黒虎の番

月夜の庭

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王妃の襲来

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『アンちゃんの所に帰りたい』


勇者達の仲間になったパパンの膝の上に寝かされ、大きな手で撫でられていました。


もちろん話し合い中の勇者の部屋から出してもらえてません。


『すまんな。ビアンカを送ってやりたいんだが、この話し合いが終わるまで待ってくれ』


『えぇ~っ?あちし1人でも帰れるにょ』


「「「『ダメだ(です)!』」」」


なぜか勇者と魔王とジュブナイルとパパンの息が合っているのか不思議です。


凄い勢いで止められた。


その様子を眠いのか時々船を漕ぎながら興味無さそうに欠伸をする魔道士とは対照的に、無表情と思われていた強面が引き攣りオロオロしている騎士かが気になっていました。


魔王と勇者を見比べては考え込み、パパンの顔色を伺いながら、あちしを見詰めたりしている。


「仲間に白虎が加わって、旅の目的が本当の悪の根源らしい黒虎の討伐と、それを解放したバカがいるのかを探る事に変わるんだよね。僕は構わないよ。そもそも僕はドウェイン師匠を手に掛ける気がないんだし」


「マービンに魔法を教えたのは、ドウェイン兄さんなんだ。少しでも動きやすい様に、勇者としてマービンを魔道士協会に指名したんだ」


欠伸を噛み殺しながらマービンと呼ばれた魔道士が、ドウェインの弟子であるとカミングアウトすると、エヴァンスがフォローして、ドウェインが笑っている。


特に驚くこともなく話を聞くジュブナイルとパパン。


ここで不安分子は、おそらく騎士だけかも知れません。


ドウェインが魔王だと知ってからの動揺が見えている。


「なぜ………なぜ魔王の弟が勇者になれるんだ?」


お腹に響くような、かなりの重低音が発せられる。


「僕は魔王と育ったけど、妖精や精霊達に好かれやすい人間だからね。教会に生まれて初めて行った時に、女神から祝福を受け勇者になったんだ。魔王を討伐する為では無く、世界の安定と平和の為にね。ドウェインを傷付け無くていい事は女神が保証しているから、勇者になる事を受け入れたんだ」


『女神様も魔王を世界の脅威とは考えてないんだね』


あちしの声が聞こえないのか、勇者に詰寄る騎士。


「それは王家や上層部の人間は把握しているのか?」


えぇ~っ?この世界を管理する女神様が、ドウェインは脅威じゃないと言っているのに無視して、王家や上層部……貴族の方が重要だとでも言うのかな?


『パパン、あの騎士……あちしの声が聞こえないみたい』


『未熟者だな』


『今ではラファエルも普通に会話出来るのに』


『これが最強の騎士とな?』


『…………まさかとは思うけど、パパンの声も聞こえないんじゃないかな』


『うむ。この中で我々と会話ができんのは……あ奴だけか』


あちしが発言しても、パパンが騎士としての実力を馬鹿にした発言をしても無反応の騎士。


『擬人化しているパパンの声が聞こえないのはヤバくない?』


白虎の時は魔力が強くないと聞き取りにくくても、擬人化している状態なら口からも声を発しているので、魔法が使えないとか魔力が極端に少ない人でなければパパンの声は聞こえる。


幼い子供でも、今のパパンなら会話ができるのです。


あちしとパパンの会話が聞えないであろう騎士が、なぜ注目されているのか分からず首を傾げて勇者達を見回している。


『この人………信仰心が薄い人かも』


『その根拠を聞いても良いか?』


『勇者が女神様に直接確認しているのに、それよりも王家や上層部の貴族の反応の方が気になるみたいだから、あんまり神様とか信じて無いのかな?って思ったの』


『なんほどのぉ。魔力ではなく、信仰心が薄いが故に女神に嫌われているのか』


『女神様と無関係で声が聞き取れないなら、ひょっとしたらパパンとあちしを聖獣として敬う気は無いんじゃないかな』


「それは流石に無礼極まりないですね」


ジュブナイルが発言した事で、騎士がビクリと肩を揺らして見ている。


「無礼とは誰の事だ?」


『『お前だ!』』


親子で息の合ったツッコミしちゃうぞ♡


聞こえないみたいだけど……チッ。


「ジェラルドは、本当に擬人化した白虎の声が聞こえていないんだな」


この騎士はジェラルドって言うらしいです。


勇者の言葉に、眉間の皺を深くしている。


「この国を守護して下さる白虎様と、その御息女でアンダルシア王妃様と聖獣契約しているビアンカ様の声が聞き取れない理由によっては、ジェラルドと行動を共にすることを拒否せざるおえませんね」


筋トレしていた汗が引いたものの、物凄く汗臭いジュブナイルがジェラルドを睨み付けていました。


「その ちっこいのは王妃様と聖獣契約しているのか」


『ちっこいのって、あちしの事?』


『ビアンカ以外で小柄な者はおらん』


膝抱っこの姿勢で見上げれば背が高くガッシリしているし、見たくてもジュブナイルはダチムチだし、勇者のエヴァンスも戦闘職だけあって鍛えられて細マッチョだし、騎士のジェラルドも顔は怖いけどジュブナイルの次にムキムキだし、魔王のドウェインはエヴァンスよりも、ひと回り程大きな身体をしているし、一番小柄なマービンも一般的には大きそうです。


『なんで魔道士のマービンまで体格が良いの?』


「あのね………心·技·体。強い意志と確かな技術を支えるのは、鍛えられた肉体なんだよ」


『マジで?!』


「大きな攻撃魔法を使う時に、身体が安定してないと照準がブレるんだよ。これ実体験ね」


『ふわぷにBODYのビアンカも鍛えるか?』


あちしがマービンと打ち解ける中、パパンが背中を両手で揉み始めた。


「止めてください!ビアンカ様の可愛らしさを半減させるのは!!」


『落ち着いて、ジュブナイル。パパンは、あちしをモフりたいだけだから』


黙って あちし達の遣り取りを見ていたジェラルドが、ピクリと肩を揺らして部屋の外を睨み付けていました。


ゆっくり彼が立ち上がって扉に近寄ると、タイミング良くノックされる。


部屋の中が覗けないように最小限の隙間しか開けずにジェラルドが外の人に対応していると、その人達を中に招き入れた。


白いローブを纏い深くフードを被っているけど、2人の男女の正体は、あちしには分かっていました。


パパンの膝から飛び出し、後から入ってきた人に抱き着いた。


『アンちゃん♡』


「ビアンカ♡帰りが遅いので心配しましたのよ」


アンちゃんとラファエルが登場しました。
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