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310. 久しぶりの王都(王都見物)✔

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 お父様の熱意に負けてブローチの製作に取り掛かる。ネックレスとイヤリングのセットと比較すると短い時間で完成させることができたんだ。

 ガルトレイク公爵とハイランド子爵の所には、乳液などを届けるマシュー商会の定期便が出ているので預けることにした。

 プレゼントも揃ったので、やっとメダリオン城に向かうことができる。チビとベビが一緒に行きたいと言うんだ。人化できるようになったから、王都見物がしたいんだってさ。

 猫の瞳孔みたいだから、サングラスも製作したよ。フレームは軽くて丈夫な魔蟻の脚から切り出し、レンズは予備を使うことにした。切り出しは水魔法のウォーターカッターで順調に作業は進んだ。

 後は怪我をしないように角のあるフレームを丸くする必要がある。この研磨が大変だったんだ。木で造る方が何十倍も楽でいい、硬すぎるのも考えものだよ。

 王都まで街道の上空を飛行すると騒ぎになるし、邪神教の施設がないか調べるためにも森の上空を飛ぶことにしている。メダリオン王国内には残っていないはずなんだけどね。

 王都まで、まだ五キロ以上あるけど、騒ぎにならないようにそろそろ着陸しよう。チビとベビには人化してもらい、街道を歩くつもりでいる。歩くのも早くなっているから、これくらいの距離なら問題ないからね。

 チビとベビがいると獣も魔物も近づいて来ない、だから武器も持ち歩かなくてもいいんだけど、徒歩で武器も持っていないと怪しまれるんだ。

 ふたりには魔蟻製の剣と小さな盾を渡しているが、背中のエリクシアが小学生の背負うランドセルに見えて仕方ないんだ。

 俺の背中のエリクシアと合わせて三つだ。土魔法で頑丈な容器を造ったせいで二十キロもあり、半分は容器の重さだ。

 二つあればキャスペル殿下の脚を元に戻せる。だけど、念のために三個にしたんだ。残ったエリクシアは、小分けにして万能ポーションとして使えばいいからね。

 森の中を抜け街道に向かう。王都が近いからだろう人の往来はある、運が良ければ馬車に乗せてもらえるかもしれない。

 後ろを振り返ると馬車が近づいて来るのが見えた。しかし、馬車が急に止まって動かなくなってしまった。御者の男がなんとか動かそうとしているが、馬は一歩も動こうとしない。御者台から降りて手綱を引いても馬は一歩も動く気はないようだ。

 馬車に乗れると期待したがこの分では難しいだろう、王都まで、もう少しなので先を急ぐ。

「ねえ、チビ! 王都に着いたら何を食べるノ! ベビはすごく大きなシュークリームが食べたいノ!」

「シュークリームは食べたいダォ! 昨日、シュークリームが無いのは悲しかったダォ!」

「そうなノ、プリンとシュークリームがいいノ!」

「アルママ! 王都に着いたらシュークリームはあるダォ! 大きいのがいいダォ!」

「ベビも大きなシュークリームに決めたノ!」

 チビとベビは歩き始めてからずっと、王都で何を食べるか熱心に話し合っていたが、結局シュークリームに落ち着いたみたいだ。マシューさんの結婚披露宴にシュークリームがないだけでそんなに悲しんでいたとは思いもしなかった。もっと早くに行ってくれれば、ハニーカステラをシュークリームに変更できたんだけどな。

 シュークリームは、ハイルーンのスイーツ店で提供していたっけな? あったようなないような、ふわふわパンケーキとハニーカステラは間違いなくあるんだけどな。自分の店だというのに情けない。マシューさんに全て任せっきりだからな。こんなことでは経営者としては失格だろうな。チビとベビが想像している大きなシュークリームは三十センチもあるやつで俺の特製だ。そんな大きなシュークリームなんて絶対に取り扱いはしていない。だけど、カスタードクリームはあるはずだから、シューだけ俺が焼けばいいだけだ。

 シュークリームを提供していなければ、厨房を貸してもらい、作ればいいだけではあるが……ついでに作り方も覚えてもらえば、新メニューとして提供すればいいか。

 ダメか! ちゃんとメニューと作業工程も造らないとお店ごとで品質に違いがでそうだな。魔道具『偽りの姿』を貰ったから、味のチェックをして回るのもありだな。

 そんなことを考えていたら二キロほど進んでいた。後ろを振り返って見ると、さっきの馬車が同じ距離を保っている。動く気になったみたいだな。

 俺が立ち止まるとチビとベビも立ち止まる。すると馬も動かなくなった。また、御者の男が必死に馬を動かそうと四苦八苦し始めた。これは大変そうだな。

 向かいの王都側から馬車が見えたが立ち止まってしまった。こっちも御者があの手この手で馬を動かそうとしているが動く気は無さそうだ。俺たちが歩き始めると、後退りを始めてしまったぞ! そういうことか!

