パドックで会いましょう

櫻井音衣

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コンプレックスの塊

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なんとか無事に今週の仕事を終えた金曜日。
定時が近付くにつれ、僕はソワソワして落ち着かなかった。
一体どんな人が来るんだろう?
なんとなく、イヤな予感もする。
今までだってこういった機会は何度かあったけど、歳上の女の人からは可愛いだのなんだのと頭を撫で回されて、それで終わりというパターンが多かった。
僕を仔犬か園児と勘違いしているのかと、腹が立ったこともある。
可愛いなんて言われて喜ぶ成人男性、いないだろう?
いくら相手が歳上でも、それは喜べない。
僕だってもう社会人だ。
小柄でも童顔でも成人男性だ。
人並みの恋愛願望だって、性欲だってある。
いい加減、可愛いだけの男からは卒業だ!

……なんて、意気込んではみたものの……。
先輩の友人らしき女性たちは、実際の年齢よりもずっと大人に感じた。
いや、違うな。
大人と言うよりは老けて見えたと言うか、言い方は悪いがケバく見えた。
きっちり化粧をして、小綺麗な服を着て、高そうなブランドバッグを持っていて、僕が苦手な強めの香水の匂いがした。
そして案の定僕は、ちっちゃい、可愛いと撫でまわされ、仔犬か園児扱いだ。

彼女たちは僕が関東出身なのが珍しいのか、地元の神奈川だけじゃなく、東京のことばかり尋ねてきた。
関東イコール東京じゃないって。
僕は大学卒業まで地元にいたから、東京のことなんてあまり知らない。
正直に『よく知らない』と答えると、あからさまにがっかりされてしまう。

居心地悪い。
香水臭い。
彼女らの鼻にかかった声が癇に障る。
何を話しても疲れるばかりで面白くない。
ビールもちっとも美味しくない。
早く帰りたい。
そんなことばかり考えてしまう。

ビールをチビチビ飲みながら観察しているうちに気付いたのは、結局この人たちは、僕なんかにはまったく興味がないってことだ。
そりゃまあそうだろう。
そして、みんな先輩狙いなんだと言うことは明らかだった。
僕をだしに先輩に取り入ろうって魂胆だな。
先輩がいくら僕に気を利かせてくれたところで、結局僕は先輩の引き立て役にしかならない。

なんだ、この惨めな感じ。
やっぱり男は見た目なんだよ。
なんかもう、どうでもいいや。
僕だってこの人たちにはまったく興味がない。
うわべは綺麗に見えるけど、化粧を落とせば別人なんじゃないの?……なんて、意地の悪いことを考える。

つまらない。
無理やり作られた出会いなんて。
それよりもっとつまらないのは、人を羨んで妬んでばかりの、卑屈で情けない僕。
背が低いとか童顔で子供みたいだとか、そんなのは、ただの言い訳に過ぎない。
見た目がどうだって、中身がこんなんじゃ、誰にも好きになってもらえるわけがない。
こんな僕に一番嫌気がさしているのは、ほかでもない僕自身だ。
僕はまた、背中を丸めて下を向いた。


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