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ラストバトル

意に諸の不浄を思ひて 心に諸の不浄を想はず

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 現時刻、23:00。年末の大晦日まであと2日だ。
 
 現世に戻った俺たちは、天照大神を降ろすための禊と称して中務達を寄せ付けず、みんなで訓練を繰り返してる。
 
 ていうかさ、親父は気を抜きすぎじゃ無いか?俺たち地下から出て早朝の祝詞を日昇までやってるんですけど…普通軟禁者を外に出さないよね??
 颯人の術封じまでやってたのに、何でそれもしてないの?マジでわからん。 
 もしかして俺のうっかり具合も父親譲りか?やだなー。似てるところばっかりなのは勘弁しろください。

 
 
「芦屋さん、髪ゴム使わないんです?」
 
「ん…なんか縛りたく無いんだ。髪の毛邪魔だと思わなくなってさぁ。颯人みたいに長くしたいなぁ」
 
「…そうですか」
 
 まだ肩につかない長さだけど、髪の毛が頬に触ってもくすぐったくないんだ。なんか気持ちいい。縛ると何となく窮屈な気がして、将門さんに作ってもらった髪ゴムを手首に通したままでいる。勾玉原材料だから神ゴムか?んふふ、おもろ。
 あれ…伏見さん酷い顔してる…。あっ、そうか、颯人の話したからかな。

  
「伏見さん、そんな顔しないでいいの」
「はい…」
 
 しょぼくれた伏見さんは気遣わしげにしてるけど、今は振り返る余裕がないんだ…ごめんよ。

 伏見さんの後ろで鬼一さんが竹刀を振りかぶり、ヒノカグツチに叩き落とされてるのが目に入った。鬼一さん、気合が入ってるみたいだな。ちょっと入りすぎてる感じだけど。

 
 「鬼一さん、腕力じゃなくて足の運びに気を配った方がいいよ。力に頼っちゃダメ」
 
「おう!!…ついやっちまうんだよな…。ヒノカグツチ、もう一戦お願いします!」
「応」
 
 素直に反応してくれるな…俺が武器使ったの見た事ないと思うんだが、鬼一さん本当にいい人だな…。

 
 
「真幸ー、ちょっとええかー?」
 
 今度は眉間に皺を寄せた妃菜と飛鳥がやってくる。
 
「全体にバフかける時にどうしても霊力が散ずるんやが、どうしたらええ?」
 
「対象の人を思い浮かべるイメージが強く無いと届かないんだ。戦闘になるとしたら鬼一さん、伏見さんがメインだろ?二人がイメージできればいいと思うよ」
「なるほど…イメージ…」

  
「ねぇ、守護結界はどうする?真幸は無理でしょう?あたしも妃菜を守らないとだし…」

「飛鳥、儂がかけよう。真幸の直属にしてもらったのじゃから余裕じゃよ」 
「魚彦は本当に万能よね…わかったわ」
 
「ありがとな、魚彦。もう体は大丈夫なのか?俺が隠れちゃったから…ごめんな、ずっと大変な思いさせて」

 無造作ヘアでいつも通りおしゃれな魚彦が体にしがみついて、頬をすり寄せる。頭を撫でてやると、むふむふと笑いが落ちた。

  
「よい。修行になった。肝心な時に真幸に護られたのじゃ。今度こそ、真幸を守ってみせる」
「うん…よろしく頼むよ」


  
 
「皆さーん!鍛錬お疲れ様です!差し入れいただきましたよー!」

 星野さんがエレベーターから降りて、段ボールを持って走ってくる。
何で差し入れがあるんだ??本当に意味がわからん。俺たち軟禁者だよね?

 
「芦屋さん、中務にも真神陰陽寮のスパイがいますからそうなるんですよ」
 
「相変わらず頭の中覗くの辞めて。おわー!凄いな、お菓子にジュースに…あ、柿の種チョコだ!俺これ好きなんだー」

 亀田製菓さんは素晴らしいものを生み出してくれたよな。中身の柿の種が美味しいからこそのこの味なんだ。最高です。
 …あれ。なんかみんな静かだな。
なんでみんな柿の種もってうるうるしてるんだ?


