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151.カイル兄さん勧誘(え! え! え~!)✔ 2023.12.3修正文字数 前3,688 後4,445 増757
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マルベリー公爵の街の南西隣にレイモンという町があり、特産の酸っぱい黄色いレイモンという柑橘が有名だ。この町の規模はあまり大きくないため、珍しくアットホームな騎士団であった。
朝からカイル・ハイルーン十四歳は見習い騎士として、先輩騎士と領地を見回る業務についていた。
先輩騎士と一緒に行動することで仕事を体で覚えるのだ。
カイルは体を鍛えるため、自主的に土を掘り十キロほど袋に詰めて背負っている。
先輩騎士は軽装をしており、体の大きさも違うため、カイルは遅れまいと必死について行く。
一時間程経っただろうか、一人の騎士がカイルに声をかけた。
「カイル・ハイルーン お前に小さなお客が来ているぞ」
騎士が微笑む。この二年の間、手紙すら届かなかったカイルに小さなお客、誰だろうと小首を傾げるカイル。
「休憩してよし。土袋は置いて行けよ」
一緒に見回りをしていた騎士が笑いながら言った。
「ありがとうございます。少し休憩させてもらいます」
カイルは背負っていた土袋をその場にドサッと降ろすと、通行の邪魔にならないように端に移動させた。
待っていた騎士について歩いて行く。するとそこにはアルフレッドがいた。
アルフレッドは今まで見たこともない奇抜な格好をしているため、カイルは頭のてっぺんから足の先まで舐めるように視線を這わせた。
「変わった格好をしており、お前の弟だと言っているが、間違いないか?」
騎士は不審者でも見るような視線をアルフレットに向けながら言った。
「アルフレッド・ハイルーン、弟で間違いないです!」
「そうか! では三十分休憩してよし。しかし、今、王都ではこんな変わった格好が流行っているのか? 何処で売っているんだ? 後で聞いて教えてくれ!」
「分かりました。聞いておきます。休憩、ご配慮ありがとうございます!」
カイルは先輩騎士にかしこまって言うと、先輩騎士は怪しむような視線をもう一度、アルフレッドに送ってから歩き去った。
「待たせたな。アルフレッド。誰と一緒に来たんだ? こんなに遠くまでよく来れたな?」
「カイル兄さん、久しぶりですね。ガルトレイク第三騎士団長からここにカイル兄さんがいると教えてもらったので、王都の帰りに来たんですよ」
アルフレッドはニコニコとしながら元気に言った。
カイルはアルフレッドの後ろ辺りを何かを探すように見回した。
「ひとりで来たのか?」
「はい」
「そうか、遠い所会いに来てくれてありがとう。みんな元気にしているか?」
カイルは家族の事が気になっていたのだろう、アルフレッドの顔を見れて安心したのか嬉しそうに言った。
「ええ。お父様もお母様も、サーシャも元気ですよ。ところでカイル兄さんにお父様から手紙は届くのですか?」
「いや、この二年間で一度も届いてないぞ。本当にうちの親はどうなっているのかな? 他の同期は最低でも半年に一度は手紙が届いているんだがな」
カイルはそう言いながら苦笑いする。
「やっぱり! それなら、この二年の間の出来事は何も知らないんですよね?」
苦笑いを浮かべていたカイルの顔は、一瞬で不安そうな表情に変わった。
「もしかして、またゴブリンが襲って来たのか? 誰も怪我していなければいいけど」
「あれから襲われてはいませんよ。襲われないようにゴブリン迷宮の討伐も定期的にやってますからね」
アルフレッドが誇らしげに言うと、カイルの不安そうな表情が和らいだ。
「そうか! じゃあ、グラン帝国が攻めて来るという噂を聞いていたんだが、その話か? 誰かが撃退したらしいんだが、マルベリー公爵軍ではないみたいなんだ。アルフレッドは何か聞いていないか?」
「あれですか? 色々と……公にできないんですよね」
アルフレッドは考えながら言葉を選ぶように言った。
「その言い方からすると知っているんだな? 誰にも言わないから内緒で教えてくれよ!」
カイルは身を乗り出すようにすると、興味深々な様子だ。
「どうしようかな……本当に誰にも言わない? それならいいけど、絶対ですよ!」
アルフレッドは少し悩む素振りをしていたが、小声で念を押すように言った。
