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第007話:森の狩りは案外簡単でした
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「俺の名はフェスティオ、上級狩人パーティー〈明星〉のリーダーをしている。メンバーは、弓師のオイゲン、修理や解体を担当するドルガ、斥候と弓師を兼ねたリフィナ。俺を含めて四人のパーティーだ」
「ユーヤ・カトーです。これまでは街で屋台をやっていたのですが、狩人を経験してみたくて、今日はじめてこの森に来た初級狩人です。危ないところを助けていただき、有難うございました」
「屋台…… おぉっ、思い出したぞっ! お主、ホットドッグとかいう美味い食い物を売っておろう? 一度食ってみたが、あれは絶品じゃった! ぜひまた食わせてくれっ」
ドルガが興奮した様子で、ホットドッグを食わせろと言ってくる。いや、買えよ。そのドルガを抑えて、フェスティオが俺の前に立った。茶髪を短く刈った、三〇過ぎの精悍な男である。背も高く一九〇センチ近くある。その男が、少し眉間を険しくして俺を
「君は森を舐めていないか? 初級狩人は、ギルドで仲間を集うのが普通だ。斥候、狩り、運送を一人でできると思っていたのなら、すぐに狩人を辞めて屋台に戻ったほうが良い」
年の近い他人にそう説教されると、俺も少しは反抗したくなる。もっとも、舐めていたのは確かだし、言っていることは理解できるので、ここは大人しく頷いておこう。
「そうですね。今日はもう帰ります。今度、屋台に買いに来てください。サービスしますよ」
そう言って荷物を纏めて帰ろうとしたとき、リフィナが口元に指をあてた。全員が一斉に身を低くした。俺はリフィナに肩を掴まれて引き倒される。
「シッ…… 獣が近いわ。それも猛獣系」
金髪巨乳エルフが小声になる。フェスティオたちが頷いた。俺にはまったく解らないが、どうやらエルフには探知する感覚があるらしい。
「池の向こう側。距離は五〇メートル以上離れてる。たぶん、エビルベアね。それもかなり大きい。逃げるわよ」
「いや、狩らないのか?」
俺が小声で尋ねると、リフィナは舌打ちしたそうな顔になった。
「体長四メートル以上の巨大な熊よ? 狩るには人手が足りないわ。素人のアンタは黙って付いてくれば良いのよ」
そう言って、リフィナが動き出す。だが俺は何となく感覚で、勝てるような気がしていた。リフィナを真似て池の向こう側に意識を向けると、木々の奥に何かがいるような気がする。女神の加護は、探知の才能にも有効のようだ。俺は弓を掴んだ。
「アンタ、何をっ」
リフィナが反応したときは、もう遅かった。立ち上がり、続けざまに二本の矢を放つ。矢は木々の隙間を抜け、五〇メートル以上離れた黒い物体に突き刺さった。気配が消えたような気がした。
「おいっ、お前! 何をやって……」
「消えたわ……」
オイゲンが俺の胸グラを掴んだ時、リフィナがポツリと呟いた。呆れと恐怖が入り混じった表情で俺を見上げてくる。
「みんな。信じられないけれど、気配が消えたわ。たぶん、コイツが放った矢で倒したんだと思う……」
「待て、リフィナ。エビルベアが、たった二本の矢で死んだっていうのか?」
フェスティオが俺の矢を掴んで先端を観る。少し観察し、首を振った。
「毒ではないな。ごく普通の矢だ。それに弓も、初級者用の普通の弓だ。一応、見せてくれないか?」
俺は肩を竦めて、弓を手渡した。それを掴んだフェスティオの表情が強ばる。
「……リフィナ、お前も掴んでみろ」
真剣な表情のまま、俺の弓を巨乳エルフに渡した。
「何よ? ごく普通の……」
そう言って、リフィナも弓を掴んで黙ってしまった。無言で俺の手首を掴んで、掌を自分に向ける。
「アンタ、この弓でどれくらい練習したの?」
