婚約者の浮気現場に踏み込んでみたら、大変なことになった。

和泉鷹央

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第六章

休憩所

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 歩くこと十数分。
 砂丘をどうにかこうにか滑り降り……いや、途中から転げて砂まみれになりながら麓まできれいにボールのように転がされて別の砂丘の壁にぶつかって解放された。
 胸元の傷跡に砂が入ったらどうしてくれるのよ! 
 なんて思い咄嗟にそことかがんでじっくりと見つめたが、意外にも傷跡は綺麗だったというか、まだ中身が見えるほど深い痕はあるが、砂は入っていないようだった。
 むしろ、どんなものもそこに肌があり、不純物の侵入を阻んでいるようにも見える。

「これも含めて説明してもらうわ!」

 足に力を入れれば砂が足裏から力を奪っていってうまく立てず、かといってどうにか立ち上がると今度は砂丘の上から転がされた後遺症などが残っていて、視界がゆらゆらと揺らめいてドスン、とアイリスは二度、三度とお尻を地面につけていた。
 サティナが、あれが全部悪いのよ!
 ランバート卿に剣を突き立てるように促したことは棚に上げて、ようやくめまいから解放された少女は四つん這いから二足歩行に進化した旧人類のみたいにして立ち上がり、歩くのを再開した。
 見上げた先にあるそれは、砂がほぼない赤い大地がむきだしになった地面に建っていた。
 どこからか切り出した丸太と、分厚い材木の一枚板が何枚も乱雑に釘で打ち付けられた、たんなる掘っ立て小屋のようにも見える。
 その割には、現代でいうようなネオン看板のように数種類のランプが灯る光景が、なにがしかの文明がそれを作り上げたのだとアイリスにも理解できた。 

「見知らぬ作りね……」
 
 言うなれば西部劇にでも出て来そうな、そんな建物だ。
 酒場のような両方に開閉できる腰までしかない扉、窓ガラスが古ぼけてところどころひびが入っている。
 地面より一段高く作られたテラスには、粗末な木造りの長いすが幾つかあって、でも誰も座っていない。
 看板に書かれた文字はまったく見知らぬ文字で、でもどこかで見たような懐かしいもの。

「あ、碑文文字だ……どこだっけ? えっと……」

 アイリスの住んでいる世界はエクスローという。あの惑星はエル・オルビスというがその一部の大陸の地方をそう読んでいる。生活している意識的な意味では、イルベルというのが正しいらしい。
 エル・オルビスはさっき見た世界樹もそうだがあまりにも神秘的な歴史のある星だと言われている。
 少なくともアイリスはそう思っていた。
 十二個あると言われる妖精界や天界・精霊界とつながる場所。
 それがあの惑星だ。
 そしてその異世界の一つ、ハフルゲインに碑文文字は存在するという。
 でも――神殿で軽く習ったくらいだ。ハルフゲインの公用語……なぜかアルファベットが並ぶその看板は、アイリスにはこう読めた。

「シア、ター……? ぐれいず、トーク……ステーション???」
 
 首を傾げながらこんな格好でも入れるのかしらと気になるも、陽光はすぐそこまで差し迫って来た。
 考えている場合じゃない、薄暗い建物への入り口を押し開いたアイリスは、数度目の驚きの声を上げた。 
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