カイルは周りを見回すと、アルフレッドの両手を握り、小声で言う。
「約束する、絶対に誰にも言わないから」
カイルはアルフレッドの目を見つめるように訴えかけており、必死さが窺える。
「う~ん……僕ですね」
アルフレッドは少しはにかみながらカイルの耳元につぶやくように言った。
「はぁ!?」
カイルの声が裏返っている。その顔は何を言っているんだこいつ、と言いたげな表情をしていた。
「アルフレッド、大丈夫か? お前、酷く頭を打った後遺症が出たんだな……だからそんな変な服を……」
カイルはアルフレッドの服を再度確認すると、心配そうに顔を見る。
「やだなーカイル兄さん。そんな目で見ないでよ! この服がそんなにおかしいですか? 僕はもう、大丈夫ですよ」
カイルはどこまでも明るいアルフレッドを心配そうに見ていたが、ハッと思い出したように言う。
「ところでアルフレッド、お前、こんなに遠くまで何しに来たんだ!?」
「ほら、手紙届いてないでしょ、お母様が心配していたんですよ。……それと、カイル兄さんの就職先の勧誘がメインの要件ですね」
カイルは目を大きく見開くように驚いている。父親が村で辺境騎士を続ける間は枠がないため、カイルは就職先をどこにするべきか悩んでいたからだ。
「はぁ!? 就職先の勧誘だって!? どこへ? 誰が雇ってくれると言っているんだ?」
カイルは興奮気味に、アルフレッドの腕を掴んだまま前後に揺さぶる。
「カイル兄さんは村の辺境騎士になりたかったんですよね?」
「ああ、だけど、村の騎士の枠は一人だけだから、父上が引退するまで無理だろ?」
カイルの両手から力が抜け、少しがっかりしている。
「カイル兄さん? 今、村の騎士は五人なんですよ!」
「なんだと!? いつから。え? どうなっているの?」
カイルの顔は、あんな小さな村に騎士が五人も必要ないだろと言いたげで困惑している。
「今度、騎士と文官も増やす予定なのでカイル兄さんを勧誘しに来たんですよ。雇い主は僕ですよ!」
「はぁ!? お前、何言ってんだ!? やっぱり頭、大丈夫じゃないだろ!」
カイルは思っていたことが口から出たのか、しまったという表情をしている。
「ですよね。簡単には信じられませんよね? カイル兄さん、申し遅れましたが自己紹介をしますよ」
アルフレッドが少し硬い表情で言った。
「今更、何言ってんだよ。自己紹介なんていらないって……かなり重症だな」
カイルは残念な弟を見るような目をしており、最後はぼそりと呟くように言った。
アルフレッドは気にする様子もなく、姿勢を正すと自信ありげにしている。
「陛下より伯爵に陞爵されたんです。以後、お見知りおきください。なんてね」
アルフレッドが真面目な表情を崩すと、ペロリと舌を出して引っ込めた。
「……なに!? え! え! え~! いつの間にそんなことになっているの!?」
カイルは目が飛び出すのではないかというほど大きく目を見開いて驚いている。
「去年、グラン帝国を撃退して男爵に叙爵されたんですが、色々あって今年、伯爵に陞爵されたんですよ」
「待ってくれ。伯爵に陞爵されたことは聞こえたが、夢のような話に頭が理解しようとしてくれない」
カイルは両手で頭を抱えるようにしており、気の毒に見える程困惑している。
アルフレッドはカイルが落ち着くのを待つように眺めている。
「カイル兄さんが卒業したら僕が雇うってことでいいんですよね? あ、給料は適正金額で、身内贔屓とかはないですよ。あと、先の話になるんですけど、クロード兄さんも了承済で雇うことになってます」
「クロードも? アルフレッドが言っていることを信じていいのか!?」
「はい。できれば優秀な成績で卒業してください。給料を少し上乗せできますよ」
「そこそこ成績はいいから期待していていいぞ」
カイルは落ち着きを取り戻し、笑顔が見えるようになった。
「あの、カイル兄さん? 村の名前なんですが憶えていますか?」
「お前、いくら何でも酷くないかそれ? ロプト村だろ、忘れるわけないじゃないか!」
「ですよね。残念ですがロプト村はもうありません!」
アルフレッドが楽しそうに言う。
「え! どういうこと?」
カイルが驚き、アルフレッドはニコニコと楽しそうだ。
「今はハイルーン村に変更されており、近いうちに町になる予定ですね。人口も千人を超えているはずですよ」
さらにカイルが驚き、アルフレッドはそれを楽しんでいるかのようだ。
