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「……それってどういう状況?」
しおりを挟むクリフト様の妻、レインディアは甘やかされて育ち、小さなころから何でも手に入りました。
何をしても叱られませんでした。そんな彼女の趣味はメイドへの悪戯でした。主家の娘に逆らうことができない彼女たちが困り、泣き出すのを見るのが何よりの楽しみなのです。
長じると、その矛先はメイドでなく、格下の令嬢に向けられました。特に、無邪気で汚れを知らない少女を、誰にも知られないようにいじめることを好み、表では誇り高い令嬢を演じていたのです。
「……どうかしら」
これぞ悪役、というように思えます。私だったらこんな人と仲良くなりたくありません。近づきたくもありません。
幾人ものご令嬢を泣かせてきた悪女です。
「悪女……」
私はそこで違和感を覚えました。
そう、悪女。つい近ごろ、私はその言葉を悪い意味で使っていませんでした。
ラーミア様のことです。
人の財布に手を出す彼女は、どう考えても悪女です。でも私はその、美しさと真逆のギャップを好ましいと思っていました。悪女、素敵。そう思ったのです。
レインディアも悪女です。いい女とはとても言えないのですから、悪女でしょう。
この二人の違いとは何でしょうか。
美しさです。
「……!」
私はがつんと頭を殴られた気がしました。あのラーミア様の美しさをご存じない方にとっては、どちらも悪女なのです。
それでは妻に同情するのもわかります。だってどっちも悪女なんですから。結局のところ、どっちが好きかという話になります。
「で、でも……私は……」
ラーミア様とクリフト様の愛を書いていたはずです。
ですが出来上がったものは、悪女対悪女でした。悪女対悪女は恋愛小説と言っていいのでしょうか?
「恋愛……」
私の知る恋愛小説は、男女の出会いから深まる愛を……。
「えっ?」
ですが私の小説はもう最初から出来上がっていました。あるのは悪女対悪女です。
「そんな……」
愕然とした私は頭を抱え、しばらく何も手につきませんでした。
「……やっぱり私が書きたいのは、ラーミア様とクリフト様だわ!」
3日ほどうだうだとしたあとで私は我に返りました。そうです。私が書きたいのです。私が書いているのは恋愛小説です!
「うっ。で、でも、人に言うのはやめておこう……」
自分の中でそうであれば、それでいいではないですか。
読者の感想は読者に任せましょう。私は書きます。シーナやその友人が読んでどう判断しようと、彼女たちの自由なのです。
私もまた自由に書くのです。
ようやく私は立ち直り、レインディアへの復讐を練り始めました。クリフト様は真面目ですが、こうと決めたらやってくれるでしょう。仕事のできる男です。
ラーミア様だって悪女なのです。世の酸いも甘いも知り尽くした悪女です。そのお美しさと裏腹の非情さを見せてくださるに違いありません。
『どうかなさったのですか?』
ラーミア様は怯えたように身を引きながらも問いかけました。彼女の前にはレインディアが、あのプライドの高い妻が、地べたに這いつくばっているのです。
ついにラーミア様は、されたことをやり返すことにしたのです。
勝つために、敵と同じ卑劣さを持つことを望んだのです。
「悪女対悪女……いえ! 違います。そうだ、クリフト様です」
愛の力で打ち破るのです。
「いない!」
設置するのを忘れていました。いけません、私は最初に戻って、文章の隙間になんとかクリフト様を押し込みました。
そして使用人を押しのけてラーミア様を助けに来るのです。いえもうレインディアは地についてるんですけど。ちょっと遅い……。
時を戻しましょう。
えーっと、レインディアが使用人を引き連れてやってきます。この家の使用人はすべて彼女の手の者です。
「……それってどういう状況?」
使用人は金で雇われているのに、次期当主より妻の言うことを聞くってあるのでしょうか。
「ええと……もともとクリフト様のおうちは妻に借金をしていて……」
わけがわからなくなってきましたが、ハッピーエンドはすぐそこです。がんばりましょう。
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