彼氏が親友と浮気して結婚したいというので、得意の氷魔法で冷徹な復讐をすることにした。

和泉鷹央

文字の大きさ
47 / 62
第九章 精霊と二級魔導師

しおりを挟む
「さ、あなたたちはわたしの声を聞いてくれるかしら……」

 意識を集中し、体内に充満する魔力を練り上げる。それがまるで霧のように肉体からさまよい出て、空間のはざまに溶け込む様を見ることはできない。
 ただ、イメージしてそうなるように強く、魔力を操るだけ。
 そんなことを二十分ほど立ちながらやっていると、どこかにぽつんと点在する別世界との交差点が頭の中に思い浮かんだ。
 魔力をそこに集約し、穴を広げるようにしてあちら側にいる精霊へと語り掛ける。
 こちらに来てどうか、手伝って欲しい。
 代価はわたしの魔力で――。

「出来たか、な?」

 魔素を身にまとい、こちら側に現実味を帯びて存在感を示すその色は鮮やかな白銀のそれ。
 炎のようでそうでなく、雲のようにも見えて霧のように薄くもなる。
 精霊には属性がないから、わたしの意識しやすい形を取ってくれたのだろう。
 ゆらゆらと空中に浮かぶ彼らを使役する時間はあまり長くはない。
 せいぜい、よくて数分がいいところ。それを越えると、わたしの寿命が吸い取られてしまう。
 依頼することはひとつだけ。
 この蔵書の中から、ドラゴンに関する記述。もしくは地下の最下層にあるあの空洞で何かが過去に起こったか。
 それに関する情報をすべて読み出し、わたしに伝えること。
 彼らは依頼に従い、その作業に入ったのだけど。
 数分後、もたらされた過去の出来事に、わたしは小さなうめき声をあげた。


 夕方。
 あちら側に戻した精霊たちが教えてくれた情報が書かれている分厚い本を数冊。
 わたしは一階へと運びこみ、暖炉の前のソファーに陣取ると、ガラスのテーブルの上に資料を積み上げて、片っ端から読破する。
 かび臭い本に目を通し、必要なことを紙に書きだしていく。
 それだけでももう四枚目になるのだから、今回の事件はこの街の千年近い歴史の中では意外と、よく起こった事柄のようだった。
 ただ、それが現代にまで受け継がれていないだけだったのだ。

「おじい様……。どうしてこういう大事なことを教えてくれなかったんですか……」
「あら、大変そうですね、アルフリーダ。先代様は何か書き残されていましたか?」

 レイが夕食の支度を終え、そろそろ食事にしませんかと声をかけてくれるまで、わたしはその作業に没頭していた。
 言われてようやく窓の外が暗くなり、しんと庭に聞こえていた近所の喧騒が静かになったことに気づく。

「もうそんな時間?」
「ええ、そんな時間です。数時間の間、ずっと作業に没頭されていましたよ。夕食を忘れて出来るなら、止めないわ」
「……食べるわよ。でもその前に――役場は閉まってる、か……」
「それはそうですよ、こんな時間ですもの」
「でも夜の礼拝はまだやってるはずよね?」
「礼拝? あれはもう少しあとの時間から行われているのでは」
「なら、そっちに行きたいわ。食事にします。それから出かけるから」
「……そんなに優秀な信徒だったかしら、アルフリーダって……」

 眉根を潜める侍女に、違うわよとわたしは手を振った。
 教会の女神様なんてどうでもいい。
 いざという時に助けてくれない神様なんて、意味が無いのだ。

「そんなことしに行かないわよ。資料の開示をさせるの。徹夜作業になると思う」
「なら、夜食を――携行できる何か弁当でも作るわ」
「お願い」

 レイは何にしようかと迷いながら台所へと向かう。
 わたしはこのままではだめだからと、正式な二級魔導師の正装をすることにした。
 徹夜作業?
 それだけで済ませる気は無かった。
 もう一つ。
 わたしには教会で今夜のうちにやらなければならない、あることがあったのだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。

猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。 復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。 やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、 勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。 過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。 魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、 四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。 輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。 けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、 やがて――“本当の自分”を見つけていく――。 そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。 ※本作の章構成:  第一章:アカデミー&聖女覚醒編  第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編  第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編 ※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位) ※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。

追放聖女は、辺境で魔道具工房を開きたい ~ギルド末端職人ですが、「聖印」で規格外の魔道具を作ったら、堅物工房長に異端だと目をつけられました~

とびぃ
ファンタジー
「聖なる力を機械(まどうぐ)に使うとは何事か!」 聖女アニエスは、そのユニークすぎる才能を「神への冒涜」と断罪され、婚約者である王子から追放を言い渡されてしまう。 彼女の持つ『聖印』は、聖力を用いてエネルギー効率を100%にする、魔導工学の常識を覆すチート技術。しかし、保守的な神殿と王宮に、彼女の革新性を理解できる者はいなかった。 全てを失ったアニエスは、辺境の街テルムで、Fランクの魔道具職人「アニー」として、静かなスローライフ(のはず)を夢見る。 しかし、現実は甘くなく、待っていたのは雀の涙ほどの報酬と、厳しい下請け作業だけ。 「このままでは、餓死してしまう……!」 生きるために、彼女はついに禁断の『聖印』を使った自作カイロを、露店で売り始める。 クズ魔石なのに「異常なほど長持ちする」うえ、「腰痛が治る」という謎の副作用までついたカイロは、寒い辺境の街で瞬く間に大人気に! だがその噂は、ギルドの「規格(ルール)の番人」と呼ばれる、堅物で冷徹なAランク工房長リアムの耳に入ってしまう。 「非科学的だ」「ギルドの規格を汚染する異端者め」 アニーを断罪しに来たリアム。しかし、彼はそのガラクタを解析し、そこに隠された「効率100%(ロス・ゼロ)」の真実と、神の領域の『聖印』理論に気づき、技術者として激しく興奮する。 「君は『異端』ではない。『新しい法則』そのものだ!」 二人の技術者の魂が共鳴する一方、アニエスの力を感知した王都の神殿からは、彼女を「浄化(しょうきょ)」するための冷酷な『調査隊』が迫っていた――! 追放聖女の、ものづくりスローライフ(のはずが、堅物工房長と技術革新で世界を揺るがす!?)物語、開幕!

豊穣の巫女から追放されたただの村娘。しかし彼女の正体が予想外のものだったため、村は彼女が知らないうちに崩壊する。

下菊みこと
ファンタジー
豊穣の巫女に追い出された少女のお話。 豊穣の巫女に追い出された村娘、アンナ。彼女は村人達の善意で生かされていた孤児だったため、むしろお礼を言って笑顔で村を離れた。その感謝は本物だった。なにも持たない彼女は、果たしてどこに向かうのか…。 小説家になろう様でも投稿しています。

聖女追放 ~私が去ったあとは病で国は大変なことになっているでしょう~

白横町ねる
ファンタジー
聖女エリスは民の幸福を日々祈っていたが、ある日突然、王子から解任を告げられる。 王子の説得もままならないまま、国を追い出されてしまうエリス。 彼女は亡命のため、鞄一つで遠い隣国へ向かうのだった……。 #表紙絵は、もふ様に描いていただきました。 #エブリスタにて連載しました。

役立たずと追放された聖女は、第二の人生で薬師として静かに輝く

腐ったバナナ
ファンタジー
「お前は役立たずだ」 ――そう言われ、聖女カリナは宮廷から追放された。 癒やしの力は弱く、誰からも冷遇され続けた日々。 居場所を失った彼女は、静かな田舎の村へ向かう。 しかしそこで出会ったのは、病に苦しむ人々、薬草を必要とする生活、そして彼女をまっすぐ信じてくれる村人たちだった。 小さな治療を重ねるうちに、カリナは“ただの役立たず”ではなく「薬師」としての価値を見いだしていく。

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?

タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。 白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。 しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。 王妃リディアの嫉妬。 王太子レオンの盲信。 そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。 「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」 そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。 彼女はただ一言だけ残した。 「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」 誰もそれを脅しとは受け取らなかった。 だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。

処理中です...