「俺がいない二年の間でそんなことになっているの? これって手紙が届かないのって、そういう虐め的なやつ? 帰ったら父上に聞くことができたな!」
「家も場所が変わっているので間違えないでね。村に入ったら川沿いに進んで橋を渡ったら、左に折れて川沿いを進むとハイルーン邸ですよ」
「川を渡る? 村に橋なんてあったっけ? まったく想像できないんだけど!?」
またもや、カイルの顔は困惑気味だ。
「村がかなり大きくなっているので、楽しみに帰って来てくださいね。そろそろ三十分たちますよね?」
アルフレッドは悪戯が成功したときのように上機嫌だ。
「そうだな。……おっと、忘れるところだった。その服が王都ではやっているか聞いてくれって先輩に言われたんだけど?」
「僕以外には着てる人は見たことないですね。これ、空を飛ぶための服ですから!」
「……空を飛ぶための服!?」
カイルは理解できないのか不思議そうな顔をしている。
「もう帰るので実演しますよ。では卒業したらうちに就職と言う事でお願いしましたからね」
アルフレッドが右手を差し出すとカイルはその手を両手で掴み固い握手を交わした。
「よろしくお願いします伯爵様? で、いいのかな?」
「こちらこそお願いしますね」
カイルもアルフレッドも笑いながら手を離した。
「それじゃあ飛びますね。みんなにはカイル兄さんが元気だったことは伝えておきますから、怪我をしないで無事卒業してね」
「ああ、元気で頑張っていたと伝えてくれ!」
ゴウゴウと風が吹き出しアルフレッドが飛び上がった。そして少し離れた場所に降りると、カーゴウイングを持って物凄いスピードで飛び去った。
「俺は夢でも見ていたのだろうか? 訓練のし過ぎで俺の頭がおかしくなっていたかな? 頭は酷くは打っていないんだけど、何度か木剣があたったからな。あれが悪かったかな?」
カイルはアルフレッドの飛び去った空を眺めながら、心の声が漏れ出ていた。
「なんだか、どっと疲れが出てきたぞ」
「いや、カイル。お前の頭はおかしくなっていないぞ。俺もお前の弟が飛んで行くのを見たからな。あれは空を飛ぶための服なんだな。しかし、お前の弟はとんでもない化け物だな。あれ、相当な魔法師だぞ、空飛ぶのは絵本で見た賢者・アールス・ハインド様しか知らないからな」
カイルが声のした方に振り返ると、服の事を聞いてほしいと言っていた先輩騎士がいた。
よほどアルフレッドが怪しかったのだろう、先輩騎士はこっそりと隠れて様子を伺っていたようだ。
朝からカイル・ハイルーン十四歳は見習い騎士として、先輩騎士と領地を見回る業務についていた。
先輩騎士と一緒に行動することで仕事を体で覚えるのだ。
カイルは体を鍛えるため、自主的に土を掘り十キロほど袋に詰めて背負っている。
先輩騎士は軽装をしており、体の大きさも違うため、カイルは遅れまいと必死について行く。
一時間程経っただろうか、一人の騎士がカイルに声をかけた。
「カイル・ハイルーン お前に小さなお客が来ているぞ」
騎士が微笑む。この二年の間、手紙すら届かなかったカイルに小さなお客、誰だろうと小首を傾げるカイル。
「休憩してよし。土袋は置いて行けよ」
一緒に見回りをしていた騎士が笑いながら言った。
「ありがとうございます。少し休憩させてもらいます」
カイルは背負っていた土袋をその場にドサッと降ろすと、通行の邪魔にならないように端に移動させた。
待っていた騎士について歩いて行く。するとそこにはアルフレッドがいた。
アルフレッドは今まで見たこともない奇抜な格好をしているため、カイルは頭のてっぺんから足の先まで舐めるように視線を這わせた。
「変わった格好をしており、お前の弟だと言っているが、間違いないか?」
騎士は不審者でも見るような視線をアルフレットに向けながら言った。
「アルフレッド・ハイルーン、弟で間違いないです!」
「そうか! では三十分休憩してよし。しかし、今、王都ではこんな変わった格好が流行っているのか? 何処で売っているんだ? 後で聞いて教えてくれ!」
「分かりました。聞いておきます。休憩、ご配慮ありがとうございます!」
カイルは先輩騎士にかしこまって言うと、先輩騎士は怪しむような視線をもう一度、アルフレッドに送ってから歩き去った。
「待たせたな。アルフレッド。誰と一緒に来たんだ? こんなに遠くまでよく来れたな?」
「カイル兄さん、久しぶりですね。ガルトレイク第三騎士団長からここにカイル兄さんがいると教えてもらったので、王都の帰りに来たんですよ」
アルフレッドはニコニコとしながら元気に言った。
カイルはアルフレッドの後ろ辺りを何かを探すように見回した。
「ひとりで来たのか?」
「はい」
「そうか、遠い所会いに来てくれてありがとう。みんな元気にしているか?」
カイルは家族の事が気になっていたのだろう、アルフレッドの顔を見れて安心したのか嬉しそうに言った。
「ええ。お父様もお母様も、サーシャも元気ですよ。ところでカイル兄さんにお父様から手紙は届くのですか?」
「いや、この二年間で一度も届いてないぞ。本当にうちの親はどうなっているのかな? 他の同期は最低でも半年に一度は手紙が届いているんだがな」
カイルはそう言いながら苦笑いする。
「やっぱり! それなら、この二年の間の出来事は何も知らないんですよね?」
苦笑いを浮かべていたカイルの顔は、一瞬で不安そうな表情に変わった。
「もしかして、またゴブリンが襲って来たのか? 誰も怪我していなければいいけど」
「あれから襲われてはいませんよ。襲われないようにゴブリン迷宮の討伐も定期的にやってますからね」
アルフレッドが誇らしげに言うと、カイルの不安そうな表情が和らいだ。
「そうか! じゃあ、グラン帝国が攻めて来るという噂を聞いていたんだが、その話か? 誰かが撃退したらしいんだが、マルベリー公爵軍ではないみたいなんだ。アルフレッドは何か聞いていないか?」
「あれですか? 色々と……公にできないんですよね」
アルフレッドは考えながら言葉を選ぶように言った。
「その言い方からすると知っているんだな? 誰にも言わないから内緒で教えてくれよ!」
カイルは身を乗り出すようにすると、興味深々な様子だ。
「どうしようかな……本当に誰にも言わない? それならいいけど、絶対ですよ!」
アルフレッドは少し悩む素振りをしていたが、小声で念を押すように言った。
カイルは周りを見回すと、アルフレッドの両手を握り、小声で言う。
「約束する、絶対に誰にも言わないから」
カイルはアルフレッドの目を見つめるように訴えかけており、必死さが窺える。
「う~ん……僕ですね」
アルフレッドは少しはにかみながらカイルの耳元につぶやくように言った。
「はぁ!?」
カイルの声が裏返っている。その顔は何を言っているんだこいつ、と言いたげな表情をしていた。
「アルフレッド、大丈夫か? お前、酷く頭を打った後遺症が出たんだな……だからそんな変な服を……」
カイルはアルフレッドの服を再度確認すると、心配そうに顔を見る。
「やだなーカイル兄さん。そんな目で見ないでよ! この服がそんなにおかしいですか? 僕はもう、大丈夫ですよ」
カイルはどこまでも明るいアルフレッドを心配そうに見ていたが、ハッと思い出したように言う。
「ところでアルフレッド、お前、こんなに遠くまで何しに来たんだ!?」
「ほら、手紙届いてないでしょ、お母様が心配していたんですよ。……それと、カイル兄さんの就職先の勧誘がメインの要件ですね」
カイルは目を大きく見開くように驚いている。父親が村で辺境騎士を続ける間は枠がないため、カイルは就職先をどこにするべきか悩んでいたからだ。
「はぁ!? 就職先の勧誘だって!? どこへ? 誰が雇ってくれると言っているんだ?」
カイルは興奮気味に、アルフレッドの腕を掴んだまま前後に揺さぶる。
「カイル兄さんは村の辺境騎士になりたかったんですよね?」
「ああ、だけど、村の騎士の枠は一人だけだから、父上が引退するまで無理だろ?」
カイルの両手から力が抜け、少しがっかりしている。
「カイル兄さん? 今、村の騎士は五人なんですよ!」
「なんだと!? いつから。え? どうなっているの?」
カイルの顔は、あんな小さな村に騎士が五人も必要ないだろと言いたげで困惑している。
「今度、騎士と文官も増やす予定なのでカイル兄さんを勧誘しに来たんですよ。雇い主は僕ですよ!」
「はぁ!? お前、何言ってんだ!? やっぱり頭、大丈夫じゃないだろ!」
カイルは思っていたことが口から出たのか、しまったという表情をしている。
「ですよね。簡単には信じられませんよね? カイル兄さん、申し遅れましたが自己紹介をしますよ」
アルフレッドが少し硬い表情で言った。
「今更、何言ってんだよ。自己紹介なんていらないって……かなり重症だな」
カイルは残念な弟を見るような目をしており、最後はぼそりと呟くように言った。
アルフレッドは気にする様子もなく、姿勢を正すと自信ありげにしている。
