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1974
22 Whole Lotta Love
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そんなふうにしてゴールデンウィークが過ぎ、春のリーグ戦がやはり負け越しの成績で終わり、四年生が引退してゆき、ひと段落がつきました。
部活のある月水金は大人しくして、部活のない火木と土日にマスターの店に行きました。閉店時間は十一時ですが、そこはアバウトで大体いつも終電の終わる三十分前ぐらいまではやっていました。水曜日が定休日でした。
マスターのところに行くときは、一度寮に帰って夕食を食べ、お風呂に入ってから札を「在室」にしたまま誰かの部屋の窓から出るか、外から直接店に行きサナに札を頼むかしました。札は大事でした。「在室」になっているのに不在だったり、「外出」にしたまま門限を過ぎているのがおばちゃんズにわかると親に連絡がいき退寮になることもありました。現にわたしがいた四年間で二人、そうなった子もいたのです。一応女子寮ですからそこは当然でした。遊びたい気持ちは大変よくわかります。でもそこは、要領なのです。
9時半ぐらいになると夕食の後片づけを終わったおばちゃんズは一度寮を出ます。また十時になると当番のおばちゃんが来て施錠します。そのわずかなスキをついてジーンズにパーカーを羽織ってジェーンを真似て籐かごを下げ何気に近所に買い物にでも行く風を装い札を「在室」にしたまま寮を出ます。
寮を出るまでは緊張しますが出てしまえばこっちのものです。ブラブラ歩いてマスターの店に向かいます。一度だけ施錠しに来たおばちゃんズの一人に出くわしましたが「本屋さんに参考書買いに行って来ました」とおばちゃんと一緒に寮に戻り、施錠の後サナの部屋の窓から脱出したことがあります。
「ビール、忘れないでよ」
ニヤニヤしながら彼女に言われました。わたしも彼女がカレシを連れ込むときに同室の子を自分の部屋に泊めたり、朝帰りするカレシがおばちゃんズに見つかりそうになった時に匿ってあげたりしましたから、持ちつ持たれつなのです。
一度匿ってあげたサナのカレシから、
「どこ大?」
と訊かれ教えてあげると、
「オレ、桜新町大。今度お茶しない?」
とナンパされそうになりました。もちろんそのことはサナには黙っていましたが、男は選べよ、と言ってやりたたかったです。ちなみに彼女のカレシは二年間で六回ぐらい変わりました。
マスターの店には常連さんが二十人ぐらいいました。学生から社会人まで。そのうちの五六名ずつくらいが、ローテーションみたいに店に来てました。みんな若くてロックが好きで、マスターの人徳に惹かれて来ていた人たちです。
「マスター、最近あの髪の短い子、なんていったっけ、クミコちゃん? あの子、来ないね」
あのジージャンのレッド・ツェッペリン大好き青年がレコードジャケットの棚を漁っていました。お気に入りのジャケットを取り出すと例によって勝手にターンテーブルに載せ、定席のカウンターの奥に戻ります。
「なにか、都合があるんだろうなあ・・・」
と洗い物をしながらマスターは世間話のように答えます。
「ふ~ん、そう・・・」
質問には答えるけど、余計なことは一切言わない。
店にいる時の彼は口角を上げた微笑を崩しません。そういう口の堅い、だけど話しやすい彼を慕って、若い男の子や時々若い女のコも彼にいろんな相談を持ち掛けていました。何を話しているかはあまり他には聞こえません。店のBGMの音量が少し大きかったからかもしれません。
煽情的なギターソロにベースが乗っかり、続いて官能的なロバート・プラントの声が響きます。
You need coolin, baby, I`m not foolin・・・。’
Want a whole lotta love
Want a whole lotta love・・・
わなほなろろ?
