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1974

26 Mary Jane

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 他のコ達を見てみると、みんなそれぞれにいい感じになっています。

 今回ヤマダさんが参加を「有志のみ」にしたのは、前回の新歓コンパで批判が出たからです。ツーショットでセッティングしたのが裏目に出たのでした。相手に無理矢理されたとかそういうのじゃなくて、むしろ逆で、つまり、

「あたしの相手はブサイクなのに、なんであの子だけカッコイイのなの?」という・・・。

 だから今回はそのあたりをわきまえられる、つまり「ヤマダさんのノリ」に合わせられる、言わば「ヤマダシンパ」だけに限定したのです。

 信じられないことに、その「ヤマダシンパ」に、あのキモヤナダが熱を上げていた一年生のロリータちゃんがいました。恐らくはブラジャーをしただけの素肌に直接黒いベストを着て、これもパッツンパッツンの黒いレザーパンツ。そして黒のロングブーツ。ベストの下の胸は確実にわたしの倍はありそうでした。谷間が羨ましかったです。新歓の時は一次会で帰ってしまったのでまさかと思いましたが、

「あの時は相手の人がつまんなかったから。あたし、面白い人が好きなんです」

 お人形さんのように可愛い顔をして、アッケラカンと言い放ちました。彼女にくらべればわたしの装いなんかむしろ可愛いほうでした。

 どうやら今日のお相手は彼女のお眼鏡に適ったようで、わたし以上にノリノリで大きな胸をユサユサしながら踊りまくっていました。もしキモヤナダがこれを見たら幻滅してジサツしかねないなと余計な心配をしたものです。

 スリーディグリーズの The Sound of Philadelphia が終わったところで席に戻って乾いたのどを潤しました。一気に飲み干したフィズのグラスが空になりました。

 するとスッと目の前に気泡の上がるライムの浮いたグラスが差し出されました。

「同じものでよかったかな」

「ああ! ありがとうございますゥ」

 ナガノさんはわたしの横にしれっと座り、オンザロックのグラスを鳴らしました。

 彼のポジションはわたしと同じ右のウィングでしかも彼は左利きでした。

「右のウィングはサウスポーの方がいいんだよね」


 

 親善試合の後、わたしのプレーを見た感想を求めるとそう、アドバイスしてくれました。

「ハヤカワ君はどちらかというとブロックのほうがいいんじゃないかな。機転が利くから左右どちらのブロックにも応じられるしクイックで反撃も可能だ。

 でももし今のまま行くなら、まだウチのチームでは採用されていないけど、前衛と後衛右をどちらもカバーするプレイも出来る、少し攻撃的なフォーメーションに変えた方がいいかもね。もしかするとハヤカワ君ならそれができるような気がするんだけどなあ・・・」

 そのころはまだ「オポジット」というポジションの概念はありませんでした。後衛左のセッターの対角線上に位置するポジションのことですが、彼のその言葉はそれを予言したものだったかもしれません。2軍にしてこの見識の高さ。やはりオリンピック代表の在籍するチームは、この前の表参道とは二段も三段も格が違いました。

 さっそくヤマダさんを含めた三年生と検討し、わたしともう一人のウィングはブロックと入れ替えることになりました。その効果は親善試合中に早くも現れ、さすがに全ての攻撃が読まれて全弾ブロックされてしまいましたが、

「さっきより全然いい! 攻撃の手数が増えたしバリエーションが広がった。オレらも危うくスキを突かれるところだった。このフォーメーションならすぐに使えるからとりあえず秋のリーグ戦はこれでしばらくやってみたらどうだろうか。あとはセッターとのコンビネーションをもっと練習すればずっとよくなるはずだよ・・・」



    そんな経緯があったので、ジンフィズがよけいに強く感じました。

 フロアはチークタイムになりました。土曜の夜でアベックが多かったからでしょう。

 Hiro Tsunoda のMary Jane がかかりました。今でも時々テレビであのゴツいおっさんを見るたびに懐かしい気持ちにさせられる曲です。

 

 Mary Jane on my mind

 I cry my eyes out over you・・・


 

「ハヤカワ君、どう?」

 差し伸べられたナガノさんの手を取らない理由はどこにもありませんでした。

 彼はわたしをフロアの奥の、わたしたちのテーブルから離れた場所まで誘ってから、腰に腕を回してきました。思いっきりドキドキしました。テーブルの方を気にしましたが、上手い具合に他のアベックたちに遮られ、ギラギラのそれまでとはうって変わったほの暗い照明とゆっくり回るミラーボールの灯りのおかげでよく見えませんでした。

