上 下
26 / 27

何処で道を間違えた

しおりを挟む
 後日、私は王宮のバルコニーで民衆に向かって手を振っていた。
聖女認定と同時に行った王太子殿下との婚約お披露目の中での出来事である。
一体何しているんだろ。

 何処で道を間違えたらこうなるのか、そう自分に問う資格は私にはない。
思い起こすと運命の分岐点での判断はともかく、やらかしが多すぎた。
言うまでも無く自分のうっかり失言とリオの行動である。

 あの時うっかり口を滑らせなかったら……。
あの時リオの食い意地が殿下の前で炸裂しなかったら……。
あの暗殺未遂事件が無かったら……。
とにかく、何を言ってももう遅い。
私は世界の歴史上通算13人目、この国では4人目の聖女と認定されてしまった。


「いやあ、名誉な事だよ。」

「……そうですか。」

 殿下にそんな事を言われたが無邪気に喜べない。
私の前世ではどちらも不吉な番号として嫌われていますと伝えてやりたい所である。
手を振りながら殿下が私に聞いて来た。


「どうかした?」

「いえ、何も。」

「もう逃がさないから、いいかげん大人しく観念するんだね。」


 多分、刑務所に入った犯罪者の気分はこんな感じなのだろう。
それともストーカーに捕まった被害者ともいえるかもしれない。
いきなり結婚という訳ではなかったが、無事(?)婚約も終わってどうやら私の人生は確定した。
決まった以上は肝を据えるしかない。
私は気付かれない程度に息を吐きだして告げた。


「かしこまりました。これからよろしくお願いいたします。」

「うん、宜しくね。理想の夫婦になろう。」


 そう言って殿下が私に微笑みかけた。
顔も頭もいいんだけど性格がなんか怖いのよねぇ、この人。
私に対するというか聖女に対するというか、執着心が。

 押しの強さにも負けそうだ。
私は普段強気な性格だが意外とぐいぐいくる男に弱い事が判明した。
こんな自分は発見したくなかったわ。

 とにかく、これから地獄の王妃教育が始まるのは確かだった。
愛さえあれば何もいらない。どんな苦しみだって乗り越えられる。
そんな楽天思考は私には無い。
というより、(中身がアラサーの)この年齢になると勢いだけで結婚できない。
利点と欠点。打算と妥協。
いずれにしても婚約なり結婚なりは軽々しく決められる事ではないはずだ。

 したくない事に努力と時間をつぎ込むには人生は短すぎる。
子供は皆お姫様に憧れるものだろうが、理想と現実は軽く一光年は乖離している。
王族ともなれば一挙手一投足見張られていて思った以上に好きに行動できない。
そして、この世界の王族は権利よりもはるかに義務が多いと思われる。
単なるお飾りの象徴ではないのだ。

 王侯貴族につきものの陰険神経バトルもあるだろうし、情勢によっては暗殺の危険だって無くも無いだろう。
実際あったし……。
加えて山の様な公務も目白押しだ。

 はたしてこんなにやる気のない奴が王族になっていいのだろうか?
マイナス面を考えず王妃になりたい野望だけは満々の令嬢の方がまだいい様な気がしないでもない。
未だに私の脳裏にはそんな考えが渦巻いていたが最早結婚は不可避である。
だとすれば、ここは純粋に殿下への愛情パワーで何とかするしかない。

 彼に見つめられるとそれなりに胸が高鳴るのは確かだ。
彼の笑顔を見ると嫌な気持ちも麻痺してくるのも疑い様のない事実だ。
義務感と愛情。
天秤にかければ絶対に愛情が勝っているに違いない。
そう、絶対。いや、恐らく。多分、きっと……。

 この日から一年後、殿下と結婚した私は王太子妃となった。
そしていずれはこの国の王妃となる。
これからこの国と私がどうなるかはそれこそ神のみぞ知る、だ。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

騎士の妻ではいられない

Rj
恋愛 / 完結 24h.ポイント:78pt お気に入り:3,214

妹に邪魔される人生は終わりにします

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:447pt お気に入り:6,882

ロリコンな俺の記憶

大衆娯楽 / 連載中 24h.ポイント:5,197pt お気に入り:16

殿下、それは私の妹です~間違えたと言われても困ります~

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,996pt お気に入り:5,281

最初に私を蔑ろにしたのは殿下の方でしょう?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:4,948pt お気に入り:1,958

片思いの相手に偽装彼女を頼まれまして

恋愛 / 完結 24h.ポイント:4,047pt お気に入り:19

処理中です...