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ラストバトル

蘆屋道満と安倍晴明

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「アマテラスオオカミ、ツクヨミノミコト」
「「応」」

 ちょ、眩しっ!?新しく俺に宿った二柱を顕現すると、真っ白な光が目の前に現れる。
 
「ちょっと。光量落として!目が潰れるだろ!!」
「すまぬ」
「ごめんごめん、落ち着いた?真幸君」

「…ハイ」

 灰色の髪、灰色の目、背丈はほとんど颯人と同じ。髪の毛の長さも筋肉のつき方もそっくりなツクヨミが俺の髪をかきあげ、さらりと背中に流す。
 …ん?アレ?なんか俺髪の毛伸びてないか?


 
が依代となったのだ。あの長さでは足るまい。好みとしては、今少し長くしたいが」

 
 ツクヨミと同じような雰囲気で髪の毛は白髪、目の色は琥珀色。目が垂れて優しげに微笑む…あなたが天照大神アマテラスオオミカミか。二柱とも涼やかな佇まいだ。
 アマテラスはヤンキー座りの俺の手を引っ張り、立ち上がらせる。

 周りを見渡すと、みんな平伏しちゃってる。俺だけが立ってるのか…ああっ、もう髪の毛邪魔!
 お尻のあたりまで伸びてる自分の髪の毛を神ゴムで括って適当にお団子ヘアにまとめる。前髪まで伸びてるから縛っちゃえば案外邪魔じゃないかも。


 
「その様に乱暴にしては、美しき御髪みぐしが乱れるではないか」
 
「髪の毛はちょっとほっといて。一応確認だけど、正式名称だと…月読命ツクヨミノミコト天照大日孁尊アマテラスオオヒルメノミコトって呼ぶの?…名前ながっ」

「いや、そのように呼ばずとも良い。風颯…颯人のようにしよう。天照たかあきと呼べ」 
「兄上、僕はどうしたらよいでしょうか」
 
月読つくよみでよいだろう。要するに短略化しただけだ」 
「…納得し難いですが仕方ないですね」


 
「…天照たかあきと、月読つくよみでいいんだな?て言うかタメ語でいいのかな…」

「かまわぬ。われの依代になれるものを下には見ぬ」
「そうだなぁ。正直驚いたよ。頑張ったねぇ真幸くん」
 
「ど、どうも…」
 
 二人がキラキラしながら微笑んでるんだけどさ、何か後ろから知らない神様もゾロゾロ出てきちゃってるんだよな。
さっき九州にいた背の高い男性と、淡路島にいたふわふわチャイナ服の二柱がニコニコしながら歩いてくる。


 
「やあやぁ、お祖父様、お久しぶりです。本当に受肉されたんですねぇ」
「私たちも久しいな。元気だったか?出来のいい息子達」
「黄泉の国から来てやったのだ。まずは真幸に目通りたいのだが」
 

「お祖父様?息子??黄泉の国???」
 
「そのように目を開いてはこぼれてしまうぞ。真幸、紹介しよう。
 吾が孫である瓊瓊杵命ニニギノミコト、母の伊邪那美命イザナミノミコト、父である伊邪那岐命イザナギノミコトだ」
  
「真幸に会うたら勾玉を渡すのが決まりと聞いた。それ、受け取るがよい」
「私も私も~!」
 
「イザナギ!私が先だ!真幸、冥府の母たる私の勾玉は珍しいぞ?誰にも渡したことはない」

 
「いやお断りしたいんだけど。ていうかこの勾玉の山は何なんだ」
 
「ふ、吾が依代を持つと広く流布して参ったからな。皆が差し出した。豊葦原とよあしはら中の神の勾玉よ。全て真幸宛だ」

天照たかあき…そういうのやめて。とりあえず預かるから…袋とかない?」
「あるぞ。吾が手ずから集めてやろう」

 
 
 
 ニニギノミコト、イザナギノミコト、イザナギノミコトの勾玉を受け取り、天照たかあきが地面に落ちた勾玉を拾い集める。
 裳裾もすそが溶け出した雪に触れ、濡れて染みて行く…。はっ!!

