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西条さんへの相談
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「ぱぱーっ、みてみてぇー!」
西条さんが部屋から出てきた音が聞こえたのか、碧斗くんと琳がお絵描きしたスケッチブックを持って駆け寄っていく。背の高い西条さんが見えるように頭の上でスケッチブックを開いてみせる碧斗くんと琳が可愛い。
「おお、上手に描けたな」
褒めながらさっと二人を両腕に抱きかかえる西条さんの腕力に驚かされる。目の前で二人から絵についての説明を受けながら、西条さんの視線が僕のほうを見る。一瞬ドキッとしたけれど、その視線の先がフライパンだと気づいた。
「そろそろお昼だから、手を洗いに行こうか」
「はーい!」
出来上がった炒飯を見て、二人を連れてそのまま手洗いに連れて行ってくれるのが嬉しい。
三人が手洗いに行っている間に炒飯を盛り付け、お皿とカトラリーを並べながら昼食もとりあえず西条さんの隣に自分の皿を並べておいた。
何か言われたらいつもの場所に戻しておこうと思ったけれど、子どもたちと戻ってきた西条さんは僕のお皿の場所を見ても特に何も言わなかった。
今日の昼食は冷凍ご飯で作った炒飯とワカメスープ。
そしてさっと蒸しておいたエビシュウマイ。
「それじゃあ食べようか」
西条さんの声掛けで子どもたちがいただきまーすと嬉しそうに声をあげる。
琳はこの一週間でスプーンならだいぶ左手でも使えるようになったけれど、隣に座る碧斗くんが甲斐甲斐しくお世話してくれるから、口を開けていればいつでもご飯が食べられると覚えてしまったみたい。
ああ、二人で暮らすようになったら……と思うと、ちょっと不安が残る。
でも嬉しそうにお世話をしてくれる碧斗くんを見ていると甘やかさないでとは言いづらい。
この生活もいつまで続けられるんだろう。
とりあえず手は今度の診察で大丈夫だと言われそうだけど、あれが解決しないことには家には帰れない。
でもいい加減一度はあの家に戻って、冷蔵庫の食材も片付けておかないとな。
冷凍庫の中のものは大丈夫だろうけど、冷蔵庫に入れていた牛乳や作り置きしていたいくつかのものはもう処分しないといけないだろう。あとは郵便も見に行かないと。そろそろ琳絡みで役所から郵便が届く頃だ。
あの手続きを忘れるわけにはいかない。
後で西条さんに相談してみよう。
食事を終えて、片付けをしている間に西条さんが碧斗くんと琳にお昼寝をさせてくれる。
「もう寝たよ、二人とも」
サークルから出てきた西条さんは、コンロの油を拭いていた僕のところにさっとやってきた。
「私がやろう」
僕が持っていたコンロ用のクロスで掃除をしてくれようとする。
「あ、大丈夫です。もう終わりましたから」
「いつもそこまで綺麗にしてくれているんだな」
「毎回やったほうが汚れが落ちやすいんですよ」
これは本当だ。毎回の掃除は面倒だけど溜めれば溜めるだけこびりついて取れなくなってしまう。
「いつも綺麗な状態を保ってくれるおかげで気持ちがいいよ。ありがとう」
「いえ、そんな……っ」
「コーヒーを淹れるよ。子どもたちも寝たし、少しのんびりしよう」
手際よくコーヒーを落としていく西条さんの姿にときめいてしまう自分に驚きつつ、僕はソファーで休ませてもらった。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
渡されたコーヒーは僕好みのミルク入り。
西条さんはブラックだ。
隣同士に座って、コーヒーを飲む。この時間がすごく落ち着く。
「あの、さぃ……悠臣さん」
心の中ではいつも西条さんだと思っているから呼びかける時につい間違ってしまいそうになる。
前に、西条さんと呼んだらお仕置きだと言われたから、なんだか緊張してしまう。
「どうかした?」
「あの、自宅に戻りたいんですけど……」
「えっ? どうして?」
どうして? そう尋ねられるとは思ってなかった。
なんて理由を言ったらいいんだろう?
