12 / 60
コンプレックスの塊
3
しおりを挟む
最終レースが終わると、おじさんが僕とねえさんを競馬場近くの小さな居酒屋に連れていってくれた。
その店は、おばあさんと呼ぶにはまだ少し若い女将さんが一人で切り盛りしている。
友人や先輩たちと行くようなチェーン店の居酒屋とは違う、温かみのある店だった。
「おねーちゃん、好きなもん頼めよ!」
「ほんならビールとモツ煮込みと揚げ出し豆腐ちょうだい!」
「アンチャンも遠慮すんな。何飲むんや?」
「それじゃ、僕もビールいただきます」
おじさんはビールと、料理をいくつか適当に注文した。
「競馬のあと、よく二人で一緒に飲みに来たりするんですか?」
「たまにな。おねーちゃんのおかげで大穴当てた時は、こうやってお礼するんや」
おじさんはねえさんと僕、それから自分のグラスにビールを注いだ。
「ほな、お疲れさん。かんぱーい!」
「かんぱーい!!」
「乾杯!いただきます!」
三人で乾杯して、ビールを飲んだ。
普段はあまり飲まないけれど、今日のビールはなんだか美味しい。
それからしばらくの間、女将さんの美味しい料理をつつきながらビールを飲んだ。
ねえさんとおじさんは今日のレースを振り返って盛り上がっていた。
興味深かったのは、僕が思っていた関西と実際の関西が違うことだ。
ねえさんは自分のことを『アタシ』と呼ぶ。
関西の女性はみんな、自分のことを『ウチ』と呼ぶものかと思っていたけれど、実際は違うようだ。
「アタシのまわりで、自分のこと『ウチ』言う子なんか、あんまりいてへん」
「そうなんですか?僕、ほとんどの女性がそう呼ぶんだと思ってました」
「アンチャン、テレビか漫画かなんかの見すぎちゃうか?関西言うても広いんやで。関西イコール大阪とちゃうしな。兵庫かって広いんやから、ここらへんと神戸は全然ちゃうし、県の北部なんかまったくちゃうからな」
ねえさんは笑いながらタバコに火をつけた。
「そう言えば、『ワイ』とか『おおきに』とか、『でんがな』とか『まんがな』とか、言いませんね」
「ここら辺のモンはあんまり言わんな。それ、ベタな大阪やろ」
土地が違えば、言葉も料理の味付けも違う。
女将さんの料理は出汁をきかせた優しい味で、素材の味が生きていて、とても美味しかった。
3時間ほど経って店を出た。
おじさんはすぐ近所に住んでいるらしく、店の前で別れた。
「アンチャン、電車か?」
「はい、電車です」
「ほな、駅まで一緒に行こか」
ねえさんと並んで駅まで歩いた。
ほろ酔い加減で頬を上気させたねえさんは、楽しそうに鼻唄を歌いながら歩く。
その店は、おばあさんと呼ぶにはまだ少し若い女将さんが一人で切り盛りしている。
友人や先輩たちと行くようなチェーン店の居酒屋とは違う、温かみのある店だった。
「おねーちゃん、好きなもん頼めよ!」
「ほんならビールとモツ煮込みと揚げ出し豆腐ちょうだい!」
「アンチャンも遠慮すんな。何飲むんや?」
「それじゃ、僕もビールいただきます」
おじさんはビールと、料理をいくつか適当に注文した。
「競馬のあと、よく二人で一緒に飲みに来たりするんですか?」
「たまにな。おねーちゃんのおかげで大穴当てた時は、こうやってお礼するんや」
おじさんはねえさんと僕、それから自分のグラスにビールを注いだ。
「ほな、お疲れさん。かんぱーい!」
「かんぱーい!!」
「乾杯!いただきます!」
三人で乾杯して、ビールを飲んだ。
普段はあまり飲まないけれど、今日のビールはなんだか美味しい。
それからしばらくの間、女将さんの美味しい料理をつつきながらビールを飲んだ。
ねえさんとおじさんは今日のレースを振り返って盛り上がっていた。
興味深かったのは、僕が思っていた関西と実際の関西が違うことだ。
ねえさんは自分のことを『アタシ』と呼ぶ。
関西の女性はみんな、自分のことを『ウチ』と呼ぶものかと思っていたけれど、実際は違うようだ。
「アタシのまわりで、自分のこと『ウチ』言う子なんか、あんまりいてへん」
「そうなんですか?僕、ほとんどの女性がそう呼ぶんだと思ってました」
「アンチャン、テレビか漫画かなんかの見すぎちゃうか?関西言うても広いんやで。関西イコール大阪とちゃうしな。兵庫かって広いんやから、ここらへんと神戸は全然ちゃうし、県の北部なんかまったくちゃうからな」
ねえさんは笑いながらタバコに火をつけた。
「そう言えば、『ワイ』とか『おおきに』とか、『でんがな』とか『まんがな』とか、言いませんね」
「ここら辺のモンはあんまり言わんな。それ、ベタな大阪やろ」
土地が違えば、言葉も料理の味付けも違う。
女将さんの料理は出汁をきかせた優しい味で、素材の味が生きていて、とても美味しかった。
3時間ほど経って店を出た。
おじさんはすぐ近所に住んでいるらしく、店の前で別れた。
「アンチャン、電車か?」
「はい、電車です」
「ほな、駅まで一緒に行こか」
ねえさんと並んで駅まで歩いた。
ほろ酔い加減で頬を上気させたねえさんは、楽しそうに鼻唄を歌いながら歩く。
0
あなたにおすすめの小説
七竈 ~ふたたび、春~
菱沼あゆ
ホラー
変遷していく呪いに終わりのときは来るのだろうか――?
