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第九章 精霊と二級魔導師
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「さ、あなたたちはわたしの声を聞いてくれるかしら……」
意識を集中し、体内に充満する魔力を練り上げる。それがまるで霧のように肉体からさまよい出て、空間のはざまに溶け込む様を見ることはできない。
ただ、イメージしてそうなるように強く、魔力を操るだけ。
そんなことを二十分ほど立ちながらやっていると、どこかにぽつんと点在する別世界との交差点が頭の中に思い浮かんだ。
魔力をそこに集約し、穴を広げるようにしてあちら側にいる精霊へと語り掛ける。
こちらに来てどうか、手伝って欲しい。
代価はわたしの魔力で――。
「出来たか、な?」
魔素を身にまとい、こちら側に現実味を帯びて存在感を示すその色は鮮やかな白銀のそれ。
炎のようでそうでなく、雲のようにも見えて霧のように薄くもなる。
精霊には属性がないから、わたしの意識しやすい形を取ってくれたのだろう。
ゆらゆらと空中に浮かぶ彼らを使役する時間はあまり長くはない。
せいぜい、よくて数分がいいところ。それを越えると、わたしの寿命が吸い取られてしまう。
依頼することはひとつだけ。
この蔵書の中から、ドラゴンに関する記述。もしくは地下の最下層にあるあの空洞で何かが過去に起こったか。
それに関する情報をすべて読み出し、わたしに伝えること。
彼らは依頼に従い、その作業に入ったのだけど。
数分後、もたらされた過去の出来事に、わたしは小さなうめき声をあげた。
夕方。
あちら側に戻した精霊たちが教えてくれた情報が書かれている分厚い本を数冊。
わたしは一階へと運びこみ、暖炉の前のソファーに陣取ると、ガラスのテーブルの上に資料を積み上げて、片っ端から読破する。
かび臭い本に目を通し、必要なことを紙に書きだしていく。
それだけでももう四枚目になるのだから、今回の事件はこの街の千年近い歴史の中では意外と、よく起こった事柄のようだった。
ただ、それが現代にまで受け継がれていないだけだったのだ。
「おじい様……。どうしてこういう大事なことを教えてくれなかったんですか……」
「あら、大変そうですね、アルフリーダ。先代様は何か書き残されていましたか?」
レイが夕食の支度を終え、そろそろ食事にしませんかと声をかけてくれるまで、わたしはその作業に没頭していた。
言われてようやく窓の外が暗くなり、しんと庭に聞こえていた近所の喧騒が静かになったことに気づく。
「もうそんな時間?」
「ええ、そんな時間です。数時間の間、ずっと作業に没頭されていましたよ。夕食を忘れて出来るなら、止めないわ」
「……食べるわよ。でもその前に――役場は閉まってる、か……」
「それはそうですよ、こんな時間ですもの」
「でも夜の礼拝はまだやってるはずよね?」
「礼拝? あれはもう少しあとの時間から行われているのでは」
「なら、そっちに行きたいわ。食事にします。それから出かけるから」
「……そんなに優秀な信徒だったかしら、アルフリーダって……」
眉根を潜める侍女に、違うわよとわたしは手を振った。
教会の女神様なんてどうでもいい。
いざという時に助けてくれない神様なんて、意味が無いのだ。
「そんなことしに行かないわよ。資料の開示をさせるの。徹夜作業になると思う」
「なら、夜食を――携行できる何か弁当でも作るわ」
「お願い」
レイは何にしようかと迷いながら台所へと向かう。
わたしはこのままではだめだからと、正式な二級魔導師の正装をすることにした。
徹夜作業?
それだけで済ませる気は無かった。
もう一つ。
わたしには教会で今夜のうちにやらなければならない、あることがあったのだ。
意識を集中し、体内に充満する魔力を練り上げる。それがまるで霧のように肉体からさまよい出て、空間のはざまに溶け込む様を見ることはできない。
ただ、イメージしてそうなるように強く、魔力を操るだけ。
そんなことを二十分ほど立ちながらやっていると、どこかにぽつんと点在する別世界との交差点が頭の中に思い浮かんだ。
魔力をそこに集約し、穴を広げるようにしてあちら側にいる精霊へと語り掛ける。
こちらに来てどうか、手伝って欲しい。
代価はわたしの魔力で――。
「出来たか、な?」
魔素を身にまとい、こちら側に現実味を帯びて存在感を示すその色は鮮やかな白銀のそれ。
炎のようでそうでなく、雲のようにも見えて霧のように薄くもなる。
精霊には属性がないから、わたしの意識しやすい形を取ってくれたのだろう。
ゆらゆらと空中に浮かぶ彼らを使役する時間はあまり長くはない。
せいぜい、よくて数分がいいところ。それを越えると、わたしの寿命が吸い取られてしまう。
依頼することはひとつだけ。
この蔵書の中から、ドラゴンに関する記述。もしくは地下の最下層にあるあの空洞で何かが過去に起こったか。
それに関する情報をすべて読み出し、わたしに伝えること。
彼らは依頼に従い、その作業に入ったのだけど。
数分後、もたらされた過去の出来事に、わたしは小さなうめき声をあげた。
夕方。
あちら側に戻した精霊たちが教えてくれた情報が書かれている分厚い本を数冊。
わたしは一階へと運びこみ、暖炉の前のソファーに陣取ると、ガラスのテーブルの上に資料を積み上げて、片っ端から読破する。
かび臭い本に目を通し、必要なことを紙に書きだしていく。
それだけでももう四枚目になるのだから、今回の事件はこの街の千年近い歴史の中では意外と、よく起こった事柄のようだった。
ただ、それが現代にまで受け継がれていないだけだったのだ。
「おじい様……。どうしてこういう大事なことを教えてくれなかったんですか……」
「あら、大変そうですね、アルフリーダ。先代様は何か書き残されていましたか?」
レイが夕食の支度を終え、そろそろ食事にしませんかと声をかけてくれるまで、わたしはその作業に没頭していた。
言われてようやく窓の外が暗くなり、しんと庭に聞こえていた近所の喧騒が静かになったことに気づく。
「もうそんな時間?」
「ええ、そんな時間です。数時間の間、ずっと作業に没頭されていましたよ。夕食を忘れて出来るなら、止めないわ」
「……食べるわよ。でもその前に――役場は閉まってる、か……」
「それはそうですよ、こんな時間ですもの」
「でも夜の礼拝はまだやってるはずよね?」
「礼拝? あれはもう少しあとの時間から行われているのでは」
「なら、そっちに行きたいわ。食事にします。それから出かけるから」
「……そんなに優秀な信徒だったかしら、アルフリーダって……」
眉根を潜める侍女に、違うわよとわたしは手を振った。
教会の女神様なんてどうでもいい。
いざという時に助けてくれない神様なんて、意味が無いのだ。
「そんなことしに行かないわよ。資料の開示をさせるの。徹夜作業になると思う」
「なら、夜食を――携行できる何か弁当でも作るわ」
「お願い」
レイは何にしようかと迷いながら台所へと向かう。
わたしはこのままではだめだからと、正式な二級魔導師の正装をすることにした。
徹夜作業?
それだけで済ませる気は無かった。
もう一つ。
わたしには教会で今夜のうちにやらなければならない、あることがあったのだ。
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