パドックで会いましょう

櫻井音衣

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これが恋でも、恋じゃなくても

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それから急いで会計を済ませ、おじさんの体を支えながら店を出た。
おじさんのアパートは、居酒屋から歩いて5分ほどのところにあった。
木造の文化住宅で、表札も入っていない。
いかにも男の一人暮らしと言う感じの殺風景な部屋だ。

とりあえず、おじさんを布団に寝かせた。
すぐに帰るのもなんだから、また血を吐いたりしないか、もう少しだけ様子を見てから帰ることにした。

「おじさん、飲み物とか、何か必要な物があったら買ってきましょうか」
「いや、大丈夫や。悪いな、気ぃ遣わせて」
「何言ってるんですか、当たり前でしょう」

おじさんは目を閉じて、何かを考えているみたいだ。
僕は殺風景な部屋の中をぐるりと見回した。
独り身だとおじさんが言っていた通り、他の人の住んでいる気配はない。
部屋の片隅には本棚があって、何冊かの本と一緒に、茶色い背表紙のアルバムらしき物が並んでいる。
あれは卒業アルバムかな?
うちの学校のアルバムも、たしかあんな感じだった。
おじさんが何十年も前の卒業アルバムを大事に持っているなんて意外だと思う。
おじさんの物にしては、少し新しい気もするけれど。

「今日はもう遅いし、帰りますね」
「ああ……悪かったな、面倒掛けて」
「気にしないで下さい。今夜はゆっくり休んで、明日必ず病院に行って下さいね」

病院に行くことを勧めると、おじさんは横になったまま苦笑いを浮かべた。

「アンチャン、オカンみたいやのう。俺の嫁にでもなるか」
「冗談よして下さいよ。せめて無精髭とボサボサの頭をなんとかしてから言って下さい」
「厳しいのう。アンチャンは面食いかぁ」

体はつらいはずなのに、おじさんは少し嬉しそうにそう言って、小さく声をあげて笑った。


翌日からは仕事に追われ、定時で上がれる日は少なかった。
残業すると帰りが遅くなり、ジムには行かずまっすぐに帰宅した。
おじさんはどうしているだろう?
あれから病院には行っただろうか。
ちゃんと食事はしてるかな。
日曜日には少しでも元気になっていてくれたらいいんだけど。
もし日曜日に会えなかったら、アパートに様子を見に行ってみようか。
だけどこれまで、自分のことを話す必要はないと言っていたことを考えると、そんなお節介は迷惑がられはしないだろうかとも思う。
もしおじさんが2週続けて競馬場に来なかったら、アパートに様子を見に行ってみよう。



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