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238.エグザイルエルフの二日酔い(海の精霊)✔
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翌朝になり、船室から上がって来たのだが、甲板にエグザイルエルフたちが転がっている。
飲み過ぎて、二日酔いになっているようだ。みんな頭が痛そうにしている。
グラッパはワインと比べるとアルコール度数が高い。これ程アルコール度数の高いお酒を飲んだことがなかったのではないだろうか。それにワインとのちゃんぽんも原因のひとつな気がする。
これでは本日の出港は無理なのではないだろうか?
昨日、ミルトがグラッパの購入を申し立てたが、酔っぱらった船長達が圧力をかけていた。
エグザイルエルフたちから《頭が痛い》とか、《吐きそうだなんとかしてほしい》と、大量に頭の中に念話が聞こえてくる。今日は腕輪を外しておいた方が良さそうだな。念話の腕輪は便利だと思ったが、常時使うのは考え直した方がいいかもしれない。
ミルトとミトは……甲板には見えない。ちゃんと船室に帰って眠ったようだな。これなら二日酔いになるまで飲んではいないだろう。二人は責任のある立場なので、お酒を飲む量をコントロールできていそうだな。
城に帰ることを伝えに行くと言っていたので会いに行ってみよう。
ミルトの部屋のドアをノックすると、「どうぞ」となんとも気の抜けた声がしてきた。部屋に入ったが、……ダメだな! これはどう見ても二日酔いに見える。責任のあるものの姿とは言えないな。
「ミルト、エグザイルエルフのお酒のことは分からないけど。動けなくなるまで飲んじゃダメだよ。そういえばミルトって何歳なの? 十二、三歳くらい? もう少し上かな? 十五、六?」
ミルトがこめかみを抑えながら指を一本立てた。
「え! ミルトって十歳なの? それはお酒を飲んではダメだよ!」
ミルトが立てた指をゆっくりと更に上げる。
「百十三歳になります! お酒は飲んでも大丈夫。だけど、あの強いお酒はなんなんですか? 美味しかったですが、生まれて初めてこんな酷いことになっています。頭が痛い! あんなに飲まなければよかった!」
「百十三歳なの?」
「いけない! 歳は言ってはいけないんでした。あのお酒が悪いんですよ。忘れてください!」
ミルトがこめかみを抑えながら小さく首を振っている。
「エルフは長命だと聞いているから言っても問題ないでしょ!?」
「それが、姉上が気にしていまして」
ミルトが苦しそうにしている。顔色も悪いし、頭痛が酷いようだ。
「僕がグラッパをみんなに飲ませちゃったからね!」
こんなことになるなんて、グラッパを全部売ったのは間違いだったかもしれない。なんか申し訳ない事をしてしまったみたいだな。
そこへミトが部屋に入って来た。
「ミルト、アルフレッドと昨日のお酒の話をしているの? あれは絶対にドワーフに高いお金で売れるわよ!」
お酒の話と勘違いしているようでよかった。
「ドワーフとも取引をしているんですか?」
「してるわよ。あの強いお酒は絶対に人気になるから、売ってほしいわ!」
「グラッパですね! 領地に帰ればいくらかはお譲りできますよ!」
「絶対に買い付けに行くわ! ミルト良かったわね! 船長たちにも困ったものね。まあ、気持ちは分かるけど!」
ミトが嬉しそうにしている。ミトはお酒に強いのか、もしくはあまり飲まなかったのだろう。
「ミルトはその様子だと出港することを伝えにいけそうにないわね! 代わりに行ってくるわ! 今日はどう見ても無理そうだから明日出港にしましょう!」
「姉上、それでお願いします!」
ミルトがこめかみを抑えながら辛そうにしている。
「他の者たちも全員まともに動けないわ! みんないくらなんでも飲み過ぎよ! アルフレッドに城までの護衛をお願いしてもいいかしら?」
ミトがニコニコしながら依頼して来た。
「いいですよ」
「では、お願いするわ」
ミトが部屋から出て行くので、後に続いて甲板に出る。
帆船から桟橋に降りようとしたときに、帆船の周りが波立ち人魚達が現れた。三十人はいるように見える。みんな手に三又の銛を持っており、船に近づいてくる。
