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遡った時間

11:皇女と侯爵令嬢はやり直せるかもしれない

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お茶をしましょうとサラに連れられていくと、王族用の専用サロンへと連れて行かれた。
「サラ様ここは王族専用ではないでしょうか?」
私がそう言うと、サラは不思議そうに首を傾げた。
「だめかしら?」
「だめとかだめではないではなく、今、私たちの3人の中には王族が居ないのであれば使うべきではないのではないかしら」
「んー?でもルサルカ様はオケアノス様の奥様になるんだし、それに私は子供の頃からここを使っているし問題ないと思いますけど…」
「そんな恐れ多い!まだ決まった訳ではないですし、私にはそのような権利はございません。それともサラ様が仰っていたご友人が王族の方なのでしょうか?」
私はサラが連れてくる人間が誰なのかを知っていてそう言えば、サラ芝居がかったように人差し指を顎に当て、いかにも悩んでいるというようなポーズをした。

「違いますね。では、ルサルカ様のお部屋でもよろしいでしょうか?」
そう言われたので私とドゥ伯爵夫人は2人で先ほどまで歩いていた道を戻っていった。ドゥ伯爵夫人と2人になったのは、サラが友人を連れてくると言っていなくなったからだ。
行ったり来たりをさせてしまった事を誤ると、ドゥ伯爵夫人は愉快そうにコロコロと笑い声を立てていた。

「いえいえ、お気になさらないでくださいませ。王族専用サロンに連れて行かれたときは目玉が飛び出るかと思いましたわ」
「良かったです。別に気にする程の事ではないのかとも思いましたが、まだここに来て日も浅いのでそんな大層な事をしては行けないと過敏になりすぎていたかもと、帰り道に思っていたんです」
「気にし過ぎではございませんわ。ペルラについては存じませんが、この国の王族は貴族とは別格のようにしなければいけないのです。ですから先ほど皇女様が仰った点は気にしてしかるべき事だと思いますよ」

「お待たせしました~。さあ、セールビエンス様こちらへどうぞ~」

そう言ってサラが連れて来たのは、やはり過去に私が会った人と同じ女性、セールビエンス・パウペリス・エッセ侯爵令嬢であった。
セールビエンスはエッセ侯爵家というカエオレウムの宰相を代々担っている家柄の一人娘であり、今の宰相である侯爵は彼女をこの世の何よりも大切にしている。宰相は娘を目に入れても痛くない程可愛がっており、娘の為ならばどんな無茶でも通してしまう程で、ある意味この国で最も権力がある女性の1人であった。
しかし、そんな権力者の娘である彼女はというと、いわゆるひきこもりであり、社交界等にはほとんど出てこないことで有名だった。
その理由は彼女の容姿にある。
率直に言ってしまえば、良くないのだ。

こうして再び会っても変わっていないその外見は、樽と表現しても足りない程に太っており、顔には幾つものニキビが隙間なく肌を埋め尽くしており、お風呂にはいつ入ったの?と聞きたくなる体臭をまき散らしている。またその巨体を彩る洋服も目を見張るセンスで、カーテンを引きちぎって巻き付けたのか、それとも山賊に身ぐるみはがされたのかと気の毒になってしまうものだ。
更にニキビの多くが潰れて膿が垂れており、過去の私は、人生で初めて出会う種類であった彼女の風貌に驚き、反射的に挨拶をすることが出来なかった。
おそらく多くの人がそうなるでしょう。
しかし、私がそうした事に侯爵令嬢は大きなショックを受け、そのまま泣きながら家に帰って、再び自室に閉じこもってしまったのである。
娘を愛して止まなかった宰相は私が仕出かした事に対して憎しみを募らせ、逆に彼女を慰める為に何度も訪問したサラに対しては好感を抱く結果となったのである。


そんな関係であった私とセールビエンス侯爵令嬢は再びこうして顔を合わせることとなった。
その迫力のある風貌は相変わらずだけれども、さすがに2度目であることや二度目の人生で精神的に大人になったこともあり、私は普段通りに接する事が出来た。

「初めまして、ルサルカ・トリトーネと申します。どうぞルサルカとお呼びください」
ゆっくりとお辞儀をして手を差し出すと、セールビエンスは私の顔をしばらく黙って見入ったと思うと、ハッとして慌てて自分も頭を下げた。
「エッセ侯爵家のセールビエンス・パウペリス・エッセと申します!皇女様からご挨拶をさせてしまい申し訳ございません」
「とんでもないです。セールビエンス様とお呼びしても?」
「も、勿論です!!」
「ありがとうございます。セールビエンス様。こちらは私のカエオレウム語の先生をしていただいているドゥ伯爵夫人です」
そう話をふれば、さすが海千山千であるドゥ伯爵夫人である。表情一つ買えずに模範的な微笑みを浮かべて優雅なお辞儀をし始めた。
「お初にお目にかかります。エッセ侯爵令嬢。ジェーン・ドゥと申します。宰相様には夫がいつもお世話になっております」
そんな風に和やかにお茶会がスタートしたのである。
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