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第99話:クインシー殿下の報告

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 ――――――――――王宮にて。クインシー殿下視点。

「カメハメハはどうであった?」

 父陛下にそう聞かれた。
 カメハメハへ里帰りしていたモアナ嬢を迎えに行く時、ボクも聖女様に連れて行ってもらい、見学してきたのだ。
 ウートレイドとは今までそれほど関わりのなかった南国だ。
 お父様も関心があるらしい。

「熱烈に歓迎されました」
「パルフェちゃんのおかげね?」
「はい」

 聖女様がモアナ嬢に何くれとなく構っている。
 だからモアナ嬢が馴染むのも共通語が上達するのも早かった。
 留学生としてさほど恥ずかしくないスコアだったとも聞いている。

「お父様お母様にお土産です」
「何だ、酒か?」

 カメハメハに着いたら用意してくれていたのだ。

「そうです。カメハメハは様々なフルーツが採れるそうで、それを原料にしたお酒が名物みたいです」
「ふうん、これもパルフェちゃんの差し金かしら?」
「えっ? いや、どうでしょう。周りの酒好きの人に飲んでもらって、評判を聞いてくれとは言っていました」
「妃よ、聖女パルフェの差し金とはどういう意味だ?」
「クインシーの周りの酒好きの人と言えば、陛下をはじめ影響力の大きい者に決まっていますからね。そのお酒を気に入れば輸入せよということになるでしょう?」
「つまりカメハメハとの交易を活発にしたいということか」
「そういう意図があるのでしょうね」

 そうだ、仲良くできる国とは仲良くしといた方がいいと聖女様は言っていた。

「今春帝国とカメハメハから留学生が来るということを最初に聞いたのは、ガルガン宮廷魔道士長からなんです。一年生の全過程が終了した日でしたが」
「ふむ?」
「その段階で聖女様は既に、個人的にカメハメハの子に興味があると言っていて」
「大国である帝国の留学生でなくてか」
「パルフェちゃんは帝国との関係修復が難しいと見ていたのでしょう」
「ボクもそういったニュアンスを感じました」

 聖女様は明け透けなようで言葉を選んでいる。
 突っ込んで聞けば教えてくれるだろうけど、それが不可能な内容であることも場面であることも多い。
 いや、それは相手が聖女様じゃなくても同じかもしれないな。
 受け手側が真意を察知しなければならない。

「聖女パルフェはやるではないか。他に何か言っていたことはないか?」
「……そういえば王都を双子都市化したいとも」
「「双子都市化?」」
「ガルガン宮廷魔道士長と転移魔法の実験をしていた日でした。商業を活発にするためには、王都の閉鎖性がダメだと。街中に入るのにあんな手続きが面倒じゃ、商人が来ようって気にならないと」
「そうだな。しかし『魔の森』があるから、王都コロネリアに厳しい検問は必要だ」
「はい。そこで王都に隣接して出入り自由な商業地区を作ればいいじゃないかと言っていたんです」
「それが双子都市構想か。面白い」

 本来は全ての街道が集まる王都コロネリアこそが大商業都市たるべきだ。
 しかし魔物や結界の事情がそれを阻害する。
 ならば街道のバイパスと商業地区を別に作ればいいという発想だ。
 ウートレイドと王都コロネリアは建国以来ずっとこの形だったから、誰も変えようとはしなかった。
 商業活性化もそうだが、王都の人口も今のままではこれ以上増やせないのだ。
 王都の改造はウートレイド全体の飛躍に繋がる。

「大変な予算がかかりますわよ?」
「わかってる」

 お父様はやる気のようだが、お母様に釘を刺されてる。
 実現は遠いだろうなあ。

「パルフェちゃんは可愛いだけでなくて本当に聡い子だわ」
「行動力もあるしな」
「クインシーの婚約者がああいう子で本当によかった」

 ボクもそう思う。
 聖女様以外のパートナーなんて考えられないなあ。
 守旧派の貴族の中には平民を王太子妃にすることに不満がある者もいるようだけど、いずれ聖女様は実力で黙らせていくと思う。