「お迎えに来ました! 帆船の責任者の方と人間の男の子を、招待するように命令を受けています。人魚以外を城に案内するのは数百年ぶりなので、三人しかご招待できません!」
「責任者……三人ですか? ミルトとミトとアルフレッドになりますね! でも、ミルトは頭が痛くて吐きそうだから行けそうにないわね」
ミトが悩んでいるように見えるが、念話しているのかもしれない。俺は慌てて念話の魔道具の腕輪を装着した。
《ミルトがいないと……困るわね! 木々が近くにあるから精霊にお願いすれば少しは改善できるかも。やってみたほうがいいわね!》
ミトがそう念話すると翻訳できない何かを唱え始めた。
精霊の存在を信じてからの魔力鑑定眼では、魔力とは少し違う色で見えるようになっている。
今見えているのは、弱弱しいが薄い緑色が集まり船内へと消えて行く。二、三分ほど続いただろうか
《どう、ミルト、少しは気分が良くなった?》
《姉上ありがとうございます。少し良くなりましたが、頭が痛いし吐きそうです。人魚の方に失礼になるので行けそうにはないです。ふたりで行ってください》
あれくらいの精霊の力では、ミルトの二日酔いは改善しなかったみたいだな。
《癒しの魔法をかけてみますよ。でも、今回だけですからね。お酒の飲み過ぎは自分で責任をとらないとダメです。治してもらえると分かると歯止めがかからなくなりますから!》
《お願いします。もう飲み過ぎたりしません。誓います!》
ミルトから申し訳なさそうな気持ち迄伝わって来た。俺は直ぐにミルトの船室に向かうと、ミルトの頭の上に両手をかざす。癒しの魔法を行使すると両手から温かそうな光があふれ出てミルトの頭から吸い込まれていく。イメージはアルコールの分解除去だ。ミルトは気持ち良さそうにしている。
《かなり改善されたけど、王族に会うには不安ですね!」
ミルトが青白い顔で見上げてくる。確かにまだ顔色が良くない。ミトがミルトを見ながら「海の精霊にお願いできたら治せると思うのですが、相性がよくないから」と小さな声で呟いた。
精霊にもお願いすれば、癒しの魔法の効果が上がるんだったな。
「もう一度、癒しの魔法をかけるよ」
海の精霊がいることを信じて、力を貸してほしいとお願いをする。そして癒しの魔法をミルトに行使した。
先程と同じように俺の両手から温かそうな光があふれ出てくる。ミルトの体に船外から青い光が集まり始め、どんどんと吸い込まれていく。ミルトの顔色が改善していくのが見ていて分かる。ミルトは集まった光を両手で掴むような仕草をしている。手で捕まえようとした光もミルトに吸収されていく。幻想的な光景だ。
「青色の精霊! これが海の精霊なの? 綺麗!」
ミトが小さな声で呟く。
海にいる人魚達からも歓声が聞こえてくる。俺は慌てて船室を飛び出すと甲板に出る。すると海から湧き上がる青い光に人魚達が目を奪われているように見える。三分近く続いた光は段々と収まり元の穏やかな海に戻った。
人魚達がザワザワとしており、驚いているのが分かる。ミトもミルトも甲板に出ており、俺を見つめているが、その顔はかなり驚いている。他のエグザイルエルフ達の体にも精霊が吸収されていく。
《この広範囲は絶対におかしいでしょ! アルフレッドは精霊に愛されているのね! こんなに海の精霊が力を貸してくれるなんて信じれません!》
ミトが口を少し尖らせているように見える。ミトは海の精霊と相性がよくないため、やきもちを焼いているかのようだ。
《アルフレッドの癒しの魔法と、精霊魔法は完璧だよ! 飲む前よりも元気になったかもしれない!》
ミルトの完全復活宣言だ。
「海の精霊は誰が呼ばれたのですか?」
先程の人魚が話しかけてきた。
ミトとミルトが俺を見てくるが、俺は言わないように念話する。
「突然のことで分からないです! すみませんお待たせして、三人が決まりました!」
ミルトが船縁まで歩いて行くと元気な声で答えた。
「そうですか!? ではこちらにお願いします」
目の前の海に大きな樽のようなモノが三つ浮かんでいた。
飲み過ぎて、二日酔いになっているようだ。みんな頭が痛そうにしている。
グラッパはワインと比べるとアルコール度数が高い。これ程アルコール度数の高いお酒を飲んだことがなかったのではないだろうか。それにワインとのちゃんぽんも原因のひとつな気がする。
これでは本日の出港は無理なのではないだろうか?