最初はそんな風に聞こえました。
「最近よく来るね」
わたしもお客さんから話しかけられることがあります。
「ここいいお店ですよね、気に入っちゃって・・・」
わたしも訊かれたら答えますが、余計はことは喋らないようにしていました。
一人の時はビールじゃなくてアイスコーヒーか紅茶を頼み、教科書か参考書を読んでいます。岩倉具視さんを出しておくといつのまにかお釣りが置かれます。お札は後から彼が返してくれるのでお釣りの分だけ余計にお金をもらうことになります。だから頼むのは五百円丁度のものにするようになりました。まだ消費税が無い時代でした。
「名前なんていうの、オレはソウダ」
ソウダさんは肩まで髪を伸ばしていつも無精ひげを生やしている銀縁メガネの人です。
「・・・ミオです」
「ミオちゃんか、よろしくね」
なんとかわたしと話をしたいんだけど、どこか躊躇している、って感じでした。こういう男の子をカワイイと思えるようになってきました。
「あのう、ソウダさん。・・・訊いてもいいですか」
「・・・うん、なに?」
「このバンド、お好きなんですよね」
「レッド・ツェッペリン? モチさ。武道館も行ったからね。彼らのことなら何でも訊いてよ!」
「この曲の歌詞って、どういう意味なんですか」
「え?・・・」
わたしは訊きたいことが訊けて、満足して参考書に戻ります。
閉店時間が近づくと、マスターがカウンターの上をウエスで拭きながらわたしに寄ってきて素早く本の下にカギを滑り込ませます。するとわたしは本を閉じ、
「じゃ、マスター帰るね。ごちそうさま」と言いながらカギを挟んだ本をカゴに入れて店を出ます。
そして彼の部屋に直行します。
カギでドアを開け、先にシャワーを借りて汗を流し、バスタオル一枚でいます。彼が帰ってくれば、どうせ脱がされて裸にされるからです。
勝手に冷蔵庫を開けてビールをグビグビやって、レコード棚からさっき聞いた曲が入っているアルバムを取り出し、ターンテーブルに載せます。
お前は落ち着いてきたかもしれないけどベイビー、俺はまだキマっちまったままなんだ。
お前との素敵な時間を、ベイビー、キメたままなんてさ・・・
端から端まで届くような、俺の愛をやるぜ。
俺の愛をやるよ、ヘイ、オーライ、イエス、サー
顔を赤くしてドギマギするソウダさんから教えてもらったのは、聴きようによってはメチャメチャ、エッチな内容でした。それを踏まえながら歌詞カードをあらためて読みつつ聴くと、たまらなくエロい気分になってくるのです。
お前のここのずっと奥から、お前は欲しがってるんだろ
俺の愛を注いでやるぜ
欲しい、ありったけの愛が。お前のが、欲しいんだ・・・
セックス&ドラッグ。
その頃も今も、日本では大麻や覚せい剤はご法度です。ですがそのころ、欧米の一部ではお金さえ出せば誰でも手に入れることができたのです。そのころアメリカの空軍基地のある東京の西の街や海軍基地のある横須賀で、そういう怪しげなタバコやクスリが駐留する米兵を通じてなのか、流れていたのはよく耳にしていました。
でも、だからといってとりたてて欧米の若者が自堕落なのではないと思います。
当時、戦争をしていました。
何の罪もないベトナムの気の毒な人々の頭の上に雨のように爆弾を降らせるために、オキナワのカデナからほとんど毎日のように爆撃機が飛び立って行きました。
アメリカでも、隣の韓国でも、若者が徴兵されてベトナムに送られ、ベトナムコンミューン、略してベトコンに狙撃され命を落とすために、毎日毎日靴の中をぐじゅぐじゅにしながら、気温三十度湿度百パーセントのジャングルの中を、ヒルや蚊の大群に悩まされながら、歩き続けねばなりませんでした。
一部の星条旗大好き人間は別として、ほとんどのアメリカの若者たちがその恐怖に曝されていたのです。わたしは、その若者たちが現実逃避のためにクスリや大麻に手を出していたのを嘲笑う気には到底、なれません。退廃と言ってしまえばそれまでですが、背景にはそういう「大人たちの作り出した理不尽」への抵抗があったのだと思います。
ですが、そのころのほとんどの日本のマスコミや若者はその実態には全く無関心で、ひたすらファッション部分だけをとりあげ、持て囃しました。その人たちが今、「今の若い奴はダメだ。俺たちの若いころは・・・」などとやっているのです。
バカバカし過ぎて気が遠くなりそうですが、わたしも間違いなくその一人でした。
また年寄りが余計なことを申し上げてしまいました。
大学時代に話を戻します。
端から端まで届くような、愛を、注いでやるぜ・・・
そんな歌詞を頭の中でイメージして早くも股間を濡らしているとマスターが帰ってきました。
「おかえりなさい」
わたしがバスタオル一枚で迎えると、彼は肩を竦めました。
「・・・つまらん」
彼はそのままシャワーを浴びに浴室に入ってしまいました。
つまらん・・・?
