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 はあ、と大きくため息をついた私に義母は苦笑したものだ。
 それでも義母は父親に会わせるなら資格が要りますよ、とアンソニーに問いかける。
 彼はもちろんです、そう言い公爵様がしたためられたと思われる白い封筒を取り出して母にそっと預けて見せた。

「これは……」
「そうですか」

 逃げられないわね、ロゼッタ。そう暗に伝える母の視線を受け、私は本心では歓喜の声を挙げそうだったけど、その瞬間はつらそうな顔をして見せた。
 いま喜んで義父様の御機嫌を損ねた後、つまり――結婚はだめだと言われた時に喜びが無駄になることを恐れたのだ。義母は二人でしばらく待ちなさい、そう言い、庭園の中にしつらえた東屋に私達を置いて屋敷に入る義父の元に向かう。
 伯爵家は公爵家よりも爵位は低い。
 低いからこそ、アンソニーが一人でやってきたことが、義父の面子を軽んじたのではないと説明に行ってくれたのだった。彼は喜びのあまり、一人できてしまったのだと。まだ学院生であり、社交界にでたことの経験のない半人前なのだ、と。
 二人の幸せを祝いましょうと、そう説得してくれているのが義理とはいえこの家に入って数年の親子をやってきた自分にも理解できた。

「これは……ダメなのだろうか?」
「少しは落ち着いてください。貴方の悪いところですよアンソニー。もっと周りを見て、ゆっくりと……きちんとして下さい。次はないんですよ?」
「すまない……」

 そううなだれる、二歳年下の貴公子がとても可愛かった。
 その後すぐだ、義父上様が急いで仕度させた馬車に乗り、両親と共に公爵家を訪れたのは。
 最初はぎこちなく、それから緩やかに両親と公爵御夫妻の会話は弾み、誰もが否定の言葉を口にすることなく……。
 そして――私達の婚約は正式に決まった。

 
 しばらく経過したある夏の朝のことだ。
 いつものように通学の馬車を降り、学院の芝に足裏をつけた時だった。
 
「アンソニー? どちら様?」

 そんな言葉が自然と口を突いて出た。
 彼は別の豪華な六頭立ての馬車――少なくとも伯爵家以上の貴族が載るようなそれから降りて来た一人の令嬢の手を取り、馬車を降りるのに手を貸していた。

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