お飾り妻は天井裏から覗いています。

七辻ゆゆ

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もう諦めなさい私!

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「あ、あの、頼みがあって。これを届けてほしいんです」
「えー?」
 アデラはいかにも嫌そうに、私の手にした包みを見ました。受け取ろうともしません。

「本当にごめんなさい。お忙しいのはわかっているのですが……これが必要経費です」
 私はアデラにお金を見せました。嫁入りの時に持たされたお金は、増えるあてもないので大事に使わなければなりません。けれど、どうせここにいれば使う機会などないのです。アデラが喜ぶくらい多めに用意しました。

「……ふうん。まあ、いいですよ」
 アデラは余分を懐に入れられることが嬉しかったようで、にこにこと受け取りました。よかった。

 本当に届けてくれるかは、もう祈るしかありません。執拗に急ぐように言っても嫌がられるばかりか、不審に思われるかもしれないでしょう。
 アデラはそこまで悪い子ではないと思います。きっとそうです。信じるしかありません。

 アデラが部屋を出ていってから、私はハラハラと落ち着かず、天井裏からなんとか様子を伺おうとしました。都合のいい穴はそれほどありませんが、声くらいは聞こえます。

「え? ちょっと、ちゃんとしてよ。一緒に叱られるの嫌なんだけど」
 間違いない、アデラの声です。
「すみません! まだ慣れなくて……」
「そんな言い訳が通じると思うの?」

 アデラは新人らしい使用人を叱りつけています。口の悪さはやはり、私相手に限ったことではないようでした。
「……わかったわよ。ここは私がやっとくから、これ、配達を頼んできて」
「はいっ!」

 偉い、と私は叫ぶところでした。
 まさかこんなに早く動いてくれるなんて!
 でも、不慣れな使用人に頼んで大丈夫でしょうか。

「これだけあれば足りるでしょ。ちゃんとお釣りは返しなさいよ。配達証ももらって」
「……わかりました」

 私は感動しました。さすが、アデラはしっかりしています。配達証を偽造しようというほどの金額ではないので、この新人さんが今日限りでもう仕事をやめようというのでない限り、きちんと配達を頼んでくれるでしょう。

 満足して私は部屋に戻り、私の小説がシーナに届けられることを想像しました。すぐに開けてくれるでしょうか? 数年前に恋愛小説の同士であった私のことを、忘れてしまってはいないでしょうか。

 そしてあの不揃いの紙、小さな文字を読んでくれるでしょうか。
「……読みづらいわ、きっと」
 書いた私でもそう思うのですから、他人からすればもう、ひどいものでしょう。だいたい彼女は恋愛小説をたくさん読んでいるのです。素人の書いた文字など、返事をするために少しだけ読んで、やめてしまうのではないでしょうか。

「ああ……」
 私は罪悪感に襲われました。
 とても、悪いことをしてしまいました。あんなものを急に送りつけるなんて!

「……今なら間に合う……?」
 部屋を飛び出して声をかければ、発送を止められるかもしれない。

「……!」
 思いついたとたん、私は扉に手をかけていました。
「で、でも」
 間に合わないかもしれないし。
 外に出たことを叱られてしまうでしょう。あの小説を送ろうとしたことも、知られてしまうかもしれません。

「でもでも、」
 それでも止められます。
 いえ、止めてどうするのでしょう。私はあれを読んでほしかったのです。きっと読んでくれるでしょう。たとえ社交辞令にでも、読んでどう思ったのか教えてくれるでしょう。

「あ、あれを……読んで……」
 私は震えました。
 あんなものを。あんな。あんな。あんな、いえ、私は大好きなんです、私は!
 私は好きですが他の人がどう思うかっていうと、そこは全く、保証がないわけですし、私だったら全然知らない人があんな紙に書きなぐったものを面白いなんて、ちょっと、思うのは難しいかなって。

「うぅうう……っ」
 死にそうです。

 でももう遅いのです。やってしまったのです。私はどうしてあんなに考えなしに、読んで貰えるなんて思ったのでしょうか?
 いえ、遅くないかもしれません!

 いえいえ、遅いです! 遅いのです! もう諦めなさい私!
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