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第八章 裏切り者の親友
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しおりを挟む雪竜は、人間界と妖精界の狭間に位置する王国に生息している。
西の大陸北部に位置する、レブナス王国の山岳地帯。
北の魔王の都と国境を接するその国は、現代では珍しい精霊王の結界によって守られているという。
その障壁のおかけで外海と隔絶された別なる異文化の国。
まだ――魔法が生きている国。
獣人たちが多く住む、おとぎ話のような別世界。
そこに冬の訪れを伝えるという雪竜たちが住んでいる。
彼らは互いに思念で深く深くつながっていて、王国に冬に振る雪の深さを知らせるというから、そんな名前がついたらしい。
雪竜のうろこは思念を伝播――つまり、効率良く伝えるようにできている。
世界には不思議な存在が多いというけれど、これなんかまさしくそのままで……。
「あー、なんだ。講義はいい、頭が痛くなりそうだからな。これを非常時には使えばいい、と。覚えておく」
「じゃあね」
「ああ」
そして彼は手を振り、二度目のさよならを言った。
それが――あの場所での顛末。
で、わたしは今ここにいる。
自分の屋敷の門扉の前。
待ち構えていたのはいまでは、天敵と呼んでもいい相手――エレダだった。
二頭立ての箱馬車――実家のラーケム伯爵家の紋章がそれとなく、彫られている茶色のそれを見て、わたしは呆れた。
「おはようございます、ダーゼン準士様」
「……ようこそ、ラーケム伯家中の方。エリダお嬢様もご一緒かしら?」
「はい、ダーゼン様。お嬢様が是非にとお話があるようでして……」
「邸内に入れなくて困ってた?」
「まことに――その通りでございます」
五十過ぎの品の良い紳士――エリダの家の執事は、馬車の御者席で御者と共に待っていたのだろう。
わたしを目の端に止めると、そこを降りて恭しく挨拶をする。
伯爵家の紋章を持つ馬車で来た……ということは――つまり、追い返せない。
相手はわたしよりも上位の貴族だ。無碍にはできなかった。
エリダは馬車の中にいて、カーテンで遮った小窓からこちらをちらちらと盗み見ている。
執事さんが気を利かせたのか、さっさと入り口を開け、折り畳み式の階段を引き出したために、エリダは降りて来ざるを得なくなっていた。
なんとなく、間抜けな印象である。
「ようこそ、ラーケム伯のお嬢様。昨夜は大変、お世話になりました」
「……御機嫌よう、アルフリーダ……」
「歓迎いたしますわ、エリダ様」
にこやかな笑顔で返事をしてやると、彼女は頬を引きつらせながら視線を足元に泳がせた。
執事が手を取り、石畳の上に降ろしてやると、ふんっとあちらの方向に顔を背けて鼻を鳴らす。
「昨夜は――どうも……ええ、歓迎していただきましたわ……っ!」
「それはそれは。色々とお忘れ物もございましたよ、お嬢様?」
「――っ!?」
せめて、辻馬車で来るという頭は無かったのか。
騎士団の馬車でレイが帰宅したあとであり、ここは大通りの一角で人通りもそれなりにある。
通りの両側に露店があり、彼らは朝からわたしの屋敷を訪れた誰かをよく覚えているだろう。
世間様に自分から笑われる行動を取っているとは、彼女は思っていないようだった。
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