突然、英嗣の母親に、蔵を整理するから来いと呼び出されたり、相変わらず騒がしい毎日を送っていた七月だが。
ある日、若き市長の要請で、呪いの七竃が切り倒されることになる。
七竃が消えれば、呪いは消えるのか?
何故、急に七竃が切られることになったのか。
市長の意図を探ろうとする七月たちだが――。
学園ホラー&ミステリー
優しい雨が降る夜は
葉月 まい
恋愛
浮世離れした地味子 × 外資系ITコンサルのエリートイケメン
無自覚にモテる地味子に
余裕もなく翻弄されるイケメン
二人の恋は一筋縄ではいかなくて……
雨降る夜に心に届いた
優しい恋の物語
⟡☾·̩͙⋆☔┈┈┈ 登場人物 ┈┈┈ ☔⋆·̩͙☽⟡
風間 美月(24歳)……コミュニティセンター勤務・地味でお堅い性格
雨宮 優吾(28歳)……外資系ITコンサルティング会社勤務のエリートイケメン
結婚相手は、初恋相手~一途な恋の手ほどき~
馬村 はくあ
ライト文芸
「久しぶりだね、ちとせちゃん」
入社した会社の社長に
息子と結婚するように言われて
「ま、なぶくん……」
指示された家で出迎えてくれたのは
ずっとずっと好きだった初恋相手だった。
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
ちょっぴり照れ屋な新人保険師
鈴野 ちとせ -Chitose Suzuno-
×
俺様なイケメン副社長
遊佐 学 -Manabu Yusa-
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
「これからよろくね、ちとせ」
ずっと人生を諦めてたちとせにとって
これは好きな人と幸せになれる
大大大チャンス到来!
「結婚したい人ができたら、いつでも離婚してあげるから」
この先には幸せな未来しかないと思っていたのに。
「感謝してるよ、ちとせのおかげで俺の将来も安泰だ」
自分の立場しか考えてなくて
いつだってそこに愛はないんだと
覚悟して臨んだ結婚生活
「お前の頭にあいつがいるのが、ムカつく」
「あいつと仲良くするのはやめろ」
「違わねぇんだよ。俺のことだけ見てろよ」
好きじゃないって言うくせに
いつだって、強引で、惑わせてくる。
「かわいい、ちとせ」
溺れる日はすぐそこかもしれない
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
俺様なイケメン副社長と
そんな彼がずっとすきなウブな女の子
愛が本物になる日は……
神様がくれた時間―余命半年のボクと記憶喪失のキミの話―
コハラ
ライト文芸
余命半年の夫と記憶喪失の妻のラブストーリー!
愛妻の推しと同じ病にかかった夫は余命半年を告げられる。妻を悲しませたくなく病気を打ち明けられなかったが、病気のことが妻にバレ、妻は家を飛び出す。そして妻は駅の階段から転落し、病院で目覚めると、夫のことを全て忘れていた。妻に悲しい思いをさせたくない夫は妻との離婚を決意し、妻が入院している間に、自分の痕跡を消し出て行くのだった。一ヶ月後、千葉県の海辺の町で生活を始めた夫は妻と遭遇する。なぜか妻はカフェ店員になっていた。はたして二人の運命は?
――――――――
※第8回ほっこりじんわり大賞奨励賞ありがとうございました!
僕《わたし》は誰でしょう
紫音みけ🐾新刊2月中旬発売!
青春
※第7回ライト文芸大賞にて奨励賞を受賞しました。応援してくださった皆様、ありがとうございました。
【あらすじ】
交通事故の後遺症で記憶喪失になってしまった女子高生・比良坂すずは、自分が女であることに違和感を抱く。
「自分はもともと男ではなかったか?」
事故後から男性寄りの思考になり、周囲とのギャップに悩む彼女は、次第に身に覚えのないはずの記憶を思い出し始める。まるで別人のものとしか思えないその記憶は、一体どこから来たのだろうか。
見知らぬ思い出をめぐる青春SF。
※表紙イラスト=ミカスケ様
春風の香
梅川 ノン
BL
名門西園寺家の庶子として生まれた蒼は、病弱なオメガ。
母を早くに亡くし、父に顧みられない蒼は孤独だった。
そんな蒼に手を差し伸べたのが、北畠総合病院の医師北畠雪哉だった。
雪哉もオメガであり自力で医師になり、今は院長子息の夫になっていた。
自身の昔の姿を重ねて蒼を可愛がる雪哉は、自宅にも蒼を誘う。
雪哉の息子彰久は、蒼に一心に懐いた。蒼もそんな彰久を心から可愛がった。
3歳と15歳で出会う、受が12歳年上の歳の差オメガバースです。
オメガバースですが、独自の設定があります。ご了承ください。
番外編は二人の結婚直後と、4年後の甘い生活の二話です。それぞれ短いお話ですがお楽しみいただけると嬉しいです!
ハチミツ色の絵の具に溺れたい
桃本もも
青春
大学生になったばかりの梅若佐保には、ひとつだけ悔やんでも悔やみきれないことがあった。
高校で唯一仲良くしていた美術部の後輩、茜谷まほろが事故に遭うきっかけを作ってしまったことだ。
まほろは一命を取りとめたものの、意識不明がつづいている。
まほろがいない、無味乾燥な日々。
そんな佐保のもとに、入院しているはずのまほろが現れる。
「あたし、やりたいことがあって、先輩のところに来たんです」
意識だけの存在になったまほろとの、不思議なふたり暮らしがはじまる――
後宮なりきり夫婦録
石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」
「はあ……?」
雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。
あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。
空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。
かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。
影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。
サイトより転載になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる