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「マレーナ、それで今日はなんの用なの?」
勝手に家まで入って来て、嫌味を言いにきたなんてないよね?
「私、今日は結婚式の花嫁衣装を縫うのが忙しいの。だから毎日ダラダラ過ごしているリーナに仕事を持って来たのよ。感謝してよね」
「はっ? 私、仕事いらない」
仕事する時間に春画を描いてワグナーさんに売った方がいいお金になる。『とあるお方』からの資金援助が今はあるけれど、いつ気まぐれになくなるかもしれないから、ハンナお母さんと貯金をきちんとこれからも続けていこうと話合った。
第一、『とあるお方』と言うのがいったいどんな目的で里奈たちに援助をしてくれるのか理由が分からない。ハンナお母さんはそれを聞くことをすっかり忘れていた。
多分里奈がジョンリー陛下や王子たちの側にいると都合が悪いのだろう、とハンナお母さんに言ったら納得していた。
「なに言っているの? あなたは一応この村の一員になったのよ。この村の女たちは妊婦でも野良仕事をしているのよ。あなた、恥ずかしくないの? 将来の村長の嫁として、あなたに仕事を与えるわ。
これは村長の命令よ」
村長の嫁に命令する権限なんてないと知っている。でも短い間でマレーナの性格は知っている。里奈が仕事を引き受けるまでこの家から出て行かないし、ずっと文句を言い続ける。こんなところまでマーシャさんにそっくり。
「重労働はできないわ」
「はっ、そんなの分かっているわよ。ただ森に行ってスグリエの草を籠いっぱいに摘んで来るだけよ。子どもだってできるお手伝いよ」
スグリエの草はこの村の隣の森にたくさん群生している熱冷ましの薬草だ。女や子どもたちは薬草を乾燥させて、週一で村に来る商人に売って小遣いを貯める。
「森の入り口の方は子どもたちに残しておいてよね! 少し行った泉の辺りがいいよ。ほら、早く行かないと日が暮れる前に戻って来れなくなるわよ」
と、籠を押し付けて、家から引っ張り出された。
「ハンナお母さんと数日前に採集に行ったから大丈夫だよね。籠の中に昼食を入れてあるから」
(ん?)
マレーナにしてはなんかおかしい。こんな風に気を使うことなど今までになかった。
もしかしたら自分の仕事を押し付けて、ちょっとは罪悪感があるのかな? どっちにしろ気分転換に薬草の採集はいいかも。
数日前にハンナお母さんと一緒に森へ行った時に湖に行った。透明な泉の水はおいしかったし、なにより幻想的な景色で一目で気に入った場所だった。
散歩がてらに採集に行こう。
泉までの道は一本道で迷子にならない。そしてこの森は魔獣がほとんどいなくて安全だ。でもたまに魔獣が出るけれど、領主さまが数ヶ月に一回兵士たちを派遣して森を調査してくれている、とハンナお母さんが教えてくれた。
泉に着いて昼食を食べた。ライ麦のパンにクルミのバターが塗ってあった。籠の中にあったコップに汲んだ泉の水と一緒に食べた。
味は素朴だけれど、ここの景色を見ながら食べるとおいしく感じる。
食後は少し休んでスグリエの草を集めた。
そろそろ籠の中がいっぱいになりはじめた頃に、けたたましい馬の足音が遠くから響いた。里奈は慌てて地面から立ち上がり音の方を見る。
いくらここがなにもない平和な村でも、なにが起こるか分からない。だから咄嗟に隠れようと辺りを見渡し、近くにある大木の後ろに隠れた。
三頭の馬に乗った黒マントですっぽりと被った人たちが泉のほとりで止まった。一人の人が先頭で止まった馬上の人が降りるのを手伝った。
馬たちは泉の水を飲んでいる。
「そこの者、出ておいで」
女の人に声をかけられた。
(まさか、里奈のことじゃないないよね……)
里奈は息の根を殺してじっとした。
「おい、出て来い。姫さまの命令を聞けないのか!?」
男の罵声が聞こえて、ますます怖くて足が動かなかった。
「そんなに怒鳴りつけると、ますます出れなくなれるわ。ねえ、リーナ。わたくしはメリーナよ」
(なっ、なんで?)
里奈にはどうしたらいいか分からなくなって、そのまま地面に座りこんだ。
「そう仕方ないわ。わたくしから、そちらへ行くわ」
「メリーナさま、危ないです!」
もう一人の男の人がメリーナさまに言った。
「大丈夫よ。彼女は非人よ。それにあなたたちがいるわ。なによりわたくしは魔法が使えてよ」
メリーナさまが里奈が座っている場所の前で止まった。
勝手に家まで入って来て、嫌味を言いにきたなんてないよね?
