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妻がかわいそう?
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『サヘルへ。あのお話、続巻もとっても素晴らしかったわ! 他のお友達にも教えてしまっていいかしら? 確かに秘密にしたくなるような、ちょっと大人の話だけど……でもきっと、みんなあの美しいお話を気に入ってくれると思うの!』
「ひんっ!」
私は手紙を読んで飛び上がり、床に転がりました。そんな。そんな、あれを!? いったいそんな、あれのどこが、いえ、私は素晴らしいと思って書いてるんですけど!?
「で、でも他人がどう読むかはもう自己責任っていうか……! あっ」
膝からぽろりと、同封されていたマフラーが落ちました。
「いけない、あっ、あっ」
マフラーを取り上げると、くるくると広がって、中の芯になっていた厚紙が出てきました。
「ずいぶん厚い……?」
形を整えるにしても厚みがありすぎます。それもなんとなく、中がもさっとしている、ような。
「……!」
はっとして厚紙を丁寧に割くと、なんと中から紙が出てきました。
「…………!!!」
私はあまりの感動に床を何度か叩きました。しかし音が響くのに気づいてやめ、すううっと息を吸い、ゆっくりと吐きました。
「ありがとう、シーナ……天使……女神……」
紙束をぎゅっと抱きしめます。嬉しくて涙が出そうです。これでまた続きを書くことができますし、何より、続きを楽しみにしてくれるシーナの気持ちが本物だとわかったからです。
「わたし、がんばるね」
あまりの感動に三歳児のように呟き、自分を鼓舞して何度も頷くのでした。
さあ、新しい紙を手に入れ、目指すは離婚です。
クリフト様は妻との離婚を決意します。そうしなければ、自分とラーミア様の命も危ういと気づいたからです。妻の嫌がらせはもはや犯罪の域です。どうして憲兵に訴えないのか疑問です。
「というか……これもう離婚じゃすっきりしないわね」
笑いながら手芸針で肌をちくちく刺すのは傷害です。悪妻という名で収まりません。首筋に口づけのあとを残すラーミア様の首をしめ「こうやって消すのよ!」などと言ったりもしています。
殺人未遂では?
殺人未遂かもしれません。思いついた時にはなかなか狂気的でいいと思いましたが、人の首を絞めてはいけません。
いえ、妻は殺すつもりはないと思います。いびりたいだけですから。
……そもそもこの妻は何を考えてるんでしょうか。サディスト欲求が強すぎるのでしょうか。きっとそうでしょうね。
普通にラーミア様を排除したいなら、どうとでもなるでしょう。なんか権力があるっぽいですし。
嫉妬にかられて、などという感じも今まで出してきていません。私が嫉妬しませんので、そのような記述はできなかったのです。
「じゃあ、もっと狂気度を増して……」
最終的に気が狂って修道院行きとかでいいでしょうか。
恋に狂う描写なら恋愛小説でよく読みますしね。実際、人ってそう簡単に気が狂うものなんでしょうか?
まあいいのです。
これは恋愛小説ですから、現実とはほどほどの距離感で付き合っていきましょう。
『サヘルへ。続巻もとてもとても素晴らしかったわ! もうすぐ二人があの妻をぎゃふんと言わせるのが楽しみで楽しみで、夜中に起きて空気を殴るくらいよ。恋愛小説仲間のみんなも期待してるって。あ、でも、あの妻のめちゃくちゃな横暴さは、ちょっとおもしろいのよね』
「おもしろい……?」
腹が立つとは真逆の感想です。
やりすぎてしまったでしょうか。確かに、なんだかもう一発芸のような気持ちで書いてしまったところがあります。
『それに、夫に裏切られた奥様がかわいそうって、応援してる人もいるわ。どうなるのかとても楽しみ!』
「えっ」
予想外のことに私は動揺しました。
妻がかわいそう?
あの狂気的に意地の悪い妻に同情する人がいるとは、まったく考えもしませんでした。どうしてそう思ったのでしょうか。ご本人に詳しく聞いてみたいですが、とうてい不可能な状況です。
次にシーナに送る時に聞いておきましょう。
「もっと嫌われるようにしたほうがいい……?」
さっそく続きを書き始めようとして、ふと、迷いました。妻に同情している人にとっては、気が狂って修道院行きの結末はバッドエンドでしょう。私はバッドエンドは無理なのです。
「で、でも悪役よね……?」
今までねちねちと、きちんと悪役として書いてきたはずです。……はず。たぶん。手元に残っていないので、残念ながら確認ができません。
いえ、何度も読み返したのですから思い出せるはずです。ええと。
「うーんと」
お茶をかけたり転ばせたり、刺繍針でつついたり首を締めたり、悪辣この上ないはずです。描写が足りなかったのでしょうか?
そういえば首を締められてもラーミア様は怯えて動きませんでした。もっと苦しさを表現したほうが良かったのかもしれません。
ラーミア様が苦しさに暴れ、ついには意識を失ったりなどしたら、紛うことなき殺人未遂です。いえ、もともと人の首を締めたら殺人未遂な気がしますが、これは物語ですから、よりわかりやすい表現が必要でしょう。
悪役は悪役らしく。
きっぱりと見捨てられるように書きましょう。妻だって憐れまれたくはないはずです。プライドが高い……ような気がしますから。
そもそもにして、妻のキャラを最初から考えておけばよかったのです。これは明らかな失敗でした。悪役なんて悪役として居ればいいと思っていたのです。現実感がなさすぎました。名前さえありません。
彼女が何を考えているのか?
