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第五章
神と魔の契約
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「確かに、否めないですな。では貴方は何を望まれるので?」
「そうね。まずはサティナ様の降臨を祝い、これは個人的にしたからまあ、いいかな。司祭って教会の牧師よりも地位は上でして。神殿がなにをとち狂ったか、私にこの地に教会を拡大した地方神殿を建立しろと言ってこない前に逃げることと……」
「逃亡が先ですか」
「まあ。アズライルの死に目に会えなかったのも何気に辛いのですよ」
「それだけ、愛していた、と?」
「いいえ、あの浮気男に最後の一撃を放ちたかった……卑怯よ。勝手に死ぬなんて」
なぜか目尻に熱いものが溜まるのを感じてしまい、アイリスは瞳をつぶってしまった。
愛なんてどこにもなかったんだわ。そう思いながら。
ランバート卿はよっと掛け声を上げて、床に立ち上がる。
数時間も座していて足がしびれをきらしたのかもしれない。
彼は数歩歩くと、アイリスの目の上に顔を突き出した。
「何ですか? アズライルのように欲情でもしましたか?」
「まさか。あれよりは理性的です」
「じゃあ……?」
「女司祭殿。彼は生きていますよ」
「……は?」
「本当です」
勢いよくがばっと起きあがるアイリスを避けて、ランバート卿は身を引いた。
あり得ない、嘘でしょう?
彼女の顔にはそう書かれてあった。
「あっ貴方……どうしてそんなことを⁉」
「嘘ではないですから。アルフォンスの馬鹿が救い出したようですね。ただ、火傷がひどく神殿で治療中。と、そこまでは聞いていますよ。その後、死んだか、生きのびたかは聞いていません」
「じゃあ……貴方は何を望むの? アルフォンス卿にランバート卿。聖騎士に王国騎士まで役者が揃って、中心にはサティナ様がいて。他に空の神様とかまで関わっているとか、そんな話まで聞こえてくるんですけど。実際――」
そう言い、アイリスはまだ消し炭の柱になったままの熊さん、ことバルッサムを指さした。
「神話級の魔物まで呼びだした誰かがいる。そういうことですか」
「ええ。もう、人間にはどうこうできない世界ですわ、ランバート卿。神様や魔の理解できる範疇でしょうね。そして、貴方は女神様の信徒なの?」
アイリスと年の変わらない青年の肩がピクリと、跳ねる。その質問は彼にとってとても重いものだと知っていたから、アイリスも口にしたのだ。これに答えようとして、彼はしばらく沈黙を保っていた。
「……女神様を信仰しています」
「サティナ様、アミュエラ様、カーラ様。三柱ほどいらっしゃるようですけど?」
「アイリス! そこまで聞きますか?」
「もちろん」
にっこりとほほ笑むその様は、まるで魔女のよう。
ここまで神様の都合で動かされてきたのに今更、サティナ様だけですとかありえないでしょう。
アイリスはそう思っていた。
ランバート卿は顔をしかめたり苦しんだときの様に悩んだ様を見せながら、ようやく本意を口にした。
「……カーラ様ですよ。司祭どの」
「カーラ? てっきりアミュエラかと」
「我が主を呼び捨てにしないで頂きたい!」
「だって、このトランザムよりはるか南にある、ルベドナ帝国の更に果てにある信仰ではないですか」
「それであっても、我が家には大事な神なのです!」
「そうですか。でも数か月前には魔王陛下と戦い、撲殺された聖女がカーラ様の聖女だったはず。サティナ様も随分困惑されていましたよ?」
神と魔のふるき契約を反故に下とかなんとかって。
そう言うアイリスはいざとなれば、その片手にした鞘から剣が引き抜かれるんだろうなあ、と油断をしないように気を付ける。
転移魔法、発動する前に逃げ切れるだろうか?