 どうやら、馬はチビとベビの気配を察知しており、近づいて来ないようだ。馬と御者の男には悪いことをした。こんなことが起きるなんて予想していなかった。次からは馬車や人の移動しない、暗い間に王城まで飛んで行くことにしよう。

 これ以上迷惑にならないように馬車をやり過ごそう。街道から外れ森に入り、ちょっと早いが休憩を取る。魔蜂蜜もあるからマシューさんのくれた紅茶を飲むことにしよう。

 土魔法でカップを三つとポッドを造る。シルクスパイダー製のティーバッグをポッドに投入、魔力水を生み出すと火魔法で温める。少し待っていると辺りには紅茶のいい香りが漂い始めた。魔蜂蜜を加えてかき混ぜれば完成だ。

「チビ、ベビ、魔蜂蜜入りの美味しい紅茶ができたよ!」

「いい匂いダォ!」「紅茶は初めてなノ!」

「熱っ 熱いダォ!」「熱かったノ!」

「え! 火炎を吐くのに猫舌なの? おかしいでしょ?」

「人化すると舌が敏感になるダォ!」「だから味がよく分かるノ!」

 フウフウしながら、紅茶を飲む姿は見ているだけで癒される。

 俺は休憩するため、魔道具を解除すると、ブロンドの髪で瞳はブルーの青年から、プラチナ色で両目が黒色の元の姿に戻った。髪と目の色が目立ち過ぎるため、『偽りの姿』の魔道具を使用していたんだ。

 外出する時は変身するつもりでいるんだ。公爵様とか呼び止められると、人が集まって身動きが取れなくなるからね。これでは調査なんてできない、目立たないのが一番だからね。

 この辺りは森といっても下刈りがされており歩きやすい。人がよく入って木や木の葉をを集めたりしているんだろうな。猟もするのかもしれないな。お陰で街道を歩かなくても王都の近くまで行けそうだ。

 嘘だろ? こんなところで魔熊に出会うなんて。あれか? さっき、魔蜂蜜を使ったせいなのか? 俺のトラブル体質は、なんと仕事熱心なんだろうか、嫌になる。

 どうしようかな。失神させるにしても街道から近過ぎる。人に危険が及ぶのは避けたい。人を襲えば魔熊も無事では済まないだろう。気絶させて、森深くに運んで放してやろう。

 チビとベビに作戦を念話した。ふたりは背中のエリクシアを下ろし、服を俺に預けた。龍の姿に戻ると魔熊に向かっていく。カップとポッドは元の土に戻しておこう。食器は現地で造るから荷物が少ないんだ。

 えっ! 魔熊が腹を見せてひっくり返るとバタバタとし始めた。ナニコレ? 服従のポーズ? チビが魔熊の胴に巻き付いてそのまま飛び上がると計画していた通りに森の奥へ飛んで行った。

 五分ほどで帰って来ると人化を始めた。ベビが言うには他にも魔熊がいたから同じように離れた場所に連れて行ったそうだ。

 魔蜂が近くに飛んでいたそうだから、きっと魔蜂蜜にありつけるんじゃないだろうか。

 チビとベビがいてくれれば、魔物なんて心配いらないのではないだろうか。

 その後は森の中を進んでもトラブルは起きることもなく、王都に到着することができた。
 
 久しぶりの王都は人も多く賑わっており、露店の数も増えている。しかし、売っている屋台の食べ物は相変わらず、串焼きが多い。

 新しい屋台があった。形は違うが例えるならベビーカステラだな。スイーツのお店が増えている。ふわふわパンケーキの屋台まであった。売れると分かればすぐに真似するみたいだな。

 ふくらみが足りていないな。名前に偽りありだが、値段が半分なら許されるのだろう。

 タコ焼きと聞こえたので急いで向かう。確かにタコ焼きだった。タコの足を切り串に突き刺して焼かれていた。見たまんまタコ焼きだ。

 以前は食べていなかったので、食べるようになったみたいだな。それにしてもタコが大きくて足が太い。試しに買ってみたが、硬い。噛むと歯応えがあり、味はジュワッと出てくる。美味しいがとにかく硬い。隠し包丁を入れれば食べやすくなるだろう。直接焼くのはどうなんだろうか? 今度タコの料理も研究してみようかな。

 ハイルーンのスイーツ店が見えてきた。お客が外にまで並んでいる。となりのハイルーンのお店もハイルーン印のお店にも同じような列ができている。

 この列の横を通り、店内に入る勇気はないな。裏口からお邪魔することにした。一年以上ぶりだな。勝手口のドアを開けて入ろうとしたら止められてしまった。

 そうだ、忘れていた。魔道具を解除する。元の姿に戻ると、みんなに驚かれると共に大歓迎された。ビップルームに案内してもらう。

 月に最低二回以上は通い詰めていたからね。直ぐに準備しますと言われ、待っているとふわふわパンケーキとハニーカステラが出てきた。チビとベビの視線が痛い。

 シュークリームは扱っていないというので、厨房を使わせてもらう。大きなシューを火魔法と風魔法を使い焼き上げた。みんなから拍手が巻き起こっている。カスタードクリームと生クリームの両方を、シューに詰め込んだ。大きいだけに凄い量が詰まっている。ずっしりとした重量感がある。

 直径三十センチの大きなダブルシュークリームの完成だ。大きなお皿に乗せるとチビとベビの前に置いた。

 ふたりの顔がニヤーとほころんでいく、この嬉しそうな顔が見れただけでも作った甲斐がある。

「アルママ、この大きなシュークリーム、今までで一番おいしいダォ! クリームが二種類も入っているダォ!」

「ママ、ベビも今まで食べた中で一番好きなノ! どっちのクリームも大好きなノ!」

 チビとベビから美味しい以外の感想を聞くことができるだなんて、そっちの方がビックリだよ。よほど美味しいんだろうな。ふたりの口の周りは二種類のクリームの髭が出来上がっていた。

「また作ってあげるからね!」

 当然だが、シュークリームの作り方を聞かれた。見ての通りなんだが、誰もできないと言われた。そうだろうな。混合魔法なんて普通使えないからな。魔法のスクロールを使えば複合魔法で再現はできるだろう。でも、とんでもなく費用が高くなってしまうから、シューを焼くためだけに誰もやらないよね。
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