そう言われたわたしは、彼を悦ばせるにはどうしたらいいのか頭を悩ませました。
最初に彼に抱かれ、お味噌汁をごちそうになった朝、
「最初に言っておくが、オレはスケベで、ヘンタイだ。それを忘れるな」
と言われました。
「ヘンタイ、って、あの、ムチでビシバシとかああーんもっとブッて、とかの、アレですか?」
わたしは二歩も三歩も引きつつ、問いただしました。
「あのな、そんなメンドくさいことするかよ。見てりゃわかるだろ? オレは忙しいんだぞ。毎日毎日店があるし・・・。お前と同じぐらいに、って意味だ」
「・・・ええーっ! どういうことですかっ! それ」
あまりにも失礼なもの言いに、ハラが立ちました。
「そういう意味だよ。それ以外に、何がある。お前だってヘンタイだろうが。
よく知りもしない男の部屋でタヌキ寝入りして、挙句男のベッドに潜り込んでくるなんて。ヘンタイじゃなくて何なんだ」
「そんないい方しなくても・・・。じゃ、どうしてればいいんですか・・・」
「どうしてればいいんですか、ってか? 」
彼は心底から呆れたと言わんばかりの態度で溜息をつきました。
「・・・そうだな。オナニーでも見せてもらうか。そうすりゃ、オレのも勃つかも。コレが役に立たなきゃ、お前だって、困るだろ? セックスしに来たわけだしな」
「・・・」
「オレのが勃つ、勃たないが最も重要なポイントじゃないのか、お前にとっては。ん?」
なんだかいつの間にかスゴイことになってきたなと思いつつ、せっかく彼のところまで来たのに何もなしで帰るのもイヤだし、すでに門限も過ぎているしで、しかたなく、人前で自分を慰めました。今思えば赤面の至りですが、当時は真剣だったのです。
でも不思議なことに、マスターは自分で慰めるわたしの顔だけを見てガチガチに勃起してくれたのです。わたしの身体ではなく、表情だけを見て。その後でやっと抱いてくれました。
そういう経緯がありましたから、またオナニーを見せなきゃならないのかと、全身を赤くしていたのです。
バスタオル一枚でずっとモジモジ、そこに立っていたわたしに、シャワーを浴びて出て来た彼はしばし、瞑目しました。
「まったく・・・。お前ってやつは・・・」
「だって・・・」
「わかった。・・・じゃあ、やってやる。ミオ、服着ろ。ただし、上だけだ」
「は?」
部活のある月水金は大人しくして、部活のない火木と土日にマスターの店に行きました。閉店時間は十一時ですが、そこはアバウトで大体いつも終電の終わる三十分前ぐらいまではやっていました。水曜日が定休日でした。
マスターのところに行くときは、一度寮に帰って夕食を食べ、お風呂に入ってから札を「在室」にしたまま誰かの部屋の窓から出るか、外から直接店に行きサナに札を頼むかしました。札は大事でした。「在室」になっているのに不在だったり、「外出」にしたまま門限を過ぎているのがおばちゃんズにわかると親に連絡がいき退寮になることもありました。現にわたしがいた四年間で二人、そうなった子もいたのです。一応女子寮ですからそこは当然でした。遊びたい気持ちは大変よくわかります。でもそこは、要領なのです。
9時半ぐらいになると夕食の後片づけを終わったおばちゃんズは一度寮を出ます。また十時になると当番のおばちゃんが来て施錠します。そのわずかなスキをついてジーンズにパーカーを羽織ってジェーンを真似て籐かごを下げ何気に近所に買い物にでも行く風を装い札を「在室」にしたまま寮を出ます。
寮を出るまでは緊張しますが出てしまえばこっちのものです。ブラブラ歩いてマスターの店に向かいます。一度だけ施錠しに来たおばちゃんズの一人に出くわしましたが「本屋さんに参考書買いに行って来ました」とおばちゃんと一緒に寮に戻り、施錠の後サナの部屋の窓から脱出したことがあります。
「ビール、忘れないでよ」
ニヤニヤしながら彼女に言われました。わたしも彼女がカレシを連れ込むときに同室の子を自分の部屋に泊めたり、朝帰りするカレシがおばちゃんズに見つかりそうになった時に匿ってあげたりしましたから、持ちつ持たれつなのです。
一度匿ってあげたサナのカレシから、
「どこ大?」
と訊かれ教えてあげると、
「オレ、桜新町大。今度お茶しない?」
とナンパされそうになりました。もちろんそのことはサナには黙っていましたが、男は選べよ、と言ってやりたたかったです。ちなみに彼女のカレシは二年間で六回ぐらい変わりました。