私はひとまず書く手を止め、しっかり練ることにしました。
「ひんっ!」
私は手紙を読んで飛び上がり、床に転がりました。そんな。そんな、あれを!? いったいそんな、あれのどこが、いえ、私は素晴らしいと思って書いてるんですけど!?
「で、でも他人がどう読むかはもう自己責任っていうか……! あっ」
膝からぽろりと、同封されていたマフラーが落ちました。
「いけない、あっ、あっ」
マフラーを取り上げると、くるくると広がって、中の芯になっていた厚紙が出てきました。
「ずいぶん厚い……?」
形を整えるにしても厚みがありすぎます。それもなんとなく、中がもさっとしている、ような。
「……!」
はっとして厚紙を丁寧に割くと、なんと中から紙が出てきました。
「…………!!!」
私はあまりの感動に床を何度か叩きました。しかし音が響くのに気づいてやめ、すううっと息を吸い、ゆっくりと吐きました。
「ありがとう、シーナ……天使……女神……」
紙束をぎゅっと抱きしめます。嬉しくて涙が出そうです。これでまた続きを書くことができますし、何より、続きを楽しみにしてくれるシーナの気持ちが本物だとわかったからです。
「わたし、がんばるね」
あまりの感動に三歳児のように呟き、自分を鼓舞して何度も頷くのでした。
さあ、新しい紙を手に入れ、目指すは離婚です。
クリフト様は妻との離婚を決意します。そうしなければ、自分とラーミア様の命も危ういと気づいたからです。妻の嫌がらせはもはや犯罪の域です。どうして憲兵に訴えないのか疑問です。
「というか……これもう離婚じゃすっきりしないわね」
笑いながら手芸針で肌をちくちく刺すのは傷害です。悪妻という名で収まりません。首筋に口づけのあとを残すラーミア様の首をしめ「こうやって消すのよ!」などと言ったりもしています。
殺人未遂では?
殺人未遂かもしれません。思いついた時にはなかなか狂気的でいいと思いましたが、人の首を絞めてはいけません。
いえ、妻は殺すつもりはないと思います。いびりたいだけですから。
……そもそもこの妻は何を考えてるんでしょうか。サディスト欲求が強すぎるのでしょうか。きっとそうでしょうね。
普通にラーミア様を排除したいなら、どうとでもなるでしょう。なんか権力があるっぽいですし。
嫉妬にかられて、などという感じも今まで出してきていません。私が嫉妬しませんので、そのような記述はできなかったのです。
「じゃあ、もっと狂気度を増して……」
最終的に気が狂って修道院行きとかでいいでしょうか。
恋に狂う描写なら恋愛小説でよく読みますしね。実際、人ってそう簡単に気が狂うものなんでしょうか?
まあいいのです。
これは恋愛小説ですから、現実とはほどほどの距離感で付き合っていきましょう。
『サヘルへ。続巻もとてもとても素晴らしかったわ! もうすぐ二人があの妻をぎゃふんと言わせるのが楽しみで楽しみで、夜中に起きて空気を殴るくらいよ。恋愛小説仲間のみんなも期待してるって。あ、でも、あの妻のめちゃくちゃな横暴さは、ちょっとおもしろいのよね』
「おもしろい……?」
腹が立つとは真逆の感想です。
やりすぎてしまったでしょうか。確かに、なんだかもう一発芸のような気持ちで書いてしまったところがあります。
『それに、夫に裏切られた奥様がかわいそうって、応援してる人もいるわ。どうなるのかとても楽しみ!』
「えっ」
予想外のことに私は動揺しました。
妻がかわいそう?
あの狂気的に意地の悪い妻に同情する人がいるとは、まったく考えもしませんでした。どうしてそう思ったのでしょうか。ご本人に詳しく聞いてみたいですが、とうてい不可能な状況です。
次にシーナに送る時に聞いておきましょう。
「もっと嫌われるようにしたほうがいい……?」
さっそく続きを書き始めようとして、ふと、迷いました。妻に同情している人にとっては、気が狂って修道院行きの結末はバッドエンドでしょう。私はバッドエンドは無理なのです。
「で、でも悪役よね……?」
今までねちねちと、きちんと悪役として書いてきたはずです。……はず。たぶん。手元に残っていないので、残念ながら確認ができません。
いえ、何度も読み返したのですから思い出せるはずです。ええと。
「うーんと」
お茶をかけたり転ばせたり、刺繍針でつついたり首を締めたり、悪辣この上ないはずです。描写が足りなかったのでしょうか?
そういえば首を締められてもラーミア様は怯えて動きませんでした。もっと苦しさを表現したほうが良かったのかもしれません。
ラーミア様が苦しさに暴れ、ついには意識を失ったりなどしたら、紛うことなき殺人未遂です。いえ、もともと人の首を締めたら殺人未遂な気がしますが、これは物語ですから、よりわかりやすい表現が必要でしょう。
悪役は悪役らしく。
きっぱりと見捨てられるように書きましょう。妻だって憐れまれたくはないはずです。プライドが高い……ような気がしますから。
そもそもにして、妻のキャラを最初から考えておけばよかったのです。これは明らかな失敗でした。悪役なんて悪役として居ればいいと思っていたのです。現実感がなさすぎました。名前さえありません。
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私はひとまず書く手を止め、しっかり練ることにしました。
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