64 / 127
第64話:文化祭対策
しおりを挟む
――――――――――学院高等部教室にて。スピアーズ伯爵家子息ダドリー視点。
「我らの力を見せ付けてやろうではないか!」
ホームルームの時間に声を張り上げる。
今の私はやる気に満ちているのだ。
『ダドリー、ボクは文化祭の経験がないから、君がクラスをまとめてくれないか?』
『はい、お任せを!』
クインシー殿下自身からの御指名だ。
ぜひとも期待に応え、文化祭のクラスの出し物を成功させなければならない。
が、我がクラスの面々からは、どうにも覇気が感じられないのだが。
「こんな出し物がやりたいという意見があったら、こぞって発言してくれ」
誰も手を挙げない。
これでは議論が進まないではないか。
あっ、誰か挙手した。
平民チビ聖女か……まあ誰もが口を噤んでいるよりマシか。
「高等部から編入したあたしは今まで文化祭を見たことがないから、どういうものかわからないんだよ。殿下も知らないと思う。うちのクラスでやりたいってことじゃなくてもいいんで、こういう出し物が定番だよ、過去こんなのが印象に残ってるっていうのがあったら教えて欲しいな」
ふむ、確かにそういうアプローチの方が意見は出やすいか。
殿下に情報を提供することにもなるしな。
「クラスの出し物だと劇や飲食店が定番なんだ」
「へー、劇は講堂でやるのかな?」
「講堂で演じるのが多いね。でも講堂で演じる出し物は、生徒会に時間を決められてしまうはずだ」
「そーか、講堂は一つしかないもんな
「教室での劇というケースもありますのよ」
「ああ、教室での人形劇とか紙芝居で、素晴らしいのを見たことがあるよ」
いっぺんに皆の口が軽くなった。
チビのおかげかと思うと癪だが、正直ありがたい。
話し合いが進展しそうだ。
「手品とかコントとかって手もあるね」
「飲食店やると売り上げが発生するじゃん? 売り上げは誰のものになるの?」
「先生、どうなるんですか?」
「そのクラスが自由に使っていい資金になります」
「マジか。店良くない?」
「ただし飲食店は定番なだけに、いい評価は出にくいですね。よほど工夫しないといけません。同じ店でも、刺繍クラブの展示即売は毎年いい評価なんですけれど。クラスの出し物の評価は個人のスコアにも若干影響します」
「そーか。むーん?」
「パルフェ君には考えがあったのかね?」
アルジャーノン先生がチビ聖女の意見を期待しているのか。
忌々しい。
「例えば『魔の森』の魔物を狩ってきて、その肉を販売すれば仕入れ値がタダになるじゃん? メッチャ儲かるかなと思ったけど、刺繍クラブの展示即売がいい評価ってことは、生徒の努力が目に見える形になってないとダメなのかなーと思ったから」
教室が騒然となる。
「魔物の肉?」
「あり得ない! 怖い!」
「あれ、そっちが問題なのか。カルチャーショックだった」
魔物の肉か。
私も食べたことはないが、魔物ではない鳥獣と味が変わる理由がないはずだ。
ならば元々美味い肉の鳥獣の魔物ならば美味いだろう。
「聖女様が狩った魔物の肉はオレも食べたことがあるけど、抜群に美味いよ」
「そうなのか? 食ってみたい」
「信じられないわ!」
「あたしの狩った魔物肉が美味しいのは魔物だからじゃないよ。きちんと血抜きしてあって新鮮だから」
話が文化祭からズレてしまっている。
時間のムダだ。
「魔物肉を売るという発想は、一応キープしとこうじゃないか。確かにいい評価に繋がらないと思われるのはマイナスポイントだが、仕入れ値がかからないのはいいことだ」
「「「「「「「「賛成!」」」」」」」」
「では他に何かやりたいことがあるという意見はあるか?」
いい雰囲気になってきた。
次々と意見が出るんじゃないか?
「私は劇をやってみたいです。出演しない人であっても、裏方で全員活躍できるのでいいと思います」
「コメディーでいいなら脚本書きまーす!」
「昼休みに確認したんだが、既に講堂で演じる時間は埋まってしまっていて取れなかったんだ」
「ええ?」
「それ先に言ってくださいよー」
「す、すまん」
そうだ、話し合いの前に言っておくべきだった。
私の失策だ。
「いやー、講堂が取れなかったのって、あたし達の始動が遅かったせいでしょ? クラス全体の責任であって、ダドリー君のせいじゃないわ。もう講堂は使えないってことまで調べてくれてるんだからいいじゃん。これ以上ムダな議論しなくていい」
「まあそうね」
屈辱!
平民に助け舟を出されるとはっ!
「ダドリー君、となると教室での出し物限定になるのかな?」
「というわけではないが、自クラスの教室以外の場所だと許可が必要になる。実際に許可が取れるかは確認してみないとわからないな」
「準備が後手に回ってるのに、教室外を使う企画立てて許可取ってる暇はないな。なら教室を使う出し物に限定して考えよう。いいかな?」
「「「「「「「「異議なし!」」」」」」」」
どうして平民が仕切っているのだ!
それは私の役割だ!
「じゃんじゃん言いたいこと言ってね。後で文句言ったって遅いぞー」
「あの、私クラブと講義と両方で刺繍の作品を提出しなければいけないんです。あんまりクラスの出し物に時間を割けなくて……」
「君だけじゃない。言い訳にならんよ」
「そ、そんな……」
「ちょっと待った! 今年は全員文化祭準備の要領がわからんから、時間配分どうすりゃいいかってのは皆が不安だと思うよ。クラスの出し物はなるべく時間かからないよう考えようじゃないか」
「「「「「「「「異議なし!」」」」」」」」
平民聖女の指揮下で方向性がどんどん定まっていく。
何てことだ。
「五分くらい潰せる話芸なり替え歌なりのネタを全員が仕込んでおいて、順番に披露するってのはどうかな?」
「一年一組ミニ劇場か。全員参加できていいねえ」
「一組でしかできないのはパルフェ嬢の魔法だよ。そっちを押し出そう。浮遊魔法で空中遊泳なんてのは?」
「あたしだって合唱やクラブで抜けなきゃいかんもん。そこまで頼られてもムリだぞ?」
「あっ、そうか」
「いっそのこと各クラス・クラブ等の出し物を全部チェックして、案内所を開設するって手もあるぜ」
チビ平民が仕切り始めてからどんどんアイデアが出てくるじゃないか。
最初あんなにだんまりだったのに。
悔しい、私と何が違うんだ。
「ダドリー君も何かアイデアない?」
「えっ?」
「責任持って文化祭のクラスリーダーやろうとしてくれてたじゃん。考えがあるんじゃないの?」
ここで私に振ってくれるのか。
皆の視線が集まる。
実はアイデアはなくもない。
「飲食店がいい。仕入れと販売だけだから、忙しいのは文化祭直前と当日のみというメリットがかなり大きい」
「わかる。でも飲食店は評価が低いって話じゃなかったっけ? それでいいん?」
「評価が高くなるだろう裏技がある」
「どんな?」
「売り上げを全てボランティア団体や孤児院に寄付する」
再びクラスが騒然とする。
「そーきたか」
「いや、それは持ち出しが多くなり過ぎますわ」
「普通ならな。しかし先ほどの魔物肉の話。仕入れがタダになるのなら……」
「十分可能です!」
「もっといい意見ある人いる?」
いない。
そりゃそうだろう。
アルジャーノン先生も満足そうだ。
「よーし、決まり! 魔物肉を売って売り上げを寄付しまーす!」
「「「「「「「「パチパチパチパチ!」」」」」」」」
私の意見が通った!
達成感が半端ない!
嬉しい!