「陛下より伯爵に陞爵されたんです。以後、お見知りおきください。なんてね」
アルフレッドが真面目な表情を崩すと、ペロリと舌を出して引っ込めた。
「……なに!? え! え! え~! いつの間にそんなことになっているの!?」
カイルは目が飛び出すのではないかというほど大きく目を見開いて驚いている。
「去年、グラン帝国を撃退して男爵に叙爵されたんですが、色々あって今年、伯爵に陞爵されたんですよ」
「待ってくれ。伯爵に陞爵されたことは聞こえたが、夢のような話に頭が理解しようとしてくれない」
カイルは両手で頭を抱えるようにしており、気の毒に見える程困惑している。
アルフレッドはカイルが落ち着くのを待つように眺めている。
「カイル兄さんが卒業したら僕が雇うってことでいいんですよね? あ、給料は適正金額で、身内贔屓とかはないですよ。あと、先の話になるんですけど、クロード兄さんも了承済で雇うことになってます」
「クロードも? アルフレッドが言っていることを信じていいのか!?」
「はい。できれば優秀な成績で卒業してください。給料を少し上乗せできますよ」
「そこそこ成績はいいから期待していていいぞ」
カイルは落ち着きを取り戻し、笑顔が見えるようになった。
「あの、カイル兄さん? 村の名前なんですが憶えていますか?」
「お前、いくら何でも酷くないかそれ? ロプト村だろ、忘れるわけないじゃないか!」
「ですよね。残念ですがロプト村はもうありません!」
アルフレッドが楽しそうに言う。
「え! どういうこと?」
カイルが驚き、アルフレッドはニコニコと楽しそうだ。
「今はハイルーン村に変更されており、近いうちに町になる予定ですね。人口も千人を超えているはずですよ」
さらにカイルが驚き、アルフレッドはそれを楽しんでいるかのようだ。
「俺がいない二年の間でそんなことになっているの? これって手紙が届かないのって、そういう虐め的なやつ? 帰ったら父上に聞くことができたな!」
「家も場所が変わっているので間違えないでね。村に入ったら川沿いに進んで橋を渡ったら、左に折れて川沿いを進むとハイルーン邸ですよ」
「川を渡る? 村に橋なんてあったっけ? まったく想像できないんだけど!?」
またもや、カイルの顔は困惑気味だ。
「村がかなり大きくなっているので、楽しみに帰って来てくださいね。そろそろ三十分たちますよね?」
アルフレッドは悪戯が成功したときのように上機嫌だ。
「そうだな。……おっと、忘れるところだった。その服が王都ではやっているか聞いてくれって先輩に言われたんだけど?」
「僕以外には着てる人は見たことないですね。これ、空を飛ぶための服ですから!」
「……空を飛ぶための服!?」
カイルは理解できないのか不思議そうな顔をしている。
「もう帰るので実演しますよ。では卒業したらうちに就職と言う事でお願いしましたからね」
アルフレッドが右手を差し出すとカイルはその手を両手で掴み固い握手を交わした。
「よろしくお願いします伯爵様? で、いいのかな?」
「こちらこそお願いしますね」
カイルもアルフレッドも笑いながら手を離した。
「それじゃあ飛びますね。みんなにはカイル兄さんが元気だったことは伝えておきますから、怪我をしないで無事卒業してね」
「ああ、元気で頑張っていたと伝えてくれ!」
ゴウゴウと風が吹き出しアルフレッドが飛び上がった。そして少し離れた場所に降りると、カーゴウイングを持って物凄いスピードで飛び去った。
「俺は夢でも見ていたのだろうか? 訓練のし過ぎで俺の頭がおかしくなっていたかな? 頭は酷くは打っていないんだけど、何度か木剣があたったからな。あれが悪かったかな?」
カイルはアルフレッドの飛び去った空を眺めながら、心の声が漏れ出ていた。
「なんだか、どっと疲れが出てきたぞ」
「いや、カイル。お前の頭はおかしくなっていないぞ。俺もお前の弟が飛んで行くのを見たからな。あれは空を飛ぶための服なんだな。しかし、お前の弟はとんでもない化け物だな。あれ、相当な魔法師だぞ、空飛ぶのは絵本で見た賢者・アールス・ハインド様しか知らないからな」
カイルが声のした方に振り返ると、服の事を聞いてほしいと言っていた先輩騎士がいた。
よほどアルフレッドが怪しかったのだろう、先輩騎士はこっそりと隠れて様子を伺っていたようだ。
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