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3巻
3-1
しおりを挟む調査隊がミーリエン湖を出発してから三日目の朝。
俺とフリオさんとウッドさんは、王都に帰還するため馬車に乗り込もうとしていた。御者はシュウナさんとポプラさんが務めてくれるようだ。
フリオさんが馬車に右足をかけて少し黙り込むと、俺とウッドさんに向かって頭を下げてきて言う。
「すまんアレク、ウッド! 申し訳ないんだが、帰りは馬車の客車でポプラと二人きりにしてもらえないだろうか!」
フリオさんに懇願されて困ってしまった。
御者席は二人しか乗れない。フリオさんとポプラさんが客車で二人きりになるなら、同じ馬車に乗ることになっているシュウナさん、ウッドさん、俺のうち二人で御者を務め、一人が他の馬車に行かなければならない。
すると、ポプラさんが御者席から降りてきて、フリオさんに向かって怒鳴り始めた。
「何、訳分かんないこと言ってんの! さっさと乗りなさい! 他の皆に迷惑でしょ!」
しかしフリオさんも食い下がる。
「一生のお願いだ。頼む」
いつもとは違って真摯な態度で頭を下げるフリオさんに、ポプラさんとウッドさんは狼狽えてしまう。
するとそこに、先頭の馬車に乗り込んでいたはずのユミルさんがやってきた。
「……アレク……向こうの馬車に乗ろ」
そう言って俺の手を引っ張ると、『蒼龍の翼』の面々が乗っている馬車の方へ向かっていく。
俺がフリオさん達のことが心配になって振り返ると、ウッドさんが御者席に乗り込んでいる姿が見えた。
俺はホッとして顔を正面に向けた。
馬車の中へと乗り込むと、そこにはキリカさんが座っていた。
ユミルさんはキリカさんの対面に座ると隣の席をポンポンと叩き、「……座って」と言って俺を隣に座らせる。そしてなぜか俺の頭をひと撫でしたあと、その手を自分の膝の上に置いた。
キリカさんがユミルさんに向かって言う。
「この子のこと、随分気に入っているのね、ユミル」
「……可愛いでしょ?」
「そうね。まぁ私も聞きたいことがあったしちょうどいいわ」
キリカさんはそう言うと、収納袋からパイプのようなものを取り出してプカプカと吸い始めた。
前世の煙草のような匂いは全くせず、花のいい香りが漂ってきた。キリカさんが息をフーっと吐くと白い煙が空を漂う。
一服したのち、キリカさんからの質問が始まった。
「貴方、三属性も魔法を使えるのね。しかもすべて上級魔法まで。王都で自己紹介してもらった時は、火と土って言ってなかったかしら?」
「え、えっと、一応風魔法も使えるんですけど自信がなかったものですから。すみません」
「あらそうなの。それにしては、貴方の『雷槍』は素晴らしかったわ。私には到底出せない威力だったもの」
「はははは……恐縮です」
「それに最後の魔法。『隕石』と言ったかしら? あんな魔法初めて見たわよ。私の故郷でも使える人なんていなかったはずよ」
「故郷? キリカさんはどこの出身なんですか?」
俺は自分への質問をなんとか遮り、キリカさんに尋ねる。これ以上突っ込まれたら、いらぬ情報まで話してしまいそうで怖い。
「私はね、ベルデン魔法王国の出身なのよ。色々あって今はここにいるけど。あの国の魔法学の進歩は他国の追随を許さないの。そのベルデン魔法王国ですら、貴方が行使した魔法を使える人はいなかったのよ。この意味分かる?」
キリカさんの目つきが変わる。俺の心の奥底を見透かすような、恐ろしい目つきだ。
キリカさんは再びパイプを口にする。
俺は唾を呑み込み、慎重に答えようとする。ここで間違った回答をしてしまえば、俺の未来はあまりいい方向に行かないような気がしてならない。手のひらにはべっとりとした汗がにじみ出ていた。
「……キリカ……手出しちゃダメ」
すると、隣に座っていたユミルさんが頬を膨らませながら俺に抱き着き、キリカさんに向かって怒ったような口調で言い放った。ユミルさんに抱き着かれたせいで、俺は三日前の出来事を思い出してしまい、体を硬直させる。
だがそんなことより、今、問題なのは論点がズレていることだ。キリカさんはそんな下心のある目で俺のことを見ていない。利用価値がある存在として見ているのだ。
俺は下腹部に力を入れ、自身の欲望を抑え込むことに集中しながら、キリカさんの反応を待った。
パイプを口から離し、白い煙を吐き出したキリカさんの口から出た言葉は意外なものだった。
「あらどうして? 私が強い男大好きなの、知ってるでしょ? 私とアレクの子ならきっと凄い魔法使いになるに違いないわ。それに、ユミルなんかより私の方がいいでしょ?」
「……キリカ……おばさん。……すぐ垂れる」
「はぁ!? 何言ってんのアンタ! まだピチピチの二十七歳なんですけど!!」
「……私十七歳……まだ成長期。……キリカはオルヴァがお似合い」
「あんなムキムキ誰が好きになるってのよ。私は可愛い子が好みなの! ね、坊や。今日の夜は私についてきなさい? いい夢見させてあげるから」
キリカさんはそう言うと、俺の顎に手を当ててゆっくりと顔を近づけてきた。
キリカさんの顔の下あたりには、ユミルさんのより二回りほど大きいお山が二つある。ユミルさんのを富士山と例えるなら、キリカさんのお山はエベレストだ。アリスは残念ながら山と呼べるほどのものを有していない。しいて言うなら丘だ。
俺は、さながら歴戦の登山家であるかのごとく、どうアタックして登頂すべきかを練り始める。しかしユミルさんの抱きしめる力が再び強さを増してきたので、俺はアタックを断念した。
俺の目と鼻の先の距離にキリカさんの顔が近づくと、フッと煙を吹きかけられる。妖艶な眼差しは、まるで小悪魔のように俺の瞳を見つめていた。
「……息臭い……歯磨いた方がいい」
ユミルさんはキリカさんにそう言って俺を片腕で抱きしめながらも、自らの鼻を摘み、あっちいけと手を振る。
王都で出会った時と比べるとユミルさんは遥かに接しやすくなった。それは間違いない。それに心なしか、表情も豊かに見えるようになった気がする。
俺はそう思いつつ、二人が言い合いを続けるところを生暖かい目で見続けていた。
王都の検問前に辿り着いた俺達は馬車から降り、荷物を荷台から降ろしていく。ここで馬車を返却可能な状態にしておかないとあとで困るからな。
すると、後ろの方から激しめの口論が聞こえてきた。自然と周囲の人間は口論が行われている所に向かっていく。
俺もなんだか気になってしまい、野次馬みたいで少し嫌な気もしたが現場へ向かった。するとそこには、右頬を盛大に腫らしたフリオさんと怒っているポプラさんがいた。
「すまない」
「すまないじゃないわよ!! なんで私が冒険者辞めなきゃいけないのよ!」
「それは……俺がお前を失いたくないからだ!」
「はぁ!?」
どうやらフリオさんはポプラさんに冒険者を辞めるように迫っているようだった。
理由はきっとミーリエン湖で起きた事件がきっかけだろう。フリオさんはポプラさんを失いたくないと言っていたし、今後もあのような事件が起きないとも限らないからな。だがポプラさんも譲る気はないようで、口論になっているといったところか。
「今回の戦いで気付いたんだ。俺は自分の命より、ポプラの命が大切なんだ。だから……頼む!」
フリオさんはそう言って頭を下げる。ポプラさんは恥ずかしそうに頬を赤くしながらも意見を変えようとはしない。
「冒険者になった時から死ぬ覚悟なんてできてるわよ! それにアンタはユミルさんが好きなんでしょ?」
「ユミルさんに抱いてたのは憧れだって気付いたんだ。俺は……お前が好きだ、ポプラ! だから頼む! 冒険者を辞めて俺と結婚してくれ! これまで以上に稼いでみせるから! 絶対に後悔はさせない!」
フリオさんはポプラさんの肩を掴みながら必死に懇願する。
しかしポプラさんが放ったのは、渾身の一撃だった。右手から放たれたビンタがフリオさんの左頬を穿つ。
パシィィィンと乾いた音が鳴り響き、周囲には静寂が訪れた。
そしてポプラさんが口を開く。
「そんなに私のことが好きだったら、これからも守ってみなさいよ! トマト野郎に一人で立ち向かったアンタだったらそれくらいできるでしょ!」
「で、でも」
「でもじゃない! 私はアンタと冒険するのが好きなのよ! それを私から奪って結婚して欲しいですって? ふざけるのも大概にしてよ! 好きな女なら全力で守るのが漢でしょ!!」
「は、はい」
「はぁ……それで、いつ結婚するのよ」
「え、いいのか?」
「二度も言わせないでよ!」
「お、おう。じゃあ今日で」
両頬を盛大に腫らしたフリオさんがポプラさんにそう答えると、ポプラさんは恥ずかしそうにフリオさんに抱き着いた。
それを見ていた周囲の人間から盛大な拍手が沸き起こった。それにつられて俺も自然と両手を叩き始めていた。
「おめでとう!」
「おめでとう!」
戦いが終わり、ようやく俺達に平穏が訪れた瞬間だった。
まぁこのあと、俺は、キリカさんとユミルさんに両腕を引っ張られて死にかけることになるのだが……それはまた別の機会に語るとしよう。
■
それから四日が経過した。
王都に帰還してすぐに、ギルドマスターのヘレナさんへの報告が始まった。
オークロードは人工的に出現した可能性が極めて高いこと。どうやって発生させたのかは謎だが、元凶となる人物と遭遇し、やむを得ず殺してしまったこと。その人物は調査隊の誰よりも強く、倒せたのは運がよかったこと。そして元凶は一人ではなく、組織に所属している可能性が高いということ。
これらの報告をヘレナさんにした結果、問題はギルド内部だけで収まるようなものではないと判断された。下手をすれば国家を揺るがす問題になりかねないということで、ヘレナさんは王城へ赴き、事件の報告を行ったそうだ。
俺はといえば、忘れていた睾丸の報酬と今回の件の報酬で白金貨八百枚を手に入れた。オークロードの睾丸が四つで白金貨四百枚もするらしい。ただのオークの睾丸とはえらい違いだ。
苦労はしたがその分大金持ちになった。このまま何不自由なく暮らせるほどの金だ。しかも今回の報酬は平等に分配されたわけではなく、俺とフリオさんが一番もらったため、同行した冒険者の皆に飯をおごったりした。
厄介だったのは、キリカさんとユミルさんだ。
ユミルさんはまだマシな方で優しくご飯に誘ってくれただけだが、キリカさんは直接宿に誘ってきたのだ。
それで二人は口論を始めてしまい、ユミルさんに「行き遅れ」と罵倒されたキリカさんは、ショックを受けて泣いてしまった。結局、オルヴァさんとミリオさんを含めた五人でご飯を食べに行き、キリカさんの話を翌日の朝まで聞く羽目になった。
そして今現在、俺とミリオさんとフリオさんの三人は、王城へと続く道を走っている馬車に揺られているところだ。
今回の件について国から褒美が出るらしい。俺は幼い頃に王城に何度か足を運んだことがあるからあまり緊張はしていないが、フリオさんはものすごく緊張していた。着慣れない服を着こなしながらも両足はがくがくと震えている。
「な、なんで俺も行かなきゃいけねーんだ。アレクとミリオさん達だけでいいだろ!」
「そんなことはない。君があの時グレンに立ち向かわなければ、僕らは君とアレクを残して全員死んでいた。君は間違いなく英雄だよ。自分を誇るんだ」
「そうですよ。フリオさんがいなければ俺はあの場に戻ることもできませんでした。自信を持ってください!」
「わ、分かってるけどよぉ……流石に怖いぜ。なんか粗相して首でも飛ばされたらたまったもんじゃねぇ」
「ははは! 礼節を重んじていればそんなことは起こり得ないさ。それに陛下と顔を合わせるのなんてものの数分だからね。作法は教えてもらえるからその通りにやればいいだけだよ」
俺とミリオさんでフリオさんを元気付けているうちに、馬車は王城に到着した。
近衛兵にボディチェックをしてもらい、待合室へと案内される。
フリオさんは緊張しすぎて戻しそうになっていた。待合室で簡単な作法の指導をしてもらうと俺達の準備は終了した。
「もう一度呼びに参りますので、三十分ほどお待ちください」