昨日、ミルトがグラッパの購入を申し立てたが、酔っぱらった船長達が圧力をかけていた。
エグザイルエルフたちから《頭が痛い》とか、《吐きそうだなんとかしてほしい》と、大量に頭の中に念話が聞こえてくる。今日は腕輪を外しておいた方が良さそうだな。念話の腕輪は便利だと思ったが、常時使うのは考え直した方がいいかもしれない。
ミルトとミトは……甲板には見えない。ちゃんと船室に帰って眠ったようだな。これなら二日酔いになるまで飲んではいないだろう。二人は責任のある立場なので、お酒を飲む量をコントロールできていそうだな。
城に帰ることを伝えに行くと言っていたので会いに行ってみよう。
ミルトの部屋のドアをノックすると、「どうぞ」となんとも気の抜けた声がしてきた。部屋に入ったが、……ダメだな! これはどう見ても二日酔いに見える。責任のあるものの姿とは言えないな。
「ミルト、エグザイルエルフのお酒のことは分からないけど。動けなくなるまで飲んじゃダメだよ。そういえばミルトって何歳なの? 十二、三歳くらい? もう少し上かな? 十五、六?」
ミルトがこめかみを抑えながら指を一本立てた。
「え! ミルトって十歳なの? それはお酒を飲んではダメだよ!」
ミルトが立てた指をゆっくりと更に上げる。
「百十三歳になります! お酒は飲んでも大丈夫。だけど、あの強いお酒はなんなんですか? 美味しかったですが、生まれて初めてこんな酷いことになっています。頭が痛い! あんなに飲まなければよかった!」
「百十三歳なの?」
「いけない! 歳は言ってはいけないんでした。あのお酒が悪いんですよ。忘れてください!」
ミルトがこめかみを抑えながら小さく首を振っている。
「エルフは長命だと聞いているから言っても問題ないでしょ!?」
「それが、姉上が気にしていまして」
ミルトが苦しそうにしている。顔色も悪いし、頭痛が酷いようだ。
「僕がグラッパをみんなに飲ませちゃったからね!」
こんなことになるなんて、グラッパを全部売ったのは間違いだったかもしれない。なんか申し訳ない事をしてしまったみたいだな。
そこへミトが部屋に入って来た。
「ミルト、アルフレッドと昨日のお酒の話をしているの? あれは絶対にドワーフに高いお金で売れるわよ!」
お酒の話と勘違いしているようでよかった。
「ドワーフとも取引をしているんですか?」
「してるわよ。あの強いお酒は絶対に人気になるから、売ってほしいわ!」
「グラッパですね! 領地に帰ればいくらかはお譲りできますよ!」
「絶対に買い付けに行くわ! ミルト良かったわね! 船長たちにも困ったものね。まあ、気持ちは分かるけど!」
ミトが嬉しそうにしている。ミトはお酒に強いのか、もしくはあまり飲まなかったのだろう。
「ミルトはその様子だと出港することを伝えにいけそうにないわね! 代わりに行ってくるわ! 今日はどう見ても無理そうだから明日出港にしましょう!」
「姉上、それでお願いします!」
ミルトがこめかみを抑えながら辛そうにしている。
「他の者たちも全員まともに動けないわ! みんないくらなんでも飲み過ぎよ! アルフレッドに城までの護衛をお願いしてもいいかしら?」
ミトがニコニコしながら依頼して来た。
「いいですよ」
「では、お願いするわ」
ミトが部屋から出て行くので、後に続いて甲板に出る。
帆船から桟橋に降りようとしたときに、帆船の周りが波立ち人魚達が現れた。三十人はいるように見える。みんな手に三又の銛を持っており、船に近づいてくる。
「お迎えに来ました! 帆船の責任者の方と人間の男の子を、招待するように命令を受けています。人魚以外を城に案内するのは数百年ぶりなので、三人しかご招待できません!」
「責任者……三人ですか? ミルトとミトとアルフレッドになりますね! でも、ミルトは頭が痛くて吐きそうだから行けそうにないわね」
ミトが悩んでいるように見えるが、念話しているのかもしれない。俺は慌てて念話の魔道具の腕輪を装着した。
《ミルトがいないと……困るわね! 木々が近くにあるから精霊にお願いすれば少しは改善できるかも。やってみたほうがいいわね!》
ミトがそう念話すると翻訳できない何かを唱え始めた。
精霊の存在を信じてからの魔力鑑定眼では、魔力とは少し違う色で見えるようになっている。
今見えているのは、弱弱しいが薄い緑色が集まり船内へと消えて行く。二、三分ほど続いただろうか
《どう、ミルト、少しは気分が良くなった?》
《姉上ありがとうございます。少し良くなりましたが、頭が痛いし吐きそうです。人魚の方に失礼になるので行けそうにはないです。ふたりで行ってください》
あれくらいの精霊の力では、ミルトの二日酔いは改善しなかったみたいだな。
《癒しの魔法をかけてみますよ。でも、今回だけですからね。お酒の飲み過ぎは自分で責任をとらないとダメです。治してもらえると分かると歯止めがかからなくなりますから!》
《お願いします。もう飲み過ぎたりしません。誓います!》
ミルトから申し訳なさそうな気持ち迄伝わって来た。俺は直ぐにミルトの船室に向かうと、ミルトの頭の上に両手をかざす。癒しの魔法を行使すると両手から温かそうな光があふれ出てミルトの頭から吸い込まれていく。イメージはアルコールの分解除去だ。ミルトは気持ち良さそうにしている。
《かなり改善されたけど、王族に会うには不安ですね!」
ミルトが青白い顔で見上げてくる。確かにまだ顔色が良くない。ミトがミルトを見ながら「海の精霊にお願いできたら治せると思うのですが、相性がよくないから」と小さな声で呟いた。
精霊にもお願いすれば、癒しの魔法の効果が上がるんだったな。
「もう一度、癒しの魔法をかけるよ」
海の精霊がいることを信じて、力を貸してほしいとお願いをする。そして癒しの魔法をミルトに行使した。
先程と同じように俺の両手から温かそうな光があふれ出てくる。ミルトの体に船外から青い光が集まり始め、どんどんと吸い込まれていく。ミルトの顔色が改善していくのが見ていて分かる。ミルトは集まった光を両手で掴むような仕草をしている。手で捕まえようとした光もミルトに吸収されていく。幻想的な光景だ。
「青色の精霊! これが海の精霊なの? 綺麗!」
ミトが小さな声で呟く。
海にいる人魚達からも歓声が聞こえてくる。俺は慌てて船室を飛び出すと甲板に出る。すると海から湧き上がる青い光に人魚達が目を奪われているように見える。三分近く続いた光は段々と収まり元の穏やかな海に戻った。
人魚達がザワザワとしており、驚いているのが分かる。ミトもミルトも甲板に出ており、俺を見つめているが、その顔はかなり驚いている。他のエグザイルエルフ達の体にも精霊が吸収されていく。
《この広範囲は絶対におかしいでしょ! アルフレッドは精霊に愛されているのね! こんなに海の精霊が力を貸してくれるなんて信じれません!》
ミトが口を少し尖らせているように見える。ミトは海の精霊と相性がよくないため、やきもちを焼いているかのようだ。
《アルフレッドの癒しの魔法と、精霊魔法は完璧だよ! 飲む前よりも元気になったかもしれない!》
ミルトの完全復活宣言だ。
「海の精霊は誰が呼ばれたのですか?」
先程の人魚が話しかけてきた。
ミトとミルトが俺を見てくるが、俺は言わないように念話する。
「突然のことで分からないです! すみませんお待たせして、三人が決まりました!」
ミルトが船縁まで歩いて行くと元気な声で答えた。
「そうですか!? ではこちらにお願いします」
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