 
「しまった気づくの遅れた…みんな平伏してるんだよ!びしょ濡れじゃん…いいよね、もう」 
「よい。気にするな。」
 
「はーいみなさん、お気になさらず立っていいですよー。兄君は真幸君に降りて大変ご機嫌なので。ほれ、ほれほれ」

 ツクヨミがみんなを立たせてまわって、アマテラスはいつのまにか着物から着流し姿にメタモルフォーゼしてる。まだ勾玉拾ってるし。
いいのかな、仮にも偉い神様に拾わせて…。

 

「じゃ、また会おう」
「んじゃのー」
「ばいばーい」

 …お偉い神様達は笑顔で手を振りつつ、消えていく。…よし、今は何も考えないでおこう。スルーだスルー。


 
「あのさ、そこ座ってると濡れるよ」
「……」
「あぁ、びしょびしょじゃん…お尻に世界地図できてるぞ。」

 呆然とした道満の手を引き、立たせる。
周りにいる神継、伏見さん達、俺の眷属神たちもみんなぼーっとしてる。

 と言うかだ。下拝殿の屋根、いつの間にぶっ飛んでたんだ。巫女舞をしてる途中から雪降ってたし、もしかして消した?

 
 
「月読、屋根どっかやったの?」
「あ、邪魔だから消したの。あとで直すよ。今は取り敢えずその人と話し合いでしょ?みんな下拝殿に登ってもらって座ろう。お掃除してよ真幸」 
 
「そうだ、颯人に習ったのだろう?浄化の術を見せてくれ」

 ニコニコした二柱が俺の袴を引っ張ってくる。はいはい、わかりましたよ。
 


 
「あー、みんな綺麗になあれ⭐︎」

 適当に手をフリフリしてみる。広範囲にはしたことないけど多分行ける。神力が溢れまくってるからな。下拝殿の床に降り積もった雪と水が消えて、びちょびちょのみんながピカピカになった。

「…座れば?」
 
 膝を折って荒い息を立てていた道満がどさりと音を立てて座る。
真正面に俺も座り直し、向き合う。
苦しげにしながらも、ギロリと睨んで来て…目つきも俺に似てるなぁ。

 
 
「…お前、全部お見通しか?」
 
「色々おかしいな、とは思ってたよ。真意はわからない。天照たかあき達も俺が降ろせるのか、受肉させることができるのかは賭けだった。…まだ、生きていられるよな?」

 周囲に集まって来たみんなが息を呑む。道満は冷や汗だらけで、時々喀血してる。
最初に会った時お口くさーいと思ってたけど、これは腐臭だ。用意した依代に魂を移し損ねて、体が腐ってる。


 
魂移まぶいうつし、ちゃんとできてないだろ」
 
「は、すげーや。アマテラスの脳みそでも共有してんのか?その通りだよ。子供を作ったのは新しい器を作るつもりもあった」
 
「ちゃんと用意できなかったのか」
 
「そうだな。某が道長呪殺をたばかった犯人だと知れて、逃がそうとした奴がいてな。それも某が騙されたことの一つだ。
最後に信じて待ったが、そいつは来なかった」
 
安倍晴明あべのせいめいだな」
「……そうだ」

 正座して聞いているみんなに、静かな動揺が広がっていく。そうだよな。俺もそんな風になっていたとは思わなかった。


 
「某は、晴明と恋仲だった。某とあいつはライバルとまで呼ばれて、朝廷に招かれてな。
 最初の競合で負けたのはあいつの騙し討ちだったんだが…箱の中に入っていた物を当てろってやつ。入っていたのは確かにみかんだったのに、あいつがネズミに変えていた。
 某はまんまと騙されて、朝廷に上がり損ねた。その後晴明の手下に降って手篭めにされたんだ」
 
「手篭めとかどんだけ…晴明の奥さん寝取ったのも、太客だった藤原道長を殺そうとしたのもそれが原因か?」

 は、と嗤った親父が涙を浮かべる。
悔しさと、哀しさと、怒りがないまぜになった顔。


 
「そうだよ。始まりは微妙だったが某はちゃんと愛していた。あいつだってそう言ってたのにさ。
 ってやつだったんだろう。
一人で恋心を拗らせて、あいつを散々困らせて、当てつけで妻をめとりもした。
 でも、最後まで某は悪役で…あいつに片恋して、騙されたバカな男で終わったんだ」

 
「晴明にそう聞いたのか?ちゃんと直接話したの?」
 
「話すかよ。…あの時代ははっきりした約束自体がない。晴明が求め、某が受け入れ、捨てられただけの事だ。
 始まりも終わりも風流な手紙で遠回しに伝えて、お互いの熱が消えても…振られたヤツは引きずるしかないのが常だ」

