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正直に言うと大混乱です

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 揺り篭?

「揺り篭だと……」

 その言葉に反応する副長。のそりと身体を起こす。起きてたのか、こいつ。

「貴様、なぜ揺り篭がいるとわかる」

「私の家系の体質。オーデールの話、聞いたことない?」

 また新しい情報が……。なんだ揺り篭って。

「そうか、オーデールの。数は何体だ」

「1体。けっこう前からいるけど、まったく動かない」

「動かないだと? いつからだ」

「たぶん、2人目が犯されてるくらい。たぶん緑の人? いまも動く気配はない」

 うん、緑だね。結界とか使ってなかったもんなぁ。声、聞こえてたか。

 副長、顔、赤くなってんぞ。

「まあいい。さっさと済ませるぞ。オレの服はどこだ」

 緑を押しのけて立ちあがり、ふらりとよろめく。

 その身体を抱きとめて支えてやる。

「あっ……。すまん、な。」

 お互い、まだ裸だ。肌が触れ合うのが気持ちいい。ちょっと立ってきた。

「いや、俺のせいだしな。で、服はたぶん下だ」

 下で脱がせてきたからなぁ。

「貴様……。まあいい。1体だけならこのまま出る」

 そう言ってベッドからシーツを剥ぎ取る副長。

「ぐあっ、なんすかっ!?」

 転がり落ちた緑が声を上げるが、無視してシーツを身体にまきつけていく。

 オレもズボンくらい穿くか。

「わたしは準備できましたぁ」

 いつの間にか服を着たメイア。こいつ、もうこんな動けるのか。

「魔法でやる。壁の上に出るぞ」

「はい!」

「え、なにがっすか!?」

 歩き出そうとした副長が、またよろめく。仕方ないなこいつ。

 抱きとめた副長を、横抱き、お姫様抱っこに抱き上げる。

「あっ!?」

 全員の声がハモった。

「きさま……、まあ、いい……。このまま頼む」

 顔を赤くして俺の首元に手をまわす。ちょっと可愛い。

 ごしゅじんさまぁ、とか、あたしもまだされてねえのにとか聞こえてくるけど無視。

 あとエルダ、お前には何回かやってるからな。

「メル、どっちから出たらいい?」

 左右にある壁の上に出るための扉。

「左。そっちなら真上に出れる」

「わかった」

 副長を抱きかかえたまま扉をくぐる。うわ、太陽が眩しい。

「いるな……」

 呟く副長の目線を追って、壁の下を覗き込む。

「うっ……」

 思わず声がでた。なんだあれ!

 しいて言うなら手足のついた内臓。

 つるんとしたピンク色の肌に膨らんだ腹。前腕部に当たる部分だけが太い腕。ぼてっとした太い脚。

 そしてつるつるの頭には目も鼻も口も、何も無い。ただ正面に1本の長い皺が真横に走っている。

「本当に動かんな」

「襲ってこないなんて、初めてですよぉ」

「そう。だから様子見で終わるまで待ってた」

 ぐるんと、そいつの顔がこちらを向く。

「あっ、動いたっすよ!」

 目が合った。いや、目なんてないけど、間違いなく俺を見ている。

「何か仕掛けてくるかもしれん。オレがやる」

 ぐぱっと顔の皺が開く。中にあったのは、綺麗に並んだ真っ白な歯。

 ――ミツ……ケタ……

 音も無く、そいつの頭が跳ね飛ぶ。

 続いて両腕、両足。無傷の胴体が音を立てて地面に落ちる。

「よし。ミリア、メイア。後は任せる」

「はい!」

「待ってくれ」

 走り出そうとした2人を止める。

「俺が、行ってもいいか」

 抱きかかえた副長を見る。いぶかしげな表情。

「まあ、いいだろう。降ろせ」

 言われるまま、副長を地面に降ろす。

「くろーさん。わたしも行く」

「ああ、じゃあ下りてきてくれ」

 高さは4メートルくらいか。そのまま壁を飛び降りる。

「なっ!?」

「くろーさん!?」

 どんっと脚に伝わる衝撃。地面が柔らかいからそこまででもなかった。

 立ち上がって、胴体だけになったそれを見る。

 こいつ、確かに喋った。ミツケタ。見つけた? 俺をか。お前が俺を連れてきたのか?

 いや、それだと"見つけた"はおかしい。いや、おかしくもないのか? わからん……。

 お前、俺を探してたのか。なんでだ。お前はなんだ? 俺は、ただ切欠をもらってここにいるんじゃないのか。お前は、なにか知ってるのか?

「くろーさん! どうしてこんな無茶を!」

 誰? あ、メルか。慌てて素がでてんのか。

 門の扉から駆け出してきたメル。俺の前で脚を止めたのを抱き寄せる。

「あっ、くろー、さん?」

「少し、こうさせてくれ」

 ぎゅっとメルの小さな身体を抱きしめると、メルの手が俺の腰に回される。

「うん。でも、早く出してあげないといけない」

「出す?」

「うん。見てて」

 そっと俺から離れて、それ、揺り篭へと近づいていく。

「メル。なにを」

 ナイフを抜き、慎重に揺り篭の腹を切り開いていく。

「いた」

 切り開いた腹から抱き上げたのは、へその緒のついた、真っ赤な髪の、赤ん坊。

「くろーさん。これが揺り篭。私達、人間の敵で、私達が存続するために絶対に必要なもの。驚いた?」



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