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4章 戦乱の中へ

24話 十文字の屋敷という死地

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「遅くなってすまない」

 これがナンバーズ序列第十位の十文字家当主十文字景光か。

 その風貌は現代に似合わず、戦国時代を彷彿とする。

 身体はおれの二倍はあるかと言うほどの巨漢である。

「まぁ掛けてくれ」

 その一言一言が心臓に響く。

 おれ達五人は無言で席についた。

「さて、今回集まってもらったのは他でもない九重と八戸の動きについて調査してもらうためだ」

 誰も口を開かない。

 十文字はそのまま続きを話す。

「今回の以来の目的はこの二つの家の関係の調査及びその破壊である」

 やはりそう来たか…

 おれは九重に久遠という二ードレスを預けているために今回の件に関してはあまり関わりたくない。

 だが、九重が八戸と組んでいるのなら話は別だ。

 恐らくあいつに限って自分の二ードレスを八戸に渡すという愚行はしないと信じているが…

「報酬は前から言っていた通り二億を君たち五人で山分けということでよろしく頼む」

 十文字は質問はないかと表情で促す。

「一つええですか?」

 栗栖が臆することなく手を上げる。

「なんだね…君は」

「栗栖です」

「栗栖くん何が聞きたい?」

「えっとですね関係の破壊というのが少し曖昧すぎると思うんですけど…」

「確かにそうだな、もう少し明確にしよう」

「関係の破壊というのは私が思うに九重が八戸に弱みを握られていると考えている」

 流石はナンバーズといったところか。

 おれの予測と同じことを十文字が話し始める。

「基本的に私が危惧しているのは八戸の暴走だ」

 八戸の暴走。

 やはりナンバーズの間でもそのような噂は流れているようだった。

「九重は恐らく八戸に操られているだけなのではないかと私は考えている」

「そうですか、ほんなら九重さんのとこのっていうんを潰すってことやね?」

「簡単に言うとそうだな」

 なんだか、事が勝手におれの思惑通りに進んだ。

 もし栗栖が十文字に話さなければおれが話すところだった。

 十文字が賢くて…というと失礼かもしれないが、それが助かった。

「他になければ明日から任務にあたってもらいたい」

 他に手を上げるものはいなかった。

「ではよろしく頼む」

 そう言って十文字は部屋を出ていった。

「十文字って人怖い人でしたね」

 コソコソと先生に怒られないように話す生徒のように沙織がおれに耳打ちする。

「そうですね、結構強面でしたね」

 おれも同じように返事をする。

「じゃあ明日の朝にまたここに集合ということでええな?」

 栗栖が解散のために場を仕切る。

「了解です」

「賛成だな」

 おれと沙織が返事をする。

「じゃあそういう事で各自、自由行動の時間ということでよろしゅうな」

 おれたちは決戦の前にしばしのんびりすることにした。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 おれは自室で久遠のことを考えていた。

