パドックで会いましょう

櫻井音衣

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コンプレックスの塊

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ようやく合コンが終わり、二次会を断って帰路に就いた。
電車に揺られながら、また窓に写る自分の顔を眺めてみる。
情けない顔だ。
吐き気がする。
思わず視線を真っ暗な窓の外の景色に移した。
線路沿いに並ぶ桜の木が、残りわずかな花びらを散らしている。
桜は咲いているときだけでなく散り際も美しい。
おまけに誰からも愛されているなんて、羨ましい限りだ。
だから花が咲かない季節でも堂々と佇んでいられるのか。

『背が高いとか見た目がどうとか、そんなことよりもっと大事なことがあるわ』

不意に、ねえさんの言葉を思い出した。
ほんの少しの間、僕を抱きしめてくれたねえさんの温もりが蘇る。

『もっと自分に自信持て!』

また、ねえさんの言葉が脳裏をかすめた。
持てる自信なんて、僕のどこにあるって言うんだ。
少なくとも今の僕には、自信なんて一欠片もないじゃないか。
ハッタリでもいいから堂々としていろなんてねえさんは言ったけど、そんな気力もないよ。
こんな姿、ねえさんには見せられないな。
……ああ、そうか。
見せるも何も、また会う約束をしたわけでもないし、よく考えたら、名前も歳も、どこに住んでいるのかも知らない人じゃないか。
僕がねえさんのことを何も知らないように、ねえさんも僕のことを何も知らない。
それなのになぜ、ねえさんはあんなにも僕の心を温かくしてくれたんだろう?
僕はなぜ、こんなにもねえさんのことを考えているんだろう?
なんだか無性に、ねえさんに会いたい。


土曜日はお昼前に目が覚めた。
まだ慣れない仕事のせいで疲れていたのか、それとも夕べの合コンでのダメージからか、外に出る気にはなれず部屋にこもって過ごした。
昼下がり、退屈しのぎにつけたテレビからは競馬中継が流れている。
ねえさんは今日も競馬場にいるだろうか。
おじさんとパドックで会った時、週末一番長い時間を共にするのはおじさんだとねえさんは言っていた。

夕べ僕は、無性にねえさんに会いたいと思った。
けれど、ねえさんに会ったからと言って、何になるだろう?
情けない僕を抱きしめて慰めて下さいとでも言うつもりなのか?
それこそ情けないじゃないか。
ねえさんだって大人の女の人だ。
僕のことなんて、頼りない弟とか、弱くて放っておけない仔犬くらいにしか思ってないだろう。
ねえさんはきっと、たった一日競馬場で一緒にいただけの僕のことなんて、すぐに忘れちゃうんだろうな。
それでも会いたいと思うのは、なぜだろう?


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