 

「手紙をもらってフラれたの?」
 
「いや、手紙はなかった。でも同じようなもんだろ。あいつに隠されたはずの寺で晴明が来るのを待っていたが、検非違使けびいしが来て俺の首を切ってった。
 未完の魂写しを慌ててしたからな…某は永く生きても悲願を達成せず、みっともない醜態を息子に晒して死ぬんだよ」

 
「日本を壊そうとしたのは、大和魂を残したかったから?」
「……」
 
「日本は、親父の言う通り衰退し始めて…国力自体が弱くなっていた。
大陸国が日本の周りの国を侵略して、戦争しようとしてたよな。
 戦争が起これば国護結界の要どころじゃなく、神社仏閣も文化も国民も何もかも全部失われる。
それを防ぐために悪役ヒールになったんだろ?」

 
 チッ、と舌打ちを落とした道満が目を瞑る。…やっぱそうなのか…。
 

 
「しゃらくせぇ。某は最初からそう言う役割なんだよ。
お前がアマテラスを降ろして俺を倒し、大和魂の復興を遂げるシナリオだ。
…まぁ、某も半分賭けだったが。
 英雄ヒーローが国護結界を成し、神様をみんな従えて国ごと守ってくれるんだ。
悪役やるなら本気でやらなきゃならん。お前もそうだろ?手抜きができない性格なんだよ」
 
「端からそこまで考えてたのか?」

 
「いや、お前と会ってその方がいいと気付いた。大陸国に任せるのは正直不安しかなかったしなぁ。
 あそこでは命の価値が低いし、現代に蔓延はびこる人権なんぞ存在しない。某は晴明の神社を…あいつが愛した日本の魂を、残したかったんだ」

 …親父…。俺がうっかりなのは、俺のせいじゃないな。完全に親譲だこれは。そう言うことにしたい。

 
「あのさ、俺が死んでたらアマテラスバーサーカー+将門さんご乱心だよ?国を壊すというか晴明の神社も壊されてたと思わん?リスクヘッジどうなってんだ。
 俺に賭ける価値があったとしても防護策は?保険は?都合よく晴明の神社だけ免れるわけないだろ」
 
「…あっ…」
「はぁーーーー………」

 

 あー、なんとなくおっちょこちょいなのは良くわかった。
やりすぎるまでやり切るのも俺と同じだ。嫌なとこばっか遺伝子継がせやがって…。
 でも、その気持ちはわかるよ。
 正直同情の念が頭をもたげている。


 
 道満は弱り切ったこの国に引導を渡したかったんだ。
確かにこのまま進んでいけば、海外に攻められて戦争で全滅だったかもしれない。日本の周りは物騒な国ばかりだ。
 当初の計画では、その前に諸手を挙げて降伏させて…国民や神社仏閣を、晴明の社を守りながら無血開城させるつもりだったんだろう。
 
 踏み躙られる前に国ごと差し出して、苦しいながらもみんなが生きていく日本を未来に残したかったんだな。

 
 
 でも、もう…親父は殺しすぎた。
 
 俺みたいな子供を作り、天変地異を引き起こす事態に発展させて、大陸国家に売ろうとしてたのは事実。
 安倍さんを害して憂さを晴らしていたのも事実だ。親父は叶わなかった恋の八つ当たりをかましてた。
好きな人をいつまでも忘れられなくて、苦しんではいたんだとは思うけど…。
 
 せめて大切な人の大切だった物を後世にまで残してやりたい。…それだけ、だったのに。

 

「俺たちホントに似てるな。俺も颯人が居なくなって全部どうでも良くなったよ。何もかも捨てて死にたかった。お互い難儀な性格だ」
 
「喋り方も、やり口も、よく似てるだろ。やだねー、某お前みたいなヤツ嫌いだよ」
 
「俺も親父みたいに駄々こねて、大義のために散々人を殺して、傷つけた奴なんか嫌いだよ。だから自分で本人と決着をつけてくれ」

 
「はぁ?晴明は死んでるだろ。神様になってるから顔でも見れんのか?何度神社に行っても会えなかったが」
 
「やれやれ、会いに行ってたんかい。…ハク、カイと話して」
 
「は?お前なんでそれを……」
「チッ」


 
 