マスターの店には常連さんが二十人ぐらいいました。学生から社会人まで。そのうちの五六名ずつくらいが、ローテーションみたいに店に来てました。みんな若くてロックが好きで、マスターの人徳に惹かれて来ていた人たちです。
「マスター、最近あの髪の短い子、なんていったっけ、クミコちゃん? あの子、来ないね」
あのジージャンのレッド・ツェッペリン大好き青年がレコードジャケットの棚を漁っていました。お気に入りのジャケットを取り出すと例によって勝手にターンテーブルに載せ、定席のカウンターの奥に戻ります。
「なにか、都合があるんだろうなあ・・・」
と洗い物をしながらマスターは世間話のように答えます。
「ふ~ん、そう・・・」
質問には答えるけど、余計なことは一切言わない。
店にいる時の彼は口角を上げた微笑を崩しません。そういう口の堅い、だけど話しやすい彼を慕って、若い男の子や時々若い女のコも彼にいろんな相談を持ち掛けていました。何を話しているかはあまり他には聞こえません。店のBGMの音量が少し大きかったからかもしれません。
煽情的なギターソロにベースが乗っかり、続いて官能的なロバート・プラントの声が響きます。
You need coolin, baby, I`m not foolin・・・。’
Want a whole lotta love
Want a whole lotta love・・・
わなほなろろ?
最初はそんな風に聞こえました。
「最近よく来るね」
わたしもお客さんから話しかけられることがあります。
「ここいいお店ですよね、気に入っちゃって・・・」
わたしも訊かれたら答えますが、余計はことは喋らないようにしていました。
一人の時はビールじゃなくてアイスコーヒーか紅茶を頼み、教科書か参考書を読んでいます。岩倉具視さんを出しておくといつのまにかお釣りが置かれます。お札は後から彼が返してくれるのでお釣りの分だけ余計にお金をもらうことになります。だから頼むのは五百円丁度のものにするようになりました。まだ消費税が無い時代でした。
「名前なんていうの、オレはソウダ」
ソウダさんは肩まで髪を伸ばしていつも無精ひげを生やしている銀縁メガネの人です。
「・・・ミオです」
「ミオちゃんか、よろしくね」
なんとかわたしと話をしたいんだけど、どこか躊躇している、って感じでした。こういう男の子をカワイイと思えるようになってきました。
「あのう、ソウダさん。・・・訊いてもいいですか」
「・・・うん、なに?」
「このバンド、お好きなんですよね」
「レッド・ツェッペリン? モチさ。武道館も行ったからね。彼らのことなら何でも訊いてよ!」
「この曲の歌詞って、どういう意味なんですか」
「え?・・・」
わたしは訊きたいことが訊けて、満足して参考書に戻ります。
閉店時間が近づくと、マスターがカウンターの上をウエスで拭きながらわたしに寄ってきて素早く本の下にカギを滑り込ませます。するとわたしは本を閉じ、
「じゃ、マスター帰るね。ごちそうさま」と言いながらカギを挟んだ本をカゴに入れて店を出ます。
そして彼の部屋に直行します。
カギでドアを開け、先にシャワーを借りて汗を流し、バスタオル一枚でいます。彼が帰ってくれば、どうせ脱がされて裸にされるからです。
勝手に冷蔵庫を開けてビールをグビグビやって、レコード棚からさっき聞いた曲が入っているアルバムを取り出し、ターンテーブルに載せます。
お前は落ち着いてきたかもしれないけどベイビー、俺はまだキマっちまったままなんだ。
お前との素敵な時間を、ベイビー、キメたままなんてさ・・・
端から端まで届くような、俺の愛をやるぜ。
俺の愛をやるよ、ヘイ、オーライ、イエス、サー
顔を赤くしてドギマギするソウダさんから教えてもらったのは、聴きようによってはメチャメチャ、エッチな内容でした。それを踏まえながら歌詞カードをあらためて読みつつ聴くと、たまらなくエロい気分になってくるのです。
お前のここのずっと奥から、お前は欲しがってるんだろ
俺の愛を注いでやるぜ
欲しい、ありったけの愛が。お前のが、欲しいんだ・・・
セックス&ドラッグ。
その頃も今も、日本では大麻や覚せい剤はご法度です。ですがそのころ、欧米の一部ではお金さえ出せば誰でも手に入れることができたのです。そのころアメリカの空軍基地のある東京の西の街や海軍基地のある横須賀で、そういう怪しげなタバコやクスリが駐留する米兵を通じてなのか、流れていたのはよく耳にしていました。
