12 / 16
これは夢なのでしょうか。
しおりを挟む
『サヘルへ! あなたが教えてくれた小説、ついに佳境に入ってきたの。美しくも恐ろしい悪女たちの戦い、目が離せないわ!』
妻レインディアを一行たりとも美しいと書いた覚えはありませんでしたが、いいです。自由。自由です。読者の目に美しく写ったなら、それでいいのです。
悪女対悪女も、想定内です。大丈夫です。……大丈夫ですとも。
『そうそう、奥様を可哀想って言ってた子に感想を詳しく聞いたわ。彼女が言うには、たとえどんな事情があろうと夫婦であれば裏切りは罪だそうよ。心変わりは止められないにしても、先に離婚するべきじゃないかって』
「……なるほど」
平民の価値観からすればそうなのでしょう。私はこれでも一応は貴族社会を知っているので、貴族の婚姻に愛がないことはわかっていました。もちろんそう簡単に離婚もできません。
合う合わないは仕方がないことですから、好む相手を愛人なりとするのが、さほど悪いと思ってもいなかったのです。
『それに今回、奥様の生い立ちが明らかになったでしょう? あれは育て方を間違えた親が悪いんじゃないかって。しつけもせず好き放題させて、ある意味、育児放棄よねって憤ってたわ。きっと愛のない親に奥様は傷ついていたんじゃないかって。だからあんな狂気に走ってしまってるんじゃないかって。奥様の幸せをいっそう願うそうよ!』
「……む、むぅ……」
やってしまったでしょうか。
やってしまったかもしれません。
言われていれば、あんな育て方をした親が、できた親だとはとても言えません。甘やかされてわがままに育ったのは、彼女の資質どうこうではなく当然のことなのかも。
「とすると……」
私はくらくらしました。
なんて難しいのでしょう。つまりその彼女は、これから妻が狂気的になればなるほど、それだけ傷ついていたのだ、と妻に同情的になってしまう、ということでしょう。
「いったい……どうすれば……」
私が書きたいのはラーミア様とクリフト様の恋愛です。
しかしながら、この二人が結ばれるのであれば、他は譲ってもいいというか、読者の期待に応えたい気持ちがあります。
だってそんなに熱心に、私の作った妻のことを考えてくれているのですから。
どうしましょうか。妻には離婚後、新たな出会いを用意しましょうか。それとも親との和解でしょうか。
いえ、さすがに親を更に登場させるのはどうかと思います。メインはラーミア様とクリフト様のハッピーエンドなのですから、こう、さりげなく、おまけ的にハッピーを感じさせる引きをすれば……。
私は考えながら、今回も厚い厚紙を丁寧に裂きました。
やはり紙の束を入れてくれています。天使です。ゴッドエンジェルです。そしてこちらにも手紙が入っていました。
『あのね、実はあれを本にしないかって言われたの。どうしよう?』
「………………は?」
これは夢なのでしょうか。
シーナから書籍化の話を聞いたときから、私はふわふわとした気分です。ふわふわと日々を過ごしているうちに、あれやこれやとシーナが頑張ってくれたようで、私の小説は本になったそうです。
本になったそうです。
「夢……幻……?」
その知らせを目にしてもまだ実感がありません。それもそうで、私はその本を実際に目にしてもいないのです。
私の小説『美しい悪女は奥様のものがお好き』が本になった、ということを聞いただけです。もちろん私も実物を見たいのですが、送ってもらうのはためらいがあります。
ラーミア様とクリフト様の名前がそのままなので、見つかるとまずいです。無関係に本が存在しているぶんには、誰もこの家と結びつけたりはしないでしょうが。
表紙に美麗なラーミア様がいらっしゃるらしいので本当に、いつか、いえ可及的速やかに見たいのですが、というか、本当にそんなことがあるのでしょうか?
騙されていないでしょうか。
いえ私を騙してどうするのかという話です。シーナは天使です。天使は人を騙しません。
それにシーナは印税の一部を送ってくれました。全てを送ると差し障りがあるだろうからと、私が当座使える程度を送ってくれたのです。感謝してもしきれません。もしシーナが半分くらいポケットに入れていたとしても許せます。いえ、シーナはそんなことしません! シーナを侮辱するのはやめてください!
落ち着きましょう。
「……」
とにかく私の手にはいくばくかのお金があります。もはやシーナに紙を送ってもらわなくても、アデラに買ってきてもらうことができそうです。
インクがなくならないか戦々恐々とする必要もないでしょう。
なんて素晴らしい執筆環境!
もともと邪魔をする人もいなければ、何をする必要もない私なのです。
そしてなんと評判によっては続刊も、と言われているそうです。
書かない理由がありません!