 香取神宮の三本杉で出会った、童子姿の神が音もなく姿を現す。舌打ちすんなし。生意気そうな顔で俺を睨み、白狐に姿を変える。

 
「そ、そいつ!真幸の心の中にいた狐じゃないか!」
「そうだよ、鬼一さん。これが俺の奥の手だ」
 
「童子姿は香取神宮の童だな。あそこから一緒だったのか」
「暉人の言う通り。ね、安倍晴明あべのはるあきら
 
「あぁ。かい、久しいな」
「は?は??は???」

 安倍晴明あべのせいめいは神様としての名前。
 安倍晴明あべのはるあきらは人間としての名前。
晴明ははく、道満はかいと二人は秘密のあだ名で呼び合う仲だった。
 白狐のふわふわしっぽが俺をペシペシ叩いてくる。もふもふしてるからダメージないけど。照れてる場合じゃないんだよ。

 
 
「ほら、ちゃんと話して」
「……」
 
「本当に…本当にはくなのか?真幸に秘密の呼び名を教えたのか」
 
「し、仕方なくだ。かいに言い訳をしようにも、神として接触を許されなかった。お前魂写し下手くそだったろ。
 カイは神じゃなく将門より酷い怨霊になってんだよ。おれはそれなりに勲を立てて神になってるから…会話すらできなかった。
 だから媒介として真幸に取り憑いたんだ。会いたかったんだよ、お前に」

「意味わからん。何言ってんの?某を殺しておいてどの面下げて来たわけ??」

 
 
 狐姿から人間の壮年あたりな年齢に戻った安倍晴明が、蘆屋道満に触れる。
 弱り切った道満も青年姿になった。歳の差えぐいな。37歳差だもんな。
二人とも正絹の黒い狩衣姿。晴明も道満も髪の毛をポニーテールにして、お揃いの飾り紐で結んでる。
 
 紐の先をあわじ結びにしてるけどさぁ…あれはお互いを固く結びつける意味があるやつだ。結婚式によく使われる飾り結びなんだよ。
 
 息子としては大変複雑な光景です。
 色んな意味で眩暈がする。

 

「真幸、吾が抱いてやろう。其方は神力を補充せねばならぬ」
「兄君、交代ごうたいですよ」
「わかっている」
 
「…ヴァー」
 
 こっちも複雑だー。ニッコニコの天照たかあきに抱えられて、乱暴に結った髪を解かれ、柘植の櫛で梳かされる。
長ラン姿の真子さんと妃菜の目線が痛い。お稲荷さんはデッサンし始めてるし。
 

 
カイを裏切るつもりはなかった。愛していると言ったではないか」
 
「意味わかんねーよ。某のこと騙して恥かかせただろ。落としてから上げるとか定石だもんな?爺さんが若い俺を誑かしてさぞ楽しかっただろ」
 
 
「違う。あれは時の司がお前をいいように使おうとしてたからだ。真幸のように優しい仕事をしていた、純心な灰を縛りたくなかった。お前は不器用だろう?朝廷の中で生きるには不向きだ」
 
「それで朝廷から態々わざわざ遠ざけたのか?じ、じゃあ嫁を取ったのは?」

 
「あれはふぇいくだ。灰を嫁にすれば角が立つ。子孫を残さねばならなかったからな、協力者として嫁に来たのだ。私の父と同じく白狐が相手だから枕を交わしてはおらぬ。
 白狐は腐女子と言うやつだ。それ、そこにいるだろう。衆道に理解のある女子おなごよ」

 安倍晴明が、お稲荷さんを指差す。
 あー、そう言う感じかー。なるほどなー。待て。お稲荷さんって…ビッグお稲荷さんってそう言う意味か!?…に、二度と呼ばないからな!!