「お肉をそのまま売るか調理して売るのがいいのか、その辺は試食してから考えようか。次のお休みの日に魔物狩りするから、興味ある人は聖教会本部礼拝堂まで来てね」
「我らの力を見せ付けてやろうではないか!」
ホームルームの時間に声を張り上げる。
今の私はやる気に満ちているのだ。
『ダドリー、ボクは文化祭の経験がないから、君がクラスをまとめてくれないか?』
『はい、お任せを!』
クインシー殿下自身からの御指名だ。
ぜひとも期待に応え、文化祭のクラスの出し物を成功させなければならない。
が、我がクラスの面々からは、どうにも覇気が感じられないのだが。
「こんな出し物がやりたいという意見があったら、こぞって発言してくれ」
誰も手を挙げない。
これでは議論が進まないではないか。
あっ、誰か挙手した。
平民チビ聖女か……まあ誰もが口を噤んでいるよりマシか。
「高等部から編入したあたしは今まで文化祭を見たことがないから、どういうものかわからないんだよ。殿下も知らないと思う。うちのクラスでやりたいってことじゃなくてもいいんで、こういう出し物が定番だよ、過去こんなのが印象に残ってるっていうのがあったら教えて欲しいな」
ふむ、確かにそういうアプローチの方が意見は出やすいか。
殿下に情報を提供することにもなるしな。
「クラスの出し物だと劇や飲食店が定番なんだ」
「へー、劇は講堂でやるのかな?」
「講堂で演じるのが多いね。でも講堂で演じる出し物は、生徒会に時間を決められてしまうはずだ」
「そーか、講堂は一つしかないもんな
「教室での劇というケースもありますのよ」
「ああ、教室での人形劇とか紙芝居で、素晴らしいのを見たことがあるよ」
いっぺんに皆の口が軽くなった。
チビのおかげかと思うと癪だが、正直ありがたい。
話し合いが進展しそうだ。
「手品とかコントとかって手もあるね」
「飲食店やると売り上げが発生するじゃん? 売り上げは誰のものになるの?」
「先生、どうなるんですか?」
「そのクラスが自由に使っていい資金になります」
「マジか。店良くない?」
「ただし飲食店は定番なだけに、いい評価は出にくいですね。よほど工夫しないといけません。同じ店でも、刺繍クラブの展示即売は毎年いい評価なんですけれど。クラスの出し物の評価は個人のスコアにも若干影響します」
「そーか。むーん?」
「パルフェ君には考えがあったのかね?」
アルジャーノン先生がチビ聖女の意見を期待しているのか。
忌々しい。
「例えば『魔の森』の魔物を狩ってきて、その肉を販売すれば仕入れ値がタダになるじゃん? メッチャ儲かるかなと思ったけど、刺繍クラブの展示即売がいい評価ってことは、生徒の努力が目に見える形になってないとダメなのかなーと思ったから」
教室が騒然となる。
「魔物の肉?」
「あり得ない! 怖い!」
「あれ、そっちが問題なのか。カルチャーショックだった」
魔物の肉か。
私も食べたことはないが、魔物ではない鳥獣と味が変わる理由がないはずだ。
ならば元々美味い肉の鳥獣の魔物ならば美味いだろう。
「聖女様が狩った魔物の肉はオレも食べたことがあるけど、抜群に美味いよ」
「そうなのか? 食ってみたい」
「信じられないわ!」
「あたしの狩った魔物肉が美味しいのは魔物だからじゃないよ。きちんと血抜きしてあって新鮮だから」
話が文化祭からズレてしまっている。
時間のムダだ。
「魔物肉を売るという発想は、一応キープしとこうじゃないか。確かにいい評価に繋がらないと思われるのはマイナスポイントだが、仕入れ値がかからないのはいいことだ」
「「「「「「「「賛成!」」」」」」」」
「では他に何かやりたいことがあるという意見はあるか?」
いい雰囲気になってきた。
次々と意見が出るんじゃないか?
