くま先生とおっきなわんこに気にいられてお嫁入り?しちゃいました

波木真帆

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夕食を一緒に

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<side隼人>

「ロベールが迎えに来たみたいだから先に帰るよ」

「あ、ああ。お疲れー。また明日な」

球磨先生を一人で待つのは緊張する。
でも、コレットさんが迎えにくるのを嬉しそうに待っていた比呂にこれ以上付き合わせるのも悪い。
俺は比呂を見送り、スマホを片手に学部棟の入り口に立っていた。

講演会が終わって、俺はすぐに<学部棟の入り口で待っています>とメッセージを送った。
けれど、まだ既読にもならない。
あれは社交辞令だったのかもしれないな……なんて思いながらも、でも本当に誘ってくれたのかも……という気持ちを拭えず、俺はただ待ち続けていた。

チラチラとスマホの画面に目を向けるけれど、一向に変わらない。
講演会が終わってもう三十分以上経っている。つい大きなため息が溢れた。

もう、今日は無理ってことなのかな……

忙しい人だ。仕方がない。
もしかしたら緊急事態が起こって病院に戻ったのかも。
スマホなんて見ている暇もなかったかもな。

そう自分を納得させて帰る旨を伝えようとした途端、ふっと前のメッセージに既読がついた。

「あっ」

思わず声が出た。

<すぐに行く!>

そのメッセージに目を奪われている間に、がしっと大きなものに包み込まれた。

「わっ!」

背後からいきなり抱きしめられて、驚き以上に恐怖があってもいいはずなのに、恐怖を感じなかったのはなぜか安心する匂いを感じたからかもしれない。

「遅くなってすまない。病院から緊急の電話が来て対応していたものだから……って言い訳にしかならないな。本当に申し訳ない」

抱きしめられていた腕が離されて、振り返った俺の目に飛び込んできたのは心底焦っている様子の球磨先生の姿。
俺のためにこんなに急いで来てくれたんだ。

「そんな……っ、先生がお忙しいのはわかってますから。来てくださってホッとしました」

それが本音だ。
このまま終わりかもしれない。本気でそう思っていたから。

待っていた間の寂しさもあっという間に吹き飛んで、今は嬉しさしかない。
笑顔を向けると、先生は少し驚いた様子で俺を見つめていた。

「あの……」

「ああ、悪い。今日は夕食をご馳走させてくれ。そこでゆっくりと話をしよう」

「えっ、そんな悪いですよ」

「いいから。待たせてしまったお詫びをさせて欲しいんだ。なっ」

先生の勢いに押されるように俺は頷いた。

「じゃあ行こうか」

自然に手を取られて歩き出した。
手は小さいほうじゃないのに、先生の大きな手にすっぽり包まれてしまっている。

誰かに見られないかと辺りを見回したけれど、講演会も終わって三十分以上が経っているから学部の学生たちはもうみんな帰ってしまっているらしい。
遠くにチラホラいるくらいで俺が先生と手を繋いでいるところまでは見えないだろう。

到着したのは来客用の駐車場。
そこに一際目立つ高級車が止まっていた。

「えっ、あれ……」

「ああ、私の車だ。さぁ、助手席に乗って」

驚く俺をよそに先生はさっと助手席の扉を開けて座らせてくれる。
シートベルトをつけてくれた時、すぐ近くに先生の顔が見えてどきっとした。

なんで俺……こんなにドキドキしてるんだ?

その理由を考えているうちに先生は颯爽と運転席に乗り込んだ。

車が走り出してすぐに「さっきの講演会はどうだった?」と声をかけられる。

「すごくためになりました。特に……」

球磨先生の引き込まれる話術と内容の素晴らしさに二時間の講演があっという間に感じたことなども含めて力説しているうちに、車はどこかの駐車場に入って行ったようだ。

「ここ……」

かなり大きな洋館。
建てられてから結構年月が経ってそうだけど、手入れが行き届いていて趣がある。

「私の家だよ。夕食は手料理をご馳走しようと思ってね」

「えっ!? 先生の、手料理ですか?」

「こう見えても料理は得意なんだよ。和洋中何でも作れるが、何が食べたい?」

「え、えっと……」

手料理を振る舞われることになって、急に何が食べたいと言われても……こういう時なんて言えばいいんだ?
ハンバーグとかカレーとか子どもじみたものしか出てこないんだけど。

「隼人くんに好き嫌いがなければ私の得意料理を披露しよう」

「あ、えっとなんでも食べられます」

「そうか、じゃあ楽しみにしていてくれ」

その笑顔にドキドキが止まらなくなる。
俺……本当にどうしちゃったんだろう。

憧れの先生に会えたから緊張しているのか?
多分、そうだ。

しかも自宅に招待なんて、緊張しても仕方がない。

そう納得させて車を降りた。

玄関の扉を開けながら、先生は何かを思い出したようだ。

「ああ、そうだ。同居人がいるから隼人くんにも紹介しよう」

「同居、人ですか?」

この大きな家なら誰かと住んでいても不思議はない。
もしかしたら恋人、とか?

そう思うと、なんだか胸が騒ついた。

「ああ、厳密に言えば人じゃないがな」

先生がそう言ったと同時に家の中から「バウ、ワウッ!」と真っ白な毛がふさふさの大きな犬が俺に向かって飛び込んできた。
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