そう言ってメイドさんが部屋を出ていく。
俺達は机の上に置かれた菓子を腹に入れながら、談笑して時間が来るのを待った。
十五分ほどすると、ノックもされずに勢いよく部屋の扉が開いた。突然のことに驚き、俺達は顔を扉の方へ向ける。そこには数ヶ月ぶりに見る父の姿があった。
「久しぶりだな、アレクよ!」
そう言って満面の笑みで近づいてくる父。だが憎悪に満ちた俺の顔を見た父は、その足を止めて俺と距離を取りながら話を続けてきた。
「ちょうど用があって王都に来ていたのだが、話は聞いたぞ! オークロードを二体も同時に討伐するとはな! 父として誇らしいぞ!」
「……そうですか」
「それに魔法が使えるのならなぜそう言わん! それが分かっていれば、お前を跡取りにすべく教育したというのに! まぁお前も無事にウォーレン学園に入学したことは知っている。あとはしっかりと卒業して家督を継げばいい!」
「……そうですね」
「リアもきっと喜ぶことだろう! まぁ今後のことはゆっくりと話し合おうではないか。またあとでな!」
父はそう言うと、ミリオさんとフリオさんには目もくれずに部屋をあとにして出ていった。
アイツは何も反省しちゃいない。俺の名を騙り、エリック兄さんを利用し、アリスを傷つけたことも、俺をいない存在として扱ったことも。
すべてを有耶無耶にしてなかったことにできると、本気でそう考えている顔だった。
俺がすべてを知っていることもアイツは気付いていたはずだ。それなのに、何が父として誇らしいだ。反吐が出る。俺はお前の息子だということを一度も誇りに思ったことはない。
「アレク、お前、貴族の息子だったのか?」
椅子に座っていたフリオさんが驚いた様子で話しかけてきた。ミリオさんも驚いた様子で菓子を食べる手を止めていた。
俺は作り笑いで二人に返事をする。
「数ヶ月ほど前までの話ですよ。今はただのアレクです」
俺が彼らにそう答えた時、部屋の扉がノックされた。近衛兵が「準備ができました」と言って部屋の中へ入ってきた。
それから近衛兵の後ろに続いて王城内を歩いていく。そして巨大な扉の前に辿り着くと、三人並んで待機させられた。
ここは謁見の間と呼ばれ、王と会う際に利用される部屋だ。フリオさんは緊張が限界突破しているのか、顔面蒼白になっている。
暫くして扉の両側に立っていた二人の騎士により、巨大な扉が開かれる。
俺達は近衛兵と共に真っ直ぐと中へ進んでいき、指示された位置で足を止めた。
目の前には陛下が座るであろう豪華な椅子が用意されており、両側から貴族の面々が俺達をジロジロと眺めている。その中には勿論父の姿もあった。
「アルバート・ラドフォード陛下がお見えになられます」
椅子の横に立つ男性が言葉を発したと同時に俺達は片膝をつき、顔を下に向ける。陛下が来るまでの間、この姿勢で待機しなければならない。
コツコツと硬い靴が床を蹴る音が聞こえ、その音はだんだんと近づいてくる。そしてその音が鳴りやんだあと、陛下の声がした。
「面を上げよ!」
俺達は揃って顔を上げる。そして陛下の隣にいる男性が話し始めた。
「先日、ミーリエン湖周辺においてオークロードが二体出現した」
この言葉に周囲にいた貴族達がざわつき始める。中には「大丈夫か?」と心配する者もいれば「さっさと退治すればよい」と安易に考えている者もいる。
「だがこの二体のオークロードは、アレク・カールストンとアリス・ラドフォード嬢による決死の奮闘により討伐された!」
その言葉に俺はピクリと体を反応させる。周囲からは歓声が巻き起こっているが、そんなことは大した問題ではない。
「カールストン」と呼ばれた。
つまり父が手配し、この場で、俺がカールストン家の一員であることを周囲に知らしめたということだろう。
「さらに二人の帰還後、異変を調査するために派遣された調査部隊が、オークロードを人工的に出現させたと思しき人間と遭遇した。その者は腹をえぐり取られても死なず、未知の魔法を使用したとされている」