食材が、とか、郵便が、とかいろいろ理由はあるのだけど、その時はなぜか一言で返さないといけないような気がして、言葉に詰まってしまった。
「遥くんと琳くんをみすみす危険に晒すようなことはできない。どうしても帰りたい理由があるなら教えてもらえないだろうか?」
西条さんに真剣な眼差しで見つめられて戸惑ってしまう。
「えっと……どうしても、というか……あの、冷蔵庫の中とか、郵便が気になって……」
「えっ? れい、ぞうこ?」
「はい。中身を一度処分しに行きたくてあと、届いている郵便も確認したくて……」
僕の言葉に西条さんは呆気にとられていたけれど、全てを話そうと思って理由を全部言ってみた。
すると、西条さんはなるほどねと笑いながら一人で納得しているようだった。
「確かに郵便は奴に情報を抜かれたら危ないな。今から私がアパートに行って郵便は回収しておこう。冷蔵庫の中身はそうだな……火曜日の買い物の帰りにでも寄ってみようか。家の中に入るのは、奴が見張っていることも考えて私と一緒のほうがいい」
「悠臣さんが、今から行ってくださるんですか?」
「ああ、郵便だけすぐに取ってくるよ。鍵はある?」
「あの、暗証番号で……」
四桁の暗証番号を伝えると、西条さんはすぐに立ち上がり出かける支度を始めた。
「すぐに戻ってくるから絶対に部屋から出ないように」
それだけ何度か念を押すように言うと、あっという間に出かけてしまった。
子どもたちも眠っている、この静かな部屋で僕は少し冷めてしまったコーヒーを喉に流した。
西条さんが部屋から出てきた音が聞こえたのか、碧斗くんと琳がお絵描きしたスケッチブックを持って駆け寄っていく。背の高い西条さんが見えるように頭の上でスケッチブックを開いてみせる碧斗くんと琳が可愛い。
「おお、上手に描けたな」
褒めながらさっと二人を両腕に抱きかかえる西条さんの腕力に驚かされる。目の前で二人から絵についての説明を受けながら、西条さんの視線が僕のほうを見る。一瞬ドキッとしたけれど、その視線の先がフライパンだと気づいた。
「そろそろお昼だから、手を洗いに行こうか」
「はーい!」
出来上がった炒飯を見て、二人を連れてそのまま手洗いに連れて行ってくれるのが嬉しい。
三人が手洗いに行っている間に炒飯を盛り付け、お皿とカトラリーを並べながら昼食もとりあえず西条さんの隣に自分の皿を並べておいた。
何か言われたらいつもの場所に戻しておこうと思ったけれど、子どもたちと戻ってきた西条さんは僕のお皿の場所を見ても特に何も言わなかった。
今日の昼食は冷凍ご飯で作った炒飯とワカメスープ。
そしてさっと蒸しておいたエビシュウマイ。
「それじゃあ食べようか」
西条さんの声掛けで子どもたちがいただきまーすと嬉しそうに声をあげる。
琳はこの一週間でスプーンならだいぶ左手でも使えるようになったけれど、隣に座る碧斗くんが甲斐甲斐しくお世話してくれるから、口を開けていればいつでもご飯が食べられると覚えてしまったみたい。
ああ、二人で暮らすようになったら……と思うと、ちょっと不安が残る。
でも嬉しそうにお世話をしてくれる碧斗くんを見ていると甘やかさないでとは言いづらい。
この生活もいつまで続けられるんだろう。
とりあえず手は今度の診察で大丈夫だと言われそうだけど、あれが解決しないことには家には帰れない。
でもいい加減一度はあの家に戻って、冷蔵庫の食材も片付けておかないとな。
冷凍庫の中のものは大丈夫だろうけど、冷蔵庫に入れていた牛乳や作り置きしていたいくつかのものはもう処分しないといけないだろう。あとは郵便も見に行かないと。そろそろ琳絡みで役所から郵便が届く頃だ。
あの手続きを忘れるわけにはいかない。
後で西条さんに相談してみよう。
食事を終えて、片付けをしている間に西条さんが碧斗くんと琳にお昼寝をさせてくれる。
「もう寝たよ、二人とも」
サークルから出てきた西条さんは、コンロの油を拭いていた僕のところにさっとやってきた。
「私がやろう」
僕が持っていたコンロ用のクロスで掃除をしてくれようとする。
「あ、大丈夫です。もう終わりましたから」
「いつもそこまで綺麗にしてくれているんだな」
「毎回やったほうが汚れが落ちやすいんですよ」
これは本当だ。毎回の掃除は面倒だけど溜めれば溜めるだけこびりついて取れなくなってしまう。
「いつも綺麗な状態を保ってくれるおかげで気持ちがいいよ。ありがとう」
「いえ、そんな……っ」
「コーヒーを淹れるよ。子どもたちも寝たし、少しのんびりしよう」
手際よくコーヒーを落としていく西条さんの姿にときめいてしまう自分に驚きつつ、僕はソファーで休ませてもらった。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
渡されたコーヒーは僕好みのミルク入り。
西条さんはブラックだ。
隣同士に座って、コーヒーを飲む。この時間がすごく落ち着く。
「あの、さぃ……悠臣さん」
心の中ではいつも西条さんだと思っているから呼びかける時につい間違ってしまいそうになる。
前に、西条さんと呼んだらお仕置きだと言われたから、なんだか緊張してしまう。
「どうかした?」
「あの、自宅に戻りたいんですけど……」
「えっ? どうして?」
どうして? そう尋ねられるとは思ってなかった。
なんて理由を言ったらいいんだろう?
食材が、とか、郵便が、とかいろいろ理由はあるのだけど、その時はなぜか一言で返さないといけないような気がして、言葉に詰まってしまった。
「遥くんと琳くんをみすみす危険に晒すようなことはできない。どうしても帰りたい理由があるなら教えてもらえないだろうか?」
西条さんに真剣な眼差しで見つめられて戸惑ってしまう。
「えっと……どうしても、というか……あの、冷蔵庫の中とか、郵便が気になって……」
「えっ? れい、ぞうこ?」
「はい。中身を一度処分しに行きたくてあと、届いている郵便も確認したくて……」
僕の言葉に西条さんは呆気にとられていたけれど、全てを話そうと思って理由を全部言ってみた。
すると、西条さんはなるほどねと笑いながら一人で納得しているようだった。
「確かに郵便は奴に情報を抜かれたら危ないな。今から私がアパートに行って郵便は回収しておこう。冷蔵庫の中身はそうだな……火曜日の買い物の帰りにでも寄ってみようか。家の中に入るのは、奴が見張っていることも考えて私と一緒のほうがいい」
「悠臣さんが、今から行ってくださるんですか?」
「ああ、郵便だけすぐに取ってくるよ。鍵はある?」
「あの、暗証番号で……」
四桁の暗証番号を伝えると、西条さんはすぐに立ち上がり出かける支度を始めた。
「すぐに戻ってくるから絶対に部屋から出ないように」
それだけ何度か念を押すように言うと、あっという間に出かけてしまった。
子どもたちも眠っている、この静かな部屋で僕は少し冷めてしまったコーヒーを喉に流した。
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