まだ刺されたことはなかったが、アズライルが生きているとわかったら自分にはこれ以上の存在する意味がないような気もする。
「そうね。まずはサティナ様の降臨を祝い、これは個人的にしたからまあ、いいかな。司祭って教会の牧師よりも地位は上でして。神殿がなにをとち狂ったか、私にこの地に教会を拡大した地方神殿を建立しろと言ってこない前に逃げることと……」
「逃亡が先ですか」
「まあ。アズライルの死に目に会えなかったのも何気に辛いのですよ」
「それだけ、愛していた、と?」
「いいえ、あの浮気男に最後の一撃を放ちたかった……卑怯よ。勝手に死ぬなんて」
なぜか目尻に熱いものが溜まるのを感じてしまい、アイリスは瞳をつぶってしまった。
愛なんてどこにもなかったんだわ。そう思いながら。
ランバート卿はよっと掛け声を上げて、床に立ち上がる。
数時間も座していて足がしびれをきらしたのかもしれない。
彼は数歩歩くと、アイリスの目の上に顔を突き出した。
「何ですか? アズライルのように欲情でもしましたか?」
「まさか。あれよりは理性的です」
「じゃあ……?」
「女司祭殿。彼は生きていますよ」
「……は?」
「本当です」
勢いよくがばっと起きあがるアイリスを避けて、ランバート卿は身を引いた。
あり得ない、嘘でしょう?
彼女の顔にはそう書かれてあった。
「あっ貴方……どうしてそんなことを⁉」
「嘘ではないですから。アルフォンスの馬鹿が救い出したようですね。ただ、火傷がひどく神殿で治療中。と、そこまでは聞いていますよ。その後、死んだか、生きのびたかは聞いていません」
「じゃあ……貴方は何を望むの? アルフォンス卿にランバート卿。聖騎士に王国騎士まで役者が揃って、中心にはサティナ様がいて。他に空の神様とかまで関わっているとか、そんな話まで聞こえてくるんですけど。実際――」
そう言い、アイリスはまだ消し炭の柱になったままの熊さん、ことバルッサムを指さした。
「神話級の魔物まで呼びだした誰かがいる。そういうことですか」
「ええ。もう、人間にはどうこうできない世界ですわ、ランバート卿。神様や魔の理解できる範疇でしょうね。そして、貴方は女神様の信徒なの?」
アイリスと年の変わらない青年の肩がピクリと、跳ねる。その質問は彼にとってとても重いものだと知っていたから、アイリスも口にしたのだ。これに答えようとして、彼はしばらく沈黙を保っていた。
「……女神様を信仰しています」
「サティナ様、アミュエラ様、カーラ様。三柱ほどいらっしゃるようですけど?」
「アイリス! そこまで聞きますか?」
「もちろん」
にっこりとほほ笑むその様は、まるで魔女のよう。
ここまで神様の都合で動かされてきたのに今更、サティナ様だけですとかありえないでしょう。
アイリスはそう思っていた。
ランバート卿は顔をしかめたり苦しんだときの様に悩んだ様を見せながら、ようやく本意を口にした。
「……カーラ様ですよ。司祭どの」
「カーラ? てっきりアミュエラかと」
「我が主を呼び捨てにしないで頂きたい!」
「だって、このトランザムよりはるか南にある、ルベドナ帝国の更に果てにある信仰ではないですか」
「それであっても、我が家には大事な神なのです!」
「そうですか。でも数か月前には魔王陛下と戦い、撲殺された聖女がカーラ様の聖女だったはず。サティナ様も随分困惑されていましたよ?」
神と魔のふるき契約を反故に下とかなんとかって。
そう言うアイリスはいざとなれば、その片手にした鞘から剣が引き抜かれるんだろうなあ、と油断をしないように気を付ける。
転移魔法、発動する前に逃げ切れるだろうか?
まだ刺されたことはなかったが、アズライルが生きているとわかったら自分にはこれ以上の存在する意味がないような気もする。
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