「先日聖女様も辺境区へ里帰りしたそうなんですよ」
「転移魔法でか?」
「はい。婚約の報告を兼ねてだそうです。便利ですよね」
「まったくだ。一度行ったことのあるところなら転移できるという報告を受けているが、その通りなのか?」
「正確には、安全に転移するためには一度行く必要があるそうです。既に行ったことのある場所の現在の状況を確認する魔法があるそうで」

 今どうかを知ってから転移するから、事故の可能性を限りなく小さくすることができると教えてもらった。

「パルフェちゃんは飛行魔法も使えますものね」
「そうですね。併用すれば世界各国に転移できるようになるのでしょうけれども、不法入国になっちゃうからなと笑っていました」

 カメハメハみたいに入国手続きのいらない国ばかりじゃないから。

「それでお土産に魔石をもらったんです」
「辺境土産か。ほう? 素晴らしい輝きではないか」
「グリーンドラゴンの魔石だとのことです」
「ドラゴンの魔石ともなると滅多に出回らぬぞ。高価なのだろう?」
「ハテレス辺境区では比較的安価で手に入るのかしら?」
「いえ、里帰りした際にグリーンドラゴンが出現していて、辺境区の住民に被害を及ぼそうとしていたそうなんです。そのドラゴンを退治して得たものだからタダだよ、と笑っていました」
「「えっ?」」

 そりゃそういう反応になる。
 ボクだって聞いた時、聖女様何言ってるのかと思ったもの。

「パルフェちゃんはドラゴンをやっつけられるんですの? 一人で?」
「一口にドラゴンと言っても、種によって強さが全然違うんだそうです。通常真竜種の中だとアースドラゴンはすごく強いらしいです。でもグリーンドラゴンは亜竜種のワイバーンと大して変わらないくらいの強さしかないから、どうにでもなると」
「ワイバーンとな」

 お父様が呆れている。
 気持ちはわかる。

「パルフェちゃんは歴戦の勇士みたいね」
「予もドラゴンを見てみたいな。そうだ、聖女パルフェの御両親に挨拶しがてら、ドラゴンを見せてもらおう」
「いい加減になさいませ! いかに辺境区とはいえ、ドラゴンがそんなしょっちゅう出現するはずはないでしょう!」

 ごもっとも。
 ドラゴンクラスの魔物が頻繁に出るような地区に、普通の人は住もうと思わない。

「辺境へはアナスタシウス叔父が同行したとのことです」
「ああ、大司教猊下はパルフェちゃんの後見人ですからね。御両親に御挨拶するのは当然でしょう」
「待て、ではアナスタシウスはドラゴンを見ているのか?」
「ええと、はい」
「羨ましい。実に羨ましい! 一度でいいからドラゴンを見てみたい!」

 お父様は偉大な王だと思うけど、こういうところは子供っぽい。

「……ドラゴンはムリだと思いますけど、『魔の森』の魔物退治に同行させてもらったらいかがですか? 聖女様の大変に見事な魔物狩りの技が見られますよ」
「それほどか? むう、では『魔の森』の魔物で我慢するか」
「口実がないでしょう。いきなり陛下が行ったら、聖騎士達が迷惑しますよ」
「そこは一昨年昨年と自然派教団の不穏な行動があった。よって『魔の森』視察の必要性があるとでも言えば大丈夫だと思います。聖女様は特に嫌がらないと思いますし」

 お父様の心境を察して接待してくれると思うし。

「おお、クインシーそなた悪知恵が働くようになったではないか!」

 あんまり嬉しくない褒め言葉だなあ。
 お母様がため息を吐く。

「……まあいいでしょう。パルフェちゃんも陛下と話したいことがあるかもしれませんからね」
「スカーレットの許しが出たぞ! 聖教会へ触れを出せ!」

 お父様が行くとなるとボクは留守番か。
 つまらないなあ。
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