「私、今日は結婚式の花嫁衣装を縫うのが忙しいの。だから毎日ダラダラ過ごしているリーナに仕事を持って来たのよ。感謝してよね」
「はっ? 私、仕事いらない」
仕事する時間に春画を描いてワグナーさんに売った方がいいお金になる。『とあるお方』からの資金援助が今はあるけれど、いつ気まぐれになくなるかもしれないから、ハンナお母さんと貯金をきちんとこれからも続けていこうと話合った。
第一、『とあるお方』と言うのがいったいどんな目的で里奈たちに援助をしてくれるのか理由が分からない。ハンナお母さんはそれを聞くことをすっかり忘れていた。
多分里奈がジョンリー陛下や王子たちの側にいると都合が悪いのだろう、とハンナお母さんに言ったら納得していた。
「なに言っているの? あなたは一応この村の一員になったのよ。この村の女たちは妊婦でも野良仕事をしているのよ。あなた、恥ずかしくないの? 将来の村長の嫁として、あなたに仕事を与えるわ。
これは村長の命令よ」
村長の嫁に命令する権限なんてないと知っている。でも短い間でマレーナの性格は知っている。里奈が仕事を引き受けるまでこの家から出て行かないし、ずっと文句を言い続ける。こんなところまでマーシャさんにそっくり。
「重労働はできないわ」
「はっ、そんなの分かっているわよ。ただ森に行ってスグリエの草を籠いっぱいに摘んで来るだけよ。子どもだってできるお手伝いよ」
スグリエの草はこの村の隣の森にたくさん群生している熱冷ましの薬草だ。女や子どもたちは薬草を乾燥させて、週一で村に来る商人に売って小遣いを貯める。
「森の入り口の方は子どもたちに残しておいてよね! 少し行った泉の辺りがいいよ。ほら、早く行かないと日が暮れる前に戻って来れなくなるわよ」
と、籠を押し付けて、家から引っ張り出された。
「ハンナお母さんと数日前に採集に行ったから大丈夫だよね。籠の中に昼食を入れてあるから」
(ん?)
マレーナにしてはなんかおかしい。こんな風に気を使うことなど今までになかった。
もしかしたら自分の仕事を押し付けて、ちょっとは罪悪感があるのかな? どっちにしろ気分転換に薬草の採集はいいかも。
数日前にハンナお母さんと一緒に森へ行った時に湖に行った。透明な泉の水はおいしかったし、なにより幻想的な景色で一目で気に入った場所だった。
散歩がてらに採集に行こう。
泉までの道は一本道で迷子にならない。そしてこの森は魔獣がほとんどいなくて安全だ。でもたまに魔獣が出るけれど、領主さまが数ヶ月に一回兵士たちを派遣して森を調査してくれている、とハンナお母さんが教えてくれた。
泉に着いて昼食を食べた。ライ麦のパンにクルミのバターが塗ってあった。籠の中にあったコップに汲んだ泉の水と一緒に食べた。
味は素朴だけれど、ここの景色を見ながら食べるとおいしく感じる。
食後は少し休んでスグリエの草を集めた。
そろそろ籠の中がいっぱいになりはじめた頃に、けたたましい馬の足音が遠くから響いた。里奈は慌てて地面から立ち上がり音の方を見る。
いくらここがなにもない平和な村でも、なにが起こるか分からない。だから咄嗟に隠れようと辺りを見渡し、近くにある大木の後ろに隠れた。
三頭の馬に乗った黒マントですっぽりと被った人たちが泉のほとりで止まった。一人の人が先頭で止まった馬上の人が降りるのを手伝った。
馬たちは泉の水を飲んでいる。
「そこの者、出ておいで」
女の人に声をかけられた。
(まさか、里奈のことじゃないないよね……)
里奈は息の根を殺してじっとした。
「おい、出て来い。姫さまの命令を聞けないのか!?」
男の罵声が聞こえて、ますます怖くて足が動かなかった。
「そんなに怒鳴りつけると、ますます出れなくなれるわ。ねえ、リーナ。わたくしはメリーナよ」
(なっ、なんで?)
里奈にはどうしたらいいか分からなくなって、そのまま地面に座りこんだ。
「そう仕方ないわ。わたくしから、そちらへ行くわ」
「メリーナさま、危ないです!」
もう一人の男の人がメリーナさまに言った。
「大丈夫よ。彼女は非人よ。それにあなたたちがいるわ。なによりわたくしは魔法が使えてよ」
メリーナさまが里奈が座っている場所の前で止まった。
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