歓声で沸いていた場内は、男性の言葉により再び沈黙に包まれた。
「しかし! 調査隊の者達の獅子奮迅の活躍により、見事脅威は打ち払われた! ここにいる三名はその中でも目覚ましい活躍をした者達である! よってこの三名に褒賞を与える!」
男性の言葉により再び周囲の貴族は表情を緩ませ、俺達に向かって歓声を浴びせる。褒められたことでフリオさんも落ち着きを取り戻したのか、顔色も温かみを取り戻していた。
「『蒼龍の翼』リーダー、ミリオ!」
「は!」
「貴殿は類稀なる才覚で調査隊を率い、見事脅威を打ち滅ぼしてくれた。よって王金貨一枚を与える。さぁミリオ!」
「は! 我が剣はフェルデア王国のために!」
王金貨一枚。これは額で言えば一千万円というとてつもないものだが、それ以上の価値がこの金貨にはある。この金貨を所有していることがステータスになるのだ。なぜならこの金貨は陛下から頂戴するしか所持する方法がないからだ。近衛兵から金貨を受け取ったミリオさんはその手を震わせている。
「冒険者フリオ!」
「は!」
「貴殿は非才の身でありながらも、脅威に立ち向かい調査隊の命を守るのみならず、民の命をも守ってくれた。よって貴殿には白金貨五十枚と功労勲章を授けるものとする! さぁフリオ!」
「は、は! 我が剣はフェルデア王国のために!」
そう言うと、フリオさんは震えながら白金貨が入った袋と勲章のメダルを手に取った。
功労勲章と言えば我が国では一番下の勲章だが、それでも平民の人間がもらうことはあまりないはずだ。周囲の貴族は功労勲章ならと納得し、拍手をしていた。
そしてようやく俺の番がやってくる。
「アレク・カールストンよ!」
「は!」
「貴殿は賢者ヨルシュをも凌ぐ魔法の才で、オークロードの討伐のみならず、我が国を脅かす存在を打ち滅ぼした! さらにこの者はワシの姪でもあるアリスの命をも救っている!」
陛下の言葉に周囲の空気がざわめいた。
賢者ヨルシュ様といえば、当代きっての魔法使いであり、国お抱えの存在である。その賢者よりも目の前にいる俺が魔法の才に優れていると、陛下は断言した。さらに陛下の姪でもあるアリスの命を救ったともなれば、その褒賞は計り知れないだろう。
「よって、アレク・カールストンに栄労勲章を与え、男爵に叙する! アレクよ!」
「え?」
俺は突然のことに慌てる。男爵に叙すだと? そんな話は聞いていない。フリオさんもミリオさんも目を見開いて驚いている。
周囲の貴族も驚きの声を上げていたが、一番驚いた顔をしているのは、俺の父親、ダグラスだった。たとえカールストンという姓が同じであったとしても、これにより俺の家と父親の家は別物として扱われることになるからだ。
「お、お待ちください陛下! アレクは我が息子でございます! 将来は私の跡を継ぐ予定になっているのです!」
「はて、お主にはエリックという名の立派な長男がいたはずじゃが?」
「そ、それは……」
「皆の者。アレクは確かにダグラスの息子ではあるが、次男であり、家督を継ぐ予定はないと言っていた。この才覚が我が国から失われるのは実に惜しいことである。そう思わんか?」
陛下の言葉に、父を除いた他の貴族は慌てて頷く。陛下の隣に立っていた男性も深く頷き、フリオさんに至っては首がもげるのではないかというほど首を縦に振っていた。
それを見た陛下は満足そうに頷くと、再び俺の顔を見て宣言した。
「アレク・カールストンに栄労勲章を与え、男爵に叙する! アレクよ」
「は! 我が剣はフェルデア王国のために!」
「うむ。アリスをよくぞ守ってくれた」
陛下の言った「アリスを守ってくれた」の意味が、オークロードからなのか、洗脳の件からなのかは分からない。だがいずれにしても、俺は今日陛下より男爵の爵位を下賜され、改めてアレク・カールストンに戻った。父の呪縛から逃れられたことは確かかもしれないが、再び彼らと同じ姓を名乗ることになったのだった。
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