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第四章 二人の皇女編
無礼と報復と
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違和感。
なんだか好きになれない嫌悪感がとにかく湧き出てきて止まらない。
このティナと名乗るわがままな皇女は、自分の功績でなく他人や祖先が積み上げた何かをさも、自分のように語り自慢する。
誰に似ているのだろうと思ったら、誰でもない。
あいつだ。
自分の最初の恋人にして、婚約者。
ロイズだ。
「もうお帰り願えませんか、皇女殿下。ご挨拶はいただきましたので」
「つまらないな。歓待くらいしてくれないと、面白くない」
「寝ている相手をたたき起こしておいて、歓迎せよとは――呆れてものが言えませんね……」
「ほう?」
後ろで控えていた従者たちがざわつく。
今までこんな対応をされた場に出くわしたことが無かったのかもしれない。
ティナの頬がわずかに耳の方へと引き締められるのを、サラは見逃さなかった。
まるで、小動物をおもちゃ代わりに遊んで殺す時の猫みたいな目。
獲物と見られているのがわかり、サラの不快感は増していく。
「お子様のお遊びに付き合うほど私は暇ではありませんので。……どうぞ、お帰りくださいませ」
「ますますもって、無礼で不愉快なやつだな」
「それはティナ様ではありませんか。こちらはお招きしておりません。いかに帝国の姫君といえども、やりすぎというものがあるのではないですか」
「この訪問を受けたやつの中で、僕にそんな口を利いて朝陽を見たやつはいないかもしれないね」
「そうですか。では、お好きになさいませ」
「おいおい、普通は申し訳ございませんだろう?」
「なぜあなたに謝罪しなければいけないのですか。こちらは被害者です。被害者というよりも、そちらの帝国の客人として扱うとアリズン様から承っております。この船の主はどこのどなたでしょうか?」
「可愛くない女だな」
つんとすましてさらは正論を叩きつける。
何度も捨てようと思ったこの命だ。
その度に生き延びることができただけで、隣の部屋にいる侍女たちや空師たちはアリズンがどうにか守ってくれるはずだ。
そんな確信のない、しかし、あの皇女と文官ならそうしてくれるだろう。
わずかな望みをかけて、サラはティナに媚びるつもりはないことを伝えた。
朝陽を見たものはいない?
なんとも陳腐な脅しだわ、と思いながら。
「結構可愛くなくて結構です。私にはアルナルド殿下という、夫になられる方がすでにおりますから」
「アルナルドー? ああ、あの同盟国の人質、ね……」
侮辱するかのような口ぶりでティナはせせら笑い、片頬をにやりと歪めて見せた。
猫耳族というだけのことはある。
そこには、猫科特有の細くて鋭い牙が妙に白く生々しい輝きを放っていた。
「人質でも何でも良いじゃないですか。英国と帝国の交わした約束。それを守ることができれば、形などどうでもいいことでしょう?」
「かたちねぇ……。アリズンが上か、君が下か。どちらを取るのに迷う男がそんなにいいの?」
もったいない。
何をもったいないのかよくわからないが、男を見る目がないとティナは首を振った。
先程の「僕」という発言といい、彼女は中身は男性か、それとも同棲嗜好なのかとサラは首をかしげる。
どちらにしても、他の誰か、という選択肢はサラの中にないのだから。
「どちらが上どちらが下でもそれはいずれわかることです。もったいないという言葉は、この場合当てはまらないかと」
「だってもったいないじゃない。自分の人生、自分を好きなように生きなくてどうするのさ」
「ティナ様だって、いずれはどちらかの殿方の元に妻として行くことになるでしょうに」
あなたの恋愛相談なんて私には興味がない。
そう暗に伝えながら、サラは足元に広がるシーツのたるみにそっと両手を食い込ませる。
力でいえばそんなに大したものはないが……相手の不意を衝くくらいは出来るだろうと思ったからだ。
「どうかな。おばあ様はそうさせるかもしれないし、させないかもしれないし。わからない」
「……ティナ様。私は殿下の相談係ではありません。訪問の目的を明らかにして頂けませんか? アリズン様には言えないようなことでも、あるのですか? エルムド帝国皇帝陛下の別の命令があるとか?」
「いやーそれはないなー。僕はただ、暇つぶしに来ただけだから」
「暇つぶし?」
「そう。ついでに夜の月を愛でようかなとも思いながら。どう、付き合わない?」
呆れた話だ。
こんな訪問は下手をすれば二国間の国交問題にまで発展するというのに。
気まぐれなのか、短期なのかそれとも計算高いのか。
お尻から垂直に上半身をこえて頭の上ほどまであるだろう、真紅の尾を引き寄せティナは返事は? と急かしていた。
行かないと言えば、本物の猫のように爪を伸ばし牙を突き立てて、この身を引き裂くつもりなのかなとも思いながら、サラは長い真紅の尾を、それと片方の手で指さした。
「それ、可愛いですね」
「分かるかい? 自慢の尾なんだ!」
褒められたら天真爛漫に笑う皇女は、さっきまでの不敵な態度と打って変わり、嬉しそうにニコニコと微笑んで見せた。
「そうですか。触ってもよろしいですか?」
「え……触られるのは、ちょっと……」
「触れさせていただければ、考えないこともありません」
「うーん?」
少しだけ考えて。
不承不承、ティナは尾の先を差し出した。
獣人たちも犬や猫と同じく、尾は大事なものなのだろう。
ゆっくりとおずおずと差し出されたそれをやんわりと受け止め、ベッドの上にそっと置くと――。
「失礼」
「へ?」
ティナの顔が強張るよりも、サラの行動の方が早かった。