「ハヤカワ君、下の名前は?」

「・・・ミオです・・・」

「ミオ、って、呼んでいいかい」

 彼はめちゃくちゃ女慣れしているみたいでした。

「・・・ハイ」

「きみのプレイ、とってもいい。ミオとセッターを中心に攻撃パターンを組み替えれば君たちのチームは今よりはるかに強くなる。断言するよ。今日は来て良かったよ。だって、ミオみたいなパフォーマンスだけじゃない、可愛くてセクシーな子に会えたんだもんね・・・」

 キタキター。甘い言葉が来ました。

「・・・ありがとうございます。嬉しいです。来ていただいてよか・・・」

 彼の頬がわたしの頬に重なりました。腰に回された彼の腕にギュッと力が篭り、わたしの腰が引きつけられ、彼のに押し付けられました。当然にそこが、わかってしまいました。

「わかるかい? ミオがあんまりかわいいから、こんなになっちゃった。

 まだ早いけど、・・・抜け出さないか」

 そのころはまだ「エッチ」という形容詞を動詞として使うことはありませんでした。それはたぶんその十年後ぐらいだったのではないかと思います。

「キミ、きのうエッチしたやろ」

 今はテレビのお笑い界の大御所になってしまった芸人さんがその発端だったように思います。

 彼らはこれ、エッチ目当てに来ているのです。そうでなければ普通はこんな弱小チームなど相手にされないのです。それに、ヤマダさんの影響を受けた「ヤマダシンパ」たちは、エッチに飢えていました。誰がチーム強化のためだけにこんなことをしますか、というわけです。わたしたちはヤマダシンパとしてバレーをしていたおかげで、他の子たちが経験できないようなめくるめくエッチな世界を知ることができた喜びに溢れていました。

 しかもナガノさんはあまりにも素敵でした。素敵過ぎました。マスターだって、味見くらいはしてもいいと言ってました。わたしのガードはワシオ君と初めてをして失恋して下がり、マスターと出会ってその強烈なセックステクニックを知ってさらに下がっていました。その頃のわたしは、正真正銘、まさに尻軽女、ビッチの極みでした。

 しかもわたしはすでに、濡れていました。

 席に戻って周りにいた子にトイレに行くと言ってバッグを取り、ヤマダさんを陰に誘って、

「すいません。先に上がっていいですか」

 と訊きました。

「モチよ。ああ、ナガノ君ね。ほどほどにがんばってね」

 と言ってくれました。彼女は彼女で、帝国のガタイのいいセッターの人を捕まえたみたいでした。

 店を出ると先に出て待っていたナガノさんがガードレールに凭れてタバコを喫っていました。わたしを認めるとポトンと吸殻を落とし白いデッキシューズで揉み消しました。

「じゃ、行こうか」

 歩いてほどない所にあった小さなホテルに入りました。

 正面に小さな窓が開いていて緑の服を着たおばさんらしき人の首から下、胸から上だけが見えていました。

「ご休憩ですか宿泊ですか」

「ご休憩で」

「二千円です」

 ナガノさんが伊藤博文さんを三枚置くとスッとそれが中に吸い込まれ、代わりに青くて四角いアクリルの棒の着いたキーが出てきました。

「こっちだよ」

 ナガノさんに付いて狭い階段を登っていくと上がり口に203、そこを右に折れて202、さらに上に上がる階段の手前に201号室がありました。この上にさらになん階かは知りませんが部屋があるのでしょう。

「今もしビルをたて切りにしたら2、3、4、・・・と三部屋ずつ、積み重なっている箱のそれぞれでセックスをしているのが見られるんですね」

 そんなイメージが浮かんできて彼に言おうかと思いましたが、やめました。バカにされそうな気がしたからです。マスターなら、「あはは。なんだか養鶏場見てェだな。俺らニワトリか。バカみたいだな」と笑ってくれたでしょう。なぜこんな時にマスターのことが気にかかるんだろうと思いました。

 202の部屋は狭く、どうやって入れたのかと思われる大きなベッドがデンと置いてあるほかは立錐の余地がありませんでした。入り口すぐ横にシャワー室兼トイレがあり、バスタブなどはありませんでした。とにかく「ヤッて」身体を流すためだけの目的で作られた部屋なのでしょう。今なら消防法とかで絶対に許されない間取りだったに違いありません。おそらく当時もそうだったんじゃないかと思います。あの時代、そういうただ「ヤル」ためだけの「レンタルルーム」のような狭いホテルがたくさんありました。少し音量が大きめのイージー系のBGMが流れていました。