この二週間、神スキルの異空間でずっと練習していた。外とは隔絶した世界なので、何時間かは覚えていない。だが弓を放った回数は概算できる。
「んー…… 二万回は放ったかな?」
俺の掌には、いつの間にかマメが出来ていた。
「〈握り〉の部分が磨り減ってるわ。全体ではなく部分的に減っている。年月を掛けたものじゃない。短期間で、信じられないくらいの数を放った時の減り方よ」
「そうだなぁ。最初はキツかったけど、最後の方は一日で、二千本以上は矢を放ったからな」
するとドルガが俺の腕や足を叩いた。街の武器屋と同じである。確認した後、髭を撫でながら頷いた。
「フム。華奢に見えるが相当に鍛え込んでおる。肉の質が違う。興味本位で狩人になろうとしたわけではなさそうじゃの。少なくとも、身体はできておるわ」
「俺のことはもう良いでしょう? それより、獲物を確認しに行きませんか?」
全員で池を迂回し、エビルベアが倒れていると思われる森の奥へと向かった。途中でリフィナが木々を撫で、振り返って自分たちがいた場所を確認する。
「ほんの僅かな隙間しかないわ。この隙間を正確に射抜いてエビルベアの急所に当てるなんて、アンタ、一体何者なの?」
「何者と言われても……ただの屋台の店主で、初級狩人だですよ」
「バカ言わないで。こんな隙間をあの一瞬で通すなんて、エルフ族の大弓師級の腕だわ。アタシだってこんなのは無理」
「まぁ、偶々ですよ」
出会ったばかりの人間に、女神の加護を教えるつもりはない。偶然と言って、俺は誤魔化した。やがて巨大な熊が出現した。左耳の部分に二本の矢が突き立っている。耳穴から頭蓋を割り、脳を破壊したのだ。
「血抜きをするぞ。これだけの獲物だ。出来るだけ良い状態で持ち帰りたい」
フェスティオの指示で、男たちが動き出す。エビルベアの首、手首、足首の血管を切り、血抜きを始める。あまりにも巨大なため、他の獣のように吊るすことが出来ないらしい。
「毛皮も綺麗なままだ。こりゃ高く売れるぞ。だがどうやって持ち帰るかだが……」
「荷車はちょっと離れておるからのう。そこまで運ぶしかなかろう」
「四人で運べる重さじゃねぇよ。他のパーティーにも声掛けようぜ?」
「あの~」
話し合っている男たちに、おずおずと声を掛ける。俺は肩から下げていた〈収納袋〉を開いた。
「こうすれば、簡単に運べますよ?」
血を流し始めたエビルベアに手を当てると、一瞬で消えた。四人の男女がポカンとした表情になる。ドワーフのドルガが、震える手で俺の鞄を指差した。
「お、お、お……」
「?」
「お主っ! そりゃぁ〈収納袋〉ではないかっ! なんでそんなモノを持っておるっ!」
ドルガは俺に駆け寄り、食い入るように鞄を観察し始めた。他のメンバーも唖然としている。俺は収納袋を肩から外して、ドルガに手渡した。
「差し上げるわけにはいかないけれど、観るだけならどうぞ」
「おぉぉっ! 感謝するぞっ! 神鋼鉄級の冒険者が持っておるのを遠目から見ただけであったからな!」
「ちょっとアンタッ! たかが初級狩人が、なんでそんなモノ持ってるのよ! それ一つで一生遊んで暮らせるくらいの価値はあるのよ?」
リフィナがキャンキャンと叫ぶ。説明が面倒なので、適当に誤魔化す。
「まぁコレは貰い物ですよ。俺しか使えないように調整されているので、観るくらいなら構いません。それより、狩りはまだ続けるんですよね?」
リフィナを真似てみたが、どうやら気配察知の能力が開眼したようだ。半径数百メートルくらいに薄く広く意識を伸ばすイメージをすると、幾つか獣らしい気配がする。
「……そうだな。アンタの収納袋を使わせてもらえるのなら、まだまだ狩りはできる。無論、礼はする。構わないか?」
リーダーのフェスティオが問いかけてきた。俺としても文句はない。彼らからは多くを学べそうだ。
「良いですよ。臨時でパーティーを組みませんか? 獲物の代金はキッチリ五等分、収納袋の使用料は、狩りの仕方を教えてくれればそれで良いです」
「本当に良いのか? なんだか条件が良すぎるが……」
「俺は初心者ですからね。狩りの仕方以外にも、ギルドについてとか、色々と教えてもらえると助かります」
フェスティオはメンバーたちに顔を向けた。全員が頷くのを確認し、手を差し伸べてきた。
「ユーヤ・カトーです。これまでは街で屋台をやっていたのですが、狩人を経験してみたくて、今日はじめてこの森に来た初級狩人です。危ないところを助けていただき、有難うございました」
「屋台…… おぉっ、思い出したぞっ! お主、ホットドッグとかいう美味い食い物を売っておろう? 一度食ってみたが、あれは絶品じゃった! ぜひまた食わせてくれっ」
ドルガが興奮した様子で、ホットドッグを食わせろと言ってくる。いや、買えよ。そのドルガを抑えて、フェスティオが俺の前に立った。茶髪を短く刈った、三〇過ぎの精悍な男である。背も高く一九〇センチ近くある。その男が、少し眉間を険しくして俺を
「君は森を舐めていないか? 初級狩人は、ギルドで仲間を集うのが普通だ。斥候、狩り、運送を一人でできると思っていたのなら、すぐに狩人を辞めて屋台に戻ったほうが良い」
年の近い他人にそう説教されると、俺も少しは反抗したくなる。もっとも、舐めていたのは確かだし、言っていることは理解できるので、ここは大人しく頷いておこう。
「そうですね。今日はもう帰ります。今度、屋台に買いに来てください。サービスしますよ」
そう言って荷物を纏めて帰ろうとしたとき、リフィナが口元に指をあてた。全員が一斉に身を低くした。俺はリフィナに肩を掴まれて引き倒される。
「シッ…… 獣が近いわ。それも猛獣系」
金髪巨乳エルフが小声になる。フェスティオたちが頷いた。俺にはまったく解らないが、どうやらエルフには探知する感覚があるらしい。
「池の向こう側。距離は五〇メートル以上離れてる。たぶん、エビルベアね。それもかなり大きい。逃げるわよ」
「いや、狩らないのか?」
俺が小声で尋ねると、リフィナは舌打ちしたそうな顔になった。
「体長四メートル以上の巨大な熊よ? 狩るには人手が足りないわ。素人のアンタは黙って付いてくれば良いのよ」
そう言って、リフィナが動き出す。だが俺は何となく感覚で、勝てるような気がしていた。リフィナを真似て池の向こう側に意識を向けると、木々の奥に何かがいるような気がする。女神の加護は、探知の才能にも有効のようだ。俺は弓を掴んだ。
「アンタ、何をっ」
リフィナが反応したときは、もう遅かった。立ち上がり、続けざまに二本の矢を放つ。矢は木々の隙間を抜け、五〇メートル以上離れた黒い物体に突き刺さった。気配が消えたような気がした。
「おいっ、お前! 何をやって……」
「消えたわ……」
オイゲンが俺の胸グラを掴んだ時、リフィナがポツリと呟いた。呆れと恐怖が入り混じった表情で俺を見上げてくる。
「みんな。信じられないけれど、気配が消えたわ。たぶん、コイツが放った矢で倒したんだと思う……」
「待て、リフィナ。エビルベアが、たった二本の矢で死んだっていうのか?」
フェスティオが俺の矢を掴んで先端を観る。少し観察し、首を振った。
「毒ではないな。ごく普通の矢だ。それに弓も、初級者用の普通の弓だ。一応、見せてくれないか?」
俺は肩を竦めて、弓を手渡した。それを掴んだフェスティオの表情が強ばる。
「……リフィナ、お前も掴んでみろ」
真剣な表情のまま、俺の弓を巨乳エルフに渡した。
「何よ? ごく普通の……」
そう言って、リフィナも弓を掴んで黙ってしまった。無言で俺の手首を掴んで、掌を自分に向ける。
「アンタ、この弓でどれくらい練習したの?」
この二週間、神スキルの異空間でずっと練習していた。外とは隔絶した世界なので、何時間かは覚えていない。だが弓を放った回数は概算できる。
「んー…… 二万回は放ったかな?」
俺の掌には、いつの間にかマメが出来ていた。
