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第3章 領地開拓

第39話 責任があるのです

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 約束の一週間後。ミモイ村には似つかわしくない馬車がやって来た。ハイネさんは馬車から降りると護衛を引き連れて俺の元へ歩るいてくる。そのまま俺とシズクちゃんは馬車へと連れていかれてしまった。

「それでは参りましょう!ナオキ様、初めは何処の村に行きましょうか?」

 ハイネさんはそう言ってトルネア領全域が記された地図を広げてくれた。以前ミリアさんが見せてくれた物よりも、詳細に描かれている。

 だがその地図を見たところで俺は何処に行けばいいか全くわからなかったため、見覚えのある村の名前を指さした。

「じゃあ初めはルキアス村にしよう!回復薬の件がどうなったかも気になるし!」
「分かりました!ガストン、ルキアス村に向かってちょうだい!」
「畏まりました」

 ハイネさんは外で待機していた御者の男性にそう指示を飛ばす。男は文句ひとつ言うこと無く、直ぐに馬車をはしらせた。ガタゴトと揺れる馬車に、俺は心の中で興奮する。しかしその隣に座るシズクちゃんは、ブスっとした顔で外を睨みつけていた。

「なぜワシまでついてこなければならぬのじゃ!!お主が行けばそれで良いじゃろうに!」
「そんなこと言うなよー!神様が二人いた方が説得力増す気がするだろ?」

 それ以外にも、シズクちゃんが居てくれれば食事には困らないというのもある。それにハイネさんと二人きりで居るのが少し不安だったからな。前回の『お願い』は本気じゃなかったとはいえ、迫られたら断れない。

 ハイネさんも俺と同じ気持ちだったのか、不貞腐れているシズクちゃんに深々と頭を下げた。

「私としても、シズク様に来て頂いたのは本当に今回の一件は多くの民の耳に届いています。先代の領主に変わり、十六の小娘が新しい領主になったと……それを良く思わない者も居る筈ですから」
「そ、そうかな?俺は少なくともハイネさんの方が良い領主だと思うけど」

 不安げに語るハイネさんを慰めようと、励ましの言葉を投げかける。なぜかそれが気に食わなかったのか、シズクちゃんは俺の足をズカズカ蹴ってきた。

 ハイネさんは俺の言葉を否定するかのように、首を横に振る。彼女の目には薄らと涙が溜まっていた。

「たとえ私に領主の器があったとしても、民がそれを知るまでには長い時間を必要とするでしょう。その間、不安を抱き続けることになるのです。私はそれが辛いのです」

 ハイネさんが涙ながらに語る。その様子に心を打たれた俺は、何とかして彼女の役に立ちたいと考え始めていた。

「神であるお二人に認められた事実があれば、皆も私をきっと受け入れてくれるはずです。ナオキ様、シズク様……どうか私に折力添えを頂けないでしょうか?」

 そう言ってハイネさんが俺の右手を握ってきた。突然の事に驚いたものの、彼女の潤んだ瞳を見て俺の胸が締め付けられていく。男として、彼女の力になってやらなくてはならないと、俺の心が訴えかけていた。

「分かったよ!俺に出来ることなら何でも言ってくれ!ハイネさんが少しでも早く一人前の領主として皆に認めて貰えるように、協力するよ!」
「ナオキ様ッ……有難うございます!!」
「シズクちゃんも協力してくれるよな!?」

 そう言いながらシズクちゃんの方へと顔を向ける。当然シズクちゃんも協力してくれるものだとばかり思っていた俺だったが、シズクちゃんは見るからにうんざりした顔を浮かべていた。

「い・や・じゃ!絶対にワシは協力せん!!」
「なんでだよ!ハイネさんは自分のためじゃなく、民のために力を貸してくれって言ってんだぞ?だったら少しくらい協力してやっても良いじゃないか!」

 ハイネさんは別に私利私欲で動いているわけではない。民のためを思って動いているのだ。それならば土地神として協力してやるのが筋だろう。だがシズクちゃんは首を縦には振らなかった。

「ふん!ワシ等を利用して、民に領主の器を示す。そんな事をして何になるのじゃ!!」
「だから領主が変わったりして不安になってる民を安心させてやりたいんだろ?」
「一時の安寧を得たとして、その先はどうするのじゃ!?また困ったらワシ等を利用するのか!?この女が、今後も正しき道を歩んでいく保証は一体誰がするのじゃ!?」
「それは……」

 シズクちゃんの言葉に俺は思わず言いよどむ。確かに彼女の言う通り、ハイネさんがこの先も素晴らしい領主である保証は何処にも無い。その保証を出会って間もない俺達が、簡単にしてしまっても良いのだろうか。

 悩む俺がハイネさんの方へ目を向ける。ハイネさんは瞳を潤ませたまま俺の目をじっと見つめていた。

 その瞳に吸い込まれそうになった瞬間、シズクちゃんが俺の顔を両手で挟み、無理やり自分の方へと顔を向けさせる。シズクちゃんは呆れたように溜息をこぼしたあと、声を荒げながら話し始めた。

「よい機会じゃからお主に言っておく!ワシ等は『神』じゃ!気紛れに力を貸すことはあっても、常に傍に居る存在ではない!お主は甘すぎるのじゃ!」

 怒りをぶつけるように俺の目を真っ直ぐ見つめて話すシズクちゃん。『土地神』として何百年も生き続けてきた彼女だからこそ、その言葉には確かな重みがあった。

「神が居なくなっても、人の命は続く!お主にその先の責任が取れるのか?ワシのようにこの世界で『土地神』として生きてゆく覚悟があるのか!」

 シズクちゃんの言葉に返す言葉も無く、俺は黙り込んでしまう。『土地神』として生きる覚悟。それが無い俺に、この地で暮らす人々の未来を背負う覚悟なんて出来る筈も無かったのだ。

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