 
「真幸、そのお菓子はな、ご母堂がはじめてくれたお菓子だったそうじゃよ」
「えっ、そうなの?…そういや昔から好きかも。小さい俺から聞いた?」
 
「あぁ。幼稚園に通っていた頃の話じゃ。お友達の喧嘩に巻き込まれて、怪我をした時にくれたと言っておった」

 
「覚えてないな…あの頃から虐待はあったしなぁ。幼稚園も最初の2ヶ月だけだし、その頃には別の俺もいたし。
 解離性人格障害って言うんだったかな。適応能力を超えた体験すると、別人格として心の中に自分の分身が産まれるんだって。
俺の場合はもう出てこないと思うけど。慰める気持ちが、あの頃にはあったのかねぇ」
 
「そうじゃな。おそらくは、じゃがの。
 あまり無理に恨まなくてもよい。そうでなくとも呪力が増えて体が重たかろう」

 柿の種チョコを口に放り込んで、ぽりぽり噛み砕く。しょっぱくて甘い、懐かしい味。無理に恨もうとは…してないけどさ。
何となく優しさがあったとか認めたくないような気持ちがある。

 

「本当に重たい。正直呪力いらん。颯人が抜けた分の穴がぽっかり開いてるのに、体が重たくて始末に負えないよ」
 
「はよう穴を埋めようなぁ…。そうしたらきっと体が楽になるじゃろう」
 
「そだなぁ。颯人は…早く戻したいけどさ。どうせめちゃくちゃ大変な事やらされるんだぞ。こう、修験道しゅげんどうみたいな事とか」

 
 ほわほわ頭に浮かぶのは長い階段だ。東北あたりに恐ろしい神社があったような?なんて言ったっけ。えーと。
 スマホをぽちぽちしながらネットを漁る。

「うわー、こりゃ凄いな…」
「どこの神社ですか?」
「コレー、見て…ヤバいよねぇ」

 
 
 伏見さんにスマホを手渡す。
 検索の頭に出てきたのは出羽神社いではじんじゃ。ホームページに飛ぶと出羽三山神社でわさんざんじんじゃになる。元はお寺さんだったけど今は神社になっているみたいだ。

 
 羽黒山の頂上に在し、2446段も階段があるんだ…。古くから修験道の訓練にも使われ、1.7kmの階段の先に月山、湯殿山、羽黒山の神がいる。
羽黒山は現在、月山は過去、湯殿山は未来を表していて、詣でると生まれ変わりを体験するらしい。
 
 羽黒山を登りきって現れる社は雲海の上。恐ろしい高低差を上り下りしながら歩くんだ。
御百度参りとかここでやれって言われたらどうしよう。
 
 て言うかなんで俺なんとなく知ってたんだろう。見たことあったっけ?東北はまだ社建ててないんだけどな。


  
「なるほど、なるほど。わかりました」

 俺にスマホを戻した伏見さんは、電話をかけだした。…何で?


 
 
「お疲れ様です。社長、出羽三山神社の神主さんにご連絡を。はい…おそらくは。忍びに斥候を申し伝えてください。それから、宿泊施設の確保と神社庁にも連絡した方がいいかと。…はい。では。」

 電話を切った伏見さんはスマホを睨みつけながらぽちぽちし続けてる。
 
「な、何で?何が起きた?」 
「真幸、お前神様なんだぞ?託宣じゃないのかそれ」
 
「あんたが検索した文字で、私が同じように探しても出羽三山神社は出てこうへんよ。鬼一さんが言う通り託宣やな」
 
「わぁ…あそこはきついですよぉ…」

 
「えっ、えっ!?…ネットで検索したら一番上に出てきただけなんだが」 
「そう言うなら見てみ、ほれ。私も鬼一さんも出ないし、星野さんも…」
 
「出ません。1400年の歴史と由緒のある神社ですが、検索ワードでこれが一番上とはあり得ませんね」


 
「…う、嘘でしょ?」
 
「嘘じゃないですよ芦屋さん。颯人様を取り戻すために生まれ変わりの山を登るんでしょうね、どうせ」
 
「ふ、ふふ伏見さん?まずいよそれは。俺御百度参りとか大変そうだなって思って…」
 
「御百度参りですか。かかってきやがれです。僕もお供しますから。
 主祭神は出羽国でわのくにの神である伊氏波神イデハノカミ、お口私が依代を務めるウカノミタマノオオカミです。
 芦屋さんが一度降ろした月読命ツクヨミノミコト、北海道でお会いした大山祇神オオヤマツミノカミ、颯人様の娘、須勢理毘売命スセリビメノミコトの夫である大国主命オオクニヌシノミコト少彦名命スクナビコナノミコトを祀ってます。
 コレはもう、間違いありませんよ。あまりにも縁深い神が揃いすぎています。」
 
「嘘ぉ…マジかぁ…」

 ちょっとぽちぽちしてちょっと検索してホワホワ思い浮かべただけなのに…。迂闊なことできないぞもう。自分が怖い。

 

「でも、これではっきりしましたね。芦屋さんは颯人様を取り戻せる、必ずお還りになれると。チューする時は呼んでくださいね?見たいので」
 
「そ、それはそうだといいけど…いや、チューはしないぞ!!」
 
「あっ!私も!私も見たい!」
「妃菜…大丈夫なの?」 
「なんで?推しが幸せならええねん」
「えっ??そうなの…?」

 
「どう言う心境なんですか?訳がわかりませんが」
「星野、女はよくわからん。身に染みてるだろ?」 
「否定はできませんね…」
 
「俺もワケわからんのだけど??」

「チューを見るのは楽しみじゃのう」 
「魚彦まで…アマテラスがそう言うかなんて決まってないだろ??所要時間90分とか書いてあるけど、ずっと階段を歩いて登るのなんか無理じゃん!」
 
「ほっほっほ。儂がいくらでも助けてやるわい。これで悲しみに沈むことはない。
 今まで通り、真っ直ぐに光の方を見ていればよい。…そう言うことじゃよ」

 
 魚彦が俺の肩を叩くと、伏見さんも妃菜もみんなが代わりばんこにポンポンしてくる。 
 え、待って、確定しちゃった???

 
「どうしてこうなった!?」


 
 複雑な気持ちの俺の叫びは、虚しく快適な地下室に響き渡るのであった。

 ━━━━━━


 
『真幸は…元気か』
『はい』
『姿が戻ったんだな。怪我はまだ残ってるようだが』
 
『そうですね。まだ力が使えませんから。回復も不可能です。
 意思疎通もほとんどできませんし、私たちは回復術を使えない。魚彦殿も本調子ではありません。
世話役と称したケダモノたちの所業を、癒して差し上げることも叶わない状況です』
 
『…祝詞はしてるんだろ?朝練とか言ってたか』
 
『はい。彼の習慣になっていましたから。 
 神降しをするのであれば、祝詞はこなさなければ。穢れを払う必要があるんですよ。
清めても清めても穢れが出てきます。元々は清い方の筈ですが』
 
『そうか…世話役は処分したかったが、血が流れればその清めも台無しになる。警察に預かってもらえて大助かりだ。
 伏見さん、あんたのお陰で真っ当な仕事は回せてんだよな…。手配も早い、関係省庁の説得もうまくいく、関西の方は権力者として未だに君臨してるし、伏見家に手出しできん……。ねぇ、寝返る気、ない?』

 
 
 現時刻、12月30日、00:40。
 31日は天照大神を神降しする本番だ。
 俺もそう言えば陰陽師…今は神継か?2年生になりました。
一年前が百年前に感じてますけど。
平穏isどこ?な毎日だったな。現在進行形だけどさ。
 
 夜ご飯食べて、いつもの地下室でお布団敷いて横になってる。ここの生活も慣れたもんだ。
 風呂も入れるし、お布団も差し入れ?してもらって毎晩ぬくぬくで寝ている。布団て差し入れになるのか?
 星野さんは神継達と最終会議中。…地下室にすらいないんだけど。それが許されてるのか気づかれてないのかはわからん。軟禁ってなんだっけ?と言う具合だ。


