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第五章
解放されたアイリス
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ケイトは婚約者のところへ送り出したし、サティナはあの天空でまだ足りない力の補充に動けないのだろう。
多分、サティナが言うように魔王たちとの約束は破られたのだ。その癖、地上にいる神の王エクスロー。
問題を起こしたカーラの兄神は動けないというし、その父親である空の神様もどうにも腰が重いらしい。
どうあっても、サティナが貧乏くじを引かされるとしたら――自分は聖女でも何でもない。
単なる女司祭で、しかも、サティナ教の根拠地である王国の王子と政府を引っかき回して、逃げている女だ。
サティナ様の重荷にはなりたくないなあ。この国の信徒たちの重荷にも……。
それがアイリスの本音だった。
「それも、間違いではありませんが……」
「ねえ、ランバート卿?」
「は?」
「貴方、わたしを利用してこの国をまとめるのと、それとも王敵を討って……手柄を上げ、神殿からも王族からも、貴族院からも信頼を集めてカーラ様を盛り立てるのと。どっちがよろしい?」
青年がはっ、と息をのんだ。その意味するところは――一人の人間の死を意味したからだ。
だが、それをすれば黙っていないものが一人いる。いいや、一柱、だ。
「サティナ様はそう望んでいないでしょう」
「でも、適当な打開策があるから、貴方はこうしてここにいて、しかも剣を携えている。違いません?」
「敵わないな……アズライルが惚れたのが分かりそうだ」
「それは余計ですよ。それで、打開策は?」
困ったもんだ。
ランバート卿は頭をかくと、切り札を差し出した。
「撃癒師、という存在がいます」
「撃癒? どういう意味ですか?」
「己の寿命を賭して行う、最高位の治癒魔法らしいですね。神の奇跡すらも捻じ曲げて死を生に、生を死にもたらすとか」
「ああ……つまり、カーラ様の聖女様にそれを行った、と?」
ランバート卿は片頬を持ち上げて顔を引きつらせていた。
「その時は失敗でした。すでに死亡していたので……まだ死霊術師の方がよかった。でも、貴方ならまだ違うかもしれない。聖女は不老不死の魔法がかかっていますが、貴方には――まだなさそうだ」
「では、私の死をもってどうします?」
「遺体を……複製したものを国王陛下に届けましょう。真実の貴方はサティナ様に渡します。ただ……」
「ただ?」
「もう一人、救って欲しい男がいます」
言いづらそうなその仕草を見て、アイリスは貴方? とランバートを指さす。だが、彼は慌てて首を振った。
「違いますよ。その、カーラ様の聖女を救えなかった撃癒師を助けて欲しいのです。というよりは、我が家にていま逗留していますが」
なるほど。
天空の主が降りてこない理由は、すベてを達観しているかららしい。これでもし拒絶しても、また別の方法が待っているのだろう。
自由になるって本当にめんどくさいのね。アイリスは考えると、まあいいわ。
そう思いゆっくりと首を縦に振った。
「どうぞ、お好きに」
「では――」
ランバート卿は手にしていた鞘から剣を引き抜くと、それをアイリスの胸上にかざして一気に振り下ろす。
確かな手ごたえの後、これまで多くのしがらみにとらわれていたと思われるアイリスの身体から、数条の光が霧散していき……最後に朱色の光だけが彼女を覆うのが見て取れた。
「ようやく自由になれたのですね、女司祭どの」
その一言を最後に彼は撃癒師を呼び寄せる。
アイリスがどうなったのか。
それは夜空の闇に埋もれるように消えゆく、女神サティナだけが知ることになるのだった。
多分、サティナが言うように魔王たちとの約束は破られたのだ。その癖、地上にいる神の王エクスロー。
問題を起こしたカーラの兄神は動けないというし、その父親である空の神様もどうにも腰が重いらしい。
どうあっても、サティナが貧乏くじを引かされるとしたら――自分は聖女でも何でもない。
単なる女司祭で、しかも、サティナ教の根拠地である王国の王子と政府を引っかき回して、逃げている女だ。
サティナ様の重荷にはなりたくないなあ。この国の信徒たちの重荷にも……。
それがアイリスの本音だった。
「それも、間違いではありませんが……」
「ねえ、ランバート卿?」
「は?」
「貴方、わたしを利用してこの国をまとめるのと、それとも王敵を討って……手柄を上げ、神殿からも王族からも、貴族院からも信頼を集めてカーラ様を盛り立てるのと。どっちがよろしい?」
青年がはっ、と息をのんだ。その意味するところは――一人の人間の死を意味したからだ。
だが、それをすれば黙っていないものが一人いる。いいや、一柱、だ。
「サティナ様はそう望んでいないでしょう」
「でも、適当な打開策があるから、貴方はこうしてここにいて、しかも剣を携えている。違いません?」
「敵わないな……アズライルが惚れたのが分かりそうだ」
「それは余計ですよ。それで、打開策は?」
困ったもんだ。
ランバート卿は頭をかくと、切り札を差し出した。
「撃癒師、という存在がいます」
「撃癒? どういう意味ですか?」
「己の寿命を賭して行う、最高位の治癒魔法らしいですね。神の奇跡すらも捻じ曲げて死を生に、生を死にもたらすとか」
「ああ……つまり、カーラ様の聖女様にそれを行った、と?」
ランバート卿は片頬を持ち上げて顔を引きつらせていた。
「その時は失敗でした。すでに死亡していたので……まだ死霊術師の方がよかった。でも、貴方ならまだ違うかもしれない。聖女は不老不死の魔法がかかっていますが、貴方には――まだなさそうだ」
「では、私の死をもってどうします?」
「遺体を……複製したものを国王陛下に届けましょう。真実の貴方はサティナ様に渡します。ただ……」
「ただ?」
「もう一人、救って欲しい男がいます」
言いづらそうなその仕草を見て、アイリスは貴方? とランバートを指さす。だが、彼は慌てて首を振った。
「違いますよ。その、カーラ様の聖女を救えなかった撃癒師を助けて欲しいのです。というよりは、我が家にていま逗留していますが」
なるほど。
天空の主が降りてこない理由は、すベてを達観しているかららしい。これでもし拒絶しても、また別の方法が待っているのだろう。
自由になるって本当にめんどくさいのね。アイリスは考えると、まあいいわ。
そう思いゆっくりと首を縦に振った。
「どうぞ、お好きに」
「では――」
ランバート卿は手にしていた鞘から剣を引き抜くと、それをアイリスの胸上にかざして一気に振り下ろす。
確かな手ごたえの後、これまで多くのしがらみにとらわれていたと思われるアイリスの身体から、数条の光が霧散していき……最後に朱色の光だけが彼女を覆うのが見て取れた。
「ようやく自由になれたのですね、女司祭どの」
その一言を最後に彼は撃癒師を呼び寄せる。
アイリスがどうなったのか。
それは夜空の闇に埋もれるように消えゆく、女神サティナだけが知ることになるのだった。
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