でも、だからといってとりたてて欧米の若者が自堕落なのではないと思います。
当時、戦争をしていました。
何の罪もないベトナムの気の毒な人々の頭の上に雨のように爆弾を降らせるために、オキナワのカデナからほとんど毎日のように爆撃機が飛び立って行きました。
アメリカでも、隣の韓国でも、若者が徴兵されてベトナムに送られ、ベトナムコンミューン、略してベトコンに狙撃され命を落とすために、毎日毎日靴の中をぐじゅぐじゅにしながら、気温三十度湿度百パーセントのジャングルの中を、ヒルや蚊の大群に悩まされながら、歩き続けねばなりませんでした。
一部の星条旗大好き人間は別として、ほとんどのアメリカの若者たちがその恐怖に曝されていたのです。わたしは、その若者たちが現実逃避のためにクスリや大麻に手を出していたのを嘲笑う気には到底、なれません。退廃と言ってしまえばそれまでですが、背景にはそういう「大人たちの作り出した理不尽」への抵抗があったのだと思います。
ですが、そのころのほとんどの日本のマスコミや若者はその実態には全く無関心で、ひたすらファッション部分だけをとりあげ、持て囃しました。その人たちが今、「今の若い奴はダメだ。俺たちの若いころは・・・」などとやっているのです。
バカバカし過ぎて気が遠くなりそうですが、わたしも間違いなくその一人でした。
また年寄りが余計なことを申し上げてしまいました。
大学時代に話を戻します。
端から端まで届くような、愛を、注いでやるぜ・・・
そんな歌詞を頭の中でイメージして早くも股間を濡らしているとマスターが帰ってきました。
「おかえりなさい」
わたしがバスタオル一枚で迎えると、彼は肩を竦めました。
「・・・つまらん」
彼はそのままシャワーを浴びに浴室に入ってしまいました。
つまらん・・・?
そう言われたわたしは、彼を悦ばせるにはどうしたらいいのか頭を悩ませました。
最初に彼に抱かれ、お味噌汁をごちそうになった朝、
「最初に言っておくが、オレはスケベで、ヘンタイだ。それを忘れるな」
と言われました。
「ヘンタイ、って、あの、ムチでビシバシとかああーんもっとブッて、とかの、アレですか?」
わたしは二歩も三歩も引きつつ、問いただしました。
「あのな、そんなメンドくさいことするかよ。見てりゃわかるだろ? オレは忙しいんだぞ。毎日毎日店があるし・・・。お前と同じぐらいに、って意味だ」
「・・・ええーっ! どういうことですかっ! それ」
あまりにも失礼なもの言いに、ハラが立ちました。
「そういう意味だよ。それ以外に、何がある。お前だってヘンタイだろうが。
よく知りもしない男の部屋でタヌキ寝入りして、挙句男のベッドに潜り込んでくるなんて。ヘンタイじゃなくて何なんだ」
「そんないい方しなくても・・・。じゃ、どうしてればいいんですか・・・」
「どうしてればいいんですか、ってか? 」
彼は心底から呆れたと言わんばかりの態度で溜息をつきました。
「・・・そうだな。オナニーでも見せてもらうか。そうすりゃ、オレのも勃つかも。コレが役に立たなきゃ、お前だって、困るだろ? セックスしに来たわけだしな」
「・・・」
「オレのが勃つ、勃たないが最も重要なポイントじゃないのか、お前にとっては。ん?」
なんだかいつの間にかスゴイことになってきたなと思いつつ、せっかく彼のところまで来たのに何もなしで帰るのもイヤだし、すでに門限も過ぎているしで、しかたなく、人前で自分を慰めました。今思えば赤面の至りですが、当時は真剣だったのです。
でも不思議なことに、マスターは自分で慰めるわたしの顔だけを見てガチガチに勃起してくれたのです。わたしの身体ではなく、表情だけを見て。その後でやっと抱いてくれました。
そういう経緯がありましたから、またオナニーを見せなきゃならないのかと、全身を赤くしていたのです。
バスタオル一枚でずっとモジモジ、そこに立っていたわたしに、シャワーを浴びて出て来た彼はしばし、瞑目しました。
「まったく・・・。お前ってやつは・・・」
「だって・・・」
「わかった。・・・じゃあ、やってやる。ミオ、服着ろ。ただし、上だけだ」
「は?」
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