 
「なん…何だよ…お前が某を嫌いになったと思って…」
 
「愛してる。好きだ。嫌いだなんて言ってないだろう?おれはただの一度も浮気などしていない」

 親父の顔…見るに耐えないんだけど。俺あんな顔してんのかぁ。
 やるせない気持ちが伝わってくる。親父も晴明もちゃんと好きあってたんだ。

 
 
「…某が取った嫁を寝取っただろう」
 
「当たり前だ。お前を他の者になどやらぬ。おれたちがいかに愛し合っているかを説いて聞かせたのだ。
 お前も同じだったろう。おれの白狐をほだしはしたが、あいつが子を成したのはうけいを交わして出来た子だけだった。灰もおれも白狐とは枕を交わしていない」

 
「道長を呪った時に…某を捉えて殺した」
 
「いい機会だと駆け落ちの準備していたのだ。出立に時間がかかり、おれの傀儡ではない者が連れ出して…灰を殺した。おれが嫁を取って子孫を残したのも、お前と暮らしたかったからだ」

「…う、嘘だ…そんなの…そんな事…」


 
「何度でも言う。灰を愛しているよ。
 お前が黄泉の国に来るのを待っていた。いつまで経っても来なくて地上に降りたら、こんな事になっていた。すまない、本当にすまない。」

 …見事なすれ違い劇だ。これだけ見たら、可哀想な恋人達で済んだんだけどな。


 

「そんな事情で…許されると思ってるんですか」

 安倍さんが震えながら立ち上がり、ツカツカと晴明に近寄る。

 
「子孫よ…すまぬ。全部おれのせいだ」
 
「そうですよ!あなたのせいで私、たくさん命を食べたんです!!!
 痛い思いも、悲しい思いも、沢山…沢山しました!ふざけないで!?何が愛よ!何が…っ!!」

 
「安倍さん…」

「無理です!芦屋さんみたいに赦せない!私がして来たことも、道満がして来たことも、全部こいつのせいじゃないですか!!
 芦屋さんが颯人様を失う必要なんかなかったのに!!」
 
「すまぬ…」
「うるさい!……うるさい!!」
 
 安倍さんが拳を振り上げ、そして振り下ろす。ばきっといい音がして、道満が転がった
 

 
「灰?!」
「いてて…アリスは力つえーな…」
 
「な、何してるの…」
 
 
「某が好きな奴が殴られるのは嫌だ。某も謝る。すまなかった。申し訳ありません…某が全ての罪を償います。白…晴明だけは逃してやってください」

 蘆屋道満が安倍さんに平伏して、額を床に擦り付ける。
 
「違う、おれのせいだ。なぜ庇う…おれが何もかもを失敗したからだ」

 平伏した道満に被さり、晴明が眉を顰めて涙をこぼした。

 
 
「我が子孫よ、おれが悪いのだ。もう一度拳を振るってくれ」
 
「やめろ!そんな事しても何の意味もない。某だって勘違いしたまま恨みを募らせて、アリスを害したんだ!某が殴られてやるからすっこんでろ!」
 
「灰が痛い思いをするのが嫌だと言っている。お前こそすっこんでろ!」


 
 ギャースカ言い合いを始めてしまった二人を見て、安倍さんがへたり込む。
 妃菜と飛鳥が安倍さんを抱きしめて、かたわらに避けてくれた。
 …安倍さん、きついだろうな…この顛末で一番可哀想なのは彼女だ。

 

「おーい、ちょっといい加減にして。痴話喧嘩見せられる俺たちの気持ち察してくれー」

「すまん…」
「申し訳ない…」

 さてなぁ、どうまとめるかだ。
 正直どうしたもんか困ってる。颯人がいれば意見が聞けるのにな。

 
 
「真幸、吾が今やお前の契約神だぞ。吾に相談せぬか」
 
「天照はややこしくなるからヤメテ。俺は颯人がずっと相棒だから。すまんけど」

「ひどい…吾のことは遊びなのか」
「僕達間男?一応偉い神様なのにその扱いなの?」
 
 
「はいそうです。伏見さん、どうしたらいいか正直わからんのだけど。
 親父は魂写し失敗してるからもうすぐ死ぬ。晴明も姿表ししてるけど多分追いかける。神様辞めるって、天照に辞表出してるんだ」
 
「は、あ、お、お待ちください。正直追いついていません。何もかも。神様も辞表とかあるんですか」

 
「うん、そうみたい。妃菜と飛鳥は安倍さんを頼むね。真神陰陽寮のみんなは集まってくれ。俺の眷属達はお戻り。」
 
「うん…」
「わかったわ…」
 
「「「「「「「応」」」」」」」

 

 みんな何とも言えない顔してる。
 安倍さんは完全に魂抜けてるし。
 はぁ、どうしたもんかな…。

 集まった真神陰陽量のみんなで、揃って重いため息を落とした。

  
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