虚をつき、尾を片膝の下に踏み込むと、サラは思いっきりシーツの裾を引っ張り上げて皇女をベッドの外へと叩きだしてやった。
なんだか好きになれない嫌悪感がとにかく湧き出てきて止まらない。
このティナと名乗るわがままな皇女は、自分の功績でなく他人や祖先が積み上げた何かをさも、自分のように語り自慢する。
誰に似ているのだろうと思ったら、誰でもない。
あいつだ。
自分の最初の恋人にして、婚約者。
ロイズだ。
「もうお帰り願えませんか、皇女殿下。ご挨拶はいただきましたので」
「つまらないな。歓待くらいしてくれないと、面白くない」
「寝ている相手をたたき起こしておいて、歓迎せよとは――呆れてものが言えませんね……」
「ほう?」
後ろで控えていた従者たちがざわつく。
今までこんな対応をされた場に出くわしたことが無かったのかもしれない。
ティナの頬がわずかに耳の方へと引き締められるのを、サラは見逃さなかった。
まるで、小動物をおもちゃ代わりに遊んで殺す時の猫みたいな目。
獲物と見られているのがわかり、サラの不快感は増していく。
「お子様のお遊びに付き合うほど私は暇ではありませんので。……どうぞ、お帰りくださいませ」
「ますますもって、無礼で不愉快なやつだな」
「それはティナ様ではありませんか。こちらはお招きしておりません。いかに帝国の姫君といえども、やりすぎというものがあるのではないですか」
「この訪問を受けたやつの中で、僕にそんな口を利いて朝陽を見たやつはいないかもしれないね」
「そうですか。では、お好きになさいませ」
「おいおい、普通は申し訳ございませんだろう?」
「なぜあなたに謝罪しなければいけないのですか。こちらは被害者です。被害者というよりも、そちらの帝国の客人として扱うとアリズン様から承っております。この船の主はどこのどなたでしょうか?」
「可愛くない女だな」
つんとすましてさらは正論を叩きつける。
何度も捨てようと思ったこの命だ。
その度に生き延びることができただけで、隣の部屋にいる侍女たちや空師たちはアリズンがどうにか守ってくれるはずだ。
そんな確信のない、しかし、あの皇女と文官ならそうしてくれるだろう。
わずかな望みをかけて、サラはティナに媚びるつもりはないことを伝えた。
朝陽を見たものはいない?
なんとも陳腐な脅しだわ、と思いながら。
「結構可愛くなくて結構です。私にはアルナルド殿下という、夫になられる方がすでにおりますから」
「アルナルドー? ああ、あの同盟国の人質、ね……」
侮辱するかのような口ぶりでティナはせせら笑い、片頬をにやりと歪めて見せた。
猫耳族というだけのことはある。
そこには、猫科特有の細くて鋭い牙が妙に白く生々しい輝きを放っていた。
「人質でも何でも良いじゃないですか。英国と帝国の交わした約束。それを守ることができれば、形などどうでもいいことでしょう?」
「かたちねぇ……。アリズンが上か、君が下か。どちらを取るのに迷う男がそんなにいいの?」
もったいない。
何をもったいないのかよくわからないが、男を見る目がないとティナは首を振った。
先程の「僕」という発言といい、彼女は中身は男性か、それとも同棲嗜好なのかとサラは首をかしげる。
どちらにしても、他の誰か、という選択肢はサラの中にないのだから。
「どちらが上どちらが下でもそれはいずれわかることです。もったいないという言葉は、この場合当てはまらないかと」
「だってもったいないじゃない。自分の人生、自分を好きなように生きなくてどうするのさ」
「ティナ様だって、いずれはどちらかの殿方の元に妻として行くことになるでしょうに」
あなたの恋愛相談なんて私には興味がない。
そう暗に伝えながら、サラは足元に広がるシーツのたるみにそっと両手を食い込ませる。
力でいえばそんなに大したものはないが……相手の不意を衝くくらいは出来るだろうと思ったからだ。
「どうかな。おばあ様はそうさせるかもしれないし、させないかもしれないし。わからない」
「……ティナ様。私は殿下の相談係ではありません。訪問の目的を明らかにして頂けませんか? アリズン様には言えないようなことでも、あるのですか? エルムド帝国皇帝陛下の別の命令があるとか?」
「いやーそれはないなー。僕はただ、暇つぶしに来ただけだから」
「暇つぶし?」
「そう。ついでに夜の月を愛でようかなとも思いながら。どう、付き合わない?」
呆れた話だ。
こんな訪問は下手をすれば二国間の国交問題にまで発展するというのに。
気まぐれなのか、短期なのかそれとも計算高いのか。
お尻から垂直に上半身をこえて頭の上ほどまであるだろう、真紅の尾を引き寄せティナは返事は? と急かしていた。
行かないと言えば、本物の猫のように爪を伸ばし牙を突き立てて、この身を引き裂くつもりなのかなとも思いながら、サラは長い真紅の尾を、それと片方の手で指さした。
「それ、可愛いですね」
「分かるかい? 自慢の尾なんだ!」
褒められたら天真爛漫に笑う皇女は、さっきまでの不敵な態度と打って変わり、嬉しそうにニコニコと微笑んで見せた。
「そうですか。触ってもよろしいですか?」
「え……触られるのは、ちょっと……」
「触れさせていただければ、考えないこともありません」
「うーん?」
少しだけ考えて。
不承不承、ティナは尾の先を差し出した。
獣人たちも犬や猫と同じく、尾は大事なものなのだろう。
ゆっくりとおずおずと差し出されたそれをやんわりと受け止め、ベッドの上にそっと置くと――。
「失礼」
「へ?」
ティナの顔が強張るよりも、サラの行動の方が早かった。
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