「私は劇をやってみたいです。出演しない人であっても、裏方で全員活躍できるのでいいと思います」
「コメディーでいいなら脚本書きまーす!」
「昼休みに確認したんだが、既に講堂で演じる時間は埋まってしまっていて取れなかったんだ」
「ええ?」
「それ先に言ってくださいよー」
「す、すまん」
そうだ、話し合いの前に言っておくべきだった。
私の失策だ。
「いやー、講堂が取れなかったのって、あたし達の始動が遅かったせいでしょ? クラス全体の責任であって、ダドリー君のせいじゃないわ。もう講堂は使えないってことまで調べてくれてるんだからいいじゃん。これ以上ムダな議論しなくていい」
「まあそうね」
屈辱!
平民に助け舟を出されるとはっ!
「ダドリー君、となると教室での出し物限定になるのかな?」
「というわけではないが、自クラスの教室以外の場所だと許可が必要になる。実際に許可が取れるかは確認してみないとわからないな」
「準備が後手に回ってるのに、教室外を使う企画立てて許可取ってる暇はないな。なら教室を使う出し物に限定して考えよう。いいかな?」
「「「「「「「「異議なし!」」」」」」」」
どうして平民が仕切っているのだ!
それは私の役割だ!
「じゃんじゃん言いたいこと言ってね。後で文句言ったって遅いぞー」
「あの、私クラブと講義と両方で刺繍の作品を提出しなければいけないんです。あんまりクラスの出し物に時間を割けなくて……」
「君だけじゃない。言い訳にならんよ」
「そ、そんな……」
「ちょっと待った! 今年は全員文化祭準備の要領がわからんから、時間配分どうすりゃいいかってのは皆が不安だと思うよ。クラスの出し物はなるべく時間かからないよう考えようじゃないか」
「「「「「「「「異議なし!」」」」」」」」
平民聖女の指揮下で方向性がどんどん定まっていく。
何てことだ。
「五分くらい潰せる話芸なり替え歌なりのネタを全員が仕込んでおいて、順番に披露するってのはどうかな?」
「一年一組ミニ劇場か。全員参加できていいねえ」
「一組でしかできないのはパルフェ嬢の魔法だよ。そっちを押し出そう。浮遊魔法で空中遊泳なんてのは?」
「あたしだって合唱やクラブで抜けなきゃいかんもん。そこまで頼られてもムリだぞ?」
「あっ、そうか」
「いっそのこと各クラス・クラブ等の出し物を全部チェックして、案内所を開設するって手もあるぜ」
チビ平民が仕切り始めてからどんどんアイデアが出てくるじゃないか。
最初あんなにだんまりだったのに。
悔しい、私と何が違うんだ。
「ダドリー君も何かアイデアない?」
「えっ?」
「責任持って文化祭のクラスリーダーやろうとしてくれてたじゃん。考えがあるんじゃないの?」
ここで私に振ってくれるのか。
皆の視線が集まる。
実はアイデアはなくもない。
「飲食店がいい。仕入れと販売だけだから、忙しいのは文化祭直前と当日のみというメリットがかなり大きい」
「わかる。でも飲食店は評価が低いって話じゃなかったっけ? それでいいん?」
「評価が高くなるだろう裏技がある」
「どんな?」
「売り上げを全てボランティア団体や孤児院に寄付する」
再びクラスが騒然とする。
「そーきたか」
「いや、それは持ち出しが多くなり過ぎますわ」
「普通ならな。しかし先ほどの魔物肉の話。仕入れがタダになるのなら……」
「十分可能です!」
「もっといい意見ある人いる?」
いない。
そりゃそうだろう。
アルジャーノン先生も満足そうだ。
「よーし、決まり! 魔物肉を売って売り上げを寄付しまーす!」
「「「「「「「「パチパチパチパチ!」」」」」」」」
私の意見が通った!
達成感が半端ない!
嬉しい!
「お肉をそのまま売るか調理して売るのがいいのか、その辺は試食してから考えようか。次のお休みの日に魔物狩りするから、興味ある人は聖教会本部礼拝堂まで来てね」
応援ありがとうございます!
2
お気に入りに追加
290
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる