パドックで会いましょう

櫻井音衣

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これが恋でも、恋じゃなくても

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次の週の日曜日も、ねえさんは競馬場に来なかった。
一体どうしたんだろう?
もしかしたら、もう会えないのかもと思ったりする。
その日も僕は、帰りにおじさんといつもの居酒屋でビールを飲んだ。
おじさんは今日も顔色が良くない。
やっぱり体調が悪いんだろうか。
おじさんは枝豆を口に放り込みながら、僕の浮かない顔を見て笑った。

「今日もおねーちゃんに会えんで残念やったのう、アンチャン」
「2週も続けて来ないなんて、どうしたんでしょうね。昨日は来てたんですか?」
「いや、来てへんよ。別に約束してるわけちゃうし、まあ、そんな時もあるわ」

ねえさんが姿を見せないこと、おじさんは気にならないのかな?
そもそも僕は、ねえさんが結婚しているかどうか、独身でも恋人はいるのか、何も知らない。
勝手にねえさんのことを独り身だと思っていたけど、もしねえさんに夫や恋人がいたら、完全に僕の不戦敗だ。
先週、ほんの少しおじさんの過去に触れたせいなのか、それともおじさんの調子が良くなさそうだからか、僕はねえさんだけでなく、おじさんが普段どんな生活を送っているのかも気になり始めた。

「おじさんは独り身なんですか?」
「そうやけど……それがどないかしたんか?」
「ひとりだと病気で寝込んだりすると大変でしょう。そんな時に頼れる人はいますか?」

僕が尋ねると、おじさんは意外そうな顔をして少し笑った。

「おらんけど、俺は独り身も長いしな。そんなもん、もう慣れたわ。なんやアンチャン、俺の心配してくれるんか?」
「心配ですよ。とても健康的な生活を送ってるようには見えないから。先週から、なんだか顔色悪いですよ」
「まあ、確かに健康的とは言えん。最近ちょっと調子悪うてな」

やっぱり体調が悪いのか。
おじさんはまた咳き込んでいる。

「無理すると良くないですよ。もう帰って休みますか?」
「ああ……飯食うたら……」

言葉も途切れ途切れに、おじさんはまた咳き込んだ。
そして、口元を覆っていたてのひらを見て、ギュッと握りしめた。
わずかではあるけれど、握りしめられたその手は、赤く染まっている。

「お、おじさん!血が……!!」

僕は慌てておじさんのそばに駆け寄った。
おじさんは背を丸めたまま、軽く手をあげて僕を制した。

「たいしたことない……。すまんな、心配かけて」

咳き込んで血を吐くなんて、たいしたことないわけがない。
もしかして重い病気なんじゃないだろうか?

「おじさん、すぐに病院に行きましょう。僕、付き添いますから」
「大袈裟やねん。帰って寝れば、ちょっとは良うなるし、大丈夫や」
「じゃあ、送っていきますから、すぐに帰りましょう」
「ホンマにアンチャンは心配症やのう……」

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