パドックで会いましょう

櫻井音衣

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コンプレックスの塊

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先輩は味噌汁で口の中のご飯を流し込んで、向かいに座っている僕をチラッと見た。

「あー、悪くはないな。おまえは?」
「163.4です」

僕がミリ単位まで身長を言うのがおかしかったのか、先輩はきんぴらごぼうを箸でつまみながら吹き出した。

「俺、中1の最初にはそれくらいあったぞ。成長期逃したんか?」

成長期はあった。
あったけど、期待していたほどは伸びなかったっていうだけだ。

「これでも伸びたんですよ。僕、生まれた時から小柄で、中1の最初は150もなかったんですから」
「ほーぉ。のびしろが足りんかったか」

世の中は不公平だ。
先輩は顔がいいだけでなく、背も高くて何もかもがカッコ良くて、僕にないものをたくさん持っている。

「これからでも伸ばせないかな……。せめて170くらいは欲しいんですけど」
「ハタチ過ぎても伸びるヤツもおるけどな。せいぜい何ミリか、よう伸びて1センチやろ」
「やっぱりそうですよね……」

先輩を追い越すほどとはいかなくても、せめて日本人の成人男性の平均身長くらいは欲しい。
だけど数ミリじゃとても追い付かない。

「そんなに気になるんやったら、毎日牛乳飲んでめざし食うて、日光浴でもしとけ。成長促進するサプリとか健康食品なんかもあるはずや」
「へぇ……」

そんなありがたいものがあるのか。
よし、あとでネット検索してみよう。

「そんなに背が気になるって、なんか理由でもあるんか?」
「いっぱいありますよ。僕は背が低いだけじゃなくて童顔ですから。どこに行っても年齢確認されるんです」
「ほう、それから?」
「背の高い女の人にはちっちゃくて可愛いとか言われるし……。同級生の女の子からも弟みたいだとか言われて、全然男として見てもらえないし」

先輩はお茶を飲み込んで、にやっと笑った。

「おまえ、男に迫られたことあるやろう?」
「なんでわかるんですか……」

思えば僕のモテ期は、男子校に通っていた中学から高校の6年間だった。
ただし、相手は男ばかり。
残念ながら僕にはソッチの趣味はないから、付き合ってくれと何度迫られても頑なに拒んだ。
たまに強引な男に襲われそうになりながらも、なんとか必死でこの身を守ってきたんだ。

「いかにもソッチの趣味の男に好かれそうな顔しとるもんなあ。この際やから、ソッチの世界に飛び込んでみたらどうや?」

先輩はほんの軽い冗談のつもりで言ったんだろうけど、僕は何度となく経験した恐怖体験を思い出して、背中に変な汗が流れた。

「やめて下さいよ……。優しくて頼りになるいいやつだと思ってた友達に、ある日突然好きだって押し倒されて、襲われそうになるんですよ。もうあんな恐怖は二度とごめんです」
「そら怖いわ……。すまん、もう言わん」

女の子にモテる先輩にはまったく縁のない話なんだろう。
本気でドン引きしている。

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