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第十三章 雌伏
2 手がかり ※
しおりを挟むインテス様がご自分の魔導士たちと外へ出られる日が多くなり、シディのほうは暇になった……ということはなかった。なぜならシディはシディで、まだ中途半端な状態の勉強を続行させねばならなかったからだ。
単純に魔力は大きく増大したとはいえ、それをうまく操作する技術はまだまだだ。魔道の勉強以外にも、読み書きや歴史や政治的な知識など、シディには不足している分野が山ほどある。
というわけで、隠れ家で留守番をしている間、シディは主にラシェルタやティガリエに師事してさまざまなことを学ぶことになった。
インテス様がお戻りになると、そこで起こった様々なことを報告してくださる。シディ個人の勉強に関しては、夕食や入浴などが済んでようやくふたりきりになれてからお伝えすることが多かった。
とはいえもちろん、インテス様がお疲れのように見えれば遠慮した。できればそんなことよりほんの一瞬でもいいから長くこの方と触れあっていたかったからだ。
隣の部屋にティガリエとラシェルタがいることは分かっていたけれど、シディはやっぱり欲望を我慢することはできなかった。この方と肌と肌を触れあわせているときにこの行為を我慢するなんて耐えられない。
が、一生懸命に声を我慢していたらそれはそれでインテス様に気を遣わせてしまうらしかった。
「そんなにつらいなら、無理にしなくてもいいんだぞ、シディ」
「んっ……や! やですっ……するのおっ」
インテス様の腰に馬乗りになり、太くて大きいのをしっかりとそこに咥え込んだ状態で、シディは勝手に浮かんでくる涙をふり落としつつも腰をふるのをやめなかった。
いくら声を我慢してみたところで、接合した場所から溢れ出る淫靡な水音までは抑えられない。どう考えても、壁の向こうのティガリエの耳はこれを拾っているはずだ。それとわかっていて翌朝顔を合わせてもいっさい表情など変える男ではないが、気恥ずかしくないかと言われればやはり「否」と答えざるを得ない。
だが、それでも我慢はできなかった。
そうでなくてもこの人が《闇》に囚われて離ればなれになり、その後も《クジラ》での航海の間はほぼ禁欲の日々だったのだ。インテス様の自制心には驚かされるばかりだけれど、シディにはとてもその真似はできなかった。本当はずっとずっとこの方に抱いて欲しかったのだ。
体位を入れ替え、後ろから突く形になると、インテス様はしばしばシディのしっぽをそっと握ってほおずりしてくださった。
「本当にふさふさでいい気持ちだ、そなたのこれは」
「んっ、あ……あっ、あっ……!」
そんなことを言いつつ、腰の動きは止めてくださらない。だからろくな返事もできなかった。
最後は何を叫んでいるかもよくわからなくなり、脳の中心までどろどろに溶かされて寝台に倒れ込む。インテス様だってお疲れだろうに……とは思うのに、やっぱり共寝をすると我慢できなくなることが多かった。
行為のあと、身体を清めてふたたび共寝をするとき、髪をなでられながら今日の勉強のことについて訊ねられる。ふにゃふにゃになって半分目も閉じたような状態で、シディはいつもどうにかこうにか報告するのだった。
「きょうはね、らしぇるたと、国政のれきしについて、べんきょうしましたあ」とか「きょうはてぃがりえとね、武術のきそをやりましたあ」とか。
インテス様による「自軍勢力拡大活動」については、順調とまではいかなかったが少しずつ進んでいるのだという。皇帝陛下が急に、こんなにも長く床に就いてしまったことをいぶかしく思っている貴族たちは多かったし、人望のないあの皇太子殿下には辟易しているという御仁も多かったからである。
魔塔にいるセネクス翁による《目》と《耳》は大いに活躍していた。記録は詳細にまとめられ、守られてセネクス翁とインテス様、両方の手元に保管されている。
皇帝の寝室につとめていた下働きの女官のうち、数名が、このところ姿が見えなくなっているという噂があり、インテス様たちは彼らの消息を追っているとのことだった。
「暇を願い出て故郷に帰ったということになっているわりに、当人の故郷を訪ねてみると戻っていないんだ。怪しすぎるだろう?」
「そ……そうですね」
聞いただけでもイヤな予感がする。そこから腐敗臭がぷんぷんしているような気がするほどだ。
「あとは皇帝に何を盛っていたのかが明らかになればいいのだがな」
そのあたりは、薬を盛っていた本人でなくては恐らくわかるまいと思われているそうだ。
シディはちょっと考えてから訊いてみた。
「あのう……それ、どんな匂いのする薬だったのか、わかりませんか?」
「うん。側付きの侍従などによると、その者が皇帝の寝室に出入りしたあとは、やや甘ったるい匂いがしたという話があるそうだ」
「甘ったるい……」
ううん、と考え込む。
そのとき急に症状が現れるわけではない。しばらく時間をかけて少しずつ摂取するにつれて、次第に眠る時間が長くなっていき、やがて昏睡に至る──そんな薬。
(なにか役に立てることはないのかな)
ううん、とさらに考え込む。薬の知識なんてほとんどない自分が役に立てるはずもないことはわかっているが、こんな場所でひたすらにみんなを待ち続けているのは耐えられない。なにか役に立てないか? なにか──
そこでハッと思い至った。
(そうだ……!)
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