 
 俺は一度も会っていないが、伏見さんは毎晩道満と対峙して神降しの場の準備を手伝っている。たまに俺の事も聞いてくるみたい。
伏見さん優秀だもんね。スカウトしたくもなるわな、そりゃ。

 伏見さんに手渡した神ゴムから音声を拾いつつ、彼に守護結界を張り続けている。万が一にも殺されないように。
 
 蘆屋道満の時代では物忌ものいみの風習が色濃く根付いてるから、神降しを控えた俺が居るのに殺生しない筈だけど、念には念を入れないと。

 神降しの場所は伏見稲荷大社になった。本当は伊勢神宮の予定だったが、蘆屋道満はあそこに入れないらしく却下されたんだ。伊勢神宮、つよい。カッコイイ。

 

『流石に沈黙長いよ。それが答えってこと?』
『他になにを言えばいいでしょうか。私が忠誠を誓うのは彼だけです』
 
『どーしてそんなに真幸が好きなの?もしかして衆道の気でもある感じ?』
 
『………』

『わかったよ。お前達は明日天照大神がくだったら処分する。真幸に殺してもらおうか』
 
『それは大変いいですね。是非そうしてください。初めて気が合いましたね』
 
『ケッ。言ってろ。せいぜい仲良しこよしの夜を楽しめ』


 
 ドアがパタンと閉まり、伏見さんが歩いてる音がしてる。
(芦屋さん、耳の呪いがつきました)
(うん、わかってる。念通話は拾えなさそうだな、演技しておこうか)
(そうしましょう。鬼一、鈴村もそのつもりで)
((了解))

 
 
「妃菜、安倍さんにもメッセージしておいてくれる?」
「必要ないやろ、来たで」

 ほほー?妃菜は察知能力が高めだなぁ…。エレベーターのランプは今点灯したばかりだ。
到着音の後、るんるんした様子で安倍さんがやってくる。寝る前にゆず茶でも、とあったかい飲み物をくれた。
ありがたや~。


「はい、どうぞ妃菜ちゃん。何かありましたか?」
 
「ありがとうさん。道満が伏見さんに耳の呪いつけたんよ。伏見さんが帰ってきたら、真幸は心が戻ってない設定でな」 
「り、了解です」
 
「演技なんかできねぇ…俺はどうしたらいいんだ…」
「鬼一とアリスは黙っているのが吉じゃろうて。ワシも引っ込むぞ。真幸の中で作戦会議しておくからの」
 
「うん、魚彦おやすみ」
「あぁ、真幸も早く寝るんじゃぞ」
「うん」

 
 魚彦が体の中に戻ってくる。
颯人が抜けてから、俺の中には穴がぽっかり開いてる。主たる神様を失った依代はこうなるんだろうか。
 鬼一さんと妃菜も同じ感じだったのかなぁ?
夜も抱きついて寝てたから、全然寝られない。夜って長かったんだよな、ってようやく思い出した所だ。
 
 俺の生活の何もかもに颯人がいる。
考えないようにしていても、ずっとそばに…すぐそこにいる気がしてるんだ。

 

「ただいま戻りましたよ」
「お帰りやす、伏見さん」
 
「鬼一は…もう寝てますね」
 
(はっ、そう言う感じか!助かる!!)
(そうでしょうとも。アリスさんも来てないことにしますから) 
(すみません…)
 
(では、作戦の確認を。念通話のチャンネルにも結界を張ります)

 みんなで目配せして、口では別のことをしゃべりつつ、祭事の手順を確認していく。

 
 
「芦屋さん、大晦日はひふみ祝詞と舞をするんですよ。明日は衣装合わせをしましょう、ヒラヒラした可愛い着物を着ますよ」
「やっ。ひらひらいや」
 
【まずは、斎主による場の浄化になります。場所は下拝殿、稲荷大神達もそばに控えておりますので】
【そうだ、ウズメさんの神力もあの時載せてたから…必要だったな。忘れてた】


 
「そう言わんで、髪の毛おリボンつけたげるから」
「や。おリボンきらい」
 
【最初は2人で舞う?再現した方がええかな?】
【いや、言霊を載せる前にした事はどうなんだろう…伏見さんどう思う?】

 
 
「ヒラヒラもリボンも嫌ですか…鈴村、袴の裾捌きは大丈夫でしょうか」
「どやろな…裾は短くした方がええかもしれん。小さい子の意識やと足がもつれそうやし…」
 
【参拝はしましょう。動きやすいように前回よりも裾が短いもので衣装を用意します。できる事はやっておいた方がいいですから】
【じゃあ二人で舞うのは一応やっとこか。真子さんの指導は省いてええよね】

 
 
「では裾の短い袴を用意します。手持ちは神楽鈴のみでしたね」
「しゃんしゃんするのー?」
 
【それはいいと思いますよ、流石に。さて、天照大神が降りた後ですが、下拝殿の王道12星座の結界は邪魔になりそうなので一度壊します】
【壊してもいいもんなの?それ】

 
 
「そうですよ、体が覚えているでしょうから…ひふみ祝詞のみで行きましょう」
「お歌覚えとる?ちょっと歌ってみよか」
 
【はい。あれはバフの術を妨げますから。戦闘時には壊します。代わりに近隣に被害が及ばぬように、大きな守護結界を父が張ります。魚彦殿には内部から重ねて頂きましょう】
【境内でどんぱちやるより、転移して道満を孤立させた方がえんちゃう?】



 
「ひなも、うたってー?ひとりじゃヤダァ」
「ええよ、ほな一緒に歌おうねぇ。さん、はい」
 
【転移しての霊力消費はやめよう。アマテラスを降ろした後、俺がどうなるかわかんないし】
【確かにそうや。失礼しました。ほんで…道満はどないするん?】

 
 妃菜と2人、ひふみ祝詞を歌い出す。言霊を載せていないから、声が揃って気持ちいいな。
鬼一さんが目を閉じて、安倍さんは手を組んで目をキラキラさせてる。
 

【道満は…祀っている神社はなく塚が残されているだけだよ。地域の人を助けてたから記念碑はあるけどね。神様としての役割は殆どないはずだし、土地神は別にいるから殺しても問題はない】

【真幸も過激発言するようになったな。…しかし、道満と安倍晴明とはだいぶ扱いが違うんやな。あちらは神社持っとるけど、道満は塚しかないやろ?】

【俺の呪力は恨みそのものだから、たまに口が悪くなるんだ、ごめん。親父は朝敵だから仕方ないとは思うよ】

 
 
 蘆屋道満…親父は地域の人たちには愛されている。伏見ネットワークに頼んだ調査結果は…塚があるお寺の近隣住民の方が持つ『人助けの記録』だった。
 裏公務員だった俺と同じような仕事をして、人を助けて生きてきたんだ。
そして、今もなおその記録を大切に受け継いで、蘆屋道満に感謝し続けている人がいる。
 
 それを、殺してもいいものなのか。
 親父が中務を作ってからは日本のためにならない事ばかりしてきたし、神も人も殺しすぎている。俺を作った事も人として許されないことだし、安倍さんに対してやった事は…何もかもが本当に許されてはいけない。

 
 ただ、何かが引っかかってはいる。
 いくらうっかりだからって俺の元にエリート組を含め、真神陰陽寮の人間を自由に出入りさせている事。伏見家に手を出していない事、俺に親父の考えを全て明かした事、颯人の遺体を伏見さんに任せた事……考えたらキリがない。
 
 俺が天照大神を降ろして、仮に心身喪失だとしても…神が降りればする可能性だってあると思いつかない訳ないし。

 どう考えてもおかしい。
 
 まるで、俺に天照大神を降ろさせて、自分を断罪させようとしているかのような…。うーん…もう少し、確かめないとならない事があるって感じかな。

 

