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第九章
幻影の旅路
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あの女の子――熊さんがいなくなり、どこかの部屋の中で泣いていたのあの少女がそこにはいた。
幾つもの陽炎のように、たくさんの人たちが出会ったり、別れたりする。そんな映像がそこには流れていく。
少女はたくさんの同胞――同じような銀髪と苔色の緑の瞳を持つ女性達と共に、ふわっふわの大きな熊さんたちと共に――赤い月から降ってきた光の道を、天へと昇っていく。
多分、熊さんたちの腐蝕の神ブロッサムと、敵対していたリシェスの乙女たちの主、女神リシェスが仲直りをしたのだろう。そして、本来住むべき場所に召されたのだ。
アイリスはそう思った。
それから、映像は変わる。
見知った顔が一つ。それはサティナだ。それと、もう一つ。似たような紅の髪の少女がいる。蒼い真っ蒼な髪をした男性がいる。それはサティナの兄のヌアザと妹のアミュエラだろう。
二人はこれ以上ない剣幕で、サティナに叱りつけられて肩を落としていた。
それからまた映像が変わる。今度は、見知った場所――そこは、建国王がサティナのために作らせたとういう、あの部屋だった。
仲睦まじい二人を見て、いくばくか嫉妬と怒りが沸いてでたが――今は忘れることにした。
王国は無事に始まったのだ。二千年前に……そして、最後。
「ワニさん!?」
「ワニ……?」
「あ、いや。見えてない――んだ……」
眉根をひそめるケイトが炎の方を見て首を傾げる。
何も見えないといった感じだった。
あの、赤い月の荒野の中にあった不思議にな建物の案内人が、向こうで手招きをしていた。
もう、戻ってこい。
そういう意味なのだろう。ここでの問題は解決したのだ……よくも悪くも、歴史に大きな改変は起きないのかもしれない。
女神が何かを施したのかもしれない。
その細やかなことまでは、今のアイリスにはわからないままだ。
「何も見えないけど。座ってるダメ王太子様以外……」
「こらっ」
「だって、貴方――」
ケイトとヴィクターの二人が……その数年後もそこにはきちんと映っていた。
幸せそうな結婚式を挙げる二人。でも、そこには自分の姿は――ない。
何かを得たら、何かを失う。
そういうことなのだろうと、アイリスは理解した。
ここでの別れが、最後になるのだとなんとなく感じてしまい、感傷的になってしまう。
泣くより、笑顔で――笑顔で別れなきゃ。
「行くわね、私。ケイト、ヴィクター……それに、殿下。どうか、健やかにお過ごしください」
「待って、どこに行くつもりッ……」
アイリスはただ一歩だけ。
ワニさんが待っている炎の向こうへと歩を進めた。
それだけで彼女の姿は燃えることもなく、焼かれることもなく、跡形もなく消え去ってしまう。
「どうなってるの……」
ケイトがそう呟き、立ち消えた炎の壁の向こうでアズライルは憔悴しきった顔で虚空を見ていた。
ヴィクターはさあ? と呟き、この後始末。どうしようかなーとマイペースに対策を考え始める。
ドナード侯爵令嬢アイリスはこの夜を境に――王国から姿を消した。
炎の壁を出ると、そこには彼がいた。
ワニさんだ。
相変わらず、シックなスーツを着こなしていて、渋い風格をにじませている。
彼に声をかけようとして、アイリスは彼の横を通り過ぎる自分に、えっと違和感を感じた。
歩いているはずなのに、止まることができない。
それどころか、声すらもかけられず、発しても音にならない。
ワニさん――私、戻って来たのに――!
その思いが届いたのか、彼はにんまりと笑うと短いその手でアイリスの背中をトンっと押してくれた。
新たな扉が開き、光の向こうに飛び込んでいくと数歩先に出口が見えた。
幾つもの陽炎のように、たくさんの人たちが出会ったり、別れたりする。そんな映像がそこには流れていく。
少女はたくさんの同胞――同じような銀髪と苔色の緑の瞳を持つ女性達と共に、ふわっふわの大きな熊さんたちと共に――赤い月から降ってきた光の道を、天へと昇っていく。
多分、熊さんたちの腐蝕の神ブロッサムと、敵対していたリシェスの乙女たちの主、女神リシェスが仲直りをしたのだろう。そして、本来住むべき場所に召されたのだ。
アイリスはそう思った。
それから、映像は変わる。
見知った顔が一つ。それはサティナだ。それと、もう一つ。似たような紅の髪の少女がいる。蒼い真っ蒼な髪をした男性がいる。それはサティナの兄のヌアザと妹のアミュエラだろう。
二人はこれ以上ない剣幕で、サティナに叱りつけられて肩を落としていた。
それからまた映像が変わる。今度は、見知った場所――そこは、建国王がサティナのために作らせたとういう、あの部屋だった。
仲睦まじい二人を見て、いくばくか嫉妬と怒りが沸いてでたが――今は忘れることにした。
王国は無事に始まったのだ。二千年前に……そして、最後。
「ワニさん!?」
「ワニ……?」
「あ、いや。見えてない――んだ……」
眉根をひそめるケイトが炎の方を見て首を傾げる。
何も見えないといった感じだった。
あの、赤い月の荒野の中にあった不思議にな建物の案内人が、向こうで手招きをしていた。
もう、戻ってこい。
そういう意味なのだろう。ここでの問題は解決したのだ……よくも悪くも、歴史に大きな改変は起きないのかもしれない。
女神が何かを施したのかもしれない。
その細やかなことまでは、今のアイリスにはわからないままだ。
「何も見えないけど。座ってるダメ王太子様以外……」
「こらっ」
「だって、貴方――」
ケイトとヴィクターの二人が……その数年後もそこにはきちんと映っていた。
幸せそうな結婚式を挙げる二人。でも、そこには自分の姿は――ない。
何かを得たら、何かを失う。
そういうことなのだろうと、アイリスは理解した。
ここでの別れが、最後になるのだとなんとなく感じてしまい、感傷的になってしまう。
泣くより、笑顔で――笑顔で別れなきゃ。
「行くわね、私。ケイト、ヴィクター……それに、殿下。どうか、健やかにお過ごしください」
「待って、どこに行くつもりッ……」
アイリスはただ一歩だけ。
ワニさんが待っている炎の向こうへと歩を進めた。
それだけで彼女の姿は燃えることもなく、焼かれることもなく、跡形もなく消え去ってしまう。
「どうなってるの……」
ケイトがそう呟き、立ち消えた炎の壁の向こうでアズライルは憔悴しきった顔で虚空を見ていた。
ヴィクターはさあ? と呟き、この後始末。どうしようかなーとマイペースに対策を考え始める。
ドナード侯爵令嬢アイリスはこの夜を境に――王国から姿を消した。
炎の壁を出ると、そこには彼がいた。
ワニさんだ。
相変わらず、シックなスーツを着こなしていて、渋い風格をにじませている。
彼に声をかけようとして、アイリスは彼の横を通り過ぎる自分に、えっと違和感を感じた。
歩いているはずなのに、止まることができない。
それどころか、声すらもかけられず、発しても音にならない。
ワニさん――私、戻って来たのに――!
その思いが届いたのか、彼はにんまりと笑うと短いその手でアイリスの背中をトンっと押してくれた。
新たな扉が開き、光の向こうに飛び込んでいくと数歩先に出口が見えた。
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