読者のことを考えて迷ったために紙をかなり無駄にし、修正だらけになりましたが問題ありません。お金があるというのはありがたいものです。私は無駄を気にすることなく、修正に修正を重ね、物語を進めていきました。
最後に清書もしましょう。贅沢すぎて手が震えます。
今まではなんと、シーナが清書して、皆に読ませてくれていたのだそうです。なぜそこまで、と思うほどの献身です。もし私の書いたゴミみたいな文字のままだったら、誰も読んではくれなかったに違いありません。
でも、出版社と相談して決めたというタイトルは……いえ、なんでもありません。
妻レインディアを一行たりとも美しいと書いた覚えはありませんでしたが、いいです。自由。自由です。読者の目に美しく写ったなら、それでいいのです。
悪女対悪女も、想定内です。大丈夫です。……大丈夫ですとも。
『そうそう、奥様を可哀想って言ってた子に感想を詳しく聞いたわ。彼女が言うには、たとえどんな事情があろうと夫婦であれば裏切りは罪だそうよ。心変わりは止められないにしても、先に離婚するべきじゃないかって』
「……なるほど」
平民の価値観からすればそうなのでしょう。私はこれでも一応は貴族社会を知っているので、貴族の婚姻に愛がないことはわかっていました。もちろんそう簡単に離婚もできません。
合う合わないは仕方がないことですから、好む相手を愛人なりとするのが、さほど悪いと思ってもいなかったのです。
『それに今回、奥様の生い立ちが明らかになったでしょう? あれは育て方を間違えた親が悪いんじゃないかって。しつけもせず好き放題させて、ある意味、育児放棄よねって憤ってたわ。きっと愛のない親に奥様は傷ついていたんじゃないかって。だからあんな狂気に走ってしまってるんじゃないかって。奥様の幸せをいっそう願うそうよ!』
「……む、むぅ……」
やってしまったでしょうか。
やってしまったかもしれません。
言われていれば、あんな育て方をした親が、できた親だとはとても言えません。甘やかされてわがままに育ったのは、彼女の資質どうこうではなく当然のことなのかも。
「とすると……」
私はくらくらしました。
なんて難しいのでしょう。つまりその彼女は、これから妻が狂気的になればなるほど、それだけ傷ついていたのだ、と妻に同情的になってしまう、ということでしょう。
「いったい……どうすれば……」
私が書きたいのはラーミア様とクリフト様の恋愛です。
しかしながら、この二人が結ばれるのであれば、他は譲ってもいいというか、読者の期待に応えたい気持ちがあります。
だってそんなに熱心に、私の作った妻のことを考えてくれているのですから。
どうしましょうか。妻には離婚後、新たな出会いを用意しましょうか。それとも親との和解でしょうか。
いえ、さすがに親を更に登場させるのはどうかと思います。メインはラーミア様とクリフト様のハッピーエンドなのですから、こう、さりげなく、おまけ的にハッピーを感じさせる引きをすれば……。
私は考えながら、今回も厚い厚紙を丁寧に裂きました。
やはり紙の束を入れてくれています。天使です。ゴッドエンジェルです。そしてこちらにも手紙が入っていました。
『あのね、実はあれを本にしないかって言われたの。どうしよう?』
「………………は?」
これは夢なのでしょうか。
シーナから書籍化の話を聞いたときから、私はふわふわとした気分です。ふわふわと日々を過ごしているうちに、あれやこれやとシーナが頑張ってくれたようで、私の小説は本になったそうです。
本になったそうです。
「夢……幻……?」
その知らせを目にしてもまだ実感がありません。それもそうで、私はその本を実際に目にしてもいないのです。
私の小説『美しい悪女は奥様のものがお好き』が本になった、ということを聞いただけです。もちろん私も実物を見たいのですが、送ってもらうのはためらいがあります。
ラーミア様とクリフト様の名前がそのままなので、見つかるとまずいです。無関係に本が存在しているぶんには、誰もこの家と結びつけたりはしないでしょうが。
表紙に美麗なラーミア様がいらっしゃるらしいので本当に、いつか、いえ可及的速やかに見たいのですが、というか、本当にそんなことがあるのでしょうか?
騙されていないでしょうか。
いえ私を騙してどうするのかという話です。シーナは天使です。天使は人を騙しません。
それにシーナは印税の一部を送ってくれました。全てを送ると差し障りがあるだろうからと、私が当座使える程度を送ってくれたのです。感謝してもしきれません。もしシーナが半分くらいポケットに入れていたとしても許せます。いえ、シーナはそんなことしません! シーナを侮辱するのはやめてください!
落ち着きましょう。
「……」
とにかく私の手にはいくばくかのお金があります。もはやシーナに紙を送ってもらわなくても、アデラに買ってきてもらうことができそうです。
インクがなくならないか戦々恐々とする必要もないでしょう。
なんて素晴らしい執筆環境!
もともと邪魔をする人もいなければ、何をする必要もない私なのです。
そしてなんと評判によっては続刊も、と言われているそうです。
書かない理由がありません!
読者のことを考えて迷ったために紙をかなり無駄にし、修正だらけになりましたが問題ありません。お金があるというのはありがたいものです。私は無駄を気にすることなく、修正に修正を重ね、物語を進めていきました。
最後に清書もしましょう。贅沢すぎて手が震えます。
今まではなんと、シーナが清書して、皆に読ませてくれていたのだそうです。なぜそこまで、と思うほどの献身です。もし私の書いたゴミみたいな文字のままだったら、誰も読んではくれなかったに違いありません。
でも、出版社と相談して決めたというタイトルは……いえ、なんでもありません。
203
あなたにおすすめの小説
次代の希望 愛されなかった王太子妃の愛
Rj
恋愛
王子様と出会い結婚したグレイス侯爵令嬢はおとぎ話のように「幸せにくらしましたとさ」という結末を迎えられなかった。愛し合っていると思っていたアーサー王太子から結婚式の二日前に愛していないといわれ、表向きは仲睦まじい王太子夫妻だったがアーサーにはグレイス以外に愛する人がいた。次代の希望とよばれた王太子妃の物語。
全十二話。(全十一話で投稿したものに一話加えました。2/6変更)
愛人契約は双方にメリットを
しがついつか
恋愛
親の勝手により愛する者と引き裂かれ、政略結婚を強いられる者達。
不本意なことに婚約者となった男には結婚を約束した恋人がいた。
そんな彼にロラは提案した。
「私を書類上の妻として迎え入れ、彼女を愛人になさるおつもりはございませんか?」
新婚初夜に『白い結婚にしてほしい』と言われたので論理的に詰めたら夫が泣きました
ささい
恋愛
「愛人がいるから、白い結婚にしてほしい」
政略結婚の初夜にそう告げた夫ルーファス。
妻カレンの反応は——
「それ、契約不履行ですよね?」
「あなたの感情論、論理的に破綻してますよ?」
泣き落としは通じない。
そして初夜の翌朝、夫は泣いていた。
逃げ道は全部塞がれ、気づけば毎日論破されていた。
これは、論破され続けた夫がなぜか幸せになる話。
夫と愛し合った翌朝、一方的に離縁されました【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
美しい公爵夫人マルグリートは、冷徹な夫ディートリヒと共に、王国の裏で密かに任務をこなす“悪女”。
だがある日、突然夫から離婚を言い渡される。しかもその裏には、平民の愛人の存在が──。
失意の中、王命で新たな婚約者・エルンストと結ばれることに。
どうやら今回の離婚再婚は、王家の陰謀があるよう。
「悪女に、遠慮はいらない」
そう決意した彼女は、華やかな舞踏会で王に真っ向から言い放つ。
「わたくし、人の家庭を壊しておきながら悪びれない方に、下げる頭は持っていませんの。
王族であられる前に、人におなりくださいませ。……失礼」
愛も、誇りも奪われたなら──
今度はこの手で、すべてを取り戻すだけ。
裏切りに燃える、痛快リベンジ・ロマンス!
⚠️本作は AI の生成した文章を一部に使っています。タイトル変えました。コメディーです。主人公は悪女です。
【完結】領地に行くと言って出掛けた夫が帰って来ません。〜愛人と失踪した様です〜
山葵
恋愛
政略結婚で結婚した夫は、式を挙げた3日後に「領地に視察に行ってくる」と言って出掛けて行った。
いつ帰るのかも告げずに出掛ける夫を私は見送った。
まさかそれが夫の姿を見る最後になるとは夢にも思わずに…。
【完結】16わたしも愛人を作ります。
華蓮
恋愛
公爵令嬢のマリカは、皇太子であるアイランに冷たくされていた。側妃を持ち、子供も側妃と持つと、、
惨めで生きているのが疲れたマリカ。
第二王子のカイランがお見舞いに来てくれた、、、、
愛人がいる夫との政略結婚の行く末は?
しゃーりん
恋愛
子爵令嬢セピアは侯爵令息リースハルトと政略結婚した。
財政難に陥った侯爵家が資産家の子爵家を頼ったことによるもの。
初夜が終わった直後、『愛する人がいる』と告げたリースハルト。
まごうことなき政略結婚。教会で愛を誓ったけれども、もう無効なのね。
好きにしたらいいけど、愛人を囲うお金はあなたの交際費からだからね?
実家の爵位が下でも援助しているのはこちらだからお金を厳しく管理します。
侯爵家がどうなろうと構わないと思っていたけれど、将来の子供のために頑張るセピアのお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる