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夏休み最終日。やっぱりいつも通り純一の家で司とまったりしていた。

「あー……夏休みも終わりかぁ。でも、今年は課題を早く終わらせたおかげで、泣かない夏休み最終日は初めてだよ」

「……そうか」

純一は漫画を読む司を見つめる。

基本、静かに過ごす事が好きらしい司。本を読んでいる姿を見るのは、嫌いじゃないな、と純一は思う。

「そう言えば、早速ねーちゃん、事務所に連絡先したんだって?」

「ああ、純一のお姉さんだと伝えたら、ウキウキで会ってみたいって言ってたな」

行動は早い姉の事だ、信じられないが仕事はできるようなので、上手くいくと良いなと思う。

「……純一」

「なに?」

「昨日は何がダメだったのか、教えてくれないか?」

純一は一瞬、なんの事か分からなかった。それが昨日、イチャついていた途中でダメだと言った事だと気付き、あの時の司を思い出して顔が熱くなった。

「あ、いや……あれは完全に俺の問題」

司が何かした訳じゃないよ、と言うと、それでも教えて欲しいと司は食い下がる。

「こう言うと引かれるかもしれないが……今でも純一としたいと思っている。だが、不安要素は取っておきたい」

「……っ」

ストレートな司の言葉は、いつも純一の心に刺さる。

(それに、今でもしたいって……どれだけだよ……涼しい顔してムッツリめ)

純一は照れ隠しにそんな事を思うけど、自分の意見を言うのは躊躇ためらわれた。

「いつもストレートに言えるお前と違って、俺はそんなに簡単に話せないんだよ」

自分の思ったことを、言葉にできる司が好きだと思ったのは、自分がそうできないからだ。

「……分かった。今日は帰る」

そう言って、司は漫画を本棚にしまうと、本当に帰る準備をし始めた。純一はその行動にイラッとしてしまい、言わなくてもいい事を言ってしまう。

「やれないと分かったら帰るんだ? そのために家へ来てたのか?」

「……」

しかし、司は純一の言葉に乗らず、無言で部屋を出ていった。


 ◇◇


次の日、新学期が始まった。

「ちょっと、二人共何かあった?」

始業式が終わった帰り道、湊がいつもと違う雰囲気に耐えかねたように言った。

今は湊の手前、司も一緒にいるけれど、純一は彼とは口を利いていない。

「別に」

純一が答える。

「別にって雰囲気じゃないじゃん」

湊は困ったように眉を下げた。

「早く仲直りしてよ。俺が気まずいじゃない」

「……」

純一はちらりと司を見る。彼は純一の視線に気付いていないのか、違う方向を見ていた。

(湊に相談する訳にも行かないしなぁ)

内容が内容なだけに、湊には相談できない。

純一は、やはりあいつに相談するか、とスマホを取り出した。


 ◇◇


「で、俺なわけね」

哲朗は純一の部屋に入ると、適当に腰を下ろした。

純一もそばに座ると、どうしたら良い?と聞いてみる。

「そりゃあお前……お前が正直に話せば丸く収まる話じゃないのか?」

「だって、バカにされたら嫌だし」

「何でバカにするんだよ」

良いか、と哲朗は丁寧に説明した。

「司自身が、無理強いしたくない、いつでも言えって言ってくれてんだろ? それに甘えなくてどうする」

純一は俯いた。何か言おうとする時に、チラつくのは安藤のニヤついた顔と、純一をバカにする声だ。彼らはいつも、純一の声をまともに聞かず、自分の要求のみ押し通してきた。だから、いざと言う時に意見を飲み込んで、逃げる癖がついてしまっていた。

「二人に告白された時もそう、ズルズルと返事を引き伸ばしていたじゃないか。結局後に引けない状況になってやっと言ったけど」

「う……」

「お前がためらう時は、それだけ大事な事だからだろ?」

そう、だから司は教えてくれと言ってきたし、強引に話を進めたりしなかった。司の方がよっぽど誠実に付き合ってくれているのだ。

「でも……」

「うん、怖いよな。本音を言うの」

眉を下げた純一に、哲朗は珍しく優しい声を掛ける。

中学生の頃は自分に嘘をついて、どうにか安藤たちの機嫌を損ねないように頑張っていた。それを知ってるからこその哲朗の言葉は、優しくて心に沁みた。

「それも全部話してしまえ。あいつの事だから多少は勘づいてると思うけど」

哲朗は、純一がこんな風に悩むって事は、成長に必要な事だからだと思うぞ、とエールをくれた。

純一はその場で司に電話を掛けた。今からでも会って話したい。

すぐに電話に出た司は、いつも通りの声だ。

「司? あの、今から会えるかな?」

「ああ、ちょうど良かった。俺もそう思って純一の家の近くにいる」

ドクン、と心臓が高鳴る。

「そうなんだ。待ってるから気を付けて来いよ」

純一は通話を切ると、哲郎に司の話をした。

「心配するだけ損だったな。ホントに愛されてるよ、お前。じゃあ、俺は帰るわ」

「ありがとう、哲朗」

哲朗は手をひら、と振って家を出ていった。見送ったついでに、外で司を待っていると、すぐに彼の姿が見える。

純一の部屋に司を通すと、二人でベッドに腰掛けた。

「司、わざわざ来てくれてありがとう。ってか、ホントにいつも来てもらってて、申し訳ないんだけど」

「いや……」

司は目を伏せた。純一は、その顔が好きだな、と思う。

「俺さ……」

純一は哲朗に言われた通り、話すことにする。

「会ったことあるから分かると思うけど、中学生の頃は安藤たちに絡まれる毎日だったの。アイツらに反発すること無く、機嫌だけ伺って。そしたら肝心な時に逃げ出す癖がついちゃって」

「……そうか」

たった一言、司はそれで受け入れてくれた。

「だから今も逃げたいと思ってるし、本音を言うのが怖いと思ってる」

でも、こうして司に会ってるという事は、ちゃんと話したいと思ってるんだ、と純一は続けた。

「司に嫌われるのが怖いよ。……昨日の質問の答えだけど」

純一は司に伝えた。司の股間を意識した途端、その大きさと、男なんだというのを強く感じ、戸惑ってしまった事を。

「冷静になって考えたら、純一の事情も至極当然だ。俺の方こそ、もっと段階を踏むべきだった。すまない」

司も司で、色々と考えていたようだ。純一はきちんと伝えられた事に安堵する。

「すぐに逃げちゃう俺だけど、それでも付き合ってくれる?」

正直、まだ男同士で付き合うって、よく分かっていないのかもしれないけれど、純一は司と一緒にいたいと思っている。

「もちろん。その時は俺も一緒に悩もう」

相変わらずの無表情だけど、頼もしいな、と純一は笑った。

「あー……でも俺、ほだされてる感すごいする」

「そうなのか?」

入学式の時は、彼女欲しいの一心だったのに。

自分に向けられる敵意に敏感だった純一は、好意にも敏感だった。

「司って、何考えてるか分からないって思ってたけど、必要あればちゃんと伝えるよな。俺が好きなの、そういうところだと思う」

純一が司を見ると、彼は目を伏せた。よくその顔するな、と聞いてみる。

「……そうか?」

「うん。何を思ってるのかなって」

「……今は、嬉しいと思っていただけだ」

「うーん、やっぱり表情に出なくて分からん」

純一は後ろに倒れてベッドに寝転がった。今言っていた事と違うじゃないか、と司に突っ込まれる。

すると、司が純一の上に来た。早速この流れか、と純一は少し身構える。

「あ、あのっ…………するの?」

「嫌ならやめておくが」

そう言って、司は軽くキスをしてくる。

「確認したいんだけど! …………俺が女役?」

純一はそう言うと、司は少し考えた後、「悪いようにはしない」とだけ言った。

「ちょっと待て、どういう意味……っ」

純一が抗議しようとしたが、その唇は司ので塞がれてしまった。しかもねっとりと唇を舐められて、悲鳴のような声を上げてしまう。

「う、ん……っ」

同時にシャツの中に手が入ってくる。くすぐったさと気持ちよさの微妙な力加減で、脇腹を撫でられ思わず身体に力が入ってしまった。

「ちょ、と、ちょっと司……」

純一はモゾモゾと身をよじる。

「何だ」

「あの、前より激しい気がするんだけど……」

ついていけない、と純一は呟いた。司も初心者のはずなのに、なんでこうも余裕があるのか。

「分かった。じゃあゆっくりする」

「よ、よろしくお願いします……」

改めてそう言われると恥ずかしいけど、仕方がない。司の顔が再び近付いてきて、優しいキスをされた。
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