 仮に九重が八戸に対して弱みを握られているとしたら久遠は間違いなく八戸の元に渡るだろう。

 そうなってしまっては一巻の終わりだ。

 だがそう簡単に九重が久遠を手放すということはしないと踏んでいる。

 仮にもあの九重紅凛だ。

 おれとの約束を反故にしてまで八戸には屈さないだろう。

 今はそれだけが希望だ。

「全く、世の中思い通りにならないな…」

 誰もいない自室で呟く。

 もちろん答えてくれる人などいなかった。

 これ以上考えても仕方ないのでおれは風呂に入ることにした。

 自室の扉を開き、鍵をしめると向かいの部屋から沙織が出てきた。

「あっ、春臣さん今からお風呂ですか?」

「はい先に入ってしまおうと」

 沙織もどうやら今から風呂に行くようだった。

「風呂場まで一緒に行きますか?」

「はい喜んで」

 おれは快諾した。

「明日から忙しくなりそうですね」

 黙っているのも何だったのでおれは会話の糸口をつくった。

「そうですね、桃ちゃんが栗栖ちゃんと仲良くしてくれるかが心配です」

「あははは」

 会話は自然と二人の話になった。

「桃ちゃんは結構敵を作っちゃうタイプですから」

「確かに…」

 あの口の悪さのせいで損している部分も多いのだろう。

「でもさっきもいいましたが桃ちゃんがあんなに人に懐くのって珍しいんですよ」

「あれで気に入られているんですかね…」

 そうとは思えなかったが沙織が言うならそうなのだろう。

「仲良くしてあげてくださいね」

 また念を押された。

 沙織に言われると断るわけにはいかなかった。

「二人は長い付き合いなんですか?」

 思っていた疑問を素直にぶつけてみた。

「そうですね、こんなこと言うとありきたりかもしれませんが、腐れ縁っていうんでしょうか…まぁとにかく長い付き合いです」

 聞いていると、何回かこうして一緒に仕事をすることもあるという。

「そうなんですか、なんかあいつの沙織さんに対する態度がほかと違う気がして…」

「まぁ色々ありましたからね、今は口うるさい姉のようなものです」

 それは言い得て妙な発言だった。

「あはは、確かにそれが一番しっくりきますね」

 なんていう他愛のない話をしていると風呂場に着いた。

「では私はこれで」

 風呂場は一応男湯と女湯が分かれていて、沙織は女湯の方の暖簾をあげて中に入っていった。

「はいでは」

 おれはもちろん男湯の方に入る。


 中に入り脱衣所で服を脱いで入ってきた方とは別の扉を開け中に入る。

 今回のチームで男はおれ一人だったため実質おれの貸切となっていた。

 こんなに大きな風呂を一人で入ることなんて残りの人生であるだろうか。

 身体を洗いそそくさと浴槽に浸かると、日頃の疲れが吹っ飛ぶようだった。

「これはいいな」

 だが、あまり長風呂な方ではないので五分もつからないうちにもう満喫してしまった。

 そろそろ出ようかと思っているとき、脱衣所に人が入ってくるのが分かった。

 屋敷の人かと最初思ったが、客人がいるのにわざわざこの時間に入るのかと疑問に思ったがすりガラスに映る人影でその疑問は払拭された。

「おいおい…ちょっと待て!」

 おれは慌てて浴槽から出ようとしたが、不幸なことに出口は入ってきたすりガラスの扉しかない。

 つまり逃げ場がない!

 すりガラスには依然として髪の長い小さな子どものような姿が映し出されている。

 その影は上の服を脱ぎ終わり、下の服に手をかけている。

 なんで!?という疑問の後におれは死を覚悟した。

 桃だ!!

 間違いなくあの貧相な胸のライン、幼児体型。

 入ってきたら間違いなく殺される。

 一瞬おれの服に気づいて止まるかと思ったが、あろう事か一番上の段…つまり彼女がであろう所に服を入れてきてしまった。

 そうこうしているうちにも桃と思われる影は全ての服を脱ぎ終わろうとしている。

 おれの天国へのカウントダウンはもう間もなくゼロになろうとしていた。

 ガラガラすりガラスの開く音がした。

 その時とっさに後ろを向くとかすればよかったのだが、焦りの余りその影の主…桃となんの隔たりもなく、生まれたままの姿で対面した。

「キャァァ!」

 おれと目が合った桃は意外にも年相応の可愛い悲鳴をあげた。

「なんでお前がここにいるんだよ!」

「いや…だってここ男湯じゃん」

 とっさに持っていたタオルで身体を隠したが、その未成熟な胸と未発達な体はおれの目にくっきりと映っていた。

「殺す…!」

 次の瞬間ナイフが飛んで来た。

 一本ではない、十三本だ。

「ちょっと待て!おれは悪くないだろ!やめろ!」

「中から見えていただろ!声でもかければ良かったじゃねえかよ!ふざけんな!死ね!」

 そんな騒ぎを聞きつけて女湯の方から足音が聞こえた。

 あっ…おれ社会的にも死ぬんだ…

 今のおれには絶望という言葉が一番しっくりきた。
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