「〈握り〉の部分が磨り減ってるわ。全体ではなく部分的に減っている。年月を掛けたものじゃない。短期間で、信じられないくらいの数を放った時の減り方よ」
「そうだなぁ。最初はキツかったけど、最後の方は一日で、二千本以上は矢を放ったからな」
するとドルガが俺の腕や足を叩いた。街の武器屋と同じである。確認した後、髭を撫でながら頷いた。
「フム。華奢に見えるが相当に鍛え込んでおる。肉の質が違う。興味本位で狩人になろうとしたわけではなさそうじゃの。少なくとも、身体はできておるわ」
「俺のことはもう良いでしょう? それより、獲物を確認しに行きませんか?」
全員で池を迂回し、エビルベアが倒れていると思われる森の奥へと向かった。途中でリフィナが木々を撫で、振り返って自分たちがいた場所を確認する。
「ほんの僅かな隙間しかないわ。この隙間を正確に射抜いてエビルベアの急所に当てるなんて、アンタ、一体何者なの?」
「何者と言われても……ただの屋台の店主で、初級狩人だですよ」
「バカ言わないで。こんな隙間をあの一瞬で通すなんて、エルフ族の大弓師級の腕だわ。アタシだってこんなのは無理」
「まぁ、偶々ですよ」
出会ったばかりの人間に、女神の加護を教えるつもりはない。偶然と言って、俺は誤魔化した。やがて巨大な熊が出現した。左耳の部分に二本の矢が突き立っている。耳穴から頭蓋を割り、脳を破壊したのだ。
「血抜きをするぞ。これだけの獲物だ。出来るだけ良い状態で持ち帰りたい」
フェスティオの指示で、男たちが動き出す。エビルベアの首、手首、足首の血管を切り、血抜きを始める。あまりにも巨大なため、他の獣のように吊るすことが出来ないらしい。
「毛皮も綺麗なままだ。こりゃ高く売れるぞ。だがどうやって持ち帰るかだが……」
「荷車はちょっと離れておるからのう。そこまで運ぶしかなかろう」
「四人で運べる重さじゃねぇよ。他のパーティーにも声掛けようぜ?」
「あの~」
話し合っている男たちに、おずおずと声を掛ける。俺は肩から下げていた〈収納袋〉を開いた。
「こうすれば、簡単に運べますよ?」
血を流し始めたエビルベアに手を当てると、一瞬で消えた。四人の男女がポカンとした表情になる。ドワーフのドルガが、震える手で俺の鞄を指差した。
「お、お、お……」
「?」
「お主っ! そりゃぁ〈収納袋〉ではないかっ! なんでそんなモノを持っておるっ!」
ドルガは俺に駆け寄り、食い入るように鞄を観察し始めた。他のメンバーも唖然としている。俺は収納袋を肩から外して、ドルガに手渡した。
「差し上げるわけにはいかないけれど、観るだけならどうぞ」
「おぉぉっ! 感謝するぞっ! 神鋼鉄級の冒険者が持っておるのを遠目から見ただけであったからな!」
「ちょっとアンタッ! たかが初級狩人が、なんでそんなモノ持ってるのよ! それ一つで一生遊んで暮らせるくらいの価値はあるのよ?」
リフィナがキャンキャンと叫ぶ。説明が面倒なので、適当に誤魔化す。
「まぁコレは貰い物ですよ。俺しか使えないように調整されているので、観るくらいなら構いません。それより、狩りはまだ続けるんですよね?」
リフィナを真似てみたが、どうやら気配察知の能力が開眼したようだ。半径数百メートルくらいに薄く広く意識を伸ばすイメージをすると、幾つか獣らしい気配がする。
「……そうだな。アンタの収納袋を使わせてもらえるのなら、まだまだ狩りはできる。無論、礼はする。構わないか?」
リーダーのフェスティオが問いかけてきた。俺としても文句はない。彼らからは多くを学べそうだ。
「良いですよ。臨時でパーティーを組みませんか? 獲物の代金はキッチリ五等分、収納袋の使用料は、狩りの仕方を教えてくれればそれで良いです」
「本当に良いのか? なんだか条件が良すぎるが……」
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