「狭いな・・・」

 思わずナガノさんと目が合い、お互いに笑ってしまいました。でも、それで緊張が取れ、わたしたちはキスを交わしました。

 彼は唇をついばむようにしながら、わたしの耳やうなじに愛撫してきました。経験豊富そうな感じがして、さらにリラックスしてきました。

「初めて、じゃなさそうだね・・・」

「うふふ・・・」

 入り口入ってすぐにベッドの足元でした。もつれあうようにしてそこに座り、なおも口づけ合いました。もっとガツガツしたのを想像していましたが、ナガノさんのキスは落ち着いていてどこか洗練されていました。徐々にゆっくり、性感を確かめて高めて行く感じはマスターのにも似ていました。マスターのより、優等生っぽい。それはどこかワシオ君のにも似た感じに思えました。キスされるだけじゃ物足りなくて、こちらからも彼の唇やその周りをついばみ返しました。

 彼の手がTシャツの裾から中に潜り込んで背中を這いました。もう一方の手がTシャツの上から胸をフワッと覆うかと思うとじんわりともみほぐしてきます。

「胸、ちっちゃいから・・・」

 恥ずかしくてつい、そんなことを言いました。

「そんなことない。とっても触り心地いいよ。オレ、好きだな、ミオのおっぱい。・・・ここ、もう硬くなってるね」

「イヤん・・・」

 背中でプチとブラのホックが外されました。わたしだって両手で外すのです。片手で外すなんて、相当な手練れと見受けました。

 髪が掻き上げられ、背後に回られ、Tシャツの上からむんず、両手で乳房を揉まれました。

「ああ・・・っ、」

 吐息が漏れました。

「いたかった?」

「ううん」

 背後から襲われる感でゾクゾクしました。おもわず仰け反らせたおとがいに甘く噛みつかれ、はあん、てなりました。

 彼の指が早くも太腿を這い内股に伸び、カットオフジーンズの裾から侵入してきてわたしのぱんつのクロッチをなぞってきました。

「なんだ。もうこんなにしちゃって。・・・ミオって、悪いコだな」

「はあん、だって・・・」

 そのまま押し倒されるようにしてベッドに寝転びました。両腕をバンザイされて抑えつけられました。わたし、犯されるんだ・・・。ドキドキが止まりませんでした。

 すると、隣の部屋からでしょうか、

(ああん! いいっ! そこォ、もっと、もっと突いてよ~ん)

 女の人の声が聞こえました。壁が薄いのでしょう。だからBGMが大きかったのです。元々一つのフロアだったのを無理矢理仕切って三つの部屋を作ったのだと思われました。

 ナガノさんと目が合い、お互いクスっと笑いました。

「このまま、いいかな」

「いいです、でも、ブーツ・・・」

「履いたまましてみたいな。いいだろ?」

 なんだか、ゾクゾクしました。

 彼はヤマダさんから借りた真っ赤なブーツがよほどお気に召したみたいでした。

 彼はジーンズをサッと脱いで再びわたしの上に覆いかぶさってきました。カットオフのジッパーが下げられ、ぱんつのなかに直接指が這入ってきました。彼の指はすぐにそこを探り当てました。

「ああん・・・」

「こっちもカタくなって、尖ってる。おまけにびちょびちょだ」

「ああんっやあっ・・・、はああん・・・」

 カットオフを脱がしたがっているのがわかったのでお尻を浮かしました。でも汗で貼りついてしまったのか、なかなか脱げませんでした。そこはわたしが自分でくるくる降ろし、ひざ下まで行ったのを片脚だけ抜こうとしましたが、やはりブーツが邪魔でした。

 こなくそーっ!

 焦って一気に抜こうとしたのがマズかったのです。勢いあまってブーツの先が何かに当たりました。

「うおっ!・・・」

「あ、ごめんなさいっ!? ・・・大丈夫?」

 ナガノさんがパンツ一丁で股間を抑えて丸くなっていました。どうやらブーツの爪先がたまたま、タマタマにクリーンヒットしてしまったようでした。

「・・・ぐふっ・・・ふああっ・・・うううむっ・・・」

 相当、イタそうでした。彼は額に脂汗を浮かべぎゅっと閉じた目尻には涙が滲んでいました。わたしは気が動転してしまっていました。

「ええっ、ヤダ、大丈夫ですか? ナガノさん、ナガノさん!・・・」

「だいじょ、ブ。・・・くは・・・はああん」

 カットオフを片脚に引っ掛けてドギマギしっぱなしオロオロしまくりで動揺していると、彼のブリーフのそこにじんわりとシミが広がって、あの、香ばしくも生臭い香りが漂ってきたのです。

「ミオ。・・・ミオちゃん・・・」

「・・・はい?」

「絶対、誰にも言わないでくれよ・・・」

「・・・はい」

「・・・それと、悪いんだけどさ、・・・お願いがあるんだ。・・・踏んでくれないかな」

「・・・え?」


 
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