【真幸、殺したくねぇんだろ?】
【鬼一さん…】
 
【俺はそれでも構わん。わざわざ『殺す』なんて言葉使って自分をコントロールしなくていい。無罪放免とは行かんだろうが、俺は真幸の判断に従う】

【ほな、私も。一発と言わず百発ぐらいくれてやりたいけどな。アリスのためにもそうしたいわ】
【妃菜ちゃん…】

【僕も、芦屋さんの決めたことに手放しで賛成します。
 颯人様を失った怒りや悲しみ、ご自身が受けた理不尽な暴力を以ってしてもあなたを穢せはしない。僕たちはそんなあなたを全力でサポートします。
 芦屋さんにお任せします。全てを】


 
 ひふみ祝詞が終わり、沈黙が舞い降りる。みんなが俺を見つめて、穏やかに微笑んでくれる。
そっか…そう思ってくれるなら、俺は俺のやり方で親父と対峙しよう。
 
 やる前から全てを決める事はできない。いつだって、神様は勧善懲悪なんだ。

 いつものように神鎮めをするか、初めての神殺しをするか。
全ては、大晦日に決めよう。
親父と腹を割って話す、その時に。

 

「よくできたね、真幸。明日も早いから、もう寝よか」
「うん」
 
「芦屋さん、僕と寝ましょう」
「…えっ?」

 伏見さん何言ってんの!?ガチで返事しちゃったじゃん!

 
 
「一緒に!寝ましょう!」
「は、はぁい…」

 伏見さんの圧力に負けてしまった。俺の布団にいそいそと潜り込んでくる伏見さんに対して、妃菜が舌打ちしてる。
そう言えば伏見さんはずっと同衾したいって言ってたもんな。マジだったんだな、うん。

【俺も行っていいか?布団くっつけるからよぅ…】
【い、いいけど】

 鬼一さんまで何でだよ!!もう!そんな子犬みたいな目で見てこないの!

 
「むさいところで寝たくないから今日は譲るわ、おやすみ」
「妃菜は私と一緒よ♡」
 
「そやね。飛鳥はあったかいし、いい匂いするもんなー」
「そうよ、女の子は冷やしちゃいけないの。男どもは早く寝なさいね」

 
 安倍さんを招き寄せ、妃菜が間に挟まって寝て、飛鳥が複雑な顔をしてる。
あー、あれはー。身に覚えのあるやつだー。うん、すまんけど後回しにします。はい。

 鬼一さんが明かりを消し、布団をくっつけて、俺の手を握る。伏見さんは背中からくっついてがっちりホールドしてくるし。
 …何コレ。

 
 
【芦屋さんが寝ていない事くらいお見通しですよ。今日位はしっかり寝てください】 
【そうだな。俺達2人でなら悪夢を抑えてやれる。すまんな、練習に時間がかかった】
 
【な、なんだよ…そんな事練習しなくてもいいのにさ】


 
 伏見さんの手がお腹に回ってくる。
道満に掻っ捌かれた大きな傷跡を撫で、背中にじわりと水分が沁みてきた。なーんで泣くのぉ。伏見さんはー。

【あなたを守りたかった。こんな風に傷つけたくなかったのに…本当にすみません】
 
【俺もだ。今度は絶対に守るからな…二度と真幸を傷つけさせやしない】
 
【て、照れるだろ!自分の事ちゃんと守ってからにしてよね。…おやすみ】
 
【おやすみなさい芦屋さん】
【おやすみ真幸】


 
 鬼一さんが力強く手を握り、優しく甲を撫でてくれる。
2人して撫でてくるから、眠たくなってきてしまった。

 颯人がいたら、浮気だなんて言われてただろう。ほんとにバカだな…2人は仲間だぞ。
妃菜と星野さん、安倍さんを含めてとってもとっても、大切な仲間だ。
 …早く会いたい。颯人に、会いたいよ。
本番は頑張るから、見ててくれよな。
アマテラスにやり方聞いて、きっと迎えに行くから。
 

 颯人…。

 言霊を載せて颯人の名を心の中で呟き、目を閉じた。
 
 
 


 
 
  
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