会話内容がバレたらそういった処分も覚悟しなくてなならないだろう。
そんなことは、現実的にはサラには関係ないことだし、必要なら金貨などを与えて買収したことにすればいい。どちらにしてもオットーにはあまり良い未来は待っていないが……。
これからエルムド帝国に行こうとしている身からすれば、オットーの話は貴重で知ると知らないとでは身の振り方も大きく変わるだろう。
侍女たちは早く、とせかそうとするがサラだけはただじっと文官の心が固まるのを待っていた。
これは教えて下さいとか、教えろとか。
そういった懇願や脅しでは出てこないもの。出て来ても嘘が混じっているかもしれない。
彼の真面目な本心からの言葉をサラは待っていた。
やがてオットーはうーん、と一声発して小さくうつむく。
自分しかいないのならば仕方ない、そんな顔をして彼はサラを見たのだった。
「サラ様」
「なんでしょう」
「サラ様も私も含め、人でございます。ここに至るまでの道すがら、獣人といいますか。獣の耳と尾を持つ女性や男性を見られましたか」
「あーそれはあの……金色の毛皮というべきような。女性たち、とか?」
その一団を見た時、ロプスの態度がはっきりと変わったことをサラは覚えていた。
やはりあれは獣人というのか、と小さく納得する。
見ましたかー、とオットーは困ったような声を上げた。
「帝国――エルムドですが。皇帝家には三種族の血統がございます。そこが問題となっておりますな」
「三種族? 三家ではなく……」
「左様です。人が一家、獣人の二家となっておりますな」
「まあ、珍しい」
ちょっと場違いかとも思